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量子実用化社会に向けた企業変革― 2030・2040年に向けて、いま何を始めるべきか

量子コンピュータの本格的な実用化が期待される2030~2040年。産業構造や社会全体に大きなインパクトをもたらす技術として世界が注目する一方で、日本企業の対応はまだ限定的です。本稿では、将来の実用化を見据えて、今まさに企業が着手すべき「量子戦略」の構築と人材育成の重要性を解説します。

実用化のタイミングで動いていては遅い

量子技術は日進月歩で進化しており、誤り訂正技術の進展や中性原子を用いたアーキテクチャの実証により、当初よりも早期に実用段階へ進む可能性が指摘されています。しかし、「実用化されてから考えよう」という姿勢では、必要な人材、知識、組織体制が間に合わず、機会を逃してしまうリスクがあります。そもそも量子コンピュータは、これまでのコンピュータと比較して操作方法から異なります。扱える人の育成だけでも3年~5年はかかってしまうでしょう。実際、世間で報道される量子コンピュータ関連のニュースは、一般の人では理解しづらいのではないでしょうか。

デジタル変革でも、日本企業は「気づいた時には海外勢が先行していた」という苦い経験をしています。量子についても同じ轍(てつ)を踏まないために、数年単位での中長期的な準備が必要なのです。早めに動き出すことで、競争優位を築くためのチャンスをつかむことができます。

下の図は実用化に向けた備えとしてのステップを紹介しています。2030年以降に想定される量子実用化社会において、自社はどのようなポジションを目指すのか。その問いに答えるための準備は、今日から始めるべきです。小さな一歩でも構いません。社内で1〜2名のエンジニア、1名のビジネス人材を選定し、まずは量子アルゴリズムを体感してみる。それが、未来の量子戦略を築く大きな一歩になります。


企業に求められる「量子への手触り感」

量子技術は非常に専門性が高く、また新しいため、ユースケースに対してわかりやすい論文も少ない状態です。自分たちがやりたいユースケースについては論文を読むだけでなく、実際にやってみないとわからないことが多々あります。実際に動かしてみると、量子コンピュータで何ができるのか、どんなことならやっていけるのかということが肌感で分かるようになります。

量子における主要なアプリケーションは下図のように組み合わせ最適化、AI含むデータ科学、計算機シミュレーション、および暗号解読が見込まれています。自社の取り組みが、どのアプリケーションと相性がよいかを考えていくことから始めるといいでしょう。

こうした取り組みを通じて、モチベーションの高い人材を発掘・支援し、小さくても量子プロジェクトを始めることが有効です。
 

「戦略なき実証」ではなく、「戦略と実践の往復運動」へ

量子技術の導入においては、PoC(概念実証)だけに注力しても十分ではありません。重要なのは、事業との接続を見据えた戦略設計と、その仮説を検証するためのPoCがセットになっていることです。

とはいえ、現時点で精緻な長期戦略を描くのは難しい側面もあります。そのため、「仮説としての戦略」を立て、PoCを通じて得られる知見で戦略を磨き上げていく“往復運動”が効果的です。デロイト トーマツでは、こうした探索的なプロセスを支援するために、量子領域に特化した専門人材とグローバルネットワークを活用しています。
 

量子時代の競争優位は、今の一歩から始まる

デロイト トーマツでは、量子コンピュータ開発の米QuEraと日本での量子産業発展の加速を目指す戦略的協業を開始しています。アカデミアクラスの実力を持ったチームで、技術調査から人材育成、実証設計、実装支援に至るまで、一気通貫の量子導入支援を提供しています。量子技術という“未知”に触れることが、やがて“確信”に変わるプロセスを、私たちはともに設計していきます。

 

※本ページの記載情報は記事公開時点のものです。

補足)
文中、量子力学の原理を利用したハードウェアを指す場合は「量子コンピュータ」、ソフトウェアや理論など、量子コンピュータを使った計算手法や技術全般を含む場合は「量子コンピューティング」、更に量子暗号通信や量子センシングなども含む場合は総称して「量子技術」記載しています。
 

執筆者

寺部 雅能/Terabe Masayoshi
デロイト トーマツ グループ 量子技術統括

日本の量子プロジェクトを統括。
自動車系メーカー、総合商社の量子プロジェクトリーダーを経て現職。量子分野において数々の世界初実証や日本で最多件数となる海外スタートアップ投資支援を行い、広いグローバル人脈を保有。国際会議の基調講演やTV等メディア発信も行い量子業界の振興にも貢献。著書「量子コンピュータが変える未来」。ほか、経済産業省・NEDO 量子・古典ハイブリッド技術のサイバ-・フィジカル開発事業の技術推進委員長など複数の委員、文科省・JSTの量子人材育成プログラムQ-Quest講師、海外量子スタートアップ顧問も務める。過去に、カナダ大使館 来日量子ミッション・スペシャルアドバイザー、ベンチャーキャピタル顧問、東北大学客員准教授も務める。

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