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政治、経済、社会情勢などの企業活動に影響を与える事象に関して、北米、中南米、欧州、中東、アフリカ、アジア・オセアニアの各地域ごとに、最新状況を踏まえ考察します。
エグゼクティブサマリー
- トランプ米政権の不確実性は依然として収束が見られず、世界の政治・経済・社会全般のリスクの高まりが憂慮される。
- ガザ情勢は依然として混とんとしているが、国際社会がイスラエルとパレスチナによる2国家解決を求めていることや、トランプ米政権が新たな停戦案を呈示するなど、前向きな兆候も出てきている。
1. 北米
【政治】
米連邦政府一部閉鎖
- 2025年10月1日、米連邦政府は、連邦議会で10月1日以降の政府予算案が米東部時間1日午前0時までに成立しなかったため、一部政府機関の閉鎖に入った。緊急性の高い職場以外の政府職員は自宅待機となり、経済関係の統計なども公表停止となっている。長期化するとなれば社会や経済に深刻な混乱を招くことが危惧される。閉鎖は第1次トランプ政権下の2018年12月から翌月にかけての35日間以来となる。
2.中南米
【政治】
ベネズエラと米国の間の緊張が高まる
- 米軍は8月下旬、カリブ海南部に急襲揚陸艦を含む水上艦7隻、原子力潜水艦及び4500人規模の兵士を派遣した。一部の軍艦にはトマホークミサイルが搭載されている。トランプ政権は、ベネズエラの犯罪組織をマドゥロ大統領が主導していると主張し、マドゥロ氏の逮捕に向けた懸賞金をそれまでの2倍に増やした。この動きは1989年12月の米軍によるパナマ侵攻により同国の指導者であるノリエガ最高司令官を逮捕した事例と酷似しており、今後の成り行きが注目される。
- ベネズエラのマドゥロ大統領は9月29日、「自国の防衛と安全保障」を目的に大統領権限を強化する法令に署名した。この法令は米軍から攻撃を受けた場合に備えたものである。この背景には、上記のように麻薬組織撲滅のため米国が軍艦をベネズエラ近海に派遣し、ベネズエラ領内においても麻薬密売組織に対する軍事行動を検討していると報じられているからである。ベネズエラ政府は警戒を強めている。
3.欧州
【政治】
フランス内閣不信任・総辞職・内政混乱
- フランスの議会下院で、財政再建計画への支持を訴えるバイル首相の信任投票が行われ、反対多数で不信任となったため、バイル首相はマクロン大統領に辞表を提出し、内閣総辞職した。マクロン大統領は9日、新首相にコルニュ前国防相を任命した。フランスでは近年の新型コロナウイルスやインフレなどへの対策で財政が悪化したため、政府は年金改革などで財政健全化を目指した。しかしマクロン大統領はこれらの政策を議会での投票を得ずに行ったため強権的との批判を浴び、更にバイル前首相が財政再建のため祝日削減を提案したことで市民の爆発的不満を誘発した。これに野党が呼応したことから政局が混乱してきている。フランスでは過去2年足らずの間に5人目の首相を迎えることとなり、マクロン大統領の第2期を特徴づける迷走が印象的なものとなっている。
- フランス各都市で9月18日、政府の財政再建策に抗議するデモとストライキが発生し、最大90万人が参加した。パリやマルセイユではデモ隊と治安部隊が衝突したほか、公共交通機関が停止するなどの影響が出ている。
- 10月2日、フランス全土で、政府が打ち出した年金支給額の実質削減や公務員の削減、歳入を増やすための祝日を2日削減するなどの痛みを伴う予算案に反発し、一般企業や公務員などの労働組合への呼びかけによる大規模な抗議デモが行われ、約20万人が参加した。コルニュ首相は一部予算案の撤回を表明したが財政赤字は深刻化しており、混乱はしばらく続くものとみられる。
モルドバ総選挙
- 9月28日に行われたモルドバ総選挙で、EU加盟を標榜する親欧米のサンドゥ大統領が率いる与党が過半数を獲得し、親ロシア野党連合を破り、勝利した。親ロシア派は結果に異議を唱え、デモを呼びかけたが、大きな混乱はなかった。
英国マンチェスターで反ユダヤテロ事件
- 英国マンチェスターのユダヤ教会堂(シナゴーグ)で、車と刃物を使ったとみられるテロ事件が発生し、3人が死亡、3人が負傷した。当日はユダヤ教にとって最も神聖な祭日「ヨム・キプール」で、大勢が会堂に集まっていた。
- ガザ情勢が緊迫するに伴い、欧州各地で反ユダヤ事件が発生しており、今後も同様な事件の頻発が危惧される。
4.中東
【政治】
イスラエル・ガザ地区における戦闘
- 2023年10月に勃発したイスラエルとハマスの戦闘は、ガザ地区での激しい空爆と地上戦が続いていた。同地区の人道問題等が国際社会の高い関心を集め、数多くの国が停戦交渉を仲介したが、なかなか進まない状況が続いていた。
- 2024年5月31日、当時のバイデン米大統領は「ガザ地区にいるイスラエル人の人質解放と引き換えにイスラエルが戦闘休止をする」という提案を明らかにした。この提案は3段階で構成されている。第1段階は6週間の戦闘休止でこの期間はイスラエル軍がガザから撤退し、イスラエル人人質が数百人のパレスチナ囚人と交換される。第2段階ではハマスとイスラエルが敵対行為の恒久的停止の条件について交渉し、第3段階でガザ地区の大規模な復興計画を策定するものである。この提案はイスラエル側からの提案とされているが、イスラエル閣内の強硬派から反対の意向も示されていた。
- ガザ地区での停戦と人質解放に向けた協議は、イスラエルとハマスの主張の隔たりが大きく交渉は停滞していたが、2025年1月6日までに英国やアラブのメディアが一斉に、ハマスが34人の人質解放に同意したと報じた。
- イスラエル政府は2025年1月18日、ハマスと合意したガザ地区での1月19日から6週間の停戦と人質解放の枠組みについて正式に承認したと発表した。
- 米国は5月30日、ハマスが人質10人を2回に分けて解放するのと引き換えに60日間停戦するという新たな停戦案を呈示した。この案にイスラエルは同意したが、ハマスは新たな条件を提示するなど停戦協議は難航している。
- イスラエルのガザ地区における軍事的な対応に関して世界中に反発が広がっており、世界各地で反ユダヤ的な事件が頻発している。
- 7月29日、ガザの保健当局は、2023年10月の戦闘開始以降のガザ側死者が60034人になったと発表した。イスラエルによる支援物資の搬入制限で、住民の餓死も相次いでいる。人道危機が深刻化し、イスラエルに対する国際社会の批判は急拡大している。
- 8月10日、イスラエルのネタニヤフ首相は「われわれの目標はガザ地区の占領ではなく、ハマスからガザ地区を解放することだ。ハマスが武器を置き、すべての人質を解放すればすぐに戦争は終わる」と述べ、イスラエルが決定したガザ地区での軍事作戦拡大を正当化した。イスラエルの強硬姿勢に対しては国際社会から一斉に批判が噴出している。
- ガザ停戦交渉について、イスラエルとハマスの直接交渉は7月末から中断しているが、8月12日、ハマスの代表団が仲介国のエジプトを訪れて政府高官と話し合ったことを明らかにするなど、協議の再開を模索する様子が報じられ始めている。今後の国際世論の動きなどが注目される。
- イスラエルでは8月以降、人質解放を求めたデモが頻発していたが、イスラエルによるガザ地区での強硬的な軍事行動の拡大に伴い、9月以降は過激な軍事行動への批判やネタニヤフ首相退陣を求めるものに変化してきている。国際社会も過激な軍事行動について極めて厳しくイスラエルを非難しており、今後の成り行きが注目される。
- 9月29日、トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相がホワイトハウスで会談し、新たな和平計画で合意したと発表した。この計画には、軍事作戦の即時停止、生存している20人のイスラエル人人質とすでに死亡している人質20人以上の遺体をハマスが引き渡すこと、イスラエルが拘束しているガザ住民数百人を解放するなどが含まれている。トランプ米大統領は、この停戦案はアラブ諸国、イスラム諸国が同意していると主張しているが、真偽は不明であり、これまでのことを考えると、今後の展開は全く不透明である。
パレスチナ国家承認に向けた動き
- 現在全世界150カ国以上がパレスチナを国家承認しているが、欧米先進国、特にG7の国々は国家承認していない。しかし最近フランスではこの件に前向きな姿勢となっており、フランスの国連大使は「パレスチナ自治区ガザでの戦争終結やパレスチナ問題に対する公正な解決策を実現するための決意を固めている。中東地域の全ての国の安定と安全の回復を希望している」と述べ、今後この風潮がG7の国々に拡大することが予想される。また、国連において6月17日から20日までフランスとサウジアラビアの共催で、イスラエルとパレスチナが国家として共存する「2国家解決」の推進をテーマに、パレスチナの国家承認が焦点の、ハイレベル国際会議が開かれる予定であった。しかし2025年6月17日、国連総会はイスラエルとイランの軍事衝突を受け、この会議の延期を正式に決めた。
- 7月24日、フランスのマクロン大統領は、「フランス国民が中東の平和を望み、平和が可能であることを証明する責任がある」としてパレスチナを国家として承認することを決めたと発表した。
- 7月29日、英国のスターマー首相は、イスラエルがガザ地区の深刻な状況を終わらせるための措置を取らなければ、9月に行われる国連総会までに、イギリスはパレスチナを国家として承認すると発表した。具体的な措置には、国連による人道支援の再開や停戦に合意すること、ヨルダン川西岸を併合しないことの保証などが含まれる。
- 7月30日、カナダのカーニー首相は、9月の国連総会でパレスチナを国家として承認する意向があると表明した。このようにG7内でもパレスチナ国家承認の意向が拡大していることは、国際社会のイスラエルに対する強力な圧力になると言える。
- 英国・フランス等がパレスチナを国家として承認する方針を示していることに対抗して、9月3日、イスラエルのスモトリッチ財務相(極右政党党首)は、占領地であるヨルダン川西岸の8割を併合するべきと主張した。これに対し、国際社会では一斉に批判する声明を発出しており、UAEは「ヨルダン川西岸の併合はレッドライン(超えてはならない一線)である」と警告した。イスラエルの強硬姿勢はアラブ社会のみならず世界中を敵に回す瀬戸際にきていると言える。
- 9月21日、英国政府とカナダ政府がパレスチナの国家承認を発表し、G7では初めての国家承認となった。オーストラリア首相府とポルトガル外務省も同日、パレスチナの国家承認を発表した。翌日には前日の英国とカナダに続きフランスもパレスチナの国家承認を正式に発表し、G7での承認は3ヵ国となった。9月22日、イスラエルとパレスチナが独立した主権国家として共存する「2国家解決」を後押しする首脳級会合が国連本部で開かれた。パレスチナを国家承認する国は160カ国近くとなり、国連加盟国全体の8割を超えたが、日本は承認を見送っておりG7の足並みは乱れている。
5.アフリカ
【政治】
モロッコで抗議行動拡大
- 9月27日からモロッコで反政府デモが始まり全土に拡大している。10月1日にはアガディールでのデモで2人が死亡する事態となり、収束の兆しは見えていない。デモ参加者の多くは若者で、昨今の高い失業率や、2030年に開催予定のサッカーワールドカップに数十億ドルつぎ込む一方で、学校や病院などの公共サービスが劣悪であることが背景となっている。昨今世界的に格差の拡大を背景にこのような若者による反政府活動が頻発しているが、モロッコも例外ではない。
ご協力ありがとうございました。