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2026年ロボット主要トレンド –3つの技術トレンドがロボットのAIネイティブ化を加速–

1. はじめに

近年、生成AIの急速な発展により、ロボット業界にも大きな変化が起きている。製造業では工程の効率化が生産性・企業競争力に直結する。そのため、これまでのロボットは決められた動作を繰り返す自動化装置として発展してきた。しかし、現在の製造業ロボットは、AIによる認識・判断・学習能力を取り込みながら、より柔軟に現場へ適応する知能化、すなわちフィジカルAI化が進みつつある。

2026年のConsumer Electronics Show(CES)、Mobile World Congress、Hannover Messe(HM26)をはじめとする主要展示会でも、この流れを象徴する展示が数多く見られたフィジカルAIの技術革新そのものは主に米国勢が主導しているが、今回現地視察したHM26では、「これからの工場・産業システムをAI、自動化、エネルギー、データをどのように再設計し、どう実装するか」という観点から示唆が得られた。

実際にHM26の展示会場では、設計、生産、物流、品質、エネルギー管理までを一気通貫でつなぐ未来工場像の提示や、ソフトウェア定義型オートメーションと、エネルギー統合、OTデータと業務/IoTデータの接続基盤の実装解の方向性を示す展示も見られた。

本記事では、HM26の現地視察で得られた示唆や主要プレイヤーの動向を踏まえながら、ロボット業界で注目されるトレンドを整理する。

2. 主要トレンド

ロボット業界の主要トレンドとして、「フィジカルAI」、「マルチAIエージェント」、「次世代ロボットプラットフォーム」に関する3つの技術観点が相互に進化しながらロボットのAIネイティブ化を促進している。

(ア) トレンド1:デジタルと実世界が融合する「フィジカルAI」へシフト
フィジカルAIは、HM26における主要なトレンドのひとつである。
NVIDIA、Siemens、Microsoftなどは、仮想空間で工場やロボットをシミュレーションし、その検証結果を現実設備へ反映する「データの流れ」を重視していた1.2.3.

その一例として、会場で目にしたNVIDIAの展示では、デジタルツイン、ロボット学習、仮想検証、エッジAIを横断する共通基盤を示していた。

また、例えばAmazon4倉庫でのデータ活用のように、効果が測りやすいユースケースの展示も見られたが、現時点ではフィジカルAIの具体的な効果創出はまだ限定的である。フィジカルAI市場の立ち上がりには、ボトルネック工程や検査、搬送といった、現実的で測定可能の容易なユースケースでの検証が重要になると考えられる。

(イ) トレンド2:「マルチAIエージェント」で業務領域横断の意思決定・実行
生成AIは、もはや単発アプリやチャットボットの活用段階ではなく、設計、生産計画、保全、品質、物流、エネルギー管理など業務領域を横断して実行支援する「マルチAIエージェント」へと進化している。

例として、SAP5では船便遅延や自然災害などの外部インシデント発生時に、AIエージェントが経営インパクトを即時表示し、代替調達や計画変更案を自然言語で検討する世界観が提示された。Microsoftも、展示においてOTデータとERP、SCM、品質、保全データを接続し、AI提案・人の確認・業務システム実行までを含む実運用基盤を訴求していた。

一方、企業特有の業務の進め方に対してAIエージェントを活用していきたい場合、競争力の源泉となるのは、AIモデル性能ではない。AIエージェントを活用したい企業側が注力するべきはデータにあり、AIが正しく業務実行するための①データ文脈の意味付け (コンテキスト) を定義することと、②データ整備(BOM/BOP、設備データ、品質データ、保全履歴など)の2点の重要性が高まっていくと考えられる。

(ウ) トレンド3:部品含めた「次世代ロボットプラットフォーム」が着実に進展
会場全体で注目を集めていたのがヒューマノイドだ。ヒューマノイド市場は成長期に突入しつつあるが、量産導入の本格普及にはまだ至っておらず、現時点では検証フェーズであるだろう。中でもヒューマノイド本体の展示では中国メーカーのものが多く、勢いがあったと感じる。ここで重要なのは、市場競争の重心がロボット本体だけでなく、部品、周辺基盤、学習環境へ広がっている点である。

Schaefflerはヒューマノイド向けアクチュエータープラットフォームでHERMES AWARD 2026を受賞6するなど今回のHM26において欧州製造業の変革を象徴する企業の一つとして存在感を示していた。産業オートメーション・空気圧技術大手のFesto7はロボットハンドとAI活用を訴求していた。また、現地で聴講したヒューマノイド関連のTalk Sessionでは、NVIDIAやMicrosoft、BMW8のキーマンらが今後のヒューマノイドの産業展開に関して論じていた。その中で「現実世界の学習データ」が重要であり、フィジカルAIは仮想世界と現実世界をつなぐ橋だが、その接着剤はデータであると強調された9。さらに、SiemensキーマンらによるTalk Sessionでは、産業・物流で5年以上先、サービス・小売で5~15年、家庭内で10~20年という時間軸も示されていた10

この見通しを踏まえると、当面は完成品の覇権争いよりも、アクチュエータ、ハンド、センサー、学習データ、基盤モデル、評価環境といった周辺レイヤーの重要性が高まると考えられる。

フィジカルAI・マルチAIエージェント・次世代ロボット基盤の連携により、ロボットのAI化と現場での学習・意思決定を加速する流れを説明。

3. 全体総括・日本企業への示唆

HM26が示した本質は、AI・ロボティクス競争が、もはやモデル性能そのものを競う段階から、産業システム全体を再設計できるかを競う段階へ移行しているという点にある。特に欧州勢は、米国のような巨大AIプレイヤーを持たない一方で、機械、制御、現場運用、サプライチェーンを統合する力を強みとしており、SchaefflerやSiemensの展示はその方向性を象徴していた。また中国メーカーはヒューマノイドを中心として、ロボット・ハードウェアの存在感を強めていた。

こうした中で、日本企業の勝ち筋は以下の点にある。

第一に、日本企業の利点は多様な導入検証の場があることにある。特に日本製造業においては歴史的に見ても導入検証から改善ループを現場で回しながら改善していく「モノづくりの文化」がある。フィジカルAIにおいても改善ループを現場で回すために、産業ロボット、工作機械、制御機器、センサーなどのハードウェアの強みを起点に、現場データをAIエージェントやフィジカルAI活用へ接続すること。

第二に、熟練者の判断や改善ノウハウといった暗黙知をデータ化し、AIが使える形に整備すること。

第三に、ヒューマノイドについては話題先行で飛びつくのではなく、人手不足、夜間作業、危険作業、巡回点検、少量多品種工程など、現場課題起点でユースケースを絞り込むこんだ上で実装・改善ループを回していき、徐々に導入範囲を広げることである。

日本企業においてもAI基盤モデルを導入することが望ましいとは考えられるが、あくまで単にPoC的な導入を目的とするのはなく、自社の現場・設備・データ・業務を再設計しながら、実装可能な産業システム全体へと組み替えていくことが重要ではないかと考える。また、日本企業が今後競争力を発揮する上では、AI・データだけでなく、それを支えるハードウェア基盤にも目を向ける必要がある。現場から取得した高品質なデータをAIへ供給するセンサー・制御機器と、AIの判断を現実世界で正確に実行するロボット・FA機器の両輪によって成立する。日本は工作機械、産業ロボット、センサー、制御機器、さらには半導体製造装置などで世界有数の競争力を持つ。

今後はこれらの強みをAIと結び付け、データ取得から実行までを一気通貫で実現する産業基盤を構築できるかが重要になる。また、フィジカルAI基盤のもとで日本の「モノづくり文化」に代表する現場改善のループを回していくことも重要になるだろう。HM26で見えてきたことは、「AIが製造業を変える」という未来ではない。「AIが現場で実際に動き始める時代」が到来したという現実である。今後は、優れたAIモデルを持つかどうかではなく、AIを現場データ、設備、ロボット、業務プロセスと統合し、継続的な価値へ変換できるかに重点が移っていくだろう。

1. NVIDIA, “NVIDIA at Hannover Messe Hannover Exhibition Grounds, Germany April 20–24, 2026”, 2026/06/10アクセス:https://www.nvidia.com/en-us/events/hannover-messe/
2. Siemens, “Thank you for an unforgettable Hannover Messe!”, 2026/06/01アクセス:https://www.siemens.com/en-us/events/hannover-messe/
3. Microsoft, “Industrial intelligence unlocked: Microsoft at Hannover Messe 2026”, 2026/06/10アクセス:https://www.microsoft.com/en-us/microsoft-cloud/blog/manufacturing/2026/04/16/industrial-intelligence-unlocked-microsoft-at-hannover-messe-2026/
4. Amazon, “AWS for Manufacturing at Hannover Messe 2026”, 2026/06/01アクセス:https://aws.amazon.com/jp/manufacturing/hannover-messe-2026/
5. SAP, “SAP at Hannover Messe 2026: Operationalizing Agentic AI to Drive Resilient, End-to-End Manufacturing”, 2026/06/10アクセス:https://news.sap.com/2026/04/sap-at-hannover-messe-2026-agentic-ai-resilient-manufacturing/
6. Schaeffler, “Schaeffler at Hannover Messe 2026”, 2026/06/10アクセス:https://www.schaeffler.com/en/media/dates-events/hannover-messe/
7. Festo, “Hannover Messe 2026 Automation for a world in motion”, 2026/06/10アクセス:https://press.festo.com/index.php/en/node/5194
8. HANNOVER MESSE, “Next Level AI and Robotics in Production 2026/06/01アクセス:https://www.hannovermesse.de/event/next-level-ai-and-robotics-in-production/key/42707
9. HANNOVER MESSE, “Bringing Humanoids to Production”, 2026/06/15アクセス:https://www.hannovermesse.de/event/bringing-humanoids-to-production/pan/92704
10. HANNOVER MESSE, “Why is everyone talking about humanoid robotics?”, 2026/06/15アクセス:https://www.hannovermesse.de/event/why-is-everyone-talking-about-humanoid-robotics-/key/41402

執筆者

澤田 友貴/Yuki Sawada
合同会社デロイト トーマツ
マネジャー
半導体・ロボット・自動車業界の大手製造業企業を中心に、事業戦略検討、データ・AI活用、データマネジメント、PLM改革などの構想策定から実行支援まで幅広いプロジェクトに従事。

高橋 健/Ken Takahashi
合同会社デロイト トーマツ
日系精密機器メーカー、監査法人を経て現職。エレクトロニクス・半導体製造関連企業を中心に、市場調査・システム導入・データ活用など幅広いプロジェクトに従事。 

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