9月21-28日、NYCでClimate Weekが開催された。気候変動対策に否定的なトランプ政権下での初の開催となったため、縮小されるのではないか、という声もあったが、実際は1,000以上のイベントが開催される、過去16年間で最大のイベントとなった。
また同時に開催されている国連総会での議論と合わせて、今どのような議論がなされているのか、現地から速報でお伝えする。
*現地のデロイトブースと筆者
1 議論や計画の時間は終わり、いかに実行していくか
2 「AIは負荷であり解決策でもある」という二律背反
3 サステナビリティと収益性の両立
Climate Weekでも国連総会でも、今年はこのキーフレーズが良く聞かれた。例えばNEST Climate Campusのfounder & CEOであるBritain Jonesは「気候変動は“理論上の脅威”ではなく既に現実で、想定より速く深刻化。希望より行動を——解決策は既にある」と語っていた。
また、国連のSDG Momentにおいて、アントニオ・グテーレス 国連事務総長は、「再結集・再誓約・再集中(regroup, recommit, refocus)」を掲げ、SDGsの中でも気候変動を中心に、取り組んでいくと語る。アンナレーナ・ベアボック 第80回国連総会議長も「解決策はある。足りないのは政治的意思と資源」、損失と被害(L&D)・公正なエネルギー転換・生態系回復へのコミットと履行を強調した。さらにクロージングでは、アミナ・モハメッド 国連副事務総長が「何が効くかは分かっている。足りないのはスケールと緊急性」と締めくくっていることからもわかるように、とにかく「どう実行していくのか」が今年のポイントとなっている。
では、その実行をどうしていくのか、という中で今年の一つの大きなテーマとして注目されていたのが、AI需要による電力負荷増大を背景に、「クリーンで安定供給可能な電源」をどう実現するか、という点である。
例えば、NVIDIAは「ここ数十年で最も効率志向の技術開発」をしていると語り、性能/電力、性能/水、性能/CO2といった比率を同時改善する方向で進化している、と説明した。さらにAIは自らのフットプリント削減に寄与するだけではなく、核融合、CCS(Carbon dioxide Capture and Storageの略。二酸化炭素(CO2)の回収(Capture)、貯留(Storage)を意味する)、他産業の効率化にも貢献できる、と語る。
またデータセンターについても、液体冷却などの先進冷却技術の採用を加速させたり、ビル分野で実績のあるサーマル・バッテリー(蓄熱)をデータセンターに持ち込み、ピークカット/グリッド柔軟性に使うという応用事例も紹介された。さらにデータセンターの高密度化は、廃熱を小さく濃く取り出せるため再利用化が高まる。地域熱供給への接続や、学校・保育施設、官公庁・集合住宅の暖房、プール、海水淡水化などへの転用例が示され、「孤立した大口需要家」から「地域のエネルギー貢献者」への転換を提案していた。アメリカでも従来の官民連携(雇用/経済開発)の枠をインフラ協働へ拡張する動きが出ていると紹介。
また、24名のPhDを中心としたNPOが提供する“Drawdown Explorer”という「気候解決策の総合プラットフォーム」も紹介された。これは、140超の解決策を最新データで評価し、地域別に、「どれを・どこで・どの順で」やると最も効くかを提示するというもの。例えば企業がGHG削減を検討する際に、自社拠点の位置×解決策を掛け合わせて、検討が出来る、というような使い方が想定できるそう。
DeloitteのThe C-Suite Dynamic: Spend, Scale or Stall?セッションでは、US Sustainability and Infrastructure Practice LeaderのSteve Goldbachが、「Sustainability without profit has no impact; profit without sustainability has no future(利益なきサステナは影響力がなく、サステナなき利益に未来はない)」——“二者択一”を捨て、両立前提のイノベーションに踏み出すようメッセージを伝えた。
また、同セッションに登壇した、チーズなどの食品を扱うBel GroupのCEO Cécile Béliotは「企業の存在目的は、『次世代に持続可能な価値を引き継ぐこと』であり、NGOではなく利益創出を前提としつつも、利益と持続可能性は不可分である」と語っている。BelではCFOを置かず、代わりに「グローバル・インパクト・オフィサー」を設置し、財務部門もサステナビリティを評価軸に組み込んでいる。また事業戦略上も、国・地域ごとに課題は異なることを踏まえ、米国は小児肥満、モロッコは栄養アクセスなど、ブランドごとに役割と指標を明確化。「健康的で持続可能なおやつ」として行動変容を促す広告で訴求している。
DeloitteのCreating Value Through Sustainabilityセッションでは、IKEAのCEO Jesper Brodinが登壇し、サステナビリティを「倫理的責任」だけでなく「経営効率」を結びつけて語った。リソースの効率化や再生可能素材の活用はコスト削減と収益性向上に直結し、結果的に顧客や投資家の信頼を高める。消費者調査では、68%が環境への配慮を望むものの、追加コストを払えるのは6%に過ぎず、根強く存在する「サステナビリティ=高コスト」という誤解をなくす必要がある。実際、IKEAは2016年比で事業規模を24%拡大しながらCO2排出量を30%維持上削減しており、循環型ビジネス(例:マットレスのリサイクル事業)が商業的にも成功している。
最後に、DeloitteのSteve Goldbachが再度、サステナビリティは「規制遵守」ではなく、DCF(割引キャッシュフロー)の「ターミナルバリュー=企業が長期的に存在する前提」に直結する最大のビジネスドライバーだと強調した。
24日に開催された国連気候サミットでは、各国が2025年提出期限の新しい気候計画(いわゆるNDC(Nationally Determined Contribution)(「国が決定する貢献」)3.0、2035年目標)や実効策を発表・表明された。特に注目されたのは、世界最大の炭素排出国である中国の気候目標であり、風力と太陽光発電を2020年比で6倍に増やすなどして、2035年までに排出量を7~10%削減することを目指すと発表した。
Climate Summitは各国の「叩き台」の持ち寄りであり、正式な交渉・合意はCOP30で行われることになる。開催国であるブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領は、「気候変動の影響から逃れられる人は誰もいない。国境の壁では干ばつや嵐は防げない」と述べた。
このようにClimate Weekが過去最大の規模となる中、国連総会ではトランプ大統領が、「国連やその他の機関が悪意を持って予測してきた内容は間違っており、気候変動は史上最大の詐欺だ」と語った。しかしながら、ニューヨーク市は、このClimate Weekに合わせ、9月22日米環境保護庁(EPA)に対し意見書を、州検事総長や他都市(シカゴ、オークランド、キング群、デンバー、サンフランシスコ、サンタクララ群などの自治体と、複数州の州司法長官)と連名で提出。EPAが7月に発表した「危険性認定の撤回」、「自動車のGHG排出基準の廃止案」に反対。
※米環境保護局は2025年7月29日、温室効果ガスが人間の健康と福祉に対して危険をもたらすと公式に認定した判断、いわゆる「危険性認定」を取り消す提案を発表した。さらに軽・中・大型車両およびエンジン向けの将来の温室効果ガス排出基準も廃止するとした
気候変動は食料・水・大気・極端な気象を通じて健康を害するとし、自動車基準の廃止で2055年までに追加7.7ギガトンCO2の可能性(軽・中型車だけでも)と試算を引用。「数百万人の生命と数兆ドルの価値が危険にさらされる」と警鐘を鳴らしている。
このように、アメリカでは州ごとに方針が異なる。あるCEOは「サステナビリティは政治動向に左右されず、企業存続の必然」と述べていたが、現政権の動向に振り回されることなく、Bel GroupのCEO Cécile Béliotが伝えてくれたように、「次世代に持続可能な価値を引き継ぐ」ために必要な取組みを進めていきたい。
関連情報:Climate Week NYC 2025 | Deloitte US