レアアース等の中国からの輸出規制に関して、新聞や各種メディアで見かける頻度が急増している。一方、レアアースやレアメタルの調達リスクの顕在化は今に始まったことではない。過去を振り返ると、2010年の尖閣問題に端を発したレアアース・ショックをはじめとして、2010年以降は数年に1度はサプライチェーンリスクが顕在化しており、日本の製造業をはじめとする多くの産業に影響を与えている。20世紀の経済を動かした主役が「石油」であったとするならば、21世紀はレアメタル・レアアースである。
【サプライチェーンのリスク顕在化事例】[1, 2, 3, 4, 5, 6, 7]
参考:各種報道資料
現代社会では、レアアース・レアメタルは必要不可欠な製品を製造するうえでの付加的な存在(原料の一部)であるが、いつ頃からレアアース・レアメタルが利用されているのか、歴史的経緯を辿りながら、レアアースやレアメタルが日本の産業にとってどのような意味を持つのか振り返ってみたい。
本稿では、レアアースとレアメタルについて触れていくため、はじめに簡単に用語の説明を行う。経済産業省では、「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属」のうち、工業需要が現に存在する(今後見込まれる)ため、安定供給の確保が政策的に重要であるものを、一般的にレアメタルと定義(現在、47元素が対象)している[1]。例えば、合金など材料の性能を高める役割を持つクロム(Cr)、マンガン(Mn)、タングステン(W)、脱炭素化を牽引するバッテリー(電気自動車(EV)、蓄電池)で主に使われるリチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、半導体やディスプレイなど電子・光学材料に使われるインジウム(In)、ガリウム(Ga)、タンタル(Ta)、電気自動車(EV)のモータなどの磁石に使われるレアアース(17元素)などが挙げられる。なお、周期表で表すと以下になるが、レアメタルの方が概念的に幅広いものを指しており、レアアースは希土類のみを指している。
【レアメタル・レアアースの定義】[8]
また、レアメタルが「レア」と称される理由として、次の3つの特徴を有しており、いずれも資源に乏しい我が国にとっては、自国で調達を行うにはハードルが高い。一方、レアメタルのリサイクル事業も始まっており、かつ2026年1月には南鳥島周辺での海底レアアース泥の回収の実証も開始されることから、レアアースの自給の可能性が、今後高まることが見込まれる。
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特徴 |
概要 |
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①物理的希少性 |
地球上に存在する量そのものが少なく、ベースメタルの副産物として産出される元素も存在する |
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②偏在性 |
産出国ならびに製錬・精製できる地域が、中国、ロシア、コンゴ民主共和国のように地政学的リスクの高い国々に偏在している |
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③技術的・経済的困難性 |
純粋な金属として回収するためのコストや環境負荷が大きいことに加えて、銅・鉛・亜鉛のようなベースメタルと比べて市場規模が小さく、産出国の供給動向によっては、供給不足に陥ることもあり価格変動が大きい |
レアメタルの黎明期は、19世紀後半から20世紀初頭にかけての「第二次産業革命」である。当時、鋼にニッケル、コバルト、マンガンなどの元素を添加することで、硬度の高い「合金鋼」が開発されるようになった。最初に着目された元素がニッケルであり、1887年にイギリスでニッケル鋼が開発され、その後ドイツでも採用が進んだ。開発された合金鋼の主要用途は軍需品であり、日本においても戦艦や戦車などの甲板や装甲に使用された。[9]
第二次世界大戦が勃発すると、各国ともにレアメタルの確保が急務となり、ニッケルの需給が世界的に逼迫し、日本への供給は途絶した。ドイツも同様にニッケルを他国に依存していたため、供給が途絶したことが、継戦能力を維持することができなかった背景の一つにある[9]。
ニッケル以外にも耐食性を向上させるためにクロムが添加され、ニッケル・クロム鋼が装甲板に使われており、さらに、この装甲板を貫通させることを目的とした砲弾(徹甲弾)が開発され、弾芯にタングステン鋼が使われていた[9]。この頃からレアメタルが重要な役割を果たし始め、資源を保有しない国々にとって、軍事物資のサプライチェーンをいかに確保するかが、戦時中の鍵となった。
戦後、レアメタルの主な用途は、軍需産業から民生用品へ移行した。日本の基幹産業である自動車業界では、自動車部品、金型、工具など様々な部分でレアメタル(ニッケル、クロム、モリブデン、プラチナ、タングステンなど)が使用されてきた。
1947年にアメリカのベル研究所で世界初のトランジスタが発明され、その材料がレアメタルの一つであるゲルマニウムであった。ゲルマニウムは、当時の半導体にも使われており、トランジスタラジオ、初期のコンピュータなど、多くの革新的な製品がゲルマニウムによって実現された。
1970年代以降、テレビなどのエレクトロニクス分野が成長するに従いレアメタルの需要も増加した。特に、テレビのブラウン管のガラスパネルにはストロンチウムやバリウムが添加され、カラーテレビが誕生するとブラウン管の赤色蛍光体にユウロピウムが使われた。また、同時期に急成長した半導体産業では、ガリウム、タンタルなど多くのレアメタルが必要となった。
また、自動車については、エンジンや駆動系部品などで使われる特殊鋼を中心にニッケル、クロム、モリブデン、ニオブなどが多く使用された。1970年代に入ると公害対策として排ガス浄化が進むようになり、触媒技術に必要となるプラチナ、パラジウム、ロジウムなどの需要が高まった。加えて、自動車を製造する際に必要となるドリルなどの切削工具にはタングステンが使われており、自動車部品に限らずドリルメーカーなどの周辺産業においてもレアメタルは幅広く使われるようになった。
1980年代、日本で「ネオジム磁石」が発明され、その後、駆動用モータ、家電製品モータなど幅広い用途に使われるようになり、レアアースの一つであるネオジムが脚光を浴びるようになった。日本国内で、ものづくり産業が急成長していく時代においても、その基盤を支えていたのがレアメタルであった。
1990年代、パソコン、携帯電話、デジタルカメラなど高機能デジタル機器が身近な存在となった。当然ながらこれらにもレアメタルが使われている。具体的には、パソコンや携帯電話の液晶画面にはインジウムが使われ、パソコンのハードディスクには、上述のネオジムが使われ、デジタルカメラのレンズはセリウムで研磨されている。1990年以降、急速にデジタル技術が進歩したことで、数多くのデジタル機器が誕生してきたが、これらの誕生の背景にはレアメタルの存在が不可欠であった。
現代社会においては、我々の生活に必要不可欠なスマートフォンのように、我々の身近な分野に多くのレアメタルが使われている。例えば、液晶画面の製造にはインジウムが必要であり、バッテリーにはリチウム、コバルト、振動を生み出すモータやスピーカーにはネオジム、コンデンサなどの基板にはタンタル、ガリウムなどが使われている。まさに、スマートフォンはレアメタルの結晶である。
我々の生活は、「レアメタル」なしでは成立せず、これらは「産業のビタミン」または「産業の生命線」とも呼ばれ、製品の主原料ではないが、微量ながらも製品の性能を決定づける不可欠な存在である。人間もビタミンがないと生きてはいけないが、レアメタルについても同様である。
特に電気自動車(EV)は、電子部品を多く使用し、その中でも特にリチウムイオンバッテリーには、リチウム、コバルト、ニッケル、グラファイトなど数種類のレアメタルが使用されている[10]。2000年代以降、脱炭素社会の実現が社会課題として扱われるようになり、特に、2011年の東日本大震災以降、再生可能エネルギーの需要も急激に増加した。
電気自動車(EV)では、バッテリー(リチウム、コバルト、ニッケル)、駆動用モータ(ネオジムなど)においてレアメタル(レアアース)が必要であり、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー発電に必要なインフラ設備にもレアメタル(レアアース)が広く使われている。また、近年着目されている蓄電池の普及拡大に伴いリチウムなどバッテリーメタルの需給は今後も拡大が継続すると想定される。
近年AIの急激な拡大によりデータセンター需要が急増している。データセンターが増設されると同時に、光ファイバーの需要も高まる。この光ファイバーにレアメタル(ゲルマニウム)が使用されており、AIインフラをレアメタルが支えている。また、空飛ぶクルマや多目的EV自動運転車などの先端技術・産業において、製品の高性能化、高機能化を実現するためにレアメタルは重要な役割を果たすことから、今後もさらなる需要が想定される。
【各種レアメタルの先端産業における使用例】[11]
出所:参考資料をもとに合同会社デロイト トーマツ作成
レアメタルの歴史を振り返ると、常に技術革新(イノベーション)を支えていた。鉄より硬い合金鋼の開発からスマートフォン、電気自動車(EV)、AIなどの先端技術に至るまで、イノベーションの裏には必ずレアメタルが存在しており、つまり富の源泉と位置づけられ、資源に乏しい日本にとってはレアメタルの調達確保は重要なテーマであるといえる。レアメタルは自然界(地球)が作り出した物質であり、「有限」である。したがって、サプライチェーンリスクが顕在化している今こそ、持続可能な成長・繁栄を行っていくために多角的な資源戦略を構築することが必要である。
合同会社 デロイト トーマツ
石油・化学/鉱業・金属セクター
パートナー 戸田 崇生
ディレクター 中山 博喜
マネジャー 池田 誠シニアコンサルタント 武藤 雅
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
参考資料
[1] 経済産業省 (2025/10/30) METI Journal ONLINE 政策特集/重要鉱物を確保せよ!/Vol.3(https://journal.meti.go.jp/policy/202510/42046/)
[2] 経済産業省 (2022) 令和 4 年度 WTO パネル・上級委員会報告書研究会 インドネシア-ニッケル鉱石輸出関連措置 パネル報告(WT/DS592/R)(https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/3_dispute_settlement/33_panel_kenkyukai/2022/8_DS592.pdf)
[3] 資源エネルギー庁 資源・燃料部 (2020/7/1) 第29回 総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会「新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえた資源・燃料政策の今後の方向性」(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/029_03_00.pdf)
[4] 資源エネルギー庁 資源・燃料部 (2025/4/25) 第34回 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 「ウクライナ侵略等を踏まえた資源・燃料政策の今後の方向性」(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/034_04_00.pdf)
[5] 経済産業省 製造産業局 鉱物課 (2025/3/24) 第2回 産業構造審議会 製造産業分科会 鉱業小委員会「鉱物資源を巡る状況について」(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/mining/pdf/002_04_00.pdf)
[6] 日本貿易振興機構 (2025/12) レアアースとレアメタルに関する中国の輸出管理の動向~中国の安全保障貿易管理に関する制度情報専門家による政策解説~(https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/6083963715e0b772/20250030_02rev1.pdf)
[7] 馬渕磨理子 (一般社団法人 日本金融経済研究所 代表理事) (2026/1/7) 中国の対日レアアース輸出規制-経済安全保障の構造的脆弱性とサプライチェーン再構築の課題- No. JRIFE-2026-0107(https://jrife.or.jp/wp-content/uploads/2026/01/JRIFE20260107.pdf)
[8] 経済産業省 (2014/5/20) 第26回 産業構造審議会 産業技術環境分科会 廃棄物・リサイクル小委員会「レアメタル・レアアース(リサイクル優先5鉱種)の現状」(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/pdf/026_04_00.pdf)
[9] 藤井非三四 (2013)「レアメタル」の太平洋戦争、学研パブリッシング
[10] 経済産業省 (2018/4/20) EV普及のカギをにぎるレアメタル(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ev_metal.html)
[11] 経済産業省 製造産業局 鉱物課 (2024/10/28) 第1回 産業構造審議会 製造産業分科会 鉱業小委員会 「鉱物政策を巡る状況について」(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/mining/pdf/001_03_00.pdf)