令和8(2026)年4月1日から、「未管理著作物裁定制度」の運用が開始されました。本制度は、著作物等の利用に関する権利者の意思が判明せず、許諾を得ることが困難なケースにおいて、文化庁長官の裁定を受け、一定の補償金を支払うことで、当該著作物等を適法に利用することを可能にするものです。本ニュースレターでは、本制度の概要と従来からの制度との比較、および利用者と権利者の双方が留意すべき点について解説します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、誰もがクリエイターとなり、多様なコンテンツを容易に発信できる時代となりました。他方で、他人の著作物、実演(歌手の歌唱、演奏、俳優の演技等)、レコード(CD等)、放送または有線放送(以下、総称して「著作物等」といいます)を利用(出版、DVD販売、インターネット配信等)する場合には、著作権者や著作隣接権者(以下、著作権者と著作隣接権者を総称して「権利者」といいます)の許諾を得ることが原則として必要になります。このような中で、著作物等の社会的な利用を一層推進するため、令和5(2023)年の著作権法改正によって「未管理著作物裁定制度」が創設され、令和8(2026)年4月1日から運用が開始されています。
本制度は、著作物等の利用に関する権利者の意思が判明せず、許諾を得ることが困難なケースにおいて、文化庁長官の裁定を受け、一定の補償金を支払うことで、当該著作物等を適法に利用することを可能にするものです。
本ニュースレターでは、新しく運用が開始された本制度について、文化庁著作権課が公表する「裁定の手引き」1を基に詳細に解説します。
なお本ニュースレターでは、令和5(2023)年改正後の著作権法を単に「著作権法」といい、令和5(2023)年改正前の著作権法については「改正前著作権法」といいます。
本制度の運用は令和8(2026)年4月から開始されましたが、その源流となる「権利者不明の場合の裁定制度」は、実は昭和47(1972)年から運用されていました。この従前からの制度を利用することで、著作物等の権利者と連絡を取ることができない場合に著作物等を利用することが可能でした。
しかし、「権利者不明の場合の裁定制度」を利用するためには、著作物等の権利者を探索するために「相当な努力」(改正前著作権法第67条第1項)を尽くす必要がありました。この「相当な努力」については、著作権法では、「法令に定める措置をとったにもかかわらず権利者と連絡することができないこと」とされ、令和8年文化庁告示第2号で明確化されているものの、具体的には、広く権利者情報を掲載していると認められる資料として文化庁長官が定める資料の閲覧に加え、著作権等管理事業者その他の広く権利者情報を保有していると認められる者として文化庁長官が定めるものに対し照会を行ったり、新聞等に有料で広告を出したりする必要があり、手続の負担は重いといえます。
インターネットの普及により誰もがコンテンツを創作・発信できるようになると、権利者情報が明らかではない著作物等に加え、権利者の連絡先は分かるものの連絡しても応答がない「意思不明」の著作物等も増加しました。こうした状況を受け、「権利者不明の場合の裁定制度だけでは、必ずしも円滑な著作物等の利用に結び付いていない」という問題が指摘されていました。
このような問題に対応し、より簡素な手続で著作物等の利用を可能にするため、「未管理著作物裁定制度」が創設されました。
本ニュースレターではこれ以後、「未管理著作物裁定制度」を「本制度」、「権利者不明の場合の裁定制度」を「従前からの制度」といいます。
なお、従前からの制度は本制度の導入をもって廃止されるわけではなく、本制度導入後も、利用者が従前からの制度と本制度とを選択して利用することができます。そこで、以下では従前からの制度と本制度との違いを解説していきます。
(1)で述べたとおり、両制度ともに、権利者との連絡および意思確認のための措置を取る必要があります。そのため、いずれの制度を利用する場合でも、申請に先立つ所定の措置として、権利者情報の探索を行うことが前提となります。なお、外国人の著作物等であっても、著作物等の利用が日本国内で行われる限り、いずれの制度においても対象となり得ます。他方、日本の著作物を海外で利用する場合には、現地法に従った権利処理が必要となります。
(2)と同様に、条文上で求められている所定の措置として、権利者の連絡先が判明した場合には、権利者へ連絡を行う必要があります。
各制度の利用には、以下の費用が必要です。なお、 記載の金額は執筆時点(2026年5月1日)のものであり、将来的に改定される可能性があります。
両制度の申請に必要な書類や具体的な手続の流れについては、「裁定の手引き」に詳しく解説されています。実際に申請をされる際には、「裁定の手引き」をご参照ください。
本制度の運用開始は、これまで利用困難であったコンテンツの活用を可能にし、新たなビジネス機会を創出し得ます。例えば、以下のような場面での活用が考えられます。
一方で、本制度の活用に当たっては、以下のような注意点があります。
(DT弁護士法人 菅 尋史、棚橋 佑介)
当該記事の意見にわたる部分は筆者の私見であり、所属する組織の公式見解ではありません。
本ニュースレターは、執筆時点(2026年5月1日)の情報に基づきます。
1. 文化庁著作権課「裁定の手引き ~権利者や利用可否の意思が不明な著作物等の利用について」(文化庁ウェブサイト、PDF)
2.「 分野横断権利情報システム」(文化庁ウェブサイト)
3. 「権利者探し 広告掲載申込方法」(公益社団法人著作権情報センターウェブサイト、PDF)
4. 「裁定補償金額シミュレーションシステム」(文化庁ウェブサイト)