2026年7月20日公開
企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2026年6月2日に以下の会計基準および移管指針を公表した1。
本稿では、これらの会計基準および移管指針について解説する。
改正前の企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)では、金融資産の譲渡において、譲受人が一定の要件を充たす特別目的会社である場合、当該特別目的会社が発行する「証券」の保有者を当該金融資産の譲受人とみなして第9項(2)の金融資産の消滅の認識要件を適用するとされていた。一方で、特別目的会社に対して貸付けが行われる事例があることを踏まえて、「証券」の範囲を明確化することにつき2024年11月に開催された第52回企業会計基準諮問会議で議論がなされ、2024年12月に開催された第537回企業会計基準委員会において譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲の明確化について検討することが企業会計基準諮問会議より提言された。これを受けてASBJで審議が進められた結果、2026年2月27日に以下の公開草案が公表された。その後、ASBJに寄せられたコメントを踏まえて検討が行われ、公開草案の内容を一部修正した上で今回の公表に至ったものである。
特別目的会社に対する融資者の取扱い
金融商品会計基準第9項(2)は、「譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること」を金融資産の消滅の認識要件の1つとして定めている。改正前の金融商品会計基準では、金融資産の譲受人が一定の要件を充たす特別目的会社である場合には、当該特別目的会社が発行する「証券」の保有者を当該金融資産の譲受人とみなして第9項(2)の金融資産の消滅の認識要件を適用するとされていた。しかしながら、「証券」の保有者の範囲に特別目的会社に対して貸付けを行っている融資者が含まれるかどうかが不明確であり、証券の保有者だけでなく特別目的会社に対する融資者も譲渡された金融資産から生じる収益を享受している場合に、譲渡人が譲渡した金融資産の消滅の認識をどのように評価するのかが不明確であった。
この点、金融商品会計基準第9項(2)の要件の趣旨は、投下したキャッシュ・フローの対価として譲渡された金融資産から生じるキャッシュ・フローを譲受人が実質的に受け取ることができるかどうかにより評価することを求めるものであり、譲受人が一定の要件を充たした特別目的会社の場合には、金融資産を直接的に譲り受けた特別目的会社ではなく、特別目的会社が発行する証券の保有者の観点から、譲渡された金融資産から生じるキャッシュ・フローを実質的に受け取ることができるかどうかの評価を求めるものであったと考えられる。
金融商品会計基準第9項(2)の要件の趣旨を踏まえると、譲渡された金融資産から生じるキャッシュ・フローを実質的に受け取ることができるかどうかという観点からの評価においては、特別目的会社が発行する証券を保有している投資者と特別目的会社に対して貸付けを行っている融資者とで異なる取扱いを設ける特段の理由はないと考えられるため、改正金融商品会計基準において、図表1及び図表2の通り、特別目的会社に対する融資者を特別目的会社に対する投資者と同様に取り扱うこととされた(改正金融商品会計基準(注4))。
なお、改正金融商品会計基準(注4)の適用において、「事業目的を遂行する上でキャッシュ・フローを調整するための借入れ(例えば、証券を完売するまでの借入れ、又は特別目的会社に対する投資者等への配当、利払い及び償還等のための借入れ)を行う場合」(改正金融商品実務指針第35項④)における特別目的会社に対する融資者は一時的な資金提供を行う者であることから、特別目的会社に対する投資者等には該当しないと考えられる旨が、改正金融商品会計基準の結論の背景に記載されている(改正金融商品会計基準第58-3項)。このような一時的な資金提供を行う者は、譲渡された金融資産から生じるキャッシュ・フローを実質的に受け取ることを目的として融資を行っているものではないと考えられるため、特別目的会社に対する投資者等には該当しないと考えられるとされたが、「一時的な資金提供」かどうかに関しては、形式的な期間の長さだけで判断するのではなく、基準の趣旨に照らして、個々の取引の実態に応じて「一時的な資金提供」かどうかを実質的に判断することになる(企業会計基準公開草案第97号「金融商品に関する会計基準(案)」等に対するコメント2)。
金融商品実務指針第40項の取扱い
譲渡人が特別目的会社の発行する証券等を保有することになる場合、当該保有部分の譲渡はなかったものとする移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(「金融商品実務指針」という。「金融商品会計基準」と合わせて「金融商品会計基準等」という。)第40項の取扱いにおいても、譲渡人が、譲渡された金融資産から生じるキャッシュ・フローを実質的に受け取ることになる部分については、譲渡はなかったものとする趣旨であると考えられるため、特別目的会社に対する融資者を特別目的会社に対する証券の保有者と同様に取り扱うことが明示された。
① 適用時期
特別目的会社を譲受人とする金融資産の譲渡を行う企業は、通常、会計上の取扱いを十分に検討した上でスキームを構築していると考えられること、金融商品会計基準等の改正は、検討を進めている金融資産の譲渡の会計処理に影響を与える可能性があり一定の準備期間が必要と考えられることを踏まえ、改正金融商品会計基準等は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後実施される金融資産の譲渡から適用することとされている(改正金融商品会計基準第41項(7)、改正金融商品実務指針第195-21項)。
早期適用については、できる限り速やかに適用可能とすることに対するニーズが存在することを考慮し、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後実施される金融資産の譲渡から適用できることとされている(改正金融商品会計基準第41項(8)、改正金融商品実務指針第195-21項)。
② 経過措置
特別目的会社を譲受人とする金融資産の譲渡を行う企業は、会計上の取扱いを十分に検討した上で、金融資産の譲渡に係るスキームを構築し実行していると考えられることから、スキーム実行時に想定していなかった会計処理となるように遡って見直すことは、原則として求めるべきでないとし、改正金融商品会計基準等の適用前に実施された金融資産の譲渡について、会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないこととされている(改正金融商品会計基準第44-3項、改正金融商品実務指針第196-2項)。
特別目的会社が当該特別目的会社に資産を譲渡した企業の子会社に該当するかどうかの評価においても、特別目的会社の発行する証券を保有している投資者と特別目的会社に対して貸付けを行っている融資者とで異なる取扱いを設ける特段の理由はないと考え、改正連結会計基準第7-2項において、特別目的会社が発行する証券の所有者に、資産の流動化に関する法律(平成10年法律第105号)(以下「資産流動化法」という。)第2条第12項に規定する特定借入れに係る債権者が含まれる旨が追加された(改正連結会計基準第7-2項、第49-8項)。ここで、改正前の第7-2項では、資産流動化法第2条第3項に関連付けて特別目的会社に資産を譲渡した企業の子会社に該当するかどうかに関する定めが設けられていたため、改正連結会計基準では、資産流動化法及び関連する他の法令で用いられている表現と整合させた表現が用いられている。
改正連結会計基準は、改正金融商品会計基準の改正を踏まえて審議したものであるため、改正金融商品会計基準の適用時期と整合的に、2027年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から将来にわたって適用することとしつつ、2026年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から将来にわたって適用できることとされている(連結会計基準第44-7)。
1 リンク先のASBJのホームページを参照のこと。
(https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards/y2026/2026-0602.html)