近年、スポーツへの投資は社会的課題解決においても大きな意味を持つようになっています。本レポートでは、スポーツやコミュニティ活動を通じて社会創りに取り組む株式会社今治.夢スポーツを事例として、社会的投資収益率(Social Return on Investment, SROI)を分析することで社会的価値の可視化を行いました。今年度は、アシックス里山スタジアムを拠点とした各種活動における価値分析に加え、2024年にコンソーシアムが発足した “FC今治コミュニティ”での様々な活動を通じて創出されている社会的インパクトも新たに分析対象としました。
スポーツクラブが生み出す価値には、財務的価値と潜在的財務価値、社会的価値の3種類が存在するといわれています。スポーツクラブが生み出す「財務的価値」とは、チケット収入や放送権料収入などスポーツクラブの興行等の活動によって生み出される価値を指し、スポーツクラブ自身に還元されるものです。また、「潜在的財務的価値」は、パートナーやクラブロゴ、広告露出権など、財務諸表に顕在化はしないものの、活用することで財務的価値を生み出しうる有形・無形資産のことを指します。各スポーツクラブの財務価値の向上は、スポーツビジネスの成長産業化につながります。
一方、スポーツクラブが生み出す「社会的価値」は、「財務的価値」や「潜在的財務価値」とは異なり、地域や他産業にもたらされる多面的な価値のことです。この価値は、スポーツクラブのサポーターや拠点地の地域住民などのステークホルダーに広く還元されるものであり、チームの活動が地域の活性化に寄与する重要な要素となっています。こうした社会的価値は、定性的にはステークホルダーに認識されていたものの可視化はされることはほとんどなく、近年ではその「見える化」に対する関心が高まっており、その具体的な把握と評価が進められつつあります。
今治.夢スポーツは、2002年5月29日に設立され、愛媛県今治市を本拠地とするサッカーチームのFC今治の運営を基軸に、「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」を理念として掲げ、青少年へのサッカー教育や指導者の普及活動、環境教育の推進活動などを行う企業です。
合同会社デロイト トーマツは、2021年より継続的に今治.夢スポーツのもたらす社会的インパクトを分析しており、今回で5年目を迎えました。今回は、これまで分析対象としてきたFC今治の事業活動のうちアシックス里山スタジアム関連活動の分析を行ったほか、新たに共助のコミュニティの事業推進にかかる活用として 「FC今治コミュニティの活動」を分析対象としました。
今年度の「アシックス里山スタジアムの活用」に関連する活動のSROIは下図の通り8.4倍となりました。クラブハウス内のスイートルームやラウンジの利用者数が増加したことや、本年より、今治市に在住するFC今治のサポーターに対する価値を超えて今治市民全体や市外のサポーターへの価値を新たに分析したことによりSROIが上昇しました。なお、ホームゲーム観戦者数やファンクラブの加入数の増加も社会的インパクト及びSROIの向上に貢献しています。スタジアムオープン当初から継続している里山サロンやドッグランの取り組みによるインパクトも、参加者が増加し続けていることから相対的に小さなインパクトながら年々伸長しています。FC今治に関わる人の数が年々増えている背景から社会的価値は増大しており、このトレンドより今後も社会的価値が拡大し、SROIが高まっていくことが期待されます。
今年度は以下の3つの活動に焦点を当てて評価を行いました。
①アシさとクラブ
②TINY GARDEN by URBAN RESEARCH
③FC今治コミュニティコンソーシアム
「運動や健康をきっかけに、すべての人が心身ともに健やかで、地域のつながりを実感できる未来」を目指してFC今治とアシックス社が取り組む「アシさとクラブ」では、イベントやトレーニング機会等のスポーツ関連の取り組みに加え、健康や自然・文化等の多様な取り組みを展開しています。これらの取り組みにより、年齢や属性など多様な背景を持つ多数の参加者を受け入れられています。また、運営体制の効率化によってコストを最適化しつつより多くの参加者が参加できる環境を実現していることから、SROI値は1.2倍となりました。
アシックス里山スタジアムでFC今治とアーバンリサーチ社が毎年10月に開催しており今年で3年目を迎えた「TINY GARDEN FESTIVAL」はSROIが1.5倍となり、3つの活動の中で最も高い水準を記録しました。本FESTIVALはキャンプ体験や家族・友人等との交流を促進する多様なアクティビティを提供し、蓄積されたノウハウや企画力を活かして一般的なイベントとは異なる特色を打ち出しています。これらの取組が、来場者数の増加および社会的インパクト・SROIの向上に寄与したと考えられます。
FC今治を筆頭とする計7社で構成される本コンソーシアムは「アシさとクラブ」「TINY GARDEN FESTIVAL」等の活動を側面支援していることから、各活動の成果が社会的インパクトの一部として反映されています。加えて、コンソーシアム内の連携によって新たな協働プロジェクトが多数創出されたことにより、社会的インパクトは全活動の中で最大となりました。
本レポートでは、上記の内容に加え、事業ごとの詳細分析結果を記載しております。以下の過去資料も合わせて、ご興味のある方はぜひPDF版をダウンロードしてご覧下さい。
合同会社デロイト トーマツ シニアマネジャー 杉江 薫