本調査研究は、日本、フランス、スウェーデン、ドイツ、韓国の5か国を対象に子育て世帯における子育てに関する支出、公的給付及び税制等の状況について把握するために①文献調査、②WEBアンケート調査を実施した。調査対象国における子育て世帯への公的給付及び税制度がもたらす子育て世帯の経済的負担の軽減等が把握できた。※本調査研究は令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業で実施したものです。
日本は、「こども未来戦略」(2023年12月閣議決定)において、2030年までに少子化トレンドを反転できなければ、急激な人口減少を食い止められないとの認識の下、「こども・子育て支援加速化プラン」として、これまでにない抜本的な政策強化が図られている。国際比較の観点を含めた施策の評価及び改善の検討に係るデータを収集するため、日本、フランス、スウェーデン、ドイツ、韓国の5か国(以下、「日本及び諸外国」と記す)を対象に子育て世帯における子育てに関する支出、公的給付及び税制等の状況について把握するために(1)文献調査、(2)WEBアンケート調査を実施した。本調査研究では、日本及び諸外国における子育て世帯への公的給付及び税制度がもたらす子育て世帯の経済的負担の軽減等が把握できた、詳細な調査結果とまとめを報告する。
調査対象国における子育てへの公的給付、義務教育以降の学校教育・高等教育の費用、経済困窮世帯への現金給付について調査し、2024年12月末時点の状況は下記のとおりであった。
「こども未来戦略」(2023年12月22日閣議決定)に基づき、若い世代と子育て世帯への支援が抜本的に強化されている。特に、育児休暇や手当、児童手当、児童扶養手当など既存の子育て政策の見直しと拡充が進められ、男女ともに子育てと就業の両立の支援が強化されている。また、義務教育以降の教育費の負担軽減を目指し、一定の所得以下の家庭を対象にした高等学校等就学支援金制度や大学の授業料減免支援が導入され、さらに、授業料支援を目的とした就学支援金の支給を開始した。16歳未満の扶養者の年少扶養控除はなく、16歳以上23歳未満の扶養者には税控除がある。
子育て世帯に向けた公的給付として、こどもが二人以上いる世帯に向けた児童手当や、一定の所得を下回りかつ乳幼児を養育もしくは多子世帯に現金給付などを導入している。また、離婚や死別などで片方の親から養育費を支払われていない等の場合には、養育費保障制度として月額195.86ユーロ(3万1,533円)が支給される。その他、高等学校や高等教育の教育費は一定かかるが、柔軟に利用できる奨学金制度の利用度も高い。特徴的な制度としては、N分N乗方式と呼ばれる家族係数(Quotient Familial)という税制度があり、夫婦での税の共同申告により、特に多子世帯への税制優遇制度がある。
世界有数の福祉国家の一つであり、出産費用、小児の医療費、高等学校・高等教育は安価もしくは無償で提供されている。16歳未満のこどもを養育している場合、児童手当として月額1,250クローナ(1万7,500円)の支給に加え、こどもの数に応じて加算される。さらに、高等学校及び高等教育(大学等)に在籍する16歳以上~20歳になる年の6月まで、学習助成金として月額1,250クローナ(1万7,500円)の現金給付を受け取ることができる。16歳以降は児童手当から学習助成金に切り替わることで、20歳まで現金給付がある。なお、税制度が個人単位の課税のため、扶養親族数に応じた控除等はない。
育児と仕事の両立を促進するため二種類の育児休業手当金を整備し、男女ともに希望にあった利用しやすい仕組みとなっている。日本及び諸外国の中でも児童手当は高水準であり、18歳未満のすべてのこども及び高等教育や職業訓練中等の25歳未満のこどもを養育する世帯に月額250ユーロ(4万250円)が支給される。18歳未満のこどもを養育している場合は、年少扶養控除が設けられているが、年間の所得税査定の一環で、児童手当と年少扶養控除のいずれか有益な方が算出され、自動的に決定される。さらに子育て世帯に向けた住宅費、保育費、教育費等の控除などもあり、支出した費用に応じた控除がある。
少子化問題に直面し、政府は子育て世帯への支援策を強化している。2020年以降、乳幼児を養育する世帯に向けての現金給付の施策を強化し、こどもの誕生時に配布する「ファースト・エンカウンター・パス」や、すべての0~1歳児を養育する世帯への現金給付の「父母給付金」を導入した。さらに、こどもを2人持つ家庭への住宅購入時の金利の引き下げや貸出限度額の引き上げ、また大学入学金の徴収の廃止等を行い、子育てをしやすい環境整備を推進している。
日本へのWEBアンケート調査では、第一子が0~22歳の全国の男女を対象に調査し、2300サンプル収集し、2024年10月時点の子育て費用の費目別の家計調査を行った。結果として、子育て費用の総額は、高校生が最も高いという結果となった。費目別に見ると、全ライフステージの中で、衣類・服飾雑貨費、食費、学校外教育費、学校外活動費は高校生が最も高い。未就園児、未就学児、小学生の期間の子育て費用の総額は大きく変わらなかった。費目の内訳をみると、学校教育費と学校外教育費の合計において、小学生以降、金額の増加が見られた。
図表1:こどものライフステージによる経済的負担の違い(日本)
諸外国へのWEBアンケート調査では、第一子が0~24歳である男女、各国1000サンプル程度を収集し、2024年10月時点の子育て世帯の収入、子育て費用総額、公的給付の受給額等を調査した。結果として、調査対象国の中で日本の第一子にかかる子育て費用の平均額(年額)は1,359,414円で最も低く、ドイツが2,551,100円で最も高いことがわかった。
図表2:日本及び諸外国の子育て費用に関するWEBアンケート調査結果
本調査研究では、日本と諸外国の比較は、各国の人口構造や家族政策・税構造、社会・文化慣習の違いがあることから一律に比較することが難しいこと、また、WEBアンケート調査では回答数が限定的で、集計結果の解釈については回答数の制約がありつつも、日本、フランス、スウェーデン、ドイツ、韓国における子育て世帯への公的給付及び税制度がもたらす子育て世帯の経済的負担の軽減等が把握できた。その中でも、WEBアンケート調査では、第一子に係る子育て費用の年平均額を算出した。結果として、日本の第一子に係る子育て費用の年平均額は135万9,414円で調査対象国の中で最も低いことが示された。諸外国ではドイツが255万1,100円(年平均額)、続いて韓国が240万6,292円(年平均額)、フランスが167万4,289円(年平均額)、スウェーデンが156万7,868円(年平均額)の順に高く、ドイツと韓国は日本の2倍近くの水準であることが確認された。
※現地通貨換算は、日本銀行が2024年9月20日に掲載した日本銀行基準外国為替相場及び裁定外国為替相場(10月分)を使用して日本円に変換して表示し、1ユーロ=161円、1クローナ=14円、1ウォン=0.11円で円換算をした。
※図表は、「子育て支援に係る公的給付等の諸外国における実施状況に関する調査研究」の調査結果をもとに、当法人が作成した。
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