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政治、経済、社会情勢などの企業活動に影響を与える事象に関して、北米、中南米、欧州、中東、アフリカ、アジア・オセアニアの各地域ごとに、最新状況を踏まえ考察します。
エグゼクティブサマリー
- トランプ米政権の不確実性・不透明性は拡大しており、世界の政治・経済・社会におけるリスクの高まりが憂慮される。
- ガザ情勢は依然として混とんとしており、中東地域全体の地政学リスクの高まりが危惧される。
1.北米
【政治】
ロシア・ウクライナ戦争関連
- 7月14日、トランプ米大統領は、ウクライナから要望されていた防空システムを含む兵器を、NATOを通じて供与すると表明した。また、ロシアが50日以内にウクライナとの停戦に応じない場合「非常に厳しい関税を課す。およそ100%の関税、『2次関税』と呼ばれるものだ」と述べ、新たな関税措置についても表明した。
- 7月28日、トランプ米大統領は、「ロシアが50日以内に和平合意に応じなければロシアに制裁を科す」と表明したことについて、この期限を「10-12日にする」と圧力を強めた。また二次関税を課すとした期限を8月上旬に前倒しする意向も表明した。
- 9月4日、トランプ米大統領はロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の直接会談の見通しを巡り、不確実性が高まっているにもかかわらず、和平合意の実現に向けて引き続き尽力するとメディアの電話インタビューで語った。
- 10月16日、トランプ米大統領は「ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、今後ハンガリーで首脳会談を行い、ウクライナ戦争について協議を行う」ことで合意したと発表した。一方プーチン大統領は、「米国がウクライナに対し巡航ミサイル『トマホーク』を供与すれば両国関係に重大な損害を及ぼす」としてけん制した。
- 11月19日、欧米メディアは、米国とロシアの特使が28項目から成るウクライナとロシアの和平案を取りまとめたと報じた。内容は、ロシアが占領した広大な領土の割譲や軍の規模の上限設定をウクライナに求めるとともに、欧米の対ロ制裁を段階的に解除するなど、ロシアのプーチン大統領の要求を多く受け入れている。これではウクライナや欧州からの反発は必定であり、簡単にまとまりそうもない。
米連邦政府一部閉鎖
- 2025年10月1日、米連邦政府は、連邦議会で10月1日以降の政府予算案が米東部時間1日午前0時までに成立しなかったため、一部政府機関の閉鎖に入った。緊急性の高い職場以外の政府職員は自宅待機となり、経済関係の統計なども公表停止となっている。閉鎖は第1次トランプ政権下の2018年12月から翌月にかけての35日間以来となる。
- 10月14日、米上院は与党共和党主導のつなぎ予算案を否決した。医療関係予算を巡る与野党の対立で予算案が上院を通らなかったのは8度目である。10月1日から2026会計年度(25年10月~26年9月)が始まったが、予算成立の目途が立たず、政府機関の一部閉鎖は3週間目に入った。また、10日からは、政府機関の一部閉鎖に伴って自宅待機している職員の大量解雇を開始した。
- 米連邦政府の一部閉鎖は、11月5日に開始から36日となり、これまで最も長かった35日間を更新、史上最長となった。現在上院を中心に超党派の取り組みが進められているが、共和党・民主党双方がお互いを非難する状況が続いており、出口は見えてこない。
- 11月12日、トランプ大統領は、連邦政府機関の一部閉鎖を終わらせるための暫定財源を確保する「つなぎ予算案」に署名したが、政府のサービスと業務全体がどの程度の速さで完全に再開されるかは不透明である。
エプスタイン文書問題
- 2025年11月19日、トランプ大統領は、性犯罪で有罪とされ2019年に拘留中に自殺した富豪ジェフリー・エプスタインに関する資料の公開を命じる法案に署名したと発表した。同大統領は、関連資料の公表に反対していたが、最近の支持率低下や与党共和党議員からの反発等もあり方針を変えた。公表はトランプ政権に不利になる可能性もあり、今後の動向が注目される。
【経済】
関税問題
- トランプ大統領は2024年11月30日、BRICSの加盟国に対し、決済通貨は米ドルのみとするよう求めた。同氏は「我々が傍観している間にBRICS諸国が脱米ドルに向かおうとする考えは終わりだ。我々はこれらの国々に対し、新たなBRICS通貨を創設した場合100%の関税を課し、米国市場への販売を断念することになる」と述べた。
- 4月2日、トランプ大統領は貿易相手国に対し相互関税を課すと発表した。全ての輸入品に一律10%の基本関税を課した上で、各国の関税や非関税障壁を考慮し、国・地域別に税率を上乗せするものとなっている。この発表については世界中から非難が相次いでおり、国によっては報復を表明する国も出ている。また発表直後から、世界各国の金融市場で株式が大きく下落しており、世界経済の成長に急ブレーキがかかり、対米貿易に依存する各国の景気を悪化させるばかりか、米国もインフレ再燃によって不況に陥る可能性がある。世界的な景気後退の可能性が否定出来ない。
- 2025年6月4日、トランプ政権は鉄鋼製品とアルミニウムに課している追加関税を25%から50%に引き上げた。国内の鉄鋼産業を守るための措置だとしているが世界各国から反発が広がっている。
- トランプ米大統領は、関税措置を巡る交渉について、7月4日から各国に書簡を送って関税率を通知すると発表した。
- 7月15日、トランプ米大統領は、日本との関税交渉に関連し、「日本が市場を開放しなければ、7月8日の書簡で通知した通り、8月1日から日本からの輸入品に対して25%の関税措置を発動する」という可能性を示した。
- 7月31日、トランプ米大統領は各国に対する相互関税の新たな税率を発動するための大統領令に署名した。日本の税率は10%から15%に上がる。新税率は約70カ国・地域に設定し8月1日より適用を始める。新税率が示された国・地域のうち、日本を含め半分以上が15%となった。一方、ブラジルに50%の関税を課すなど、8カ国に対して新たな関税率を通知し、その書簡を公表した。それによるとブラジルの他、アルジェリア・イラク・リビア・スリランカが30%、ブルネイ・モルドバが25%、フィリピンが20%となっている。
- 8月6日、トランプ米大統領は、インドからの輸入品に25%の追加関税を課す大統領令に署名した。これは8月27日から発動するもので、インドに対しての関税が計50%となる。これに対してインド政府は強く反発しており、インド国内で米国製品の不買運動が呼びかけられている。
- 米ホワイトハウスは9月5日、トランプ大統領が先の日米合意に基づき、自動車などへの25%の追加関税を従来の税率とあわせて15%に引き下げるなどを盛り込んだ大統領令に署名したと発表した。
- 8月29日、米国の連邦控訴裁判所は、「トランプ政権が発動した相互関税などの措置は、大統領に与えられた権限を越えており無効かつ違法だ」などとした一審の決定を支持した。トランプ大統領が上訴する意向を示しているため、連邦最高裁判所が判断を示すまでは、対象となった関税措置が継続されることとなる。
- 10月15日、米通商代表部(USTR)のグリア代表は、ベッセント財務長官と異例の共同記者会見を開いた席で、中国のレアアース輸出規制を「全世界すべての国に対する経済的威圧」と述べ、中国の措置を強く非難した。
- トランプ大統領と中国の習近平国家主席が10月31日に韓国で行った首脳会談で、追加関税や輸出規制などの措置を互いに1年間停止することで合意した。
- 米政権が「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を根拠に発動した関税措置の多くを、「大統領の権限を越えており違法」と下級審(控訴裁判所)が判断したことに対し、米政権は最高裁に上訴した。2025年11月5日から口頭弁論が始まっているが、多くの最高裁判事がトランプ政権の関税措置に懐疑的な見方を示したと報じられている。下級審に続き違法判断となる可能性が高まっているが、違法判断となった場合、広範な経済的・政治的影響が危惧される。
2.中南米
【政治】
ベネズエラと米国の間の緊張が高まる
- 米軍は8月下旬、カリブ海南部に急襲揚陸艦を含む水上艦7隻、原子力潜水艦及び4500人規模の兵士を派遣した。一部の軍艦にはトマホークミサイルが搭載されている。トランプ政権は、ベネズエラの犯罪組織をマドゥロ大統領が主導していると主張し、マドゥロ氏の逮捕に向けた懸賞金をそれまでの2倍に増やした。この動きは1989年12月の米軍によるパナマ侵攻により同国の指導者であるノリエガ最高司令官を逮捕した事例と酷似しており、今後の成り行きが注目される。
- 9月29日、ベネズエラのマドゥロ大統領は「自国の防衛と安全保障」を目的に大統領権限を強化する法令に署名した。この法令は米軍から攻撃を受けた場合に備えたものである。この背景には、上記のように麻薬組織撲滅のため米国が軍艦をベネズエラ近海に派遣し、ベネズエラ領内においても麻薬密売組織に対する軍事行動を検討していると報じられているからである。ベネズエラ政府は警戒を強めている。
- 10月15日、トランプ米大統領は「ベネズエラの麻薬組織に対する地上攻撃を検討している」と述べた。これに対し、ベネズエラのマドゥロ大統領は激しく反発し、大規模な軍事演習の実施を命じた。今後の両国の対立の拡大が憂慮される。
- 11月16日、ルビオ米国務長官は、ベネズエラの麻薬組織を「外国テロ組織」に指定すると発表した。これにより米軍の地上攻撃が現実性を帯びることとなり、この地域での緊張が危惧される。
3.欧州
【政治】
ロシアによるウクライナ侵攻
- 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は3年以上を経過しているが、依然として終結の兆しが見えず、膠着状態が続いている。侵攻当初はロシア軍が首都キーウを目指していたが、諸般の事情で侵攻直後から東部、南部での攻防に重点が移っていった。2022年9月30日にロシアは東南部4州の併合を宣言した。その後ロシア軍は、一時掌握した領土を奪還されるなど、劣勢に追い込まれることもあったが、契約軍人などで兵力を増強するとともにイラン等から購入したミサイルや無人機、大量の弾薬も使いながら攻勢を強めて主導権を取り戻し、2024年2月ウクライナ側の拠点、東部アウディーイウカの掌握を発表した。一方ウクライナ軍は2023年6月、東部や南部で反転攻勢を開始したがロシア側が築いた強固な防衛線の前に進軍を拒まれた他、砲弾など欧米の軍事支援が停滞するなどして作戦は思うように進んでいない。ウクライナ軍は2024年8月から、ロシア領内クルスク州等に越境攻撃を行っているが膠着状態となっている。ロシアとウクライナの直接交渉が5月16日にトルコ・イスタンブールにおいて行われたが、捕虜交換以外はほとんど進展がなく終了した。
- ウクライナとロシアの2回目の直接協議が6月2日にトルコのイスタンブールで行われたが、両国の主張の隔たりが大きく、大きな進展もなく終了した。
- プーチン大統領は6月19日、サンクトペテルブルクで記者会見をし、ロシアが提示した和平条件にウクライナが合意しなければ「彼らにとっての状況はさらに悪化する」と述べ、直ちに合意するように求めた。
- 2025年7月3日、トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領が電話会談を行った。トランプ大統領は、「ウクライナ戦争終結に向けた取り組みに進展は全く見られなかった」と述べ、一方のプーチン大統領も「『根本的原因』を取り除くというウクライナ侵攻の目的を取り下げることはない」との立場を改めて表明した。
- 既述の通り、トランプ米大統領は7月14日、ウクライナから要望されていた防空システムを含む兵器をNATOを通じて供与すると表明した。また、ロシアが50日以内にウクライナとの停戦に応じない場合「非常に厳しい関税を課す。およそ100%の関税、『2次関税』と呼ばれるものだ」と述べ、新たな関税措置をとると表明した。この背景にはトランプ米大統領のプーチン大統領に対するいら立ちを挙げることができる。
- 7月23日、ロシアとウクライナの代表団による3回目の直接交渉がトルコのイスタンブールで行われた。新たに1200人規模の捕虜交換を実施することで合意したが、それ以外のことについては立場の隔たりが大きく、停戦に向けた具体的な進展は見られなかった。
- 2025年8月15日のアラスカでの米ロ首脳会談において和平交渉が行われた。停戦に向けた合意には至らずに終了したが、プーチン大統領にとっては、米ロ首脳会談を実現することで、ウクライナ侵攻以来の国際的な孤立から脱し、米国による追加的な制裁を科されなかった点で、大きな外交上の勝利であったと言える。
- 9月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領と欧州首脳らは、パリでウクライナ支援の有志国連合の会合を開いた。フランスのマクロン大統領によると、ロシアとの和平合意が成立した暁には、ウクライナに対する「安全の保証」の一環として26カ国がウクライナに部隊を派遣する用意があると表明した。派遣場所等、具体的な方策は不明である。
- 既述の通り、ロシアの意向に沿った和平案が報じられているが、反発は必定であり、和平交渉の難航・長期化が憂慮される。
4.中東
【政治】
イスラエル・ガザ地区における戦闘
- 2023年10月に勃発したイスラエルとハマスの戦闘は、ガザ地区での激しい空爆と地上戦が続いていた。同地区の人道問題等が国際社会の高い関心を集め、数多くの国が停戦交渉を仲介したが、なかなか進まない状況が続いていた。
- 2024年5月31日、当時のバイデン米大統領は「ガザ地区にいるイスラエル人の人質解放と引き換えにイスラエルが戦闘休止をする」という提案を明らかにした。この提案は3段階で構成されている。第1段階は6週間の戦闘休止でこの期間はイスラエル軍がガザから撤退し、イスラエル人人質が数百人のパレスチナ囚人と交換される。第2段階ではハマスとイスラエルが敵対行為の恒久的停止の条件について交渉し、第3段階でガザ地区の大規模な復興計画を策定するものである。この提案はイスラエル側からの提案とされているが、イスラエル閣内の強硬派から反対の意向も示されていた。
- ガザ地区での停戦と人質解放に向けた協議は、イスラエルとハマスの主張の隔たりが大きく交渉は停滞していたが、2025年1月6日までに英国やアラブのメディアが一斉に、ハマスが34人の人質解放に同意したと報じた。
- イスラエル政府は2025年1月18日、ハマスと合意したガザ地区での1月19日から6週間の停戦と人質解放の枠組みについて正式に承認したと発表した。
- 米国は5月30日、ハマスが人質10人を2回に分けて解放するのと引き換えに60日間停戦するという新たな停戦案を呈示した。この案にイスラエルは同意したが、ハマスは新たな条件を提示するなど停戦協議は難航している。
- イスラエルのガザ地区における軍事的な対応に関して世界中に反発が広がっており、世界各地で反ユダヤ的な事件が頻発している。
- 7月29日、ガザの保健当局は、2023年10月の戦闘開始以降のガザ側死者が60034人になったと発表した。イスラエルによる支援物資の搬入制限で、住民の餓死も相次いでいる。人道危機が深刻化し、イスラエルに対する国際社会の批判は急拡大している。
- 8月10日、イスラエルのネタニヤフ首相は「われわれの目標はガザ地区の占領ではなく、ハマスからガザ地区を解放することだ。ハマスが武器を置き、すべての人質を解放すればすぐに戦争は終わる」と述べ、イスラエルが決定したガザ地区での軍事作戦拡大を正当化した。イスラエルの強硬姿勢に対しては国際社会から一斉に批判が噴出している。
- ガザ停戦交渉について、イスラエルとハマスの直接交渉は7月末から中断しているが、8月12日、ハマスの代表団が仲介国のエジプトを訪れて政府高官と話し合ったことを明らかにするなど、協議の再開を模索する様子が報じられ始めている。今後の国際世論の動きなどが注目される。
- イスラエルでは8月以降、人質解放を求めたデモが頻発していたが、イスラエルによるガザ地区での強硬的な軍事行動の拡大に伴い、9月以降は過激な軍事行動への批判やネタニヤフ首相退陣を求めるものに変化してきている。国際社会も過激な軍事行動について極めて厳しくイスラエルを非難しており、今後の成り行きが注目される。
- 9月29日、トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相がホワイトハウスで会談し、新たな和平計画で合意したと発表した。この計画には、軍事作戦の即時停止、生存している20人のイスラエル人人質とすでに死亡している人質20人以上の遺体をハマスが引き渡すこと、イスラエルが拘束しているガザ住民数百人を解放するなどが含まれている。
- 10月10日、イスラエル政府は、ハマスと和平案の第一段階に合意したと発表した。13日には生存しているイスラエル人人質20人全員が解放された。しかし当初予定されていた28人の遺体返還が遅れている。
- 現在ガザ地区では停戦合意が発効しているが、戦闘行為が完全に停止しているわけでもなく、緊張状態が続いている。
- 11月19日、イスラエル軍はハマスが「停戦合意違反」をしたとして、ガザ地区各地を攻撃した。停戦合意が維持されるか否かは極めて微妙な情勢である。
5.アジア・オセアニア
【政治】
パキスタン情勢
- パキスタン政府は10月29日、アフガニスタン国境地帯での武力衝突の停戦維持に向け、イスラム主義組織タリバーン暫定政権とトルコで開いていた協議が決裂したことを明らかにした。10月に入り激化した衝突はカタールとトルコの仲介で即時停戦に合意したが維持されるか否か不透明である。
- 11月10日夕方、インド・ニューデリー北東の観光地で自動車による自爆テロが発生し13人が死亡、20人が負傷した。自爆犯はパキスタンと領有権を争うカシミール地方出身の医師とされている。また11月11日に、パキスタンのイスラマバードの裁判所近くで自動車による自爆テロが発生し、12人が死亡、27人が負傷したが、パキスタン政府は、敵対するインド政府が関与していると非難している。この2つのテロの関連は不明であるが、歴史的に、インド・パキスタン関係の緊張化や両国の内政が不安定化すると両国内でテロが頻発する傾向にあることから、今後が憂慮される。
フィリピンにおける汚職疑惑
- 2025年9月以降フィリピンでは、政府の大規模な汚職疑惑に端を発した抗議デモが続いており、特に過去15年にわたる洪水対策プロジェクトにおける巨額の公金不正使用が国民の怒りを買っている。マルコス政権は事態解明を急いでいるが、デモ収束の兆候は見えず、政治・経済への影響が憂慮される。
ご協力ありがとうございました。