インド自動車市場は、販売市場としての成長性に加え、輸出拠点、ソフトウェア・AI開発拠点、さらにはグローバル価値創出拠点として、多面的な重要性を増している。本レポートは、インドの市場規模、乗用車販売、輸出、BEV、MaaS、消費者意識、OEM・サプライヤの動向をデータとともに整理したうえで、日系モビリティ企業が取るべき戦略の方向性を提示するものである。インド自動車産業の最新動向を俯瞰し、今後の事業戦略や投資判断を検討する上での基礎情報として活用いただきたい。
インド自動車産業は、人口増加、中間層の拡大、GDP成長を背景に、中長期的に高い成長ポテンシャルを有する市場として存在感を高めている。インドのGDPは2026年に日本、2030年にドイツを上回り、世界第3位の経済規模となる見通しであり、世帯年収5,000~35,000米ドルの中間層比率も2030年までに約54%へ拡大する見込みである。こうした所得構造の変化は、四輪需要の裾野拡大を支える重要な基盤であるといえる。
加えて、米中対立や技術規制強化を受けた「チャイナ・プラスワン」の流れの中で、インドは販売市場にとどまらず、開発・製造・輸出のハブとして注目を集めている。地理的優位性、豊富で比較的低コストなエンジニア人材、「Make in India」やPLIといった政策支援を背景に、インドに自社グローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)を有する組織数は2010年度比で2.4倍に増加した。GCCが担う機能も、従来のIT・バックオフィス機能から、先進技術の開発へと進化している。
インド国内の乗用車販売台数は2030年に約560万台となり、2020年比で2倍超に拡大する可能性がある。日系OEMのシェアも高い一方で、現地OEMも存在感を高めているのが特徴である。さらに、乗用車輸出台数は2020年から2024年にかけて大きく増加しており、インドはグローバルサウス向け輸出拠点としての重要性も高めている。
一方で、乗用車のBEV市場は政府目標と比べると立ち上がりに時間を要する見通しであり、2030年時点でも新車販売に占める比率は2割未満とされる。ただし、現地OEMによる投資計画や、EVバッテリー工場整備の動きなど、電動化に向けた産業基盤整備は進みつつある。また、ライドヘイリング市場は2030年に約8,000億INRとなり、2020年比で約13倍に拡大する見込みである。デロイトが実施した消費者調査でも、多くの若年層が所有よりもMaaS利用に関心を示している結果となっていた。
インド市場のもう一つの特徴は、AIやコネクテッド機能に対する高い受容性である。デロイトが実施した消費者調査では、82%が車両システムへのAI搭載を有益であると回答し、87%が車両とスマートフォンの連携を重視している。こうした需要を背景に、欧州企業を中心に、SDV、ADAS、EV、AI分野の開発拠点としてインドの活用を加速させている。
これに対し、本レポートでは、日系OEM・サプライヤには「日本発・現地展開型」から「地域発・グローバル展開型」への転換が求められると指摘する。日本とインドの役割分担を再設計し、インドを高付加価値領域の開発・実装拠点として位置付けられるかが、今後の競争力を左右する。インド自動車市場を単なる成長市場としてではなく、グローバルな価値創出拠点としてどう活用するか。本レポートは、その戦略的論点をデータと事例を交えて提示する。