昨今の情報社会は、⽣活スタイルや社会構造を大きく変化させた。IoTの普及によって世界中の人々がネットワークで繋がった一方で、一部のプラットフォーマーが国際経済活動を牽引することで経済格差の懸念が高まっている。そのような状況下、本邦では、現在の情報社会「Society 4.0」では解決できない、持続的な経済発展と様々な社会的課題の解決を果たすため、サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムの実装、すなわち人間中心社会「Society 5.0」の実現を目指している。
医療・ヘルスケア領域に目を向けると、超高齢化に伴い社会保障費が増大する一方、健康寿命の延伸、希少疾患治療法の開発、キュア中心の医療からケアへのシフト(身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つこと)など、保健医療ニーズが多様化しており、イノベーションとサステナビリティの両立が求められている。このような社会的要請に加え、今後のテクノロジーの発展により、医療・ヘルスケアに関わる社会秩序は大きく変化するものと考えられる。
本書では、医療・ヘルスケア領域における様々な変革要素の中から、社会秩序の形成を牽引するであろう10要素(変革ドライバー)に着目する。各々のドライバーが齎す変化と相互作用を検討し、新たな社会秩序としての医療・ヘルスケアの姿とその実現に向けた論点を考察したい。
なお、本書は、世にあふれる未来予測ではない。未来は決定論的ではなく、我々の思考と試行によって変えることができる。換言すれば、我々は未来を想像し、創造することができる。執筆者たちは、将来の明るいヘルスケアの在り方について、議論を喚起し、読者の方々と語らい、本書自体を更新し続けていくことを望んでいる。