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実行フェーズを迎えた銀行における軽量化店舗の動向

Industry Eye 第98回 銀行・証券セクター

以前から唱えられていた銀行店舗軽量化のコンセプトが実行フェーズを迎えつつあります。その背景にはデジタルツール等の整備と顧客の受容性という環境が整ったことがあると考えられます。他方、金利のある世界(預金獲得の意義の復活)といった環境変化も重要な観点です。

また顧客ニーズの多様化やリアルチャネルに求められるものが変化する中で、提供サービスの峻別、店舗サイズの小型化や少人数での運用など、軽量化店舗の取り組みも多様化しています。本稿では、昨今の環境変化や顧客接点の考え方の変化を踏まえた、実際の軽量化店舗の取り組みに向けた諸論点を概観します。

Ⅰ. はじめに

銀行はこれまで長く、ブランチインブランチ方式などで店舗数の削減を続けてきたが、足元でその風向きが変わりつつある。今後は店舗数をある程度維持しながら、効率的な運用と店舗ならではの価値提供の両立を図っていく形態として、軽量化店舗が一定割合展開されていくことが想定される。この軽量化店舗は、以前から概念としては存在していたが、口座開設や主要な諸手続きまでデジタルで取引できるようになったこと、また実際にその利用が広く浸透してきたことにより、徐々に実行フェーズを迎えつつあると考える。実際の軽量化店舗の取り組みにあたっては、顧客ニーズの変化を踏まえ、その取り組みの幅が広がってきている。本稿ではリテール向けの店舗を主眼に、昨今の軽量化店舗の取り組みに向けて検討する際の諸論点を紹介する。

なお、本稿では店舗チャネルにおける取り組みを主眼とするが、実際の検討においては、リテール戦略の全体像、またデジタルチャネルなど店舗以外の顧客接点の考え方も踏まえ店舗チャネルの位置づけを整理しておくことも重要な観点と考える。

 

Ⅱ. 銀行の店舗を取り巻く環境・店舗機能の変化


外部環境


① デジタル化の浸透

これまではオンラインバンキングで提供される取引が限定されていたり、その利用者が限定的だったりしたため、事務手続きを行う役割としてのリアルな店舗を広く残す必要があったが、昨今ではeKYC(オンラインでの本人確認)を活用した口座開設に多くの銀行が対応しているなどオンラインバンキングの機能が拡大し、店頭でのタブレット端末等によるセルフでの手続きも普及してきている。

また利用者としてもスマートフォンを含めたオンラインバンキングの利用が世代を超えて拡大しており、デジタルチャネルで手続きすることが広く受け入れられてきており、この傾向は今後も続くことが想定される。

このことから、店舗で一様にフルサービスを提供することの必要性が低下してきており、店舗ごとに異なる役割を持たせ、多様な店舗形態を展開できるようになり、またタブレット等の端末の普及により店舗内での後続手続きが削減されたことで、店舗をコンパクトに設計・運用できるようになって来ていると考えられる(店舗面積や運営人数の観点)


② 店舗チャネルの重要性

主に利用する金融機関の満足理由として、依然として店舗・ATMが近くに存在することが最大の理由となっている。これは実際に店舗を利用しやすいという利便性に加えて、実際に利用せずとも必要な際にはすぐに利用できるという安心感などへの期待も含まれていると推察する。足元の金利のある世界で預金獲得の重要性が増す環境においては、主に利用する金融機関として満足度を高め、継続して利用してもらうことで、粘着性の高い預金獲得に繋げていくことが考えられる。

(データソース:全国銀行協会「よりよい銀行づくりのためのアンケート」)
よりよい銀行づくりのためのアンケートの結果について | 2024年 | 一般社団法人 全国銀行協会


③ 資産形成・運用ニーズの高まり

政府による国民の安定的な資産形成の支援施策などが推進される中、銀行に対して資産運用などのアドバイスの充実を期待する人が一定数存在し、これは世帯年収が高い程、また年齢が若い程より期待される傾向にある。そのようなニーズの受け皿として、店舗での行員による運用相談が想定されるが、その際に資産形成・運用ニーズを持つ人との接点拡大が期待できる場所への出店も検討に値すると考えられる。

(データソース:全国銀行協会「よりよい銀行づくりのためのアンケート」)
よりよい銀行づくりのためのアンケートの結果について | 2024年 | 一般社団法人 全国銀行協会


④ 地域経済を支えることの重要性

一定の店舗網が存在することが地域密着型の金融を提供するうえで重要な基盤となる。店舗を通じて地域の企業や住民と密接な関係を構築することで、地域に関する情報が収集でき、地域のニーズに応じた金融サービスを提供することが可能になる。

内部環境


⑤ 老朽化店舗の維持コストの上昇

銀行店舗は老朽化が進んでいるものが多く存在するが、築年数が増すと大規模リニューアル等のコスト上昇や老朽化に伴うリスクも上昇していく。一定期間を越えると建て替えをするよりも継続利用する方がコスト高となるケースも想定される。現状の店舗面積が過大となっている場合、小型化もからめた取り組みの検討余地が考えられる。

 

⑥ 人的リソースの捻出

特に地方では働き手の減少傾向が続くため、効率的な店舗運営体制を構築し、人員減少に備えておくことが重要である。そのためには、対象店舗に残る業務を踏まえた必要な人員数とケイパビリティを把握し、行員のマルチタスク化・リソース共有などの検討も視野に入ると考えられる。

 

Ⅲ. 軽量化店舗の打ち手の例/方向性

前章で記載の通り、デジタル活用の浸透を踏まえ店舗についての考え方を見直す意義がある中で、店舗維持のコスト高やリソース制約という環境認識も踏まえ、どのように店舗のコンセプトを見直していくかについて考えていくことになる。

まず軽量化店舗の展開に向けて、一般的に検討が必要となる主要な観点を紹介する。
 

サービス

  • 提供サービス:従来型のフルサービスとするか、一部のサービスに特化するか、想定する顧客層を踏まえ検討
  • 受付方法:セルフでの手続き端末、高機能ATM等の必要な機器を提供サービスと平仄を取って検討
  • 提供時間:想定する顧客層のニーズや行員の負荷を踏まえた見直し


出店方法

  • 出店場所:既存立地での小型化/リニューアル、移転(路面・空中・商業施設内)、移動型などを検討
  • 単独/共同:他社・他業種などとの連携の可能性を検討


提供体制

  • 人材配置:想定事務量を踏まえた必要人員とケイパビリティの見直し
  • 事務体制:業務のデジタル化を踏まえた事務フローの見直し


設計

  • 店舗設計:出店時の各種制約を考慮しつつ、所要機器・人員等を踏まえレイアウトが成立するか等を検討


次に最近の軽量化店舗の打ち手の例とともに、取り組む際の検討観点例を紹介する。

各行の軽量化店舗の取組に当たっては、前章の内部環境における論点への着実な対応(店舗コストの適正化(⑤)と、人的リソースの捻出(⑥))を念頭に、各行・各店舗のおかれた外部環境を踏まえた打ち手の展開を図っていると考えられる。

※本章の()内の数字は、各打ち手例が前章の環境変化①~⑥のどの項目を重視した打ち手かを示す。

打ち手例A:デジタルの利用促進(①)

  • 概要:顧客のITリテラシーの向上を支援する、デジタルツールの利便性を体験し慣れてもらう。
    店頭では自身で手続きを行うデジタル端末をメインにするのと合わせて、アプリやデジタル端末の利用案内により、操作に不安のある顧客も行員のサポートを受けながら、顧客自身でのデジタルツールでの手続きに慣れてもらう。
  • 取り組む際の検討観点例:
    • 受付方法:タブレットや、高機能ATMで提供可能なスコープを起点に提供サービスを検討しつつ、デジタルツールでは未対応の事務等の対応方針も合わせて検討する。
    • 事務体制:店舗内での後続手続きの削減を踏まえ、後方事務体制の縮小を検討する。さらに、出張所化(勘定を持たない店舗)に踏み込む例もある


打ち手例B:提供サービスの取捨選択(③)

  • 概要: 資産形成・運用相談を中心とした顧客接点を拡大する。相談業務への特化にあたり、従来の銀行店舗のイメージにとらわれない形でレイアウトを見直し、想定顧客の属性やニーズに合わせて、営業時間や出店場所も必要に応じて見直す。
  • 取り組む際の検討観点例
    • 提供サービス:対象店舗における現状の取引量を踏まえ、近隣店舗への誘導などにも配慮し、取扱いサービスが少なくなることによる顧客満足度への影響度合いにも留意。
    • 営業時間:比較的若年層の世帯なども想定し、平日の遅い時間や土日への拡張・変更を検討する。
    • 人材配置:営業時間の見直しに伴い、業務にあたる行員の働き方なども合わせて検討が必要となる。
    • 出店場所:路面店中心のこれまでの立地に加え、多くの顧客接点が期待できる場所として集客力を有する商業施設なども候補に検討、また都市構造の変化を踏まえ人口流入が期待されるエリアへの新規出店も検討。
    • 店舗設計:提供するサービスや設置機器に即しコンパクト化した床面積でのレイアウトを検討する


打ち手例C:拠点網の維持と窓口営業の効率化(②④)

  • 概要:経営最適化と地域サービス維持を両立する。
    平日午前営業(午後は店舗を閉めて外訪営業)、隔日営業(2つの店舗を1日おきに交互に営業)、移動型店舗(店舗の空白地帯の補完や住宅街や商業施設への運行)などにより、限られた行員リソースの中で、店舗網を維持し、地域住民の利便性の維持やニーズの補足に努める。
  • 取り組む際の検討観点例:
    • 営業時間:デジタルの浸透等に伴う来店客数の減少とそれに係る店舗窓口での対応時間の減少量を踏まえ、窓口として必要な営業時間を試算し、営業時間の効率化による運営の最適化を検討する。


打ち手例D:地元企業等との店舗の共同運営(④)

  • 概要:地域事業者との協働により地域社会の発展に貢献する。
    銀行と営業時間が異なる店舗業態と駐車場などを含めスペースを共同利用することで、双方のコストを抑制。波及効果として、銀行として集客したい顧客層が多く利用する業態との協働により、ターゲットを絞った集客効果も期待される。
  • 実行に向けた検討観点例:
    • 単独/共同:共有部分の相互利用などによる効率的な運営と、集客したい層が重複する業態との協働により、集客とコスト双方でのシナジーの追求が考えられる。ただし、お互いのビジネスの思想を合わせる調整など手間がかかることにも留意が必要となる。


本章では軽量化店舗の打ち手例を紹介したが、これらの打ち手は、デジタルでの取引という新たな利便性を顧客に訴求しながら業務量の削減に取り組むもの、顧客のニーズの変化を踏まえて提供するサービスを特化・深化するもの、他社との協働など新たな目的を付加したものなどがある一方、コスト観点でも、不動産コスト適正化を企図するもの、人的リソース捻出を見込むもの等の特徴がある。

よって、顧客へのサービス提供による収益獲得(攻め)と、コスト適正化の効果獲得(守り)のそれぞれの組み合わせや特徴を踏まえながら店舗の新たな類型を整理することに加え、特定の類型を一様に展開するのではなく、銀行の地域における役割等も鑑み、店舗ネットワークを複層的に考えていくことの重要性も高まると考えられる。

 

Ⅳ. おわりに

本稿では、デジタルの浸透を中心とした足元の環境変化、またそれを踏まえ銀行の店舗形態の多様化における店舗軽量化の動向について紹介したが、これらの取り組みは現状で確立されたコンセプトというよりも、先行して取り組んだ店舗の状況を踏まえて、今後見直しを図っていく段階のものも多いと推察する。

加えて、今般の取り組みも恒久的なものというより、デジタルの動向などの環境変化を注視しながら例えば想定より急速にデジタルの進化や浸透が進んだ際にはサービス提供の仕方や場所・仕様などを柔軟に見直すなど一定の時間軸の範囲内で考えておくことが重要と考える。

また、実際の取り組みにあたってはリソースも時間も要するため、しっかりと体制を組むことも肝心である。

 

今後の展望としては、銀行のビジネス領域が非金融業へと拡大していく中、銀行店舗の役割は金融業からさらにスコープを広げサービス店舗の一業態のようになっていくことも考えられる。金融業という生業上、現金の取り扱いや口座管理をしっかり行っている信頼感のあるサービス業という一面を残しつつ、地域の課題解決や活性化に向けた幅広いサービスを提供する場として、例えば、人材紹介・マッチング、地域特産品の販売・プロモーション、コミュニティハブとしての起業家支援センター等、金融サービスの提供場所という概念を超え、地域の経済・社会・文化の中核を担う多機能型拠点へと進化するようなアイデアも想定される。これらの取り組みを通じて、店舗というチャネルを活用した新たなサービスを開発していくことで、店舗価値や事業価値を向上させることも考えらえる。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
銀行・証券セクター

シニアマネジャー 下村 大学
シニアコンサルタント 木下 大介

(2025.6.19)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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