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サステナビリティ領域における事業戦略に貢献する知財戦略の重要性

Financial Advisory Topics 第46回

近年関心が急速に集まっているサステナビリティに関する製品の開発が進む中で知的財産戦略の重要性も増している。本稿では、開発企業自身の収益にとどまらない、社会貢献という観点も考慮した知財戦略のポイントについて述べる。

1.はじめに

近年、サステナビリティ製品への関心が急速に高まっている。環境問題は、今や先進国にとどまらず全ての国に関連する問題である。グローバルで持続可能な社会の実現が求められる中、サステナビリティ製品の開発に取り組むことは企業にとって、単なる社会的責任にとどまらず競争力の源泉にもなっている。また、企業がサステナビリティに対応することは、消費者や取引先からの信頼獲得や企業価値の向上、そして売上の拡大にも大きな影響を与えると考えられる。

こうしたサステナビリティ製品の開発が進む中で、知的財産戦略の重要性も増している。サステナビリティ製品の開発において、高い性能やコストダウンを実現するための技術は重要であるが、それら技術が模倣や流出のリスクにさらされないよう、特許などの知財によってどう保護していくべきか、開発した技術や知財をどう収益に結びつけていくか、その戦略の構築は他の技術領域と同様に不可欠である。またサステナビリティ領域では、企業自身の収益にとどまらず、社会貢献という観点も考慮したアプローチも必要となる。

本記事では、サステナビリティ製品の開発に取り組むことがなぜ企業として重要か、また、それを有効に支えるための知財戦略の実現に向けたポイントを解説する。

なお、本記事においてサステナビリティ製品とは、再生可能エネルギーの活用、省エネルギー性能の向上、リサイクル素材の利用など、環境の保全や持続に貢献するいわゆるエコフレンドリーな製品のことを指す。

2.サステナビリティ製品・技術の重要性

サステナビリティの市場規模は2024年時点ではUSD 14.95 billionであり、2029年にはUSD 24.95 billionに達すると予測されている。予測期間中(2024~2029)の年平均成長率は10.78%と見積もられており、成長が顕著な領域である1

こうした市場の拡大要因は、主に①企業の社会的責任の増加、②製品・技術に対する顧客ニーズの高まりの2点が要因であると考えられる。以下に各理由について詳細を述べる。

  1. 企業の社会的責任の増加
    サステナビリティに取り組むことを通じた社会への貢献は企業の責任である、という風潮が近年強まっている。開示や認証に関するルール化も段階的に進んでおり、企業は、収益性や効率の優先順位を下げてでも、サステナビリティに取り組むことが必須な状況になりつつあると言える。こうした流れは今後も加速していくことが見込まれるため、企業はその流れに順応していくことが必要となる。
  2. 製品・技術に対する顧客ニーズの高まり
    サステナビリティ市場の拡大要因として、BtoCにおいては消費者の意識変化が大きな要因として挙げられる。またBtoBにおいても顧客となる企業側もまたサステナビリティに取り組む責任がある中、原料等の調達において環境に配慮した製品を優先的に選択しなくてはならないというケースが増加している点が挙げられる。

営利企業がサステナビリティについて継続的に取り組むためには、社会貢献もさることながら、収益性の確保も重要である。そのためには、市場のニーズをしっかりと捉え、顧客の適切なターゲティング、企業・技術・製品のブランディングを通じて、自社の技術や製品を収益につなげていくことが重要である。

近年では、サステナビリティと技術力の掛け合わせ、またサステナビリティを通じたブランディングにより、他社との差別化を図り、サステナビリティ製品を収益につなげている事例も多く見られる。以下に具体的な企業の事例を挙げる。

  • 事例1:ユニクロ(ファーストリテイリング)のリサイクル素材活用
    ファーストリテイリングは、リサイクル素材や低CO2素材など環境負荷の低い素材を使った商品開発を事業戦略の柱に据えている。2030年には原料全体の50%を低環境負荷素材にシフトすることを目標としており、2024年時点で18.2%まで達成されている状況である。エコフレンドリーな企業・製品であることを、広告などを活用し積極的に外部発信しており、近年では消費者にそのイメージも根付きつつある。こうした戦略の中、ファーストリテイリングは直近5年で売上を約1.5倍に増やしている2
  • 事例2:Ecocemの低CO2排出セメント
    アイルランド発のコンクリート会社であるEcocemは、ACT(Advanced Cement Technology)と呼ばれる独自の技術を有しており、従来のセメントよりもCO2排出量を60-70%抑えた製品を販売している。これら製品はセメント性能に関する米国の認証ASTM C1157なども取得しており、公的にその技術が認められているものである3, 4。EcocemはBreakthrough Energy Ventures(ビルゲイツの気候系基金)など数多くの組織より資金調達を受けている企業である4

上述のように、企業は持続可能な社会実現に向けて、サステナビリティ製品の開発・製品化に積極的に取り組んでいる。こうした製品や技術は、社会的責任の遂行だけでなく、企業の競争力やブランド価値向上、収益にも寄与するため、これをいかに知財により適切に保護し、他社との差別化や事業の安定的な成長を支援していくかは、事業における重要事項である。

3.サステナビリティ技術における知財戦略の重要性

企業が新たな製品開発を行う際、その事業・開発戦略に基づいた知財戦略を構築することは必須である。単に環境に優しい製品を提供するだけではなく、企業がその製品を通じて適切な収益を獲得し良好な経営を継続していくことが真の意味でサステナビリティであると言え、その実現のためには、事業戦略に貢献するための有効な知財戦略の策定・実行が重要となる。

知財による事業貢献の方法は、主に①知財による事業の保護・独占、②他社へのライセンスを通じた収益確保・社会貢献、の2つが挙げられる。以下に詳細に述べる。

  1. 知財による事業の保護・独占
    サステナビリティ製品の開発は、環境負荷低減、高性能化、プロセスの効率化、コストカットといった様々な観点からのアプローチが必要であり、高度な技術を必要とする。多額の投資により開発された技術を、他社が模倣したり、近接する技術領域へ容易に参入されてしまうと、事業へ大きな影響が生じ投資回収することもままならない事態につながりかねない。これを避けるためには、知財による事業の保護、および競合他社の排除が重要である。これにより、自社の事業収益を確保するとともに、自社単独にてサステナビリティ社会への貢献を行うことが、一つ目のアプローチである。
  2. 他社へのライセンスを通じた収益確保・社会貢献
    技術・知財のライセンスによりロイヤリティを獲得することは、まず自社収益の獲得という点で、事業に対する知財の直接的な貢献であると言える。また、ライセンスを通じて技術や知財を他社に広めていくことは、業界全体の技術水準の底上げや応用技術開発の促進につながるものである。すなわち、ライセンスにより環境配慮技術が多くのプレイヤーを通じて社会実装されていくという点で、自社に留まらない他社をも通じた社会貢献であると言える。

サステナビリティ領域では、他の技術領域と比較し、社会貢献へのインパクトを考える必要がある。そのため、特に②他社へのライセンスを通じた収益確保・社会貢献については、サステナビリティ領域ならではのアプローチを意識し戦略的に進めていく必要がある。そのアプローチの事例として、ダイキンとGotion-InoBat-Batteries EnergyX Slovakiaの取り組みを以下に解説する。

  1. ダイキン
    事例の1つ目として、ダイキンによる冷媒R32に関連する特許の無償解放が挙げられる。R32はフロン・HFC系の化合物であり、地球温暖化係数の低い冷媒として着目されていたものの、微難燃性を有していたため高圧ガス保安法により使用が制限されている状態であった。しかしながら2010年代に、発展途上国などにおける冷媒の使用量増加、および地球温暖化係数の低い冷媒のニーズが拡大したことを受け、R32の商用的実用化を実現すべく、ダイキンがこれに尽力したものである。具体的には、①ISOの改訂への働きかけ(「微燃性」区分の新設)、②業界団体における「微難燃性冷媒の安全利用に関するリスクアセスメントプロジェクト」の立ち上げによるR32の取り扱いガイドラインの策定、③ダイキンの保有しているR32関連特許の無償解放、の3点である。これにより、R32の安全な取り扱いに関する理解が進むとともに、それに沿った形で業界標準および規格の改訂が実現され、R32の商用利用が可能となった。さらに特許の無償解放を行ったことで、業界各社におけるR32の採用が進み、R32は業界のデファクトスタンダードとなった。この結果、R32は冷媒におけるゲームチェンジャーと呼ばれ、インドなどにおいて市場シェア1位を獲得するなどの事業的な成功に至ったものである。このようにルールメイクの主導と特許の活用を並行して行うことにより、ダイキンは自社製品の普及と、業界全体を巻き込むことによる地球温暖化への大きな貢献を果たしたものである5, 6
  2. Gotion-InoBat-Batteries EnergyX Slovakia
    もう1つの事例としては、Gotion-InoBat-Batteries EnergyX Slovakia社(以下、GIB社)から、インドのAmara Raja Advanced Cell Technologies社(以下、ARACT社)への、EV車用途のLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリー関連技術のライセンス事例が挙げられる。環境配慮によるEV車の需要増、LFPバッテリーの原料コスト・熱安定性の観点から、近年LFPの需要は高まっている。GIB社はARACT社と電池製造に係る協力関係にあり、その一環としてGIB社はARACT社に対し、LFP関連技術および特許のライセンスと、バッテリー量産設備の立ち上げ支援を行ったものである7。これによりGIB社は、EVなどの最終製品価格に基づいた特許ロイヤリティという形で、収益を獲得している。GIB社は電池に関連する数百件超の特許ポートフォリオを有しており、これにより事業が強力に保護されていたことも、ライセンスにつながった一因であると考えられる。収益という観点だけでなく、ARACT社がLFPバッテリー事業に本格参入し、インドで製造設備を立ち上げることは、インド全体の関連技術の底上げや、中国や韓国からの輸入に依存していたインドの電池産業の国内生産へのシフト、ひいてはインドにおけるEV車普及の推進という点で、インドの社会課題解決的な意味合いも大きいものであると考えられる。

    特許を活用した収益獲得・社会貢献を行う方法としては、事例にあった特許の無償解放、同業他社への有償ライセンスの他にも、パテントプールなどを利用した知財の共同利用、途上国に対する技術移転など、様々な選択肢が存在する。

    また、どのような技術領域については自社単独で実施し、どのような技術領域を他社にライセンス・解放していくかについては、戦略的な棲み分けが重要である。自社単独と他社共同のどちらで技術の社会実装を進めた方が効率的かということを基礎として、事業展開国、コア/ノンコア事業領域などの観点から技術を切り分け、それぞれの領域ごとに適切な事業・知財計画を進めていく、オープン・クローズ戦略が不可欠となる。
    このように、サステナブルな社会と企業経営を実現していくためには、戦略的な特許出願に基づいた知財ポートフォリオの構築、オープン・クローズ戦略の構築、ライセンスによる投資回収、そして技術移転を通じた社会貢献という観点を意識したアクションが重要になる。

4.まとめ

サステナビリティへの取り組みは、今や企業にとって避けて通れない義務となっており、今後各社が開発に注力すべき分野であると考えられる。その中において、サステナビリティ製品をいかに収益につなげていくかを戦略的に考え、実行していくことこそが、企業自身の持続可能性を高め、真のサステナビリティの実現につながる。サステナビリティはグローバルでの課題であることから、適切な知財戦略の立案と実行を通じて業界・国単位での技術水準向上に貢献することは、グローバルでの事業の成功や社会貢献にもつながる可能性を有している。

サステナビリティ領域の技術について、自社の持続的な利益の確保と社会貢献を両立するためには、適切な特許出願・権利化により自社技術の保護を図ることが重要となる。また自社単独での事業を通じたサステナビリティ技術の社会実装にはリソースの観点から限界があるため、他社へのライセンス・技術移転を通じてサステナビリティ関連の知財を普及させることで、よりインパクトの大きい社会貢献に繋げることも視野に入れる必要がある。他社へのライセンス・技術移転を行う際には、自社の利益の確保と社会貢献をトレードオフにするのではなく、これらを両立するための高度な知財戦略の立案能力が求められる。その際には、標準規格などのルールメイクとそれにあわせた知財戦略の構築、自社単独で社会実装すべき領域と他社に社会実装を託した方が効率的な領域(事業展開国、ノンコア事業領域など)を棲み分けるオープン・クローズ戦略の構築をすることが不可欠となる。

サステナビリティへの取り組み  知財戦略の策定・推進から社会貢献・収益につなげるまで

参考

  1. サステナビリティ市場規模・シェア分析 - 成長動向と予測(2025年〜2030年)
    https://www.mordorintelligence.com/ja/industry-reports/sustainability-market
  2. INTEGRATED REPORT 2024
    https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/ar2024.pdf
  3. Ecocem announces ACT: next gen low carbon cement technology
    https://www.ecocemglobal.com/en-gb/ecocem-announces-act-next-gen-low-carbon-cement-technology/
  4. Ecocem Achieves ASTM C1157 Certification, Signaling U.S. Market Readiness for Breakthrough Low-Carbon Cement
    https://www.ecocemglobal.com/en-us/ecocem-achieves-astm-c1157-certification-signaling-u-s-market-readiness-for-breakthrough-low-carbon-cement/
  5. ダイキン工業株式会社 積極的なオープン戦略により規制緩和と 販路拡大を実現
    https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/sesaku/open-close/pdf/case-studies_open-close_5.pdf
  6. 特許の無償開放で、世界中に「共通の土俵」を創る
    https://www.jpo.go.jp/news/koho/kohoshi/vol58/01_page4.html
  7. Amara Raja Announces Strategic Technology Collaboration with Gotion-InoBat-Batteries (GIB)
    https://www.amararaja.com/press_release/amara-raja-announces-strategic-technology-collaboration-with-gotion-inobat-batteries-gib/

執筆者

合同会社デロイト トーマツ
知的財産アドバイザリー
パートナー 國光 健一
シニアマネジャー 大島 裕史
シニアコンサルタント  福田 彩
コンサルタント 相本 智美
コンサルタント 井上 翔太 

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