令和8(2026)年7月10日、「日本茶」が地理的表示(GI)として新たに登録されました。GI制度は、地域に根差した産品の名称を知的財産として保護する仕組みであり、地域ブランドの保護や海外模倣品対策にも有効です。本ニュースレターでは、GI制度の概要に加え、地域団体商標制度との違いや使い分け、さらにGIの活用により模倣品対策や知名度向上に成功した事例を解説します。
令和8(2026)年7月10日、新たに「日本茶」が地理的表示(Geographical Indication:以下「GI」という)として登録されました。
GI制度は、地域に根差した特性を有する産品の名称を地域全体の知的財産として保護する制度です。GIは、例えば、「夕張メロン」や「米沢牛」のように特定の産地に関するものが従来の典型でした。この度の「日本茶」の登録により、日本全国の日本茶の生産業者や茶製品メーカー等は、「宇治抹茶」や「静岡煎茶」等の地域名称や企業のブランド名称と併せて「日本茶」と表示することで、日本産であることを明確に示し、模倣品等との誤認・混同を防ぐことが可能となりました1。この背景には、農林水産業界・食品業界では、海外の模倣品や産地偽装品による被害が後を絶たず(その経済損失は年間1,000億円に上るともいわれる2)、「日本茶」も海外での日本茶ブームの中で、海外の模倣品等の被害を受けてきたことがありました。日本でGI登録された産品は、EUやイギリスにおいても協定によって保護を受けるため、これらの国々で「日本茶」という名称の不正表示が発見された場合には、取締りが行われることも期待できます。このように、GI制度は、農林水産物や食品等に関する地域ブランドの保護、さらには海外模倣品対策の強化を検討する生産業者や企業にとって、有力な選択肢の一つとなりえます。
本ニュースレターでは、GIの活用を検討する際に把握しておくべき制度の概要を説明するとともに、類似する制度である地域団体商標制度との違いや使い分けを解説した上で、実際にGI制度を活用して、模倣品対策や知名度向上に成功した事例をご紹介します。
GI制度の利用を検討するに際しては、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(以下「GI法」という)に定められた登録要件、申請手続、登録による効果等、制度の全体像を把握することが肝要です。以下では、各事項についてご説明します。
GIの登録に当たって満たすべき要件は、①産品に関する要件、②名称に関する要件、③申請者に関する要件および④産品の生産行程管理業務に関する要件の4つの類型に大別されます。
① 産品に関する要件
「特性が生産地に主として帰せられるものである」とは、生産地特有の自然的要因又は人的要因が産品の特性と強く結び付いていることをいい、例えば、生産地の気候や土壌が果実の糖度に影響している場合や、生産地の伝統的な手法が食材の成分に影響している場合のように、生産地の気候、土壌、文化、風習等が産品の特性に影響していることが求められます4。そして、そのような特性が確立したと認められるには、産品が上記のような地域に根差した特性を有した状態で、概ね25年生産された実績があることをいいます5。なお、既にGIに登録されている産品については、重ねて別の登録をすることはできません(同法第13条1項3号ロ)。
②名称に関する要件
生産地と特性を特定できない名称の例として、さつまいも、高野豆腐など、当該産品一般を指すような普通名称が例として挙げられます7。
③申請者に関する要件8
④産品の生産行程管理業務に関する要件
GI制度においては、産品の特性を維持するために、生産者団体が産品の生産行程を管理するという仕組みが採られているため、生産者団体には、適切な生産行程管理の方法が定められていることおよびこれを実施するための適切な体制を備えていることが求められます9。
産品の名称をGIとして登録するには、以下の手続を経る必要があります。
まず、登録申請の前提として、生産業者が生産者団体を組織した上で、産品の名称や生産方法等について地域全体で協議し、その産品の満たすべき基準を定める必要があります10。次に、協議によって決定された内容を、申請書や明細書、生産行程管理業務規程等に記載し、これを農林水産大臣に提出して申請を行います(同法第7条1項、2項)。
申請が受理されると、申請があった事実が農水省のウェブサイト上で公示される(同条4項)とともに、書類の審査が行われ、必要に応じて書類の形式上の不備等について補正が指示されることとなります(同条の2第1項)。その後、登録申請の具体的な内容が農水省のウェブサイト上で公示され(同法第8条1項、2項)、かかる公示の日から3カ月の間、意見書の提出が可能となります(同法第9条1項)。意見書は誰でも提出することが可能であり、広く一般から意見を募ることとなります。さらに、意見書の提出期間が終了すると、続いて学識経験者の意見聴取が行われ(同法第11条)、学術的な観点からも検討が加えられます。
そして、以上のような手続を経た上で、登録を拒否すべき場合には当たらないと判断されれば、登録簿に記載され、当該産品の名称がGIとして登録されることとなり、登録された事実が農水省のウェブサイトに公示されます(同法第12条各項)。
GIの申請手続は、商標登録の申請手続と類似する部分もありますが、地域全体での協議が必要となる点や、意見書の提出・学識経験者の意見聴取の機会が設けられている点は、GI制度に特有であり、注意を要します。
〈GIの申請手続について〉
ある産品の名称がGIとして登録されると、当該産品の譲渡や引渡し等をする際に、産品そのものやその包装、広告等にGIとして登録された名称を使用することができます(同法第3条1項)。また、GIに登録された産品であることの証として、下のようなGIマークというマークを付すことが可能となります(同法第4条1項)。
一方で、登録された産品と同一の区分に属する産品や、そのような産品を原材料とする製造品や加工品、これらの包装や広告等について、GI又はこれに類似する表示、若しくはこれと誤認させるおそれのある表示を使用することは禁止されます(同法第3条2項本文)。例えば、果物を販売するに際して、基準を満たさない産品に登録名称を用いることはもちろんのこと、登録名称の表記をひらがなやローマ字に変えたり、登録名称に「手摘み〇〇」といった他の修飾語を付したりすることも、類似した表示の使用に該当し、禁止されます11。ただし、以下のような場合には、例外的にGIの使用が可能となります(同法3条2項1号ないし4号)12。
登録されていない産品にGIやGIマークが使用されている場合等、同法に違反した表示が行われている場合には、農林水産大臣は是正措置を命ずることができ、それでもなお命令に従わない場合には罰則の対象となります(同法第5条、第39条、第40条)。違反した表示を発見した場合には、誰でも農林水産大臣に対して適切な措置をとるよう申し出ることができ、かかる申出があった際には、農林水産大臣は、必要な調査を行い、申出の内容が事実であると認めるときは、是正命令等適切な措置をとらなければならないとされています(同法第35条各項)。
また、産品がGIに登録されると、登録を受けた生産者団体には、産品の生産行程の管理が求められます。具体的には、申請時に提出する生産行程管理業務規程において、生産者団体が、生産業者の適正な生産の実施やGIおよびGIマークの適正な利用を確認・指導すること等を定めることが求められており(施行規則第15条各号)、生産者団体はかかる規程に則って生産行程を管理する必要があります。そして、以下のような場合には、農林水産大臣は、生産者団体に対し、是正命令を行うことができるとされており(同法第21条)、生産者団体がこの命令に従わない場合には、登録が取り消されることもありえます(同法第22条)。
地域ブランドの保護に当たっては、GI制度のほかに、地域団体商標制度を活用することも考えられます。両制度は類似しているものの、それぞれ異なった特徴を有しており、利用すべき場面が異なります。地域ブランド保護の実効性を高めるためには、目的に応じてこれらの制度を使い分ける必要があります。
GI制度と地域団体商標制度は、いずれも地域ブランドの保護を目的としている点で共通していますが、GI制度は、地域に根差した特性を有する産品の名称を、産品の生産方法等の基準とともに登録することで、地域ブランドを地域共有の知的財産として保護する制度である一方で、地域団体商標制度は、商標権者である地域団体に名称の独占的使用権を与えることで、地域ブランドを商標権者の財産として保護する制度であり、両制度の制度設計は大きく異なります。このような制度設計の違いは、下表のとおり、両制度の登録要件や品質管理、規制手段の方法等の違いに現れています。
※「地域団体商標と地理的表示(GI)の活用Q&A」(特許庁ウェブサイト、PDF)の図表の一部を参照
また、商標とGIでは、海外における模倣品等への対応方法も異なります。商標制度を利用する場合、海外で権利行使をするには、各国で商標の登録を受ける必要があり、その分手間やコストがかかります。一方で、GI制度については、イギリスやEUとの間で二国間・多国間協定が結ばれ、相互にGIを保護する体制が整えられているため、日本国内で登録すれば、これらの国々でもブランド保護を図ることが可能です。
両制度には上記のような違いがあるため、地域ブランドの保護を検討する際には、目的に応じて使い分ける必要があります。例えば、産品の特性を強調したい場合や、GIマークによる差別化を図る場合、模倣品対策にコストをかけられない団体等で模倣品に対する行政の取締りを期待する場合、あるいは更新手続の負担を減らしたい場合等には、GI制度の利用が適しています15。一方で、自ら権利行使を行いたい場合、差止請求権や賠償額の推定といった商標権の効力の享受を期待する場合、歴史が浅くGIの登録要件を満たさない場合等には、地域団体商標制度の活用が適しているといえます16。
また、両制度は必ずしも二者択一の関係にはないので、併用することも可能です。両制度の併用が有効な場合としては、商標権に基づく権利行使と行政の取締りの両方を組み合わせて模倣品対策を強化する場合や、GIに登録された産品の生産業者が他の業者との差別化を図るために商標を取得する場合が考えられます17。実際に、商標権による権利行使とGI制度による行政の取締りの両方を組み合わせて模倣品対策の強化が図られた例として、「十勝川西長いも」の事例が挙げられます18。このケースでは、地域団体商標とGIの双方に登録をすることで、国内では両制度を併用し、海外では、商標出願登録のコストを節約し、GIを活用して模倣品を排除することが可能となり、効率的な地域ブランドの保護が実現しました。
上記のとおり、GI制度には、産品の特性を強調できることや、行政による取締りが期待できること、海外でのブランド保護も追加コストを要せず比較的容易であること等、多様な利点があります。以下では、こうしたGI制度の強みが、生産者団体や企業の様々なニーズに応じて活用された事例をいくつかご紹介します。
すでにご紹介したとおり、今回の「日本茶」のGI登録により、日本の茶製品に「日本茶」との名称やGIマークを表示して、海外の模倣品等との誤認・混同を防止することが可能となり、EUやイギリスをはじめとする諸外国での取締りを通じた模倣品の排除も期待できるようになりました。近年は、海外のECサイトで日本の農林水産物や食品の模倣品が流通することも多く、対策が困難になっていますが、行政が模倣品の販売ページの削除要請を行い、実際に削除に至ったケースも多数みられ19、模倣品対策におけるGI制度の有用性が改めて示されています。
「みやぎサーモン」は、GI登録を生かし、各種メディアを通じたプロモーションを精力的に展開した結果、販売価格の向上を実現した事例の一つです。新聞・ラジオ広告やキャンペーン等を活用したマーケティングにより、市場での評価が高まる等、付加価値向上につながり、登録以前と比較して、客単価をkg当たり約200円~300円引き上げることに成功しています20。
「鹿児島黒牛」の申請は、世界的に和牛の人気が高まり、「神戸牛」等の他の産地との競争が激化することが予想される中で、GI登録をきっかけに、国内外における「鹿児島黒牛」ブランドの認知度を向上させることを目的として行われました。GIマークが、地域に根差した独自性を有すると認められた産品に付されるマークであることは海外の市場でも認知されており、GI産品であることがPRのきっかけとなっていることを受け、地域に根差した独自性を有するGI産品である点をアピールポイントとすることにより、さらなる輸出量の増加が目指されています21。
「香川小原紅早生みかん」の申請は、みかんの品種についての種苗法に基づく育成権が期間制限により消滅したことをきっかけに、地域で築き上げてきたブランドを地域の知的財産とすることを目的として、みかんの品種名のGI申請が行われた事例です。「香川小原紅早生みかん」の名称がGIとして登録されたことにより、香川県で生産されたみかんのみが「香川小原紅早生みかん」の名称を使用することが可能となり、育成権の消滅後も、当該品種は地域の知的財産として保護されることとなりました。また、GI登録をきっかけにメディアでの露出が増え、知名度が上がったことで、他のみかんと比べて価格が安定する結果となる等、他の産地で生産されたみかんとの差別化に成功しました22。
以上のとおり、GI制度は、農林水産物やその加工品について、模倣品対策や同種商品との差別化に苦慮する企業や生産業者が抱える課題を解決するための手段の一つとして重要な役割を果たすものであり、とりわけ以下のような企業や生産業者にとっては有用な制度といえます。
今回の「日本茶」の登録は、農水省所管のGIとしては初めて、日本全国を対象地域とするGI、いわゆるナショナルGIが登録された事例であり、特定地域のブランド保護にとどまらない、GI制度の新たな活用のあり方を示すものとなりました。また、GIの活用は、地域の生産者のみならず、企業にとってもブランド保護戦略の一つとして有効であると思われます。企業による「日本茶」GIの活用例としては、冒頭でご紹介したように、企業が自社ブランドの名称と併せて「日本茶」の表示を行うことで、模倣品等との誤認・混同を防止することにも有用です。このように、今回の「日本茶」のGI登録は、企業におけるGI制度の活用可能性の広がりを示すものであり、今後、農林水産物・食品業界の企業が自社ブランドの保護を図るに当たっては、商標権や意匠権等の活用に加え、生産者団体・業界団体・流通業者団体の組織化や団体との連携により、GI制度を活用してうまく自社製品の保護を図ることが、ブランド保護戦略の一環として有益と考えられます。
(DT弁護士法人 菅 尋史、宮原 惇碩)
当該記事の意見にわたる部分は筆者の私見であり、所属する組織の公式見解ではありません。本ニュースレターは、執筆時点(2026年8月7日)の情報に基づきます。
1. 「日本茶GI」(公益社団法人日本茶業中央会ウェブサイト)
2. 「日本産ブランドを知財で守れ 模倣品損失年間1000億円 日本弁理士会が説明会」(食品新聞ウェブサイト)
3. そのほか、非食用の農林水産物や、農林水産物を原材料として製造し、又は加工した非食用のものであって、政令で定めるものも、登録対象の産品とされていて(同法第2条1項3号、4号)、花き、真珠、漆、畳表等の産品がこれに当たります(施行令第1条、第2条)。
4. 「特定農林水産物等審査要領」別添4(農水省ウェブサイト、PDF)
5. 同上
6. 既存の商標の商標権者自身が申請する場合(専用使用権が設定されている際は、専用使用権者の承諾がある場合に限る)、申請者に既存の商標の商標権の専用使用権が設定されている場合(商標権者やその他の専用使用権者の承諾がある場合に限る)、既存の商標の商標権者の同意がある場合(専用使用権が設定されている際は、専用使用権者の承諾がある場合に限る)を除きます(同法第13条2項各号)。
7. 「特定農林水産物等審査要領」別添3(農水省ウェブサイト、PDF)
8. 法人でない団体については、代表者又は管理人の定めがあるものに限られます(同法第2条5項)。また、過去にGIの登録を取り消され、取消しから2年以上経過していない生産者団体や、GI法違反による刑の執行を受けてから2年を経過しない者等が役員に含まれる生産者団体については、登録が拒否されます(同法第13条1項1号)。
9. 複数の団体の間での生産行程等に関する争いが背景となって裁判になった事例として、八丁味噌事件 知財高判令和5年3月8日(裁判所ウェブサイト、PDF)があります。なお、同事件は、現時点までにおいて、GI制度に関する唯一の知財訴訟事件とみられます。
10. 「登録申請手続」(農水省ウェブサイト)
11. 「地理的表示(GI)の使用に関するガイドライン」(農水省ウェブサイト、PDF)
12. この他、登録産品の属する区分の農林水産物等を主原材料とする加工品について、登録前から同一・類似等の表示を使用していたり(その業務を承継した場合を含む)、その譲受や引渡しを受けたりした場合(登録から7年を経過する日以降は、主原材料の生産地の全部が登録地域内で、登録産品との混同を防ぐのに適当な表示がされているときに限る)、登録産品を展示会等で展示する場合、自己の氏名等として表示を使用する場合、登録名称の一部が普通名称になっていて、その普通名称を使用する場合、登録産品の譲渡等に際して、GIを翻訳した表示を使用する場合も、GIと同一・類似等の表示を使用可能です(同法第3条2項5号、施行規則第3条各号)。
13. GIの登録前から商標権等の使用権を有していた場合も、GIと同一・類似等の表示を使用可能です(同法第3条2項3号)。
14. 登録から7年を経過する日以降は、生産地の全部が登録された生産地内にあり、登録された産品との混同を防ぐのに適当な表示がなされた場合に限ります(同法第3条2項4号)。
15. 内藤 恵久『地理的表示法の解説』(大成出版社、2015年)80、81頁
16. 同上、「地域団体商標と地理的表示(GI)の活用Q&A」(特許庁ウェブサイト、PDF)
17. 前掲・内藤81~84頁、「地域団体商標と地理的表示(GI)の活用Q&A」(特許庁ウェブサイト、PDF)
18. 「地域団体商標の活用事例(2018)」(特許庁ウェブサイト、PDF)
19. 「令和6年度地理的表示(GI)の保護制度の監視業務に関するレポート」(農水省ウェブサイト、PDF)
20. 食料プロジェクト【知財ブランド】研究資料第1号(農林水産政策研究所ウェブサイト、PDF)
21. 「まるわかりGI百科2021」(地理的表示保護制度活用支援中央窓口サポートデスクウェブサイト、PDF)
22. 同上