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中国、エネルギーを武器にAI覇権を狙う

FA Innovative Senses 第20回

本稿はAI発展に不可欠である安価なエネルギー供給に関する中国の動向と、中国政府によるAIとエネルギーの融合を促進する戦略を紹介する。

はじめに

AI(人工知能)は、米中競争が最も激しい分野の一つである。AIデータセンターに対し安価かつ安定的な電力供給が可能かどうかは、将来のAI競争に大きな影響を与える。また、気候変動問題に対する世間の関心が高まっている中、将来のデータセンターで使用する電力は再生可能エネルギー(以下「再エネ」)や原子力などのクリーンな電力でまかなうことが求められる。同時に、AI技術の活用は、エネルギー利用効率の向上、新材料や新技術の開発期間の短縮、送配電グリッドの有効活用などエネルギーシステムの脱炭素化にも寄与する。中国は、世界最大級のクリーンエネルギー市場およびクリーンエネルギー技術の輸出国であり、こうした優位性を将来のAI発展にも活かすとともに、AIの活用によって安全でスマートかつグリーンな次世代エネルギーシステムの構築も図る。

Energy for AI(AIに安価かつクリーンな電力供給)

中国では、2021年に8か所のデータセンターのハブが選定された。データ使用量が多い北京、上海、深セン、成都などの大都市およびその周辺エリアに加え、再エネ資源が豊富な内モンゴル、甘粛、寧夏、貴州なども含まれている。2025年末までに新設されるデータセンターの6割はハブに設置され、ハブに新設のデータセンターの電力需要の8割を再エネ電力でまかなう目標が定められた。

中国では、水力発電の大半は南西部に位置しており、同地域で安価な水力発電の調達が可能だ。西部では太陽光(PV)発電および陸上風力の調達コストが他地域よりも低価格だ(図表1)。中国では、PV発電および陸上風力発電の買取価格が当該地域の石炭火力発電を超えないよう規定されているため、再エネ電力の利用はデータセンターの運転コストの低減にも寄与する。


図表1:中国の一部地域の再エネ電力の買取価格水準

*1):2025年6月1日以降稼働開始した案件の買取価格(入札で決定、入札実施した地域のみ)
*2):2025年6月1日以降稼働開始した案件の買取価格入札の上限と下限(これから入札実施する地域)
*3):2025年6月1日以前稼働開始した案件の買取価格(地方政府によって設定)
注1:1人民元=21日本円で換算。
注2:中国では、2025年6月1日以降に稼働開始した再エネ発電プロジェクトについては、電力取引市場に売電する方針が2025年2月に定められた。経過措置として、2025年6月1日以前に稼働開始したプロジェクト(買取価格は地方政府によって設定)および2025年6月1日以降に稼働開始したプロジェクトの一部は値差補填(Contract for Difference: CfD)メカニズム(適用枠は地方政府が決定し、売電価格は地方政府に実施された入札で決定される)に適用する。
参考:各地方政府の公表等を基に筆者整理

PV発電や風力発電の出力が天候状況によって変動するため、データセンターの電源として使用する場合には、エネルギー貯蔵設備の併設や精緻な出力制御が求められる。そのため、風力発電・PV発電・エネルギー貯蔵・データセンターを一体化したプロジェクトの建設も増えてきつつある。再エネ発電プラントの近くにデータセンターを設置することで、送配電システムへの負荷も軽減できるようになる。

AI for Energy(エネルギー分野におけるAI利用拡大)

中国政府は、エネルギー分野におけるAIの利用拡大も推進している。2025年9月には、AIとエネルギーの融合を促進する政府戦略が公表された。同戦略では、AI利用の具体的なシーン(図表2)が示されたほか、2027年までに5つのエネルギー分野のAIモデルの構築、10件のパイロットプロジェクトの実施、2030年までに当該領域で世界トップ水準を達成することなどの目標が掲げられている。

目標の実現に向けて、パイロットプロジェクトの実施に加え、データ基盤の整備や利用ルールの策定、AIインフラの整備や活用などにおいても政府による支援が想定される。将来的には、国際標準化への関与の強化や、海外市場の開拓も目論む。中国では、エネルギー分野のみならず、物流や、医療および公衆衛生などの分野におけるAI利用拡大の推進策も続々と打ち出されている。


図表2:中国のエネルギー分野のAI利用促進戦略に定められた具体的なシーン

参考:中国政府公表の政策をベースに筆者整理
https://www.nea.gov.cn/20250908/8a90bf7f17b141038fe7be0988a2c603/c.html

おわりに

AIとクリーンエネルギーは今後の経済成長において重要な領域である。中国はクリーンエネルギー分野で世界をリードする存在へと成長してきた。AIについては、技術面で米国と差があるものの、安価かつ安定した電力供給や、エネルギー分野などにおけるAIモデルの実用化促進を、将来のAI競争を勝ち抜くための戦略として政府が積極的に後押ししている。 

執筆者

合同会社デロイト トーマツ
エコノミクスサービス
マネジャー 闞 思超

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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