従来、PACS等の画像管理システムは、高機能ビューワーで高速に画像を表示できるよう、画像表示時における処理方法や画像データの保管方法等に多くの工夫を施すことにより、ユーザーの使いやすさを向上させてきました。しかし、この方法は、単一システムで見ればユーザーの使いやすさ向上に繋がっていますが、一方で、医療情報システムを多数導入する大中規模病院や共同で情報システムを利用する関連病院等においては、独自形式のシステムが乱立することになるため、システム運用・管理が煩雑化し、”特定の端末でなければ閲覧できない”、”点在する画像データを個別に管理しなければならない”等、業務全体で見ると使いにくいといった状態を引き起こしやすくなりました。そこで新たに画像データを統合的に管理できる仕組みとして登場したのが、VNA(Vendor Neutral Archive)になります。
VNAとは、PACSや汎用画像管理システム等から画像データを集約し、各システムの独自様式ではない、標準的なフォーマット、インタフェースで管理する仕組みです。この仕組みにより、画像データの管理方法が異なるPACSや汎用画像管理システムにおいても、画像データを集約し、一元管理することができます。
VNAを導入する場合、前述したPACS等の画像管理システムとVNAの特長を考慮し、一般的には以下のような運用方法で構築されます。
VNAを導入し、画像データを一元管理することにより期待される主な効果は以下になります。
①端末制限を受けない画像閲覧環境の構築
複数のPACSや汎用画像システムに画像データが点在する場合、それぞれのサーバに接続された端末でなければ、当該システムで管理されている画像を閲覧できません。これに対し、VNAに画像データを集約していれば、当該VNAにさえ接続された端末であれば、汎用的なビューワーを用いて画像を閲覧することが可能になります。これにより、院内のどこにいても画像を閲覧できる環境が構築し易くなります。
②画像データの効率的な管理
VNAで複数システムの画像データを横断的に管理することにより、ストレージの空き容量の過不足をシステム間で調整する等、ストレージ容量を院内全体で効率的に管理することができます。また、例えば、BCPの観点から遠方のデータセンターにバックアップを取得する場合において、VNAのバックアップさえ取得できれば、複数システム分のバックアップを同時に取得できるため、ネットワーク回線やバックアップサーバとの連携を一本化できる等、院外との画像データの連携に必要なシステム環境を効率的に整備することも可能です。
③PACS等の画像管理システムにおけるベンダーロックインの回避
PACS等の画像管理システムにおけるベンダーロックインの大きな要因として、新旧システム間のデータ移行期間の長期化が挙げられます。VNAに画像データを集約できていれば、PACS等の画像管理システムには閲覧に必要な画像データのみ保存されていれば良いため、移行が必要なデータ容量が低減されます。そのため、システム変更時におけるデータ移行期間を短縮することができ、引いては、画像管理システムのベンダーロックインの回避に繋がります。
VNA導入により、上記のような効果を期待することができますが、十分な効果を得るためには、様々な課題を解決しなければなりません。VNA導入において、課題となり得る主な注意点は以下になります。
①高機能ビューワーでVNA内の画像データを閲覧する場合に時間を要する可能性がある
VNA内の画像データを高機能ビューワーで閲覧する場合、VNAからPACS等の画像管理システムへ画像データの転送が必要なため、PACS内の画像データを閲覧する場合と比較して遅延が発生します。この遅延を嫌い、多くの画像データをPACS等の画像管理システムに保管しておこうとすると、VNAと二重に画像データを保持する容量が増加するため、結果として画像データの管理コストが増加します。
VNA内の画像データを高機能ビューワーで閲覧する際の遅延の程度は、画像データの容量とネットワーク速度に依存します。一般撮影等の画像データは容量が小さいため遅延は少ないと想定されますが、CT・MRI等の容量の大きい画像データの閲覧にはストレスを感じる程の遅延が発生する可能性があります。また、VNAサーバをクラウド上に構築する等、院内ネットワークよりも遅いネットワークを経由する場合、更に遅延が増加する可能性が高くなります。これらは高機能ビューワーの利用状況によって、院内の業務に与える影響度が変わってきますので、自院の影響度を測る上では高精細モニターの利用状況を一つの指標として考えると良いかもしれません。
②異なるベンダー間の調整に多くの労力を要する
各画像管理システムからVNAへのデータ移行スケジュールや、画像データの送信タイミング等について、VNAと画像管理システムのそれぞれのベンダーと調整する必要があります。これらの異なるベンダー間の調整には、打合せ日程の調整からシステム制約・運用状況の確認等、多くの労力を要します。特に接続実績がないベンダー間の調整においては、データ移行の方法や接続テストの方法等を一から検討する必要がありますので、更に多くの労力を要します。
そのため、VNAの導入に当たっては、VNAの候補を検討する段階から、導入している各画像管理システムとの接続実績等を確認し、十分な検討期間を考慮した上で計画を立てておくのが望ましいです。
③情報システム部門が各診療科・部門との調整に積極的に当たり、牽引する必要がある
VNAの導入に当たっては、院内の各診療科・部門を跨って検討を進める必要があります。そのため、情報システム部門が、それら各診療科・部門から上がってくる意見をとりまとめながら、プロジェクトを牽引していく必要があります。
情報システム部門では、それらの意見と、各画像管理システムとVNAの接続費用や、各画像管理システムからVNAへのデータ移行スケジュール等と、自院が求める効果を比較検討し、VNAで一元管理する画像データの範囲や、その実現に向けた計画を立て、合意形成を図りながら推進しなければなりません。
また、VNAの導入後においても、ある診療科が高精細なモダリティを追加したい場合等、院内で発生する画像データの容量が増加し、VNAのストレージ容量を圧迫することが懸念される場合には、「画像の解像度を落とす」、「保存期間を短くする」、「ストレージを増設する」といった対応を検討する必要があります。その際にも情報システム部門が各診療科・部門を跨って調整を図りながら、対応方法を検討しなければなりません。
上記の対策として、例えば、①に関しては、「PACS内に保管する画像データのルールをチューニングする」、「予約患者の画像データは、受診の前日に予め転送しておく」といった方法が考えられます。②③に関しては、「既存の画像管理システムとの接続実績が豊富なVNAを選定する」、「外部の組織に支援を依頼する」といった対応が考えられます。
他にも医療機関の運用方法や重視する効果、業務状況等により様々な対策が可能です。
VNAの導入は院内全体を巻き込むプロジェクトになりますので、関係者が多く、一筋縄ではいかない部分もありますが、VNAを有効に活用できれば、画像データを効率的に管理でき、医療DXの推進にもつなげやすくなると想定されます。
医療DXの推進に向けた一つの選択肢として、本記事の内容が参考になりましたら幸いです。
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/01