有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ) 地域未来創造室は、2021年の設立以降、各地のスタートアップエコシステムの創出・支援を一気通貫で支援してきた。
今後、世界で通用するような地域企業を生み出すためには、何が必要なのか――。ホテル「スイデンテラス」や教育施設「BahnFusion SORAI(バーンフュージョンソライ)」の建設・運営など、観光や教育、農業、地域企業の成長支援などの分野で次々と地域主導のビジネスを展開する株式会社SHONAI代表取締役の山中大介氏と、トーマツ 地域未来創造室の香月稔が今求められる地域のエコシステムについて対談した。
香月:
創業から10周年を迎えた2024年4月に、社名をヤマガタデザイン株式会社から株式会社SHONAIに変更されました。庄内地域で一定の価値を生み出されてきた中、社名変更をされたのはどのような狙いがあるのですか。
山中氏:
我々の最初のアクションの影響は大きかったと思います。資本金10万円をもとに、地元庄内の企業や個人から融資などを受けて資金調達し、地域のスタートアップとしては桁違いの23億円を集められたのです。この10年間でいろいろなメディアにも取り上げていただきました。しかし、振り返ってみると、こみ上げる想い先行で動いてきており、資本計画を立てたり、会社としてどこまでやれるのか考えたりすることはしてきませんでした。経営面では、十分に体系立てて取り組めていなかった部分もありました。
香月:
大きな構想を掲げてここまで駆け抜けてこられたのかと思っていたので、意外に感じます。
山中氏:
社名変更を考えた一番大きなきっかけは、これまで長く一緒にやってきた従業員の中から新たな道を選ぶメンバーが出てきたことでした。ご存じの通り、ベンチャー・スタートアップではエントリーマネジメントとイグジットマネジメントが大事ですが、組織として大切にしたい仲間づくりのあり方を見直す必要がある状況が生まれ、なぜなのか考えるようになりました。理由は、この会社で夢を見られないからですよね。そこで、やるならもっと思い切りやろう。日本一地域から価値を生む会社を作ろう。ここから真面目に経営をしていくのだという決意を込めて社名変更しました。
株式会社SHONAI 代表取締役 山中 大介氏
香月:
スタートアップでは会社の規模や事業内容が変わるタイミングで人材の流動が起きることは珍しくないですが、実はそれは組織が成長しているサインでもあります。そこで経営者が次のフェーズを言語化することは会社の運営に大事なことですね。その「真面目な経営」とは具体的には何を指していますか。
山中氏:
「真面目な経営」とは、感情や勢いだけで動くのではなく、事業の継続性や成長を見据えて経済性をきちんと考え、主体的に会社のあり方を設計していくことだと捉えています。
正直、ある程度の暮らしができるようになった段階で、事業を拡大する必要はないのではないかと思った時期もありました。しかし、その考え方こそ、地域が長らく経済性から目をそらしてきた文脈と同じだと気づかされました。
一方で、私たちがこれまで取り組んできた挑戦に面白さを感じて関わってくださった方々が、結果として私たち自身のアイデンティティを広げ、脱皮させてきてくれたという実感があります。だからこそこれからの10年間は、我々自身でイニシアティブを持ち、このアイデンティティを確立していく「真面目な経営」を実践していきます。
香月:
地域のイノベーションエコシステムを構築するには、ヒト・モノ・カネ・情報の4つの構成要素を地域内に集めていかなければいけません。しかし、各地域の抱えるさまざまな課題によって阻まれることも多いです。地域の人を巻き込んでいくことは大変ではなかったですか。
有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室 パートナー 香月 稔
山中氏:
地域の人に理解してもらおう、応援してもらおうという姿勢ではいけないのだと思います。結果を示せばいいのです。経営資源がない、市場規模が小さい、インフラが整っていない、地域の文化が保守的だ……などいろいろな事情があると思いますが、言い訳せずに結果を出すことこそが、地域の人たちの意識を変えると思います。この10年間で私たちの取り組みを評価してくださる方が確実に増えてきたと感じています。そして、これからの10年でさらに成果を積み重ねていけば、より多くの方に共感や期待を寄せていただける会社になれると信じています。
香月:
山中さんは、地域企業が自らUIターン者を獲得することを後押しする、地域特化型のリクルートサービス「ショウナイズカン」「チイキズカン」を事業化されてきました。地域で挑戦している人や企業と都市部で働くプロ人材を結ぶ取り組みで、才能を集約できるわけですよね。
実は地域未来創造室でも、資金調達のタイミングであれば臨時のCFOとして、組織作りが必要なタイミングならCHROとして関与するなど、地域の企業で不足する役割を補って支援することを目指しています。トーマツの取り組みとも親和性があり、興味深いと思っていました。
山中氏:
地域企業は、正社員採用をしたところで優秀な人材が採れるとは限りません。高い年俸を出し、大きな決裁権を渡して任せたものの、ミスマッチしたときのダメージはとても大きいです。だから、まずはお互いにプロジェクトベースで知り合っていくことが最適です。「チイキズカン」のプロジェクトリーダーとは議論を重ねて、複数の本業を持つ「複業」の仕組みをつくりました。また、求人を年収1000万円換算に限定することで、安く人材を囲い込みたい企業をはじき、中長期的に人材へ投資し、共に成長していこうと考える未来志向の企業だけが集まるサービスにすることができました。
現在「チイキズカン」の契約件数は300社強ですが、掲載希望数はその倍くらいあります。「掲載したいけれど、社長の同意が得られない」という後継専務の話を聞くこともあり、もどかしく感じます。高度成長期を経験された経営者の中には、変化への判断に慎重になられるケースもあります。結果、会社の動きも止まってしまいます。一方、次世代に早い段階で経営を託している企業は、変化への対応力が高い傾向があります。30代、40代でバトンを受け取った経営者は、従来の延長線上にとどまらず、新しい経営のあり方を模索しながら会社を前に進めているケースが多いと感じています。だから、「チイキズカン」にも賛同してくれるのです。我々が上場を目指す2030年までには代替わりも進み、より良い方向に動き出してくれると信じています。
香月:
社名変更とともに、ビジョンも「地方の希望であれ」へと刷新されました。どのような考えが背景にあるのでしょうか。
山中氏:
ビジョンを変更するにあたって、「地方の希望」とは何だろう、と突き詰めて社内で話し合ってきました。日本では毎年0.4%程度人口が減り続けており、200年後には1000万人程度になってしまうと言われています。将来的には移民政策を取り入れて人口ボリュームの維持を図っていくのでしょうが、経済をつくっていくには越境しないといけない。だから「庄内”で“まちづくり」から「庄内”から”まちづくり」にしないといけないのです。「地方の希望であれ」を通して、世界の資本を地域から直接取り込んで経済をつくっていく、という目標を発信しています。
香月:
世界に出ていくことは簡単ではないと多くの人が考えています。山中さんはどのような思いで海外進出を推進しているのですか。
山中氏:
今、世界で活躍している多くの企業も、もともとは一つの地域から生まれました。グローバル企業として知られるようになったことで、その出発点が地域にあったことが見えにくくなっているだけなのです。近年では、ニッチな市場で金属加工の高い技術力を発揮した地域企業が、英語のウェブページを作っただけで世界から注目されるようになった事例もあります。この時代、地域企業でも経営者の意識と戦略次第でいくらでも世界に出ていくことはできると思っています。
香月:
あとは、それを自分にできると思えるかどうかですね。
山中氏:
企業の中に成長の可能性があるなら、政策としてその力を引き上げていくことも重要です。現在「スタートアップ支援」と呼ばれている施策の中には、結果として中小企業の下請け的な役割の拡大にとどまっているものも見受けられます。本来のスタートアップ支援とは、もっと思い切った目標、例えば「東北からユニコーン企業を生み出す」といった、より大胆で明確な目標を掲げることではないでしょうか。それを実現するためには、ポテンシャルと成長意欲のある企業への集中支援も一つの選択肢だと考えます。
香月:
「挑戦できる選択肢と機会をスタートアップに」とは我々も常々言っていることです。一定の基準を定めて集中支援することも重要ですね。
香月:
2024年12月、グループ企業の株式会社XLOCALから「チイキズカンファイナンス」もローンチされました。どのような狙いがあったのでしょうか。
山中氏:
現在ファイナンス領域の支援は、XLOCALの専門チームとチイキズカン登録者から選び抜かれたプロ人材が連携して、100億円規模を目指す企業の経営に伴走する「共創支援」の枠組みの中で取り組んでいます。この支援の目的は、地域企業に、未来の数字を見据えて成長をゴールとして調達する「エクイティ」という新たな選択肢を提示し、地域から世界を目指す企業の創出を実現していきたいからです。「私たちが地域企業の人事と財務になります」とお話ししています。日本の中小企業が抱える課題の一つは、人事と財務の専門人材が不足していることにあります。事業ファーストで物事を考える姿勢は大切ですが、スケールする企業に共通するのはバックオフィスが充実していること。逆に言えば、バックオフィスの体制が整っていなければ、スケールすることは難しいのです。我々SHONAIグループの今年度のバックオフィスコストは約2億円。現在は人材体制が充実しており、経理財務、人事、総務、法務、ITの各機能が有機的に連携しています。これらは先行投資ですが、これから世界を目指すために欠かせない基盤だと考えています。
香月:
特に財務を重視されるのは、なぜですか。
山中氏:
地域企業の中には、経理の体制は整っていても、将来の成長を見据えた財務戦略まで描けていないケースが少なくありません。地域企業がスケールしていく局面では、借入を中心としたデッドファイナンスだけでは限界がある一方で、エクイティが有効な資金調達手段になります。しかし銀行はこれまでの実績、つまり過去の数字を元に与信判断を行うため、多くの地域企業が毎年の収支を整えることに追われ、先行投資に踏み出しにくい構造があります。その結果、銀行の今の資金調達の考え方に立つと、長期的な成長に向けた十分な投資が難しくなっているのが実情です。だからこそ重要になるのが、財務の視点です。一度赤字となる局面があっても、中長期で事業を成長させ、大きなリターンを生み出していく。その道筋を数値で描き、投資家や金融機関と共有できることが求められます。財務計画がないということは、中長期の計画が十分に可視化されていないということでもあります。経営者の構想や想いがあっても、エモーショナルなプレゼンテーションや粗い数値計画にとどまってしまうと、投資判断に必要な財務計画との間に大きな乖離が生まれてしまいます。構想と数字を結びつけ、説得力のある財務計画として示すことができれば、資金は動きます。その意味で、財務戦略の高度化は、これからの地域企業にとって避けて通れない重要なテーマだと考えています。
香月:
エクイティが有効な資金調達手段であることには同意します。しかし、地域企業側のリテラシーが伴わないといけないですね。トップだけでなく、従業員の挑戦心をいかに突き動かしていくのかが、課題になりそうです。
山中氏:
トップがどこまで覚悟を持てるのかが大事だと思います。従業員に共感してもらい、ワクワクしてもらうことで、皆で本気になることができるはずです。
香月:
トーマツの地域未来創造室でも「地域の未来を創造する」ことを目的として、さまざま地域と挑戦者に伴走して、地域社会の共創に取り組んでいます。一次産業から教育分野まで、全国から山中さん宛てに相談が届いていると聞きます。山中氏が応援したいと思うのは、どのような地域ですか。
スイデンテラス
山中氏:
これまで我々は、一歩踏み込んで産地形成も一緒にやってきました。それで一番大切なのは、その地域に当事者意識があるかどうかだと感じるようになりました。頼ってもらえることは嬉しいですが、他人依存ではうまくいきません。自立している地域と積極的に関わっていきたいです。自立と言っても、自分たちでやると凝り固まり、排他的になってしまうと成長の余地がありません。何がその地域に価値をもたらすのか、柔軟に考えるベースが必要です。
香月:
当事者意識を持ち、地域経済の活性化に本気な地域を応援していきたいですね。社会実装を推進して価値の創出だけでなく定着を促すことで、持続可能な地域社会を目指していきたいです。