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“学び直し”が日本の次代を拓く

社会と企業を貫く共通アジェンダ

デロイト トーマツ グループでは、付加価値が高い専門的サービスについて、戦略策定から実行支援までEnd to Endで提供できる体制を目指しています。

本記事では、デロイト トーマツ グループからデロイト トーマツ アカデミーとデロイト トーマツ ディープスクエアが、”学び直し”をテーマに語ります。 

デロイト トーマツ アカデミー
事業承継・M&A、経営・事業戦略、危機管理など専門的な知見から、ビジネス基礎といったベーシックなスキルまで、実務に活かせる知識を対面形式とe-ラーニングを組み合わせ体系的に提供している。講師をデロイト トーマツ グループの現役の専門家が務めていることが特徴。

デロイト トーマツ ディープスクエア(以下、DTDS)
AI教育及び開発・コンサルティング事業を展開し、日本ディープラーニング協会(JDLA)認定のE資格講座(認定No.16)やG検定をはじめとした多数のAI講座や動画解析サービスであるSmartCounter(スマカチ)を提供。2025年にデロイト トーマツ グループに参画(社名をPresent Squareからデロイト トーマツ ディープスクエア株式会社に変更)。グループと連携した一気通貫のコンサルティングにも対応している。
 

はじめに

産業構造と人口動態の変化が重なる現代において、「学び直し」は個人のキャリア開発を超え、日本社会の持続可能性と企業の競争力に直結する共通課題となっている。国際的に見て十分とは言えない人材投資水準、OJT偏重の育成慣習、行き場を失いがちな中堅層といった根深い構造課題を抱えながらも、先進企業はすでにリスキリングを経営戦略の中核に据え、事業変革と人材開発を両輪として力強く前進を始めている。本稿では、なぜ学び直しが社会と企業を貫く共通アジェンダなのか、そしてそれを次代の成果へと接続する実装の要諦は何かを解き明かす。

なぜ今、"学び直し"が共通アジェンダなのか

日本企業を取り巻く環境は、様相を大きく変えつつある。近年、インオーガニック成長を志向する企業は増加の一途をたどり、2025年のM&A件数は過去最多を更新した*1。デジタル技術とAIの進化は、ビジネスモデルや意思決定プロセス、競争優位の源泉まで変え始めている。そこに人口動態の変化が重なり、人材をめぐる構造課題は複層的に厚みを増している。

こうした潮流を受け、国の施策も動き出している。合同会社デロイト トーマツ マネジャーの吉田栄博は、「文部科学省*2は産官学での人材投資や人材交流の低迷を危惧しており、研究開発と人材育成を一体的に強化する新たな仕組みの創設を検討しています。経済産業省も2023年から『リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業』*3を継続しており、他の各省庁においても人材関連施策を実施しています」と説明する。国家戦略としての次世代人材育成や助成金・補助金の整備は、企業が学び直しに投資しやすい環境を整えつつある。

もっとも、社会が抱える構造課題は政策整備だけで解決できるものではない。日本で最多年齢とされる48歳前後のポストが限られ、中堅層の行き場が狭まっているという現実がある。デロイト トーマツ シニアコンサルタントの本間里佳は、この課題に先回りした取り組みを紹介する。「取引先への出向に備えたリスキリングプログラムを提供し、スタートアップを含めた異文化の中でこれまでと異なる役職でも活躍できるよう、アシストして送り出す取り組みを実施している企業は、在籍する社員から好評を得ています。個人にとってはネクストキャリア、企業にとっては出向者が新たなビジネスチャンスをもたらすことへの期待もあります」。

学び直しは中堅層のキャリアを拓き、同時に企業の成長機会を生む。社会と企業の双方にとっての解となる。

特に企業サイドでは、明確な構造変化が起きている。DTDS代表取締役社長の小林寛幸は、「従来の『コストとしての教育』から『競争力の源泉としての人材投資』へと、ここ1〜2年で認識が大きく変わりつつある」と指摘する。

多くの業界で先進企業はすでに「事業変革と一体化した人材開発」に向け動き出している。一方で、OJT偏重・新入社員偏重の慣習から抜けきれない企業も少なくない。「『やっている企業』と『できていない企業』の二極化が進んでいる」と小林寛幸はみる。

この二極化の根底にあるのは、リスキリングが単なる社員研修の枠を超え、経営戦略そのものと結びつき始めているという現実である。DTDS代表取締役CTOの小林範久は、「リスキリングは、成長戦略 × 人材戦略 × 競争戦略が交差する経営アジェンダになっています」と語る。

外部採用だけでは追いつかない局面で、既存人材をどう再定義するか。その解は、企業の競争力のみならず人材定着の要件を左右し、日本社会の持続可能性にも影響する。学び直しはいまや、社会と企業を貫く共通アジェンダとして捉え直すべき段階に入っている。

合同会社デロイト トーマツ
マネジャー 吉田 栄博

デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社
代表取締役社長 小林 寛幸

多くの企業が悩む、学び直しのつまずき

経営アジェンダとして学び直しに取り組むとき、いくつかの壁が立ちはだかる。それらは、多くの日本企業に共通する悩みでもある。

最初の壁は、人材側にある。本間は、「優秀な人材は業務に忙殺され、研修に時間を割けない。また、投資をして育てた幹部候補ほど、その後転職していくケースが少なくありません」と指摘する。

取り組みの序盤にも落とし穴がある。本間によれば、スタート地点で企業側の想いが社員に届かず、学ぶ側のモチベーションを十分に引き出せないまま"空回り"するケースが後を絶たない。研修を用意することと、社員が腹落ちして走り出すことの間には、想像以上の距離がある。

実装段階に進んでも、つまずきは続く。小林範久は、AI領域で特に顕著な典型パターンを次のように指摘する。「最も多い失敗は『AI導入=価値創出』になっていないケースです。AIは非常に強力なツールですが、適切に設計しなければ単なるコストの再配分にとどまります」。

典型的なつまずきとして挙げられるのは、①目的不在のままツール導入が先行する、②業務設計が変わらない、③評価制度と連動していない、④データガバナンスやセキュリティが後追いになる——の4点である。

ツール導入は手段に過ぎないはずだが、それ自体が目的化してしまいがちだ。業務プロセスも評価制度も旧来のままでは、現状の仕事の進め方から抜け出せない。結果、投じた予算は価値創出に結実しない。

さらに根の深い壁として、能力設計そのものの問題がある。小林寛幸は、「AIを使いこなすには操作スキルはもとより、業務理解、データ理解、意思決定プロセス理解といった『メタスキル』が不可欠です」と強調する。操作方法を教える研修は数多いが、業務文脈を踏まえて何を判断し、どう組織を動かすかという次元に踏み込んだ教育は限られている。ここに踏み込まなければ、「変革をリードできる人材」には届かない。

人材側、取り組みの入り口、実装設計、そして能力設計——4層にわたる壁のいずれかを見落とすと、学び直しは空転してしまい、次代を拓く推進力には変わらない。では、この壁をどう越えていけばよいのだろうか。

合同会社デロイト トーマツ
シニアコンサルタント 本間 里佳

学び直しを次代の成果につなぐ実装設計

学び直しの壁を乗り越えるには、順序と設計が決定的に重要になる。小林寛幸は、その起点を明快に示す。「最初にやるべきは『教育』ではなく、戦略起点での領域選定と目標設定です」。どの業務・領域で価値を出すかを定義し、期待成果(KPI)を明確にし、対象人材を特定する。教育から始めるのではなく、経営課題から逆算するアプローチである。

その上で小林寛幸が提示するのは、AI領域を例に取った5段階の実装ロードマップだ。
①まず「触る」(実務で使う)
②体系的に学ぶ(座学)
③実務での伴走支援
④意思決定・マネジメント教育の強化
⑤中核となるAI人材の育成

「教育単体ではなく、実務・評価・組織変革と一体で進めることが重要」(小林寛幸)。座学から入る従来型と異なり、手を動かして得た体感を知識で裏づけ、実務に伴走しながら組織を動かせる人材へと育てていく。5段階のロードマップは、現場に根を下ろした学習設計と言える。

ただし、設計だけでは組織は動かない。小林範久は、現場主導で変革を波及させる仕掛けを語る。「全社的にDXを推進していく上で、各部署のキーマンとなる『DXチャンピオン』を育成し、現場レベルで主体的にデジタル技術の活用を進めていく手法があります。AIの導入・活用においてもこの手法は効果的です」。

モチベーションの高い人材をチャンピオンに指名し、そのスキルを高めつつ、複数グループが各部署で変革を進める。こうした波及モデルで全社的なムーブメントを生み出した成功事例が実際にある、と小林範久は述べる。

仕組みを整えても、そこに乗る"人"のモチベーションを引き出せなければ結果は出ない。本間は、「インセンティブだけではなく、インナーブランディングが重要です」と強調する。なぜ今のままではダメなのか、忙しい中で研修を受けるメリットは何か、その先にどんな景色が開けるのか——。社員がポジティブなイメージを抱けるよう、職種や風土、レイヤーに応じた施策を同時並行で展開することが欠かせない。

もう一つ、本間が推奨するのが外部プロフェッショナルの戦略的活用である。単に講師として招くのではなく、企業内の人材育成部門と外部のプロフェッショナルが現状とゴールを擦り合わせ、中長期戦略を立て、プログラムを設計し、実行しながら見直していく。自社メンバーだけでの改革は「抵抗勢力もあり簡単なことではなく、ただ前年にならって来期の計画を立てるということの繰り返しになりがち」(本間)というのが、多くの企業の現実だ。

この点について吉田は、相談の持ちかけ方にも勘所があると付け加える。「どんな研修を行うかは白紙で、課題感だけはっきりしている段階で相談いただくほうが、結果としてうまくいくケースが多いのです」。自社の課題をまず明確にし、打ち手は専門家と一緒に設計する。この順序が、結果を出す近道となる。

デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社
代表取締役CTO 小林 範久

社会と企業を貫く解決策の実装へ

学び直しの実装は、人事部門だけで完結するものではない。吉田は、こう語る。「本来、事業戦略と人材開発戦略は経営の両輪です。事業戦略はコンサルティングファームに相談し、人材開発は研修サービス会社に依頼するというアプローチでは、どうしても齟齬が生じます」。両者を一体で設計・実装・評価する伴走こそが、次代を拓く学び直しの土台となる。戦略、組織・人材開発、財務アドバイザリー、デジタル技術・AIなど幅広い分野のプロフェッショナルが集うデロイト トーマツが、学び直しを支援する戦略的意義がそこにある。

示唆的なエピソードがある。ある企業のDX推進部門と人事部門から「AI活用に課題がある」と相談があった際、吉田らデロイト トーマツ アカデミーを担当するメンバーはDTDSと共同で、東京・丸の内の共創型AI体験施設「Deloitte Tohmatsu AI Experience Center(AEC)」に案内した。その企業から参加したのはDX・人事部門だけでなく、役員を含む幅広い部門のメンバーだった。「価値を創出していくには社内のさまざまな部門が関係してきます。お客様もそれを分かっていたから、部門横断的なメンバーでAECを訪れ、私たちと議論されたのです」と吉田は振り返る。

デロイト トーマツは、社会課題を強く意識し、その解決策を実装することにこだわる。社会全体の幸福度が高まらなければ、企業の経済活動の効果も限定的になるという課題意識があるからだ。

そうした視座に立ったとき、求められる人材像も変わる。小林寛幸は言い切る。「真のAI人材とは、AI技術を使える人ではなく、AIをツールとした課題解決策をビジネスや社会に組み込んでいける人材です」。スキル習得の先にあるのは、社会や事業に実装・定着させる構想力と実行力である。

吉田は、人材の教育・育成を「社会課題のソリューションの一つ」と位置づける。だからこそ、企業向けイベントに大学生を呼んで共に議論したり、官公庁事業のなかで人材育成を通じて企業成長に寄与したりしている。見据えるのは、社会課題解決に向けた具体的施策の実装である。

リスキリングは、もはや一企業の人事施策ではない。社会と企業を貫く共通アジェンダとして、次代を拓くための投資であり、決意である。

左から本間 里佳、小林 寛幸、吉田 栄博

ファイナンシャルアドバイザリーメールマガジン

執筆者

合同会社デロイト トーマツ
マネジャー 吉田 栄博

合同会社デロイト トーマツ
シニアコンサルタント 本間 里佳

デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社
代表取締役社長 小林 寛幸

デロイト トーマツ ディープスクエア株式会社
代表取締役CTO 小林 範久

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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