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改正CSDDDの要点と日本企業に求められる対応

2026年2月24日、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)※1などの簡素化を目的とした通称「オムニバス法」が欧州理事会にて採択され、同年3月18日に改正CSDDD指令が発効された※2。これにより、CSDDDの一部の要件は緩和されたが、CSDDDが多くの日本企業に影響を及ぼすという本質に変わらない。本稿では、CSDDDオムニバス法の要点と、日本企業に求められる対応を解説する。

1.  改正CSDDD(オムニバス法)の概要

2024年7月に成立した企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)は、日本企業を含む一定規模の企業に対し、人権・環境デューデリジェンス(DD)を義務付ける国内法整備を求めるEU指令である。その後、EU企業負担軽減や競争力強化を背景として、CSDDD要件を一部見直す、通称「オムニバス法」が成立した。主な改正点として、適用対象企業の絞り込みや適用時期の延期など、複数の重要な変更がなされている。

適用対象企業の絞り込み

企業への過度な負担に対する懸念から、適用対象企業の閾値が大幅に引き上げられた。

  • EU域内企業:従業員数平均5,000人超かつ全世界年間純売上高15億ユーロ
  • EU域外企業(※):EU域内年間純売上高15億ユーロ
    (※)EU域外企業とは、日本企業のように、EU加盟国以外の法律に基づいて設立された企業を指す。これらの企業が連結グループ全体でEU域内において上記の売上高基準を満たす場合、適用対象となる。

また、金融機関については、当初のCSDDDで欧州委員会に求められていた、金融機関をDD対象に含めるべきか否かを検討・報告する義務に関する規定が削除された。

国内法制化および適用開始時期の延期

EU加盟国がCSDDDを国内法として整備する期限は、当初の予定から2年延長され、2028年7月26日となった。これに伴い、整備した国内法を実際に企業などに適用し始める時期も変更された。当初予定されていた企業規模に応じた段階的適用は見直され、原則として対象企業は一律で2029年7月26日から適用される。なお、CSDDD 第16条に基づく年次報告書の開示義務は、2030年1月1日以降に開始する会計年度からの適用とされている。

負の影響の特定・評価対象:原則維持と手続きの合理化

当初のCSDDDでは、自社、子会社、そして直接・間接取引先を含むバリューチェーン全体における実際のまたは潜在的な人権や環境への負の影響の特定・評価が義務付けられていた。これに対し、2025年2月に公表されたオムニバス法案※3では、間接取引先を原則除外することが提案されていた。しかし最終的にオムニバス法では、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の考え方を踏襲し、直接・間接取引先を問わず、負の影響が発生する可能性が最も高く深刻な領域を特定・評価する枠組みが維持された

ただし、DDプロセスの実務負担を軽減するため、手続きの合理化が図られている。例えば、企業が詳細調査のために取引先に情報提供を要請できるのは、「その情報が必要な場合にのみ」とされ、特に相手先が従業員数5,000名未満の場合は、「他の手段で合理的に入手できない場合に限る」といった制限が加えられた。これは、DDの基本原則を維持しつつ、企業が合理的かつ効率的にDDを実施できるよう配慮した結果といえる。

ビジネス関係の終了義務の削除

当初、負の影響への対処が不可能な場合の「最終手段」として義務付けられていた取引先とのビジネス関係を終了する義務は、今回の改正で削除された。その代わりに、負の影響の防止・軽減が困難な場合には、最終手段として、以下の措置を単独または組み合わせて実施することが求められる。

① 負の影響に関わる取引先とは新規・拡大取引をしない

② 影響力を行使する目的での取引の一時停止

③ 成功する合理的な見込みがある場合は、是正行動計画を策定・実行

これは、安易な関係断絶を避け、問題解決に向けて取引先との協働を優先すべきという思想を反映したものだ。さらに、是正行動計画が成功する合理的な見込みがある限り、取引を継続してもそれを理由に企業が罰せられたり賠償責任を問われたりしないという、企業の取り組みを後押しする免責規定が追加された点も重要である。

ステークホルダー・エンゲージメントの対象範囲明確化

DDの各段階で実施が求められるステークホルダー・エンゲージメントの対象が、より明確化された。当初の広範な定義から、企業の活動によって「直接影響を受ける個人やコミュニティ等」と限定され、CSDDDの条文からはた国内人権環境機関や市民社会組織への言及が削除された。

モニタリングの頻度の緩和

DD措置の妥当性および有効性を評価する定期モニタリングの頻度は、原則「少なくとも1年に1度」から「5年に1度」へと緩和された。ただし、負の影響に関する新たなリスクの兆候がある場合は、都度評価を行う必要があるという規定が新たに設けられた点に注意が必要である。

制裁・罰則および民事責任の見直し

違反時の制裁金の上限は、当初定められていた「全世界年間純売上高の5%以上」から、「全世界年間純売上高の3%を上限とする」規定へと変更された。また、民事責任については、DD義務違反により損害が生じた場合の責任のあり方が見直された。当初想定されていたEU統一の責任規定ではなく、あくまで各国の国内法に基づいて賠償責任が判断されることが明確化され、加盟国は被害者が完全な補償を受ける権利を確保できるよう、国内法整備を確実に実施する義務を負うこととなる。

EU域内企業
  1. 従業員数平均5,000名超、かつ全世界年間純売上高が15億ユーロを超える企業
  2. 連結ベースで①の閾値を満たすグループの最終親会社
  3. EU域内で一定のフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループの最終親会社であり、EU域内でのロイヤリティ収入が75百万ユーロを超え、かつ全世界年間純売上が275百万円ユーロを超える企業
EU域外企業
  1. EU域内の年間純売上高が15億ユーロを超える企業
  2. 連結ベースで①の閾値を満たすグループの最終親会社
  3. EU域内で一定のフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループの最終親会社であり、EU域内でのロイヤリティ収入が75百万ユーロを超え、かつEU域内の年間純売上が275百万円ユーロを超える企業
  • EU加盟国の国内法の制定:2028年7月まで
  • 国内法の適用開始:2029年7月から
  • CSDDD第16条(年次報告書開示に関する義務)適用時期:2030年1月1日以降に開始する会計年度からの適用
  • 直接・間接取引先を問わず、負の影響が発生する可能性が最も高く深刻な領域を特定・評価する枠組みが維持された。
  • 手続きの合理化を目的とした情報要求に対する制限:
    1. 従業員数平均5,000名未満の取引先に対しては、他の手段で合理的に入手できない場合にのみ要請可能
    2. 複数の取引先から情報取得が可能な場合、負の影響が最も発生し得る取引先からの情報取得を優先
    3. 直接取引先と間接取引先における負の影響の発生可能性と深刻度が同程度である場合、直接取引先への調査を優先可能
  • 負の影響への対処が不可能な場合の「最終手段」として義務付けられていた取引先とのビジネス関係を終了する義務は削除
  • 一方で、負の影響の防止・軽減が困難な場合には、最終手段として、以下の措置を単独または組み合わせて実施することが求められる。
    1. 負の影響に関わる取引先とは新規・拡大取引をしない
    2. 影響力を行使する目的での取引の一時停止
    3. 成功する合理的な見込みがある場合、是正行動計画を策定・実行
  • 企業の活動によって直接影響を受ける個人やコミュニティ等の関係者(国内人権環境機関や市民社会組織への言及は削除)
  • DD措置の妥当性と有効性を5年に1回評価
  • ただし、負の影響に関する新たなリスクの兆候がある場合は、都度評価を行う例外規定を新設
  • 制裁金の上限は、全世界年間純売上高3%
  • 民事責任は、DD義務違反により損害が生じた場合、各国の国内法に基づいて賠償責任が判断され、加盟国は被害者が完全な補償を受ける権利を確保できるよう、国内法整備を実施する義務を負う(民事責任におけるEU統一基準は削除)

2. 日本企業に求められる対応

オムニバス法による改正でCSDDDの要件は一部緩和されたが、その本質的な影響力に変わりはなく、日本企業は以下の3つの視点から対応を加速させる必要がある。

  1. 適用対象企業は今回縮小されたものの、2031年7月26日までに、その後も5年ごとに対象範囲を見直すレビュー条項が盛り込まれた。将来的に、当初のオムニバス法案で採用された基準である「全世界純売上高4億5千万ユーロ超」の企業や、高リスクセクター企業へ対象が拡大される可能性も視野に入っており、今回適用外となった企業も、将来的な適用可能性を念頭に置くべきである。
  2. 適用開始時期2029年7月に延期され、準備期間に猶予が生まれたものの、求められる対応の本質は変わらない。人権方針の策定、バリューチェーン全体を俯瞰したリスクベースでのDD体制構築、ステークホルダー・エンゲージメントの実施、苦情処理メカニズムの整備など、いずれも一朝一夕には実現できない。自社に求められる対応を正確に理解した上で、具体的なロードマップを策定し、早期に準備を進めていくことが成功の鍵となる。
  3. 今後、CSDDDの適用対象となるグローバル企業からのDDに関する要請は、世界中のサプライヤーに対して、より一層厳格化・活発化することが見込まれる。たとえ自社が直接の適用対象企業でなくても、サプライチェーンの一員として、取引先からCSDDD準拠の対応を求められる場面が増加する可能性がある。しかしこれは同時に、人権・環境対応を強化することで、自社の競争力を高める好機ともなり得るため、CSDDDを意識した体制構築を主体的に進めることが重要である。

3. おわりに

オムニバス法による改正は、一部要件を緩和し、企業の実行可能性に配慮を示すものであった。しかし、「ビジネスと人権」を巡る国際的な要請は依然として高く、自社の事業活動やサプライチェーンが人権に与える影響を把握・管理しないことは、単なる法規制遵守にとどまらない経営リスクとなり得る。CSDDDの適用有無に関わらず、人権尊重を企業文化に根付かせ、持続可能な社会の実現に貢献することは、国際社会で信頼され、成長を続ける企業にとって不可欠な責務と言えるだろう。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

合同会社デロイト トーマツ
フォレンジック & クライシスマネジメントサービス 
パートナー 清水 和之
シニアコンサルタント 大沢 未希

※社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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