近年のオフィス市場では、立地や賃料だけでなく環境性能や快適性など総合価値が重視されています。本レポートは、省エネ効果以外の副次的価値「NEBs」を定量評価し、事例を通じて資産価値向上や投資回収短縮への具体的な効果を示します。
近年、国内外のオフィス市場はコロナ禍を経て回復基調にあり、特に東京では需給バランスが良好で、企業の人材投資意欲の高まりや職場環境整備の進展が見られる。オフィスビルの競争軸は「立地と賃料」から「総合的な価値創造」へと進化し、環境性能や災害対応力、快適性や利便性などのソフト面も重視されるようになっており、健康や生産性向上、BCPといった非エネルギー便益も投資判断の重要な要素となっている。
不動産分野ではESG認証の取得が一般化しつつあり、LEEDやBREEAM、WELL認証など、環境性能だけでなく健康・福祉、マネジメント体制まで評価する認証が拡大している。日本でもCASBEEやBELS、DBJ Green Building認証などが普及し、ESG投資を意識した企業や不動産オーナーの間で活用が進んでいる。これらの認証は、環境性能の評価にとどまらず、社会的価値やガバナンスまで評価する役割を強めており、持続可能な価値創造に寄与している。
本レポートの中心テーマであるNEBs(Non-Energy Benefits)は、省エネや低炭素化の取り組みによって得られるエネルギー削減以外の副次的効果を指す。NEBsには、健康増進や知的生産性の向上、メンテナンス費削減、地域貢献・ブランディング、炭素排出量削減、環境認証・格付けの取得、BCP/リスク回避、人材確保・定着、社内啓発、資金調達、広告宣伝、不動産価値の向上など、多岐にわたる効果が含まれる。これらは従来の光熱費削減効果だけでは評価しきれなかった建物の価値を、より総合的に可視化・定量化するものである。
さらに、NEBsの向上はテナントの満足度や生産性、在室時間の改善を通じて賃料プレミアムや更新率の上昇、解約・退去の減少、リーシング期間の短縮、稼働率の安定化など、資産価値の向上に直結する。また、維持管理費や修繕費、保険料などのコスト削減にも寄与し、キャッシュフローの安定化や資本効率の向上、リスク低減を実現する。
本レポートでは、NEBsの定量評価手法や、実際の新築・改修事例を通じて、NEBsがどのように建物の価値向上や投資回収期間の短縮に寄与するかを具体的に示している。オフィスビルや不動産の価値向上を目指す企業や投資家にとって、NEBsの評価・最大化が今後の競争力強化や持続可能な経営の鍵となることを、理論と実践の両面から提示する。
田村 貴海
執行役員
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
清水 歩
ディレクター
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
須永 優一
シニアマネジャー
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社