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医薬品基盤事業再編のリアル――M&Aで解く再編課題

第2回 社会インフラとしての医薬品の再設計

医薬品基盤事業の再編は、企業全体の統合ではなく領域・機能ごとの最適化として進む。M&Aは、譲渡や退出も含めて機能と供給責任を持続可能な形でつなぎ直す手段である。

1.はじめに

前回は、医薬品産業を「基盤事業」と「成長事業」の二層で捉え、前者の再編が経済安全保障上の課題であることを論じた。創薬やバイオといった成長領域への投資が重要であることは言うまでもない。一方で、ジェネリック医薬品や抗菌薬などの安定確保医薬品とその製造、物流、販売といった基盤事業が不安定化すれば、地域医療の継続性そのものが揺らぐ。医薬品、とりわけジェネリック医薬品は、普段は目立たないが、供給不安が起きたときに初めて社会インフラとしての性格がはっきり表れる産業である。

第2回で焦点を当てたいのは、その基盤事業再編を何で動かすのかという点だ。その中心的な手段の1つがM&Aだが、ここでいうM&Aは、企業全体の買収や統合だけを意味しない。医薬品基盤事業の実態に即していえば、品目譲渡、会社分割、事業譲渡、共同事業化、資本業務提携、製造委託の再設計、さらには安定供給の受け皿を整備しながらの段階的退出まで含めた広義の再編手段として捉える必要がある。

なぜそこまで広く捉える必要があるのか。理由は、医薬品基盤事業で解くべき課題が、単純な規模不足ではないからである。少量多品目、低採算、品質保証負担の上昇、設備更新負荷、人材不足、供給責任の重さ――こうした課題は、企業全体を統合しただけでは必ずしも解消しない。実際には、どの品目を残し、どの機能を寄せ、どこを共同化し、誰に供給責任をつなぐかを設計しなければならない。再編の主語は企業ではなく機能であり、M&Aはその機能を再編し、接続するための手段と捉えるべきだろう。

本稿では医薬品基盤事業再編を、企業統合の是非ではなく、機能をどう再編し、どう接続するかという観点から整理する。以下では、第一に再編の起点が企業全体ではなく品目・製造拠点・供給機能といった「再編単位」にあること、第二にその再編が業界全体で一律に進むのではなく、領域ごとの構造課題に応じて進みやすいことを示す。第三に、その過程で譲渡や段階的退出も、供給責任の放棄ではなく受け皿を伴う再配置として捉えるべきことを論じ、最後に、そうした再編を実装する手段として、品目譲渡、事業譲渡、JVなどのスキームをどう組み合わせるかを整理する。

2.どの機能を動かすかで選ぶべき再編スキームは変わる

医薬品再編というと、企業統合・再編を思い浮かべる向きは多い。しかし、医薬品では会社を一つにしただけで供給構造が強くなるわけではない。むしろ、統合後に品目整理、製造拠点再編、品質保証体制の見直し、在庫配置の変更を進められなければ、複雑性を抱えたまま企業規模だけが大きくなることすらあり得、逆に重複機能を抱えることで管理の複雑性、非効率な運営につながる場合もある。

その意味で、医薬品基盤事業再編の成否を分けるのは、「統合するか否か」以上に、何をどの単位で切り出して動かすかである。例えば、同じ成分による医薬品を多くのメーカーが分散して少量生産している構造の解消や低採算品の整理であれば、会社全体を買収するより、薬価削除における中止代替先の模索、品目譲渡や特定事業の譲渡とそれに続く品目・事業統合のほうが目的に直結しやすい。製造能力の再配置であれば、企業統合よりも工場や製造機能のカーブアウト、あるいはマル特申請(特定製法変更迅速審査)の活用も含めた製造移管の方が、実装面では合理的なケースが少なくない。

これは医薬品特有の事情でもある。製造販売承認、品質保証、製造所変更、出荷判定、需給調整は、一足飛びに切り替えにくい。一般産業のように、買収後すぐ統合して効率化というわけにはいかず、どうしても段階的な移行設計が必要になり、一定期間は売り手側が製造を受託し、段階的に供給責任を移していく設計を行う場合もありうる。だからこそM&Aも単にディールを成立させることでは足りない。再編対象をどの単位で切るか、移行期間にどの責任を誰が持つか、どの順番で機能を移すかまで描けるかどうかが重要になる。

ここで図表1に示した通り、医薬品基盤事業の課題は、「同一成分の多社分散」「製造能力の小規模分散」「個社で支えきれない供給責任」「非中核領域の抱え込み」「単独保有が非効率な共通機能」に分けてみると整理しやすい。そして、それぞれに適したスキームは異なる。フル統合が有効な場面もあるが、むしろ多くの課題では、品目譲渡、事業譲渡、会社分割、JV、譲渡・移管を伴う退出といった選択肢のほうが、目的に対して有効である。


図表1 医薬品基盤事業の課題と想定される再編スキーム

医薬品基盤事業の非効率な分散課題に対し、再編策と実務論点を示す図。

3.領域特性に応じた有効な再編手段を選ぶことが重要である

図表2で示した通り、医薬品基盤事業の再編は、業界全体で一律に進むというより、構造課題が顕在化しやすい領域から部分的に進む可能性が高い。これは、問題の性質が領域ごとに異なるためである。

例えば、抗菌薬のように社会的必要性が高い一方で採算確保が難しい領域では、論点は単なる機能統合・再編ではない。重要なのは、誰がその供給責任を持続的に担えるかであり、場合によっては品目移管、共同供給、受け皿形成といった形のほうが現実的であり、さらには国産化に伴う政府からのインセンティブを形成することが期待される。すなわち、ここでのM&Aは、シェア拡大のための攻めの手段というより、供給をつなぐための再配置、経済安全保障の手段として機能する。

また、慢性疾患向けの基礎的医薬品では、劇的な再編より、品目群の整理や供給責任の明確化が先行しやすい。個社ごとの重複を残したままでは、低採算構造と供給負荷が温存される一方、全社一括の再編は実務負荷が大きい。結果として、品目群単位での譲渡や段階的な製造移管、周辺機能の共同化といったアプローチが現実味を帯びる。

さらに、注射剤や無菌製剤のように製造難度が高い領域では、企業全体の統合よりも、製造機能の再編が中核になる。製造設備、品質保証、人材、バックアップ体制のどれが欠けても供給影響が大きくなる以上、論点は「会社をまとめること」ではなく、「どの拠点で、どの製造機能を担うのが最も持続可能か」にある。したがって、工場の切り出し、製造移管、共同製造会社の設立といったストラクチャーのほうが、再編手法としてなじみやすい。

ここで重要なのは、こうした動きを「部分最適」として過小評価しないことである。医薬品基盤事業では、医療現場への影響が大きい領域ほど、一気に全面再編するより、守るべき機能から先に組み替えるほうが合理的である。部分最適は暫定解ではなく、全体最適に向かうための実装手順とみるべきだろう。


図表2 構造課題からみて部分最適が先行しやすい領域の例

抗菌薬など医薬品基盤領域の課題ごとに、進めやすい再編方向を示した図。

つまり、領域ごとの構造課題に即して再編を考えると、論点は単純な統合の是非ではなく、どの機能を残し、どこを移し、どこを共同化するかに移る。その帰結として、譲渡や段階的退出は例外的な対応ではなく、再編の一部として検討せざるを得ない場面がある。以下では、その意味をもう一歩掘り下げる。

4.領域・機能ごとの最適化を図る再編では譲渡・退出も検討せざるを得ない

医薬品基盤事業において、譲渡や退出は、供給責任を放棄することを意味しない。むしろ、自社単独では持続が難しくなった品目・機能を、より持続可能な担い手へ移し替えることで、業界全体として供給責任を全うするための再編手段である。重要なのは「残すか、やめるか」の二択ではなく、どの主体がどの機能を担うのが最も安定供給に資するかを見極め、受け皿を伴って再配置することである。

まず、基盤事業再編の実務では、譲渡・退出を選択肢から外すことが非現実的である。特に、設備更新負担が重い領域、品質保証体制の維持が難しい領域、あるいは戦略上の優先順位が下がっている領域では、無理に抱え続けることがかえって供給不安を招くこともあり得る。

そこで重要になるのが、退出のストラクチャー設計である。受け皿のない退出は、当然ながら供給空白を生みやすい。一方、事業・品目譲渡、製造移管、一定期間の製造受託や移行支援を組み合わせた段階的な退出であれば、供給責任を切らさずに次の担い手へつなぐことができる。

ここでのポイントは、退出を単なる縮小としてではなく、機能を持続可能な担い手へ渡す再配置として捉えることにある。自社で担い続けることが最善とは限らない。むしろ、競争力のある機能に資源を集中し、維持困難な領域は適切な主体へ移すほうが、産業全体としては健全な場合もある。この局面で求められるのは、退出の是非を抽象論で論じることではなく、何をどの順番で移し、移行期間中の供給責任をどう配分するかを具体的に設計することである。

5.再編は「スキームの組み合わせ」で実装する

以上を踏まえると、医薬品基盤事業再編におけるM&Aの本質は明確である。問われているのは、企業を大きくすることでも、件数を増やすことでもない。単なる企業統合で完結するものではなく、品目譲渡でポートフォリオを整理、カーブアウトで機能を切り出し事業譲渡、JVにて共同事業化、必要に応じて譲渡・移管を伴う段階的退出と各種スキームを組み合わせながら、機能を段階的に再配置していくことが重要である。根底にあるのは、領域の特徴に鑑み、「必要な機能」と「供給責任」を切らさずに誰につなぐかである。

そのため、医薬品基盤事業では、M&Aを単なる企業売買として理解すると、かえって論点を見誤る。実際には、品目譲渡でポートフォリオを整理し、事業譲渡や会社分割で製造機能を切り出し、JVや共同事業化で共通機能を持たせ、必要に応じて譲渡・移管を伴う退出で受け皿に移す――そうした複数スキームの組み合わせが主流になっていく可能性が高い。

そして、そのときの論点はディールの形式論だけではなく、再編対象の切り分け、受け皿の選定、段階的移行の設計、責任分界、暫定的な受託やTSA(Transition Service Agreement:移行サービス契約)のような移行支援の組み立てまで含めて、再編全体を構造として描く力である。医薬品基盤事業再編のリアルとは、単純な統合論ではなく、機能と責任をどう再接続するかに尽きる。M&Aの本質は、「所有の移転」そのものではなく「機能の接続」である。


図表3 代表的な再編スキームの構造と効果

品目譲渡・事業譲渡・JV化の目的、構造、効果の違いを比較した図。

6.結び

医薬品基盤事業再編において重要なのは、すべてを自社に残すことではない。供給責任をどの主体が最も持続可能に担えるかを見極め、必要に応じて譲渡や段階的退出も用いながら、機能を適切な受け皿へ再配置していくことである。譲渡や退出は、供給責任の放棄ではなく、むしろそれを業界全体として全うするための現実的な手段なのである。

再編にて全面統合が有効な場面はある。だが実際に主流となるのは、それだけではない。品目譲渡、会社分割、事業譲渡、共同事業化、譲渡・移管を伴う退出を組み合わせながら、機能を段階的に再配置していく再編である可能性が高い。再編の主語は企業ではなく機能である。その前提に立って初めて、M&Aは医薬品基盤事業の課題を解く手段となる。

執筆者

合同会社デロイト トーマツ ライフサイエンス・ヘルスケア
パートナー ウィリアム レオン
ディレクター 浦川 慶史
シニアマネージャー 小谷 浩生

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。 

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