消費財業界では2024年に向けた経営改善の取り組みとして、価格、販売量、商品構成といった基礎的条件(ファンダメンタルズ)の見直しに加え、生成AIやGLP-1受容体拮抗薬、サステナビリティ関連規制といった新たな課題への対応が求められる可能性がある。本レポートでは、消費財企業の2024年の業界展望やトレンドからビジネス戦略検討に役立つ情報にを解説する。
ここ数年、食品・飲料から家庭用品、パーソナルケア、アパレルに至るまで、多くの消費財企業は市場環境の変化に伴う人件費や原材料費の高騰に直面し、やむを得ず「価格受容」の戦略に依存してきた。原材料費の大幅な上昇に伴い、商品価格もかつてない水準にまで高騰した。企業は価格転嫁を抑えるため、コスト削減やプレミアム化を通じて価格の正当化を図ったが、消費者にとって最も重要な要素は依然として「価格」であった。
消費財業界の世界売上高トップ100社の中でも、特に高い業績を上げている企業の一部は、他社と同程度の値上げを行いながらも販売量への影響を最小限に抑え、利益率を向上させている。これらの「利益成長型企業(Profitable Growers)」は、価格決定力や収益成長管理(RGM)、イノベーション、サプライチェーン戦略、さらには事業ポートフォリオや商品ラインナップの継続的改善に取り組む姿勢が特徴的だ。
2024年においてもこれらの取り組みは依然として重要と考えられるが、世界はさらに変化しつつある。消費者の値上げに対する目は一段と厳しくなり、小売業者は値上げ回避のために低価格商品へのシフトを進める傾向がある。しかし、経済の不確実性が続く中でさらなる原材料費や人件費の上昇は不可避であるため、業界は新たなアプローチを模索する必要がある。
では、今後の消費財業界の展望においてどのような成長戦略が不安を和らげる鍵となるだろうか。価格戦略の限界が見え始めた中で、企業は販売量を重視せざるを得ない状況にあるが、単に販売量の増加を目指すだけでは不十分といえる。2024年に「利益成長型企業」を目指す企業は、現実的な価格設定を維持しつつ革新的で収益性の高い商品構成を通じて慎重に販売量を拡大する「収益最大化型の販売」を目指す戦略を検討するべきだろう。
Deloitte USは、財務業績や決算報告書の分析、専門家へのインタビュー、さらに250人の消費財企業経営幹部を対象としたグローバル調査を実施した。本レポートでは収益性と販売量の両方を向上させるための戦略を、これらの調査結果に基づいて詳しく解説している。
商品構成が価格に影響を与え、価格が販売量に影響を与えるように、これらの要因は複雑に絡み合っているが、特に重要なのは「収益を最大化する販売」を実現するための適切なバランスを見つけることだ。また、経営幹部は成長戦略の目標達成に向けた計画策定を積極的に主導する役割を担うべきである。
また、本レポートでは、以下に示す消費財業界における今後の展望についても独自の見解を示している。
"2024年は2023年よりも経済成長が鈍化するとともに、個人消費の伸びも低迷する可能性が高い。しかし、おそらく主要中央銀行による金融引き締めの最後の年になるだろう。2025年から回復に転じると予想するのが妥当である。世界の消費財企業にとっては、より長期的な視点に立つことが理にかなっているかもしれない。"
- Dr. Ira Kalish, (Deloitteチーフエコノミスト)
S&P Capital IQから入手した世界の売上高トップ100社の消費財企業について、業界の定義に合致する企業を選別した上で分析を行った。(例えば、ラグジュアリー品、タバコ、消費財の売上高が50%未満の複合企業については除外した。)次に、トップラインの成長と資産の効率的活用(総資産利益率で測定)の両方について、5年間の複合パーセンタイル値を用いて相対的な評価を行った。
また、Deloitteでは、食品・飲料から家庭用品、美容・パーソナルケア、ファッション・アパレルに至るまで、消費財企業の経営幹部250人を対象にグローバル調査を実施した。回答者は、全て売上高5億ドル以上(ほとんどが50億ドル以上)の企業の幹部であり、世界の消費財企業トップ100社の財務分析における地理的市場およびカテゴリーの構成比とほぼ一致するよう選出している。
調査項目は、企業報告書や決算説明会資料、アナリストレポートなどに見られる注目トピックの分析に加え、金融アナリストや投資家、Deloitteのリーダーによる調査やインタビューを通じて作成した。また、同様の手法を用いて、財務分析において好業績企業(売上高と総資産利益率の指標により評価)と低業績企業の違いを明らかにした。
文末注記
本レポートはDeloitte Touche Tohmatsu Limited が発表した内容をもとに、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社が翻訳・加筆したものです。和訳版と原文(英語)に差異が発生した場合には、原文を優先します。
原文(英語)レポートは以下よりご参照頂けます。