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「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」の概要(業種別委員会研究資料第2号)

「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」の概要 第一回目

詳細はこちら

2026年10月20日公開

「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」の概要 第二回目

1. はじめに

日本公認会計士協会は、2023年11月20日に業種別委員会研究資料第2号「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」(以下「本研究資料」という。)を公表し、その後の環境変化を踏まえ、2026年6月12日に本研究資料を改正している。

改正により追加・拡充された事項に下線を引いて示しながら、本研究資料の概要を2回に分けて解説する。第1回では、本研究資料の第1部に加え第2部のバリデート/ステーキングの箇所までの解説を行った1。第2回では第2部の残りの箇所を解説する。 

2. その他実務の検討

(1)暗号資産の発行体株式の評価

非上場会社が資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)上の暗号資産の発行者となる場合、トークン発行に係る会計処理に課題が生じる場合があるため、留意が必要である2。例えば、実質価額の算定に基づく当該非上場株式の減損処理要否の判定が困難になるケースが考えられる。

(2)資金決済法上の暗号資産の貸付及び借入

企業が第三者と行う暗号資産の貸付及び借入に係る会計上の取扱いを明示した会計基準等はない。実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下「実務対応報告第38号」という。)第14項及び第15項並びに第55項及び第56項において、暗号資産交換業者が預託者から預かった資金決済法上の暗号資産について、暗号資産の私法上の位置づけが明確ではないものの、自己が保有する暗号資産との同質性を重視し、その時点の時価による資産として計上することとされている。これらを参考に、暗号資産の貸付は貸付暗号資産として資産に計上し、暗号資産の借入は借入暗号資産として負債に計上している実務が見られる。

なお、実務対応報告第38号において、暗号資産の貸付としての資産や借入としての負債に関する規定はないことから、信用リスクの評価も含めこれらの事後測定(時価評価等)に関する会計上の取扱いが明らかではない点に留意する必要がある。

(3)資金決済法上の暗号資産以外のトークン等を第三者から預かる場合

上記(2)で解説したとおり、実務対応報告第38号は預託者から預かった資金決済法上の暗号資産の会計処理を定めるが、資金決済法上の暗号資産以外のトークン等(NFTなど)を第三者から預かる場合は実務対応報告第38号の適用対象外となる。そのため、企業会計基準委員会(ASBJ)から公表されている討議資料「財務会計の概念フレームワーク」(以下「概念フレームワーク」という。)における資産の定義に照らして、結果として資産として計上しないこととしている実務が見られる。

概念フレームワークでは、「資産とは、過去の取引又は事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう。」とされている。一般的に、トークン等(NFTなど)は、売却等によりキャッシュ(又は暗号資産)の獲得に貢献する便益の源泉であるため「経済的資源」に該当すると考えられることから、資産として計上が必要か否かを決定するに当たっては、顧客から預かったトークン等(NFTなど)を暗号資産交換業者が支配しているかが論点となると考えられる。概念フレームワークでは、支配とは「所有権の有無にかかわらず、報告主体が経済的資源を利用し、そこから生み出される便益を享受できる状態をいう。」とされている。よって、報告主体である暗号資産交換業者と預託者との預託の合意の内容を検討し、暗号資産交換業者が支配を有しているかを検討することで、会計処理を決定することが考えられる。支配の検討においては、トークン等(NFTなど)は、実務対応報告第38号第55項で示されている「現金と同様に個別性がなく」という資金決済法上の暗号資産の特徴を一般的に有しない点も考慮することが考えられる。

(4)重要な会計方針等の開示

企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4-3項では、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合を「会計基準等の定めが明らかでない場合」と定義した上で、同第4-2項において、当該事項が重要な会計方針に該当する場合、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことを求めている。Web3.0ビジネスは、我が国において過去に事例のないものがあり、今後も既存の会計基準等が想定していないケースが発生するものと考えられることから、重要な会計方針等の開示は今後の会計実務において留意すべき事項である。 

3. ブロックチェーンに関連する監査上の論点

(1)秘密鍵の管理体制

暗号資産等のトークンの所有者は、保有する秘密鍵を用いて電子署名を行うことによって、ブロックチェーン上でトークンの移転を行うことが可能になる。また、プロジェクトごとの設計・ガバナンス方針次第ではあるものの、一般に、トークンの発行体は、ガバナンスに関わる管理権限を有し、それに用いる秘密鍵(以下「管理鍵」という。)を用いてトークンの発行や焼却(バーン)、スマートコントラクトの変更を行うことができる。そのため、トークン等の所有者が保有する秘密鍵やトークンの発行体が保有する管理鍵の不正な利用や漏えいが生じた場合、トークンの盗難や不正な発行、スマートコントラクトの改ざん等が行われることでトークン自体の信頼性が失われ、事業に影響を及ぼす可能性がある。さらに、バックアップが適切に実施されず、トークンの所有者が保有する秘密鍵を紛失するとトークンの移転等ができなくなり、実質的に権利を失った状態になる。そのため、監査人は、トークンの発行や保有を行う企業の監査を受嘱する際には、企業による堅牢な秘密鍵の管理体制が整備・運用されていることを確かめる必要がある。監査人は、秘密鍵の管理体制の評価においては、例えば、以下の点を検討する必要がある。

① アクセスセキュリティ

企業は、秘密鍵の生成から、保管、利用、廃棄までの秘密鍵のライフサイクルにおいて、秘密鍵への不正アクセスを防止するため、職務分掌や物理的・論理的アクセスコントロールを整備・運用することが求められる。また、ホットウォレットでの保管を制限するとともに、サイバーセキュリティ体制を構築することが求められる。

② ウォレットシステム及び出庫業務の内部統制

企業は、出庫のオペレーション手続を社内規則等に定めるとともに、複数の担当者の適切な関与により牽制機能が実効的に発揮される手順を整備することが求められる。加えて、企業は、送金を実行する際に複数の秘密鍵による電子署名を必要とするマルチシグ技術やそれに代替する内部統制(例えば、秘密分散技術により秘密鍵を複数に分割、秘密鍵へのアクセスに多段階認証を必要とする情報処理統制等)を整備することが求められる。また、ウォレットシステムへの不正なプログラムの混入や出庫業務への不正介入による暗号資産流出の防止又は被害の最小化を図るために、例えば、以下の内部統制の整備が必要となる。

  • コールドウォレットを、短期間で出庫を行うものと、長期間出庫が行われないものなど、用途に応じて分けて管理する。
  • 出庫先アドレスをホワイトリスト化し、ホワイトリストに登録されたアドレス以外への送金を防止する。ホワイトリストへのアドレスの登録や変更においては、複数名の関与の下での適切な権限者による承認を必要とする。
  • 出庫可能数量の上限を設定し、上限を超える出庫は、複数名の関与の下での適切な権限者による承認を必要とする。

さらに、企業は、不正行為が発生した際に備えて、速やかに取引ログやセキュリティールームの監視記録等を検証し、原因究明を行える体制としておくことも重要である。

③ 送金指図プロセスにおけるクラウド環境のセキュリティ

Web3.0関連企業の一部では、クラウドサービス上で稼働するコンテナオーケストレーション環境などを活用して、ブロックチェーンノードの運用やトークンの送金処理を行う構成が採用されている。このような構成では、署名前の送金データがローカル環境で作成された後、クラウド環境に一時保存されてから、署名端末へ転送されるなど、複数環境をまたぐ送金フローとなる場合がある。

この場合、クラウド環境への不正アクセスにより送金データが改ざんされ、意図しない送金が実行されるリスクがあるため、企業は、外部委託先を含め、クラウド環境における認証情報の管理体制を含め、送金データの改ざん検知や署名前の検証プロセスを強化することが不可欠である。

④ バックアップ

不測の事態によって秘密鍵を紛失したり、秘密鍵へのアクセスができない状況下で秘密鍵情報を復元できなくなると、トークンの移動ができず、実質的にトークンに対する権利を失った状態になる。そのため、企業は秘密鍵のバックアップ体制を整備・運用することが求められる。バックアップの保管場所は、秘密鍵と同様に、不正アクセスを防止するための厳重なセキュリティ対策が求められることに留意する。

⑤ 外部委託先管理

トークンを保有する企業が、秘密鍵の管理やトークンの保管に企業外部の第三者を利用する場合や、外部SaaS(Software as a Service)のウォレットシステムを利用している場合、企業は当該外部委託先の秘密鍵管理等に関連する内部統制が整備・運用されているか評価することが求められる。監査人は、監査基準委員会報告書402「業務を委託している企業の監査上の考慮事項」に従い、例えば、利用規約や使用に関する契約を確認することで、当該外部委託先の業務を理解する必要がある。また、外部委託先の内部統制の整備・運用状況を評価するため、例えば、受託業務に係る内部統制の保証報告書を入手し、検討することが考えられる。

(2)スマートコントラクト3の検証

企業が新たに暗号資産やNFTを発行する場合に、トークンに関する仕様を定義したスマートコントラクトをブロックチェーンに配置し利用することが一般的である。スマートコントラクトの利用例は、以下のようなものがある。

  • トークンの生成・移転及び焼却(バーン)等使用不可能とする処理や取引履歴のブロックチェーンへの記録を行う。
  • 一定条件下で取引参加者間でのNFTと暗号資産の交換を自動実行する決済機能

スマートコントラクトは、トークン発行に関わる基礎的な機能だけでなく、複数のプログラムを組み合わせることで発行数量の制限や指定したアドレスの取引停止といったトークンの流通を制御する特権的機能や、特権の保有者を変更する機能、さらには事後的にロジックを追加変更するための拡張性を備えることも可能である。

監査人は、自動化されたプログラムとして継続的に意図したとおりに運用されているかという観点から、スマートコントラクトが情報処理統制として有効に運用されていることを確認する。監査人は、スマートコントラクトに不正流出や規制当局の要請等に備えた安全措置のための機能が組み込まれているかについても確認する。

監査人は、スマートコントラクトの開発・変更に関する内部統制の整備・運用状況を評価することで、スマートコントラクトの開発・変更過程で不具合や脆弱性の混入リスクへの対応ができているか確認することになる。監査人は、信頼できる第三者機関によって実施されたコードレビューの結果を入手し、異常が発見されていないことを確かめる等の方法を取ることも考えられる。監査人は、トークンの発行や特権的機能を利用するための秘密鍵へのアクセスコントロールが整備・運用されているか検証することで、特権の利用による不正なトークン発行やスマートコントラクトのロジック改ざんリスクへの対応ができているか確認する。

なお、スマートコントラクトは、通常、解読が困難なバイトコード等の形式でブロックチェーン上に配置されるため、監査人が企業からソースコードを入手し検証に利用する場合には、それがブロックチェーンに配置されたものと同一であるかにも留意する。

(3)監査証拠として利用するブロックチェーンの記録の信頼性の評価

トークンの発行や保有を行う企業を監査する際には、ブロックチェーン上の情報を監査証拠として利用することになる。ブロックチェーンのネットワークの参加者が相互に監視し合うことによりブロックチェーン上の記録は改ざんされにくい仕組みになっていると認識されているが、監査人はブロックチェーンの記録を監査証拠として利用するために、ブロックチェーンの信頼性及びブロックチェーンから情報を取得するためのプログラムの信頼性を評価する必要がある。

① ブロックチェーンの信頼性の評価

ブロックチェーンネットワークに参加するコンピュータ(又は参加者)をノードというが、コンセンサスアルゴリズムに参加するノードに特に制限がない場合を「パブリック型ブロックチェーン」という。これに対して、非パブリック型ブロックチェーンとは、参加するノードが制限されている場合のうち、複数の組織体に限定されていれば「コンソーシアム型ブロックチェーン」といい、一つの企業や組織に限定されていれば「プライベート型ブロックチェーン」ということが多い。非パブリック型ブロックチェーンの場合には、発行に関係するシステムやブロックチェーンの理解に当たり、保証業務実務指針3701「非パブリック型のブロックチェーンを活用した受託業務に係る内部統制の保証報告書に関する実務指針」を参照されたい。

監査人は、以下のとおり、利用される暗号技術やコンセンサスアルゴリズム等の理解を通じて、ブロックチェーンの信頼性を評価することになる。

a.利用される暗号技術の理解

ブロックチェーン上のデータ(ブロック情報)の真正性は、ハッシュ関数に依存している。ハッシュ関数の逆演算やハッシュ値の操作が可能になった場合、異なるブロックであるものの同一のハッシュ値を持つブロックを生成することができる可能性があり、過去のブロック情報の修正が可能となるリスクがある。また、ブロックチェーンにおけるトランザクションは、電子署名技術により証明される。電子署名の改ざんが可能になった場合、トランザクションの真正性が損なわれるリスクがある。

そのため、ブロックチェーンにおいて使用されている基盤技術を理解し、危殆化していないことを確かめることは、ブロックチェーンの信頼性について理解する上での前提となる。

b.コンセンサスアルゴリズムの理解

ブロックチェーンのネットワークにおいては、ネットワークに参加する各ノードが互いにデータを持ち合い、当該データが正しいデータか否かについて全体としての合意が形成される。この合意形成の仕組み、すなわち、コンセンサスアルゴリズムを理解することは、ブロックチェーンのネットワークそのものの信頼性についての理解を得ることや、どのようにトランザクションが確定データとしてブロックチェーンに記録されるかについての理解を行う上で有益である。コンセンサスアルゴリズムの理解には、以下を含む。

  • コンセンサスアルゴリズム4の種類
  • 承認ノードの管理主体
  • ブロックチェーンを維持するための必要なノード構成
  • ファイナリティ5の条件
  • コンセンサスアルゴリズムの変更に関する内部統制

参加者の多いパブリック型ブロックチェーンであれば、改ざんの可能性は低いと想定されるが、パブリック型ブロックチェーンであっても、参加者が少ないブロックチェーンであれば、51%攻撃6によって改ざんのリスクが高くなる。

② ブロックチェーンから情報を取得するためのプログラムの信頼性の評価

監査人はブロックチェーンから取引記録を入手する際に、監査人自らブロックチェーンノードを構築する場合があるが、監査人は、当該ブロックチェーンノードの信頼性を評価する必要がある。信頼性の評価には、プログラムが目的適合的にデザインされているか、プログラムが意図されたとおりに機能しているなどの検討が含まれる。

監査人は、各トークンのコミュニティ等が運営するウェブサイト上のエクスプローラを利用してブロックチェーンの情報を取得する場合があるが、エクスプローラの信頼性を評価する必要がある。

4. 各種法規制

(1)金融商品取引法改正

近年、Web3.0事業の発展により暗号資産が用いられるサービスや状況が多様化しており、また、暗号資産保有者割合の増加に見られるように暗号資産が投資対象として位置付けられるなど、利用者保護を確保するためのさらなる法改正の必要性が議論されている。このような状況を踏まえ、金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」においてディスカッション・ペーパーや規制見直し案の議論がなされ、2025年12月10日、金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」報告として正式に取りまとめ公表された。当該報告においては、従来、決済手段としての性質に着目して資金決済法の下で規制されてきた暗号資産について、その投資対象化の進展を踏まえ、金融商品取引法(金商法)に規制の軸足を移すことが適当であるとの方向性が示された。そして、暗号資産を金商法上「有価証券とは異なる金融商品」として位置付けた上で、利用者保護を重視した横断的な投資者保護規制を及ぼすことが適当であるとの基本的考え方が示された。具体的には、情報提供規制、業規制、市場開設規制、不公正取引(インサイダー取引)への対応という4つの観点から法規制の方向性が検討・整理された。

これを受けて、暗号資産取引に係る規制について、資金決済法から金商法へ移管し、有価証券とは異なる金融商品として位置付けた上で、上記4つの観点のうち、情報提供規制、業規制、インサイダー取引等への対応等の観点から利用者保護の枠組みを強化する改正金商法が、2026年7月15日に可決成立し、同年7月23日に公布された。なお、当該改正法のうち暗号資産に関する規制見直しに係る規定は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される見込みである。

① 情報提供規制

暗号資産が投資対象として位置付けられている現在の状況においては、投資を行う者が正しい情報に基づいて判断できるように、情報提供規制の強化が必要であるという考え方がディスカッション・ペーパー及びワーキング・グループ報告において示されている。改正法においては、特定の者のみが発行権限を有する暗号資産を「特定暗号資産」と定義した上で、規制の見直しが実施されている。また、継続的な情報公表規制、情報の正確性の確保及び投資者保護の観点から規制の強化が規定されている。

 

【図表1】情報提供規制の概要

暗号資産規制の強化として、発行者・取引業者に情報開示や継続開示を義務付け、投資者保護のため監査・投資上限・罰則等を整備する内容。

② 業規制

改正法では、暗号資産取引に係る業務について、第一種金融商品取引業に相当する規制を適用することとされている。原則コールドウォレット等の現行法の安全管理措置については、金商法に同様の規制を設けることになっている。また、暗号資産を投資対象とする投資運用行為や投資助言行為について、それぞれ投資運用業、投資助言業の対象として規制される。暗号資産取引業者に対する主な規制等の概要は以下の図表2のとおりである。規制の詳細は内閣府令で定められる予定である。

 

【図表2】業規制の概要

暗号資産取引の安全性向上に向け、取扱基準や管理体制を強化し、利用者資産保護、責任準備金、無登録業者規制を拡充する内容。

③ 市場開設規制

ワーキング・グループにおける第6回までの議論及び最終報告において、暗号資産取引のグローバル性やオンチェーン取引の存在等を踏まえると、現時点において暗号資産交換業者に対し、金融商品取引所又は金融商品取引業者に係る私設取引所(PTS)と同水準の市場開設規制を一律に適用することは適当でないとの整理が示されている。

ただし、多数の取引参加者を相手方とする集団的な取引の場を提供する者であるという性質はあり、価格形成の公正性、システムリスク管理、取引監視等については、業規制や不公正取引規制の枠組みを通じて実効的に確保していくことが重要であるとの方向性が示されている。

このような考えの下で、市場開設規制については、従来の金融商品取引所制度をそのまま当てはめるのではなく、暗号資産取引の特性を踏まえた形で、段階的・機能別にどのような規律を及ぼすべきかが検討課題とされている。

④ インサイダー取引等への対応

現行の金商法において、暗号資産についても、不正行為の禁止、風説の流布や偽計等の禁止及び相場操縦行為等の禁止といった規制があるが、インサイダー取引を直接規制する包括的な枠組みは存在しなかった。その状況に対して、ワーキング・グループ報告において、暗号資産が投資対象として広く取引されている現状を踏まえ、株式市場等との比較を踏まえつつも、暗号資産の特性(発行者の分散性、グローバル市場性等)を考慮した不公正取引規制の整備が必要であるとの方向性が示され、今回の金商法改正によって関連する規制が整備されている。

 

【図表3】不公正取引規制の概要

暗号資産市場の公正性確保を目的に、インサイダー取引を禁止し、不公正取引への調査・課徴金など監督・執行体制を強化する内容。
(2)暗号資産仲介業の創設

① 暗号資産仲介業とは

2025年6月に成立した資金決済法の改正により、「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」(以下「暗号資産仲介業等」という。)が創設された。これは、暗号資産又は電子決済手段(以下「暗号資産等」という。)の売買や交換取引において、自らは取引を行わず、媒介のみを業として行う事業者を指す。

改正資金決済法においては、「電子決済手段仲介行為」を「電子決済手段等取引業者以外の者が、電子決済手段等取引業者の委託を受けて、電子決済手段の売買又は他の電子決済手段との交換の媒介を当該電子決済手段等取引業者のために行うこと。」と定め、「暗号資産仲介行為」を「暗号資産交換業者以外の者が、暗号資産交換業者の委託を受けて、暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換の媒介を当該暗号資産交換業者のために行うこと。」と定義している。従来の暗号資産交換業者等とは異なり、暗号資産仲介業等は顧客の暗号資産や資金を預かることなく、売買のマッチングや取引の仲介のみを行う形態となる。

② 規制の内容

暗号資産仲介業等を営むには、金融庁への登録が必要となっている。暗号資産仲介業等には、利用者への説明義務や広告規制など、暗号資産交換業者と同様の利用者保護規制が課されている。ただし、暗号資産仲介業等は顧客資産を預からないため、資産の分別管理やカストディ規制は課されていない。マネロン・テロ資金供与対策については所属制7が採用されており、AML/CFT規制は所属先の暗号資産交換業者等にて対応が求められ、暗号資産仲介業者等には義務付けられていない。

(3)投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)改正

① 改正の目的及び概要

「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」が可決され、改正法が2024年6月7日に公布された。これに伴い、LPS法も改正されている。経済産業省による改正概要資料における、当改正の主目的の一つは、暗号資産への投資によるWeb3.0スタートアップへの資金供給が可能になることであるとされている。その目的を達成するために、暗号資産の取得に関して、以下のとおり改正されている。

LPSが営むことができる事業はLPS法第3条において定められているが、LPS法第3条第1項第6号の2が改正され、事業者のために発行される暗号資産の取得及び保有が可能となった。経済産業省のLPS法解説(令和7年7月2日経済産業省産業組織課)によれば、「これは、いわゆるWeb3.0スタートアップが資金調達の場面において有償で発行する暗号資産をLPSが取得する場面を想定した規定である。」(LPS法解説P15)とされている。投資可能な暗号資産は資金決済法第2条第14項第1号及び第2号で規定されている暗号資産とされており、資金決済法の暗号資産に該当しないNFTといったトークンや前払式支払手段となるユーティリティトークンは含まない。また、「発行」とは、技術的行為としての暗号資産の発行(minting)を指しており、暗号資産の売買契約や暗号資産無償譲渡の覚書の締結といった行為は含まれない。「事業者のために発行される」という表現は、事業者自らが発行体になる場合と、第三者に委託又は第三者と協力して暗号資産を発行する場合も想定しているとされている。 

5. Key Audit Matter(KAM)及びCritical Audit Matter(CAM)の事例

暗号資産への投資の増加やWeb3.0ビジネスの発展により、暗号資産を保有する企業又は暗号資産を事業に利用する企業が増えている。これに伴い、監査上の主要な検討事項(Key Audit Matter:KAM)や、米国におけるCritical Audit Matter(CAM)として、暗号資産の実在性、権利の帰属(秘密鍵の支配)、分別管理、ブロックチェーン記録との照合、監査証拠の信頼性評価等が取り上げられる事例が見られる。以下では、研究資料に記載されたKAM3社、CAM2社の事例について、開示内容(KAM/CAMの内容、選定理由、監査上の対応)を整理する。

(1)KAMの事例

① マネックスグループ株式会社(会計基準:IFRS、2025年3月期)

a.KAMの内容

子会社であるコインチェック株式会社が暗号資産交換業を営む中で、連結財務諸表注記「18.棚卸資産」及び「35.偶発事象」に記載される暗号資産(自己保有分及び利用者から預託を受けた暗号資産)について、次の事項がKAMとして開示されている。

  • 「コールドウォレットに保管している自己保有の暗号資産の実在性及び権利の帰属」並びに「利用者から預託を受けたコールドウォレットに保管している暗号資産を保護する義務の検証」

b.KAM選定理由

秘密鍵が紛失・破壊・漏洩等により侵害された場合、暗号資産へのアクセスや取引ができなくなり、棚卸資産として計上されている暗号資産の認識中止の必要性が生じ得ること、また、利用者から預託を受けた暗号資産については盗難・紛失を防ぐ義務を果たせなかったことにより利用者損失への責任を負う可能性がある点が示されている。

そのうえで、自己保有の暗号資産の実在性及び権利の帰属並びに利用者から預託を受けた暗号資産を保護する義務の検証に必要な監査手続や監査証拠の種類・範囲の決定には「監査人の高度な判断」が必要であり、「情報技術(IT)の専門家」の関与も必要とされることから、当該事項が監査上特に重要でありKAMに該当すると判断した旨が開示されている。

c.監査上の対応

  • 内部統制の評価:質問・関連資料の閲覧により、以下を含む内部統制の整備・運用状況の有効性を評価

    • 暗号資産関連システムへの役職員アクセス管理
    • コールドウォレットでの暗号資産保管プロセスにおける職務分掌
    • 帳簿残高とブロックチェーン記録とを照合する統制

  • 自己保有及び利用者から預託を受けた暗号資産の実在性及び権利の帰属の検証手続

    • 監査法人が独自に開発したソフトウェアツールによる、同社が管理するアドレスの暗号資産残高とブロックチェーン記録との照合
    • 監査法人が選定した暗号資産取引について、ブロックチェーン及び内部記録に適切に反映されるかの観察により、秘密鍵の支配状況を評価

② 株式会社メルカリ(会計基準:IFRS、2025年6月期)

a.KAMの内容

連結子会社である株式会社メルコイン(暗号資産交換業者)について、以下がKAMとして開示されている。

  • 「株式会社メルコインが保有する暗号資産の実在性」及び「分別管理義務に関連するリスクに係る負債の発生可能性」

b.KAM選定理由

連結財務諸表注記「4.重要な会計上の判断、見積り及び仮定(4)株式会社メルコインが利用者から預託を受ける暗号資産について」において、メルコインが利用者から預託を受けた暗号資産について、「支配を有していない」と判断し、連結財政状態計算書に資産として認識しておらず、対応する負債も認識していないことが記載されている。また、利用者から預託を受けた暗号資産は同社が管理するウォレット内に保管され、「資金決済に関する法律」に基づく分別管理義務を負う点、外部第三者の不正アクセスによる流出リスクに備えて秘密鍵管理体制やウォレット構造面で対策を講じている点が示されている。そのうえで、当該リスクに伴う債務を決済するために経済的便益を有する資源の流出が必要となる可能性は高くないとして当該リスクに係る負債を認識していないものの、仮に不正アクセスにより暗号資産が流出した場合には企業グループの財政状態・経営成績に重大な影響を及ぼす可能性がある旨が記載されている。これらを踏まえ、暗号資産の実在性及び分別管理義務に関連するリスクに係る負債の発生可能性をKAMと判断した旨が開示されている。

c.監査上の対応

  • 内部統制の評価:質問・関連資料の閲覧により、暗号資産の実在性に関連する以下の統制の整備・運用の有効性を評価

    • ウォレットへのアクセス管理
    • 暗号資産のブロックチェーン上のウォレット間での移転に関する統制
    • 帳簿残高とブロックチェーン上の残高の照合統制
    • 利用者預託分と自己保有分の分別管理統制
    • 秘密鍵管理に関する統制

  • 実証手続

    • 監査人自らブロックチェーン上の記録を参照した上で、当該記録と暗号資産の帳簿残高とを照合
    • 秘密鍵が株式会社メルコインの管理下にあることを検証するため、監査人と事前に合意したとおりの暗号資産の移転がブロックチェーン上に記録されているかを確認

③ 株式会社コロプラ(会計基準:日本会計基準、2024年9月期)

a.KAMの内容

子会社である株式会社Brilliantcryptoが行った暗号資産BRILの発行(IEO:Initial Exchange Offering)に関連し、IEOによる資金調達額を含むBRIL関連金額が連結貸借対照表の前受金に含まれることを前提に、以下がKAMとして開示されている。

  • 「Initial Exchange Offeringに関する会計方針の妥当性」

b.KAM選定理由

IEOによる資金調達取引について「関連する会計基準等の定めが明らかではないため、経営者は会計方針を決定する必要がある」点が示されている。また、IEOはホワイトペーパーに概要や資金使途が記載されているものの「個別性が強く」、会計方針の決定には「経営者による経済実態と会計方針の整合に関する重要な判断を伴う」こと、当該判断の妥当性を検討する際には「監査上慎重な対応が求められる」ことから、KAMに該当すると判断した旨が記載されている。

c.監査上の対応

  • 内部統制の評価:経営者によるIEOに関係する会計方針の決定プロセスに係る内部統制の有効性を評価
  • 会計方針の妥当性の検討

    • 関連する会議体議事録、利用規約、ホワイトペーパー、暗号資産取引所との販売委託契約書等の閲覧と経営者への質問により、会計処理の妥当性に関する経営者の判断を検討
    • 特に、IEOにより資金を調達した取引、すなわちBRILを販売する取引の会計処理について、利用規約、ホワイトペーパー、IEOの契約書等を閲覧し、法律に関する内部専門家を利用し、受領した金銭に対応する貸方科目の性質及び履行義務について検討
    • 会計方針及び注記事項の記載において、IEOに関係した取引が適切に開示されているか検討
(2)CAMの事例

① ETORO GROUP LTD.(会計基準:IFRS、Form 20-F、2024年12月期)

a.CAMの内容

  • コールドストレージに保管されている暗号資産(自己保有分及び顧客暗号資産)

b.CAM選定理由

開示では、会社が自己保有暗号資産を保有するほか、顧客暗号資産をカストディとして保有し(オフバランス表示)、その一部がコールドストレージ環境にあることが示され、秘密鍵の喪失・盗難・侵害等は暗号資産の喪失に繋がり得る点が記載されている。

また、コールドストレージ保管暗号資産の監査は、実在性・網羅性・権利義務に係る重要な虚偽表示リスクへの対応として、十分かつ適切な監査証拠を入手するために必要な監査手続の種類や範囲の観点から複雑であり、経験あるチームメンバー、専門スキルを有するIT専門家、この領域の専門家との協議が必要である旨が示され、CAMとして開示されている。

c.監査上の対応

  • 会社の方針入手及び、コールドストレージで保管される暗号資産の保護・保管・管理・アクセスに係るプロセスの検討
  • 監査法人の独自ツール及び外部のエクスプローラを用い、パブリックブロックチェーンから独自に監査証拠を入手して暗号資産残高の実在性を検討
  • 選定した取引のパブリックブロックチェーン上の移転の観察及び内部記録との突合により、秘密鍵の支配に関する会社の内部統制をテスト
  • 自己保有暗号資産と顧客の暗号資産の分別の適切性を評価
  • パブリックブロックチェーンから得た証拠の信頼性について専門家を関与させ評価

② Coinbase Global, Inc.(会計基準:US GAAP、Form 10-K、2024年12月期)

a.CAMの内容

  • コールドストレージに保管されている暗号資産(自己保有暗号資産、USDC及び顧客暗号資産を含む)

b.CAM選定理由

秘密鍵の喪失・盗難・侵害等は、会社の自己保有暗号資産又は顧客の暗号資産の喪失に繋がり得る旨が記載されている。そのうえで、コールドストレージで保管される暗号資産の実在性、権利及び義務に係る重要な虚偽表示リスクへ対応するため、十分かつ適切な監査証拠の入手するための監査手続の種類や範囲には、経験あるチームメンバーの関与及び専門家との協議・相談を要する点が含まれること、CAM選定理由として開示されている。

c.監査上の対応

  • 専門家との監査対応に係る相談
  • 物理的アクセスコントロール、鍵生成の内部統制、職務分掌等を含む、秘密鍵管理に係る内部統制の有効性の検討
  • 帳簿記録と外部ブロックチェーンを照合する内部統制の有効性の検討
  • 自己保有暗号資産と顧客の暗号資産を分別するための内部統制の有効性の検討
  • 顧客暗号資産の入金・出金に関する内部統制の有効性の検討
  • 自己保有暗号資産と顧客の暗号資産の適切な分別を評価するための監査証拠の入手
  • 監査法人の独自監査ツールにより、パブリックブロックチェーンから独自に監査証拠を入手し、残高の実在性を検討
  • 選定された秘密鍵により署名された暗号学的メッセージの解読(decoding cryptographic messages)又は選定された暗号資産の移転の観察の組み合わせにより、会社による秘密鍵の支配を検討
  • パブリックブロックチェーンから入手した監査証拠の信頼性の評価

以 上

1 本誌2026年10月号(Vol.602)の記事を参照。

2 トークン発行に係る会計処理の課題は、本誌2026年10月号(Vol.602)第1回解説「4.トークンの発行に係る監査上の課題」参照。

3 スマートコントラクトとは、参加者が相互にやり取りをする上で合意する一連のルールを含むデジタルコードをいう。事前に定義されたルールに合致すると、このコードにより自動的に合意が執行される。このスマートコントラクトコードは合意又は取引の実行を促進、承認及び執行し、その後、取引の結果がブロックチェーンに書き込まれる(本研究資料付録3.用語集No.11)。

4 コンセンサスアルゴリズムの代表的なものには、「Proof of Work(PoW)」、「Proof of Stake(PoS)」、「Practical Byzantine Fault Tolerance(PBFT)」といったものがある。PoW、PoSはパブリック型で利用されることが多い。プライベート型やコンソーシアム型で利用される代表的なコンセンサスアルゴリズムとしてPBFTが挙げられる。

5 トランザクションがブロックチェーン上のデータとして確定することを、「ファイナリティを得る」と表現する。PoWは構造上ファイナリティがなく、一定のブロック数を経過することで確定したものとみなされることが多い。PoS、PBFTには通常ファイナリティを与える仕組みが備わっている。

6 51%攻撃とは、悪意のある者が、ネットワーク全体の採掘に係る計算処理能力の50%超を支配して不正な取引を実行することをいう。

7 金融庁による「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」制度に係る登録事前説明会資料によれば、暗号資産仲介業者は特定の暗号資産交換業者等のために仲介を行うように制度設計されている。

2026年9月28日公開

「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」の概要 第一回目

1.はじめに

日本公認会計士協会は、2023年11月20日に業種別委員会研究資料第2号「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」(以下「本研究資料」という。)を公表した。本研究資料は、はじめに研究資料を公表する経緯の説明の後、大きく2部構成になっている。第1部では、監査受嘱に際しての留意事項及び会計処理等の判断が難しいと考えられているトークン発行に係る監査上の課題について言及している。第2部では、その他の監査上の課題について広く記載するため、トークン保有上の課題、NFT(Non-Fungible Token)及びSAFT(Simple Agreement for Future Token)等に関連する論点並びにその他の論点について、事例とともに言及している。第2部ではまた、ブロックチェーンの技術的な仕組み及び関連する固有リスクを紹介し、関連する内部統制や監査手続実施に当たっての留意事項を紹介している。

その後、我が国では、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業(以下、総称して「暗号資産仲介業等」という。)の創設や、投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)の改正等、関連制度の整備が相次いでいる。さらに、上場企業グループによるIEO(Initial Exchange Offering)1を通じた資金調達の実施、バリデータ運用/ステーキング等のWeb3.0特有のビジネスの拡大、電子決済手段等取引業者が電子決済手段の取扱いを開始する動き、ブロックチェーン技術を活用し、現実世界の資産や権利をトークン化するRWAトークンの活用事例の増加など、Web3.0ビジネスは一層多様化している。これらの環境変化を踏まえ、日本公認会計士協会は、最近の法改正等の動向及び新たなビジネスに関し会計・監査上の論点となり得る事項の解説を拡充するため、2026年6月12日に本研究資料を改正し、以下の項目が追加され、それ以外の項目でも一部記載を拡充した。

  • 上場企業グループによる資金決済法上の暗号資産の発行事例
  • 活発な市場の有無の判断
  • バリデート/ステーキング
  • 各種法規制
  • Key Audit Matter(KAM)及びCritical Audit Matter(CAM)の事例

改正により追加・拡充された事項に下線を引いて示しながら、本研究資料の概要を2回に分けて解説する。第1回の本稿では、本研究資料の第1部に加え第2部のバリデート/ステーキングの箇所までを解説する。第2回では第2部の残りの箇所を解説する。
 

(1)Web3.0ビジネス及びトークンの類型

本研究資料の対象であるWeb3.0ビジネスに明確な定義はないが、本研究資料では、Web3.0ビジネスの特徴について、パブリック型ブロックチェーンを基盤として、暗号資産やNFT(Non-Fungible Token)などのトークン(電子的な記録・記号)を、金銭的なインセンティブ、財又はサービスの利用の対価、財産権を表章する手段として活用するビジネスである点に言及している。

トークンの類型に関して、我が国における法律上の定義との関係では次頁図表1のように整理することができる。

自動運転車の安全性を評価するため、求められる技術・試験・基準を整理した資料。
RWA(現実資産)を表すトークンのうち、取引対象となるものだけを規制対象とし、電子記録移転有価証券表示権利等(ERTR)として扱う考え方を示した図。
RWAトークンの種類ごとに、金融商品取引法上の規制対象となる場合とならない場合の判断基準を整理した図。

2.本研究資料の公表の経緯

Web3.0関連企業の監査受嘱が進まないという声を受け、日本公認会計士協会は、会員への実態調査を行い、Web3.0特有の監査上の課題を認識した。また、日本公認会計士協会は、「Web3.0関連企業の会計監査に関する勉強会」の一環で実施した企業等からのヒアリングを踏まえ、監査受嘱に当たり監査人がどのような観点で受嘱を検討しているかについて、事業者とのコミュニケーションが不足しているのではないかという課題を認識した。そのため、日本公認会計士協会は、本研究資料の公表を通じて、Web3.0企業に特有の監査上の課題を明らかにすることで、監査人が監査受嘱を検討する上での一助にするとともに、監査人が経営者とのコミュニケーションに本研究資料を利用することで事業者との対話を深め、事業者と監査人の相互理解が促進されることを期待している。

3.Web3.0企業の監査受嘱上の留意事項

本研究資料は、監査受嘱に際しての留意事項として、Web3.0企業に特有のものを以下のとおり示している。これらの事項は、監査を実施する際にも留意すべき事項と考えられる。
 

(1)ビジネスの実態及び法規制への対応状況の把握

Web3.0ビジネスは、比較的新しいビジネスで様々な形態が存在するため、適用される法規制が明確ではない場合5がある。そのため、監査人は、監査受嘱に当たり、経営者が、適切な法律専門家等の起用を通じて、関連する法規制を把握し、法規制を遵守する体制を構築しているか、また、実際に遵守しているか評価する必要がある。

また、トークンの性質上、日本国外の取引先とのトークンの売買やトークンでの決済等のクロスボーダー取引(国際間取引)が容易に実行可能である。そのため、監査人は、クロスボーダー取引の重要性が高い状況などにおいて、トークンの発行者が、国内だけでなく諸外国の法規制を遵守しているか、評価を行う必要がある点に留意する。

さらに、トークンが資金決済法の暗号資産に該当する場合、当該トークンを業として売却又は他の暗号資産と交換する行為は、暗号資産交換業に該当し、暗号資産交換業者としての規制対応が必要になる(金融庁事務ガイドライン16.暗号資産交換業者関係Ⅱ―2-2-8-1)。暗号資産交換業者は、テロ資金供与やマネー・ローンダリングといった組織犯罪等への利用を防止するための体制整備等も要求されることになる。また、一般社団法人日本暗号資産等取引業協会の「新規暗号資産の販売に関する規則」は、調達した資金の使途の透明性を確保する観点等から、トークン発行時及び発行後の継続的な情報開示、調達資金の適切な管理等の規制をトークンの発行者に課している。

なお、日本においては、IEOという形態が利用されるケースがあるが、この制度では、トークンの発行者は、暗号資産交換業者にトークンの販売を委託することになる。そのため、トークンの発行者の監査人は、監査受嘱に当たっては、トークンの販売者である暗号資産交換業者が事務ガイドラインや「新規暗号資産の販売に関する規則」等を遵守しているかどうか理解する必要がある点に留意する。
 

(2)適正な財務報告を作成するための会計処理の前提となる取引の権利及び義務の位置づけと特徴

Web3.0ビジネスに関連するトークンの発行や保有に関する会計処理を行う場合に困難性を伴うことがある。例えば、実務対応報告第38号においては、資金決済法上の暗号資産の発行の会計処理が定められていない(第3項)。適用する会計基準の定めがない場合には、企業は、取引の経済的実態に応じて会計処理を決定する必要がある。そのため、企業は、適切な法律専門家や会計専門家を活用して、トークンの発行者や保有者(一次所有者、二次流通以降の購入者)など関係者の権利及び義務をホワイトペーパー、発行者と保有者の契約書、トークン利用規約等で明確化し、当該権利及び義務は法的に強制力があるのかどうか評価し、適切に会計処理を実施する体制を整備する必要がある。監査人は、かかる体制が整備されているかどうか評価する必要がある。
 

(3)内部管理体制の整備、内部統制の構築

監査人は、適正な財務報告を実施するための情報システムを含めた内部統制の整備及び運用、適切な内部監査の体制等が整備されていることを確認する必要がある。加えて、監査人は、企業のサイバー・セキュリティ管理体制、秘密鍵の管理体制、ブロックチェーンの記録を適切に収集し、トークンの取引や残高を記録する体制などを評価し、監査の実施可能性を検討する必要がある。また、企業が、例えば、システム開発や運用のため、あるいは、カストディアンとして、外部委託先を利用する場合にも、監査人は、企業の外部委託先管理体制を評価し、監査の実施可能性を検討する必要がある。
 

(4)経営者の誠実性、法令遵守体制の確保

賭博性のある事業や公序良俗に反する可能性がある事業、違法行為ではないが何らかの法令・規制逃れを目的として設計している場合、その他経営者の誠実性に疑念が抱かれる場合には、監査の受嘱が困難になる。
 

(5)監査時間の確保

Web3.0ビジネス企業の監査においては、上述のような課題の検討に時間を要することが想定され、監査工数の見積りに当たって十分な時間の確保が必要となる。監査人は、企業の理解を得るために必要な監査工数についての丁寧な説明とコミュニケーションを実施することが望ましい。

4.トークンの発行に係る監査上の課題

上述のとおり、Web3.0企業の監査受嘱を難しくしている理由の一つにトークン発行に係る会計処理の判断の困難さが挙げられる。そのため、本研究資料では、2022年3月15日にASBJから公表された「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICO6トークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」(以下「論点整理」という。)において識別された論点並びに権利及び義務の特定に関する論点を示している。
 

(1)論点整理の考え方及び寄せられたコメント

論点整理においては、ICOトークンの会計処理を検討するに当たり、発行者が何ら義務を負担していない場合と発行者が何らかの義務を負担している場合に分類した上で、それぞれの会計処理の考え方を示している(第29項)。

① ICOトークンの発行者が何ら義務を負担していない場合の会計処理
ICOトークンの発行者が何ら義務を負担していない場合の会計処理については、認識すべき負債は存在せず、対価の受領時にその全額を利益に計上するという考え方が示されている(第31項)。
 

② ICOトークンの発行者が財又はサービスを提供する義務を負担している場合の会計処理
ICOトークンの発行者が財又はサービスを提供する義務を負担している場合の会計処理については、ICOトークンの発行取引の実態をどのように捉えるのかが論点であるとしており、(a)契約自由の原則の下で自発的に発生した独立第三者間取引においては経済的に等価交換が成立しているものとして取り扱うとする考え方(第34項)と、(b)提供する財又はサービスの価値が調達した資金の額に比して著しく僅少であるケースの存在をICOトークンの発行取引の実態を示す特徴の一つとして捉え、当該取引を会計上適切に描写するため、等価交換が常に成立しているものとしては取り扱わないとする考え方(第35項)が示されている。

(a)の考え方においては、例えば現金など客観的に信頼性をもって測定可能なものを対価としてICOトークンを発行する場合、発行者が負担する義務に係る負債を対価の時価で測定することになり、その結果、発行時において差額としての利益(又は損失)が生じることはない(第34項)。

(b)の考え方においては、契約によって生じた権利及び義務をそれぞれ独立に時価で評価し、それぞれの評価額に差がある場合に当該差額を発行時に利益(又は損失)として計上することになる(第35項)。

また、論点整理に対して各種団体及び個人から寄せられたコメントが公表されているが、発行者が何らかの義務を負担している場合の会計処理については、様々な意見が記載され、(a)の考え方を支持する意見、(b)の考え方を支持する意見の双方があった。また、(a)と(b)の考え方を取引の実態に応じて適用すべきとの意見や、原則として(a)の考え方を支持しながらも(b)の考え方で会計処理することが適切なケースがあるかどうかについて分析が必要との意見があった。


(2)トークンの発行者及び保有者の権利及び義務の特定に関する論点

上述の(a)及び(b)のいずれの考え方を採用するにしても、会計処理を検討するに当たっては、発行者と保有者の権利及び義務(関連する法令の適用を含む。)を特定する必要がある。

この点、資金決済法上の暗号資産に該当するICOトークンの発行においては、発行者がトークンの性質やプロジェクトの内容の詳細を説明することを目的としたホワイトペーパーが公表される事例が多いが、様々な免責事項が記載される事例がある。そのため、ホワイトペーパーの法的な強制力の問題から、発行者と保有者の権利及び義務の特定が難しいという実務上の課題がある。

発行者と保有者の権利及び義務の特定に当たっては、ホワイトペーパーの法的強制力の評価及びホワイトペーパー以外に発行者や保有者の権利及び義務を定める契約の識別等を実施した上で、例えば、以下の事項を明確化する必要がある。

  • 発行者が提供する財又はサービスと発行者及び保有者の権利義務関係
  • 提供する財又はサービス等の内容や提供期間、提供する財又はサービス等と発行者が獲得する対価との対応関係
  • 発行者が保有者に財又はサービス等を提供できない場合のペナルティ等の義務
  • その他、保有者に利益若しくは不利益を与えると考えられる契約

(3)監査上の課題

監査人は、識別された権利及び義務がホワイトペーパーやその他の契約及び法律専門家による見解書などによって裏付けられることや、識別された権利及び義務に基づく経営者による会計判断が適切であることを検討する。また、取引段階から会計処理に必要な権利義務関係を明確にすることを可能とする内部管理体制の整備及び内部統制の構築がなされていることを確認する。

5.上場企業グループによる資金決済法上の暗号資産の発行事例

近年、国内において上場企業グループによる資金決済法上の暗号資産に該当するトークンの発行事例が見受けられ、会計処理及び監査上の主要な検討事項の記載に関する事例が提供されている。
 

(1)会計処理事例

ゲーム会社である株式会社コロプラの100%子会社である株式会社Brilliantcryptoはゲーム内で利用することができる暗号資産を2024年に発行した。同社の有価証券報告書の収益認識関係の注記においては、IEOによる調達資金の会計処理において、関連する会計基準等の定めが明らかでないため、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)に準じて検討することで、IEOによる調達資金を前受金に計上し、ゲーム内における暗号資産の利用に応じて収益に振り替えている点に言及されている。

情報通信業である株式会社メタップスは、自社グループが提供するデジタルサービスの利用において割引を受ける権利を有する暗号資産を2017年に発行した。IFRS適用会社である同社の有価証券報告書の重要な会計方針の注記並びに重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断に関する注記において、暗号資産の発行に関連する開示を行っている。これらの注記において、発行したトークンの会計方針の検討のために、ホワイトペーパーに記載されているトークン発行者やトークン保有者の権利と義務に基づいてICOの会計処理を行っている点を読み取ることができる。すなわち、まず、IAS第32号「金融商品:表示」及びIFRS第9号「金融商品」に基づき、発行したトークンが金融負債の定義及び資本性金融商品の定義を充たすのか検討を行っている。そして、金融負債でも資本性金融商品でもないと判断した後に、同社グループはIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を適用することで、発行したトークンの対価受領時に契約負債として認識し、ホワイトペーパーに記載されている義務の履行に応じて関連する収益を計上している。また、権利と義務の検討の前提として、適用される法規制の理解及び評価の必要性を読み取ることができる。


(2)監査上の主要な検討事項の記載事例

株式会社コロプラの有価証券報告書の監査上の主要な検討事項において、IEOに関係した会計方針の妥当性を監査上の主要な検討事項とした理由として、「ホワイトペーパーにトークンセールの概要や資金使途が記載されているものの、個別性が強く、当該会計方針の決定については、経営者による経済実態と会計方針の整合に関する重要な判断を伴う」ことが挙げられている。また、会計方針の妥当性を検討するために実際に閲覧した具体的な証憑として、発行会社の会議体議事録、トークンの利用規約、ホワイトペーパー及び暗号資産取引所との販売委託契約書等が挙げられている点は、監査人がどのような監査証拠を入手すべきか検討する際の参考となると考えられる。また、法律に関する内部専門家を利用し、受領した金銭に対応する貸方科目の性質及び履行義務について検討した旨が記載されている。経営者の契約及び法令の解釈の検討に当たり、監査人自身も法律を専門とした内部専門家を利用する必要がある可能性がある点については留意すべきと考えられる。

6.トークン保有に係る監査上の課題

資金決済法上の暗号資産の保有者の会計処理及び開示については、実務対応報告第38号に定められている。しかし、自己の発行した暗号資産の保有や資金決済法上の暗号資産以外のトークン(金融商品取引業等に関する内閣府令に定める電子記録移転有価証券表示権利等及び改正資金決済法上の電子決済手段を除く。)については、会計基準等の定めが明らかでなく、経済的実態等に応じて既存の会計基準等を参考に、企業が会計処理を決定することになる。ここでも、トークン発行における課題と同様に、ホワイトペーパーの法的有効性の解釈や記載内容等に基づいて私法上の権利等を整理することが難しいという課題がある。法的権利等の権利についてはJCBAより公表されている「RWA(現実資産等)トークンの利活用に関するガイドライン」が参考になる。現状発行されている多くのトークンは、何等かの現実資産や無形資産(以下「現実資産等」という。)に係る財産権を表章していることがあり、該当する法的形態を参考として会計処理を検討することが有用となる。また、同ガイドラインでは、次頁の図表4のとおり、利益の分配の有無、決済手段等の経済的機能の有無などの性質に基づき、適用され得る金融規制についても示されている。

RWAトークンが利益配分や決済機能の有無によって、金融規制やその他の法規制の適用対象となるかを整理した判断フロー。
(1)自己の発行した資金決済法上の暗号資産の保有

① 論点整理の考え方及び寄せられたコメント
自己が発行した資金決済法上の暗号資産の保有に関する会計処理は、上述の論点整理の第38項及び第39項において、自己の発行したICOトークンを自己に割り当てた場合及び第三者から取得した自己発行のICOトークンの会計処理の考え方を、以下のとおり紹介している。

自己発行ICOトークンを保有・取得した場合の会計処理について、負債処理か資産計上かなど複数の会計上の考え方を整理している。

論点整理に対しては、第三者から取得した自己発行トークンを再度売却した場合の取扱いなど、様々な論点に対するコメントが寄せられた。また、発行者が負う義務の性質や発行後に第三者から取得する目的などを踏まえて更なる分析が必要であるという意見もあった。

② 監査上の課題
トークンの発行時と同様に、監査人は、識別された保有者や発行者の権利及び義務が、ホワイトペーパーやその他の契約、法律専門家による見解書などによって裏付けられることや、識別された権利及び義務に基づく経営者による会計判断が適切であることを検討する。

また、監査人は、企業が発行したトークンを自己が保有していることに対して、自己で保有していることの理由を理解し、その理由が企業の事業戦略に従ったものであるかどうかを評価し、何らかの理由により、企業が意図しない保有が生じている場合には、監査上追加で識別すべきリスクがないか、監査計画に影響がないか検討する。
 

(2)資金決済法上の暗号資産を財又はサービスの対価として受領するケース

企業は、財又はサービスの対価として暗号資産を受領することがあり、例えば、以下のようなケースが考えられる。

  • IEOにおいて暗号資産交換業者に報酬として現金以外に新規上場の暗号資産で支払われるケース
  • 自社が発行したNFTを通常の営業活動として販売するに当たって、当該NFTに表章されている権利を引き渡す対価として暗号資産を受領するケース

収益認識会計基準は、資金決済法における定義を満たす暗号資産及び金融商品取引業等に関する内閣府令における定義を満たす電子記録移転有価証券表示権利等に関連する取引については、収益認識会計基準の適用範囲から除外しているが(収益認識会計基準第3項(7)、第108-2項)、暗号資産そのものの売買ではなく、財又はサービスの対価として暗号資産を受け取る場合は、当該収益について収益認識会計基準に従って検討が行われている実務がある。

この場合、収益認識会計基準に定める5つのステップ(契約の識別、履行義務の識別、取引価格の算定、履行義務への取引価格の配分、履行義務の充足による収益の認識)に従って会計処理を検討するに当たり、監査人は、具体的な履行義務の識別、いつの時点で収益を認識するのか、いつの時点の市場価格で収益を測定するのか等の点に関して、契約や事実関係に基づく整理を企業に説明を求めることになる。

なお、収益認識会計基準第59項に基づき、現金以外の対価を時価により算定することから、実務対応報告第38号第5項及び第6項に記載のとおり、対価として受領する暗号資産に活発な市場が存在する場合には、収益認識時の暗号資産の市場価格に基づく価額より取引価格を算定している実務がある。
 

(3)活発な市場の有無の判断

他社発行の暗号資産を保有している場合、その暗号資産に活発な市場がある場合は市場価格に基づく評価となり、活発な市場がない場合は原則として取得原価で評価することになる(実務対応報告第38号第5項及び第6項)。活発な市場が存在する場合とは、「継続的に価格情報が提供される程度に十分な数量及び頻度で取引が行われている場合」とされている(実務対応報告第38号第8項)。活発な市場が存在するか否かは、実態に基づき判断するが、例えば、合理的な範囲内で入手できる複数の価格情報が著しく異なっていると認められる場合や、売手と買手の希望する価格差が著しく大きい場合には、通常、市場は活発ではないと判断される(実務対応報告第38号第47項)。活発な市場の検討に当たっては、例えば、DEX(Decentralized Exchange:分散型取引所)が活発な市場であるかどうか留意が必要である。国税庁によるFAQ「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて」では、DEX等が活発な市場の要件を満たす可能性が示されているが、会計上及び監査上は、活発な市場か否かにつき、慎重な判断が必要となる。

なお、取引所によっては、外部の流動性プロバイダーやマーケットメイカーの関与により価格が形成されている場合があり、形式的な取引価格が独立第三者間の需給を必ずしも反映していない可能性がある。そのため、特定の取引所が提供する価格を時価評価の基礎とする場合には、その流動性や価格形成の合理性を踏まえ、活発な市場における価格として適切かを慎重に判断する必要がある。

活発な市場に関連して、例えば、以下の場合に、監査上の論点となる。

① 保有していた暗号資産が取引所に上場した場合又は販売所で販売され始めた場合
暗号資産が上場又は販売所で販売され始めた場合、市場価格に基づく評価を行った場合には、多額の評価益が出ることが想定され、活発な市場の有無について、会計上及び監査上慎重な判断が求められる。例えば、以下の点は判断要素として考えられる。

  • 複数の取引所で上場又は複数の販売所で販売されている。
  • 独立第三者間の取引が一定程度の数量や頻度で発生している。
  • 取引所や販売所で形成されている複数の価格情報が著しく異なっていない。


② 市場価格に基づく評価をしていた暗号資産について取引が縮小してきた場合

もともと活発な市場があると判断されていたものの、取引の数量や頻度の縮小によって売手と買手の希望する価格差の広がりが識別された場合に、活発な市場が認められないとして、市場価格に基づく評価から取得原価に基づく評価に会計処理を移行する事例がある。


(4)上場していないトークン等の保有

企業は暗号資産取引所に上場していない、例えば、以下のようなトークンを取得することがある。

  • 暗号資産取引所における将来の上場を前提として相対取引で取得するトークン
  • 暗号資産プロジェクトの初期フェーズにおけるプライベートセールを通じて取得するトークン
  • ハードフォーク(プロトコルの後方互換性・前方互換性のない大規模なアップデートによるブロックチェーンの分岐(スプリット)により保有する暗号資産が異なる種類の暗号資産に分裂する事象)等により取得するトークン

監査人は、トークンが資金決済法に規定する暗号資産に該当するかどうかについて、企業による検討を確認する。暗号資産該当性は、法律の解釈を伴う場合もあるため、監査人は、法律専門家による見解書の入手やその検討を行うことも考えられる。監査人は、企業がトークンを取得する目的や合理性も併せて検討する。

トークンの期末における評価方法については、当該トークンに活発な市場が存在するか否かの判断が重要となり、前述の「(3)活発な市場の有無の判断」における考え方が参照される。これを踏まえ、取得価額をもって貸借対照表価額とする実務や備忘価額まで減額する実務が見られる。

また、国内では未上場であるものの、海外で発行・流通しているトークン等を取得するケースも考えられる。この場合においても、当該トークンの流通状況を踏まえ、活発な市場が存在するか否かについて検討が行われる。

7.NFT

(1)概要及び利用事例

本稿執筆時点ではNFTに関する固有の法規制はなく、トークンがそれぞれに固有の権利を表章し非代替的な性質を持ち、金融商品取引法や資金決済法等の既存の金融規制が適用されないトークンが一般的にNFTと認識されている。法規制上の定義はなく、会計基準等の明確な定めはないことから、NFTが表章する権利や発行者、一次保有者及び二次保有者などの取引当事者間の権利及び義務等の実態を踏まえ、既存の会計基準等に照らした検討を実施する必要がある。そのため、NFTがどのような権利を表章しているのか、取引当事者間でどのような権利及び義務があるのか等を利用規約や譲渡契約等で明確にすることが会計処理を行うために必要となる。

NFTの利用事例としては、例えば以下のようなものが挙げられる。

  • デジタルコンテンツの流通のために、デジタルアートの閲覧権をNFTに表章する事例や、メタバースと呼ばれる仮想空間上に構築された土地を利用する権利をNFTとして表章する事例
  • ゲームアイテムをNFT化して流通させ、独自トークンの発行と組み合わせてゲーム内で独自の経済圏を作る取り組み(GameFiと呼ばれることがある。)
  • イベントの参加権や施設の利用権等をNFTに表章する事例

NFTは流通市場が多数存在しており、二次流通市場においてNFTが転々流通することが想定されることも特徴となっている。
 

(2)NFT発行

① 自己発行NFTの一次流通
企業が発行したNFTを販売する会計処理の決定においては、収益認識会計基準の適用範囲となるかの検討が必要になる。NFTが金融商品取引法や資金決済法等の金融規制の適用を受けない場合、収益認識会計基準に従って処理される事例が見られる。

収益認識会計基準の適用範囲となった場合、履行義務の識別が課題となる事例が見受けられる。例えば、NFT の保有者に対してトークンの受け渡し後においても様々な権利(例えば、NFT保有者にイベントへの入場権利を与えるケース)を付している事例がある。このように顧客に約束した財又はサービスが複数ある場合には、企業は、別個の財又はサービスかどうかを評価し、別個であれば、それぞれの履行義務を識別し、取引価格の配分及びそれぞれの履行義務の充足する時点又は期間の検討を行うことになる。

企業がこの検討を適切に行うための前提として、発行者及び保有者の権利及び義務が利用規約や譲渡契約等において具体的に明記されることが必要となる。

なお、JCBAより公表されている前述の「RWA(現実資産等)トークンの利活用に関するガイドライン」において、権利義務関係を明確にするという観点から、一定のユースケースを前提とする利用規約に盛り込むべき事項を示した利用規約のひな形が公表されている。

② 二次流通ロイヤリティの収受を含むNFTの自己発行
NFTの二次流通市場で第三者間での売買が行われた際に、売買代金の一定割合を発行者が受領する事例が見受けられる。このような二次流通ロイヤリティの会計処理に当たって、企業は、二次流通ロイヤリティは発行者のどのような財又はサービスの提供に基づいた対価なのか、誰から受領するものなのか(第三者間の売買における販売者から受領するものなのか、購入者から受領するものなのか)を利用規約や二次流通市場の販売サイトにおいて明確化することが必要となる。収益認識会計基準第127項に基づき、個々の契約の実態とそれに係る顧客の合理的な期待を分析することが必要な場合もある。

監査人は、二次流通ロイヤリティの裏付けとなる監査証拠の入手可能性に留意する必要がある。二次流通プラットフォーム上での第三者間のNFT売買に伴うNFTの受渡及び代金決済並びにNFTの発行者への二次流通手数料の支払いがブロックチェーン上に記録される場合がある。一方、二次流通プラットフォームの利用者がNFTを当該プラットフォームに預託し、オフチェーンでNFTの売買、受渡及び代金決済並びに二次流通手数料の支払いが行われる場合もある。このようにNFT関連取引の記録方法には様々なケースが存在することから、監査人は、発行者がNFTの出品を許可した二次流通プラットフォームそれぞれについて、取引の記録方法や入手可能な監査証拠を理解し、監査の実施可能性を検討することが必要となる。ブロックチェーン上の取引履歴だけでは二次流通ロイヤリティが第三者間の実在する売買取引に基づくものであることを裏付けることができない場合には、二次流通プラットフォーム上のデータベースに記録された取引履歴の入手が必要となる場合も想定される。
 

(3)NFT保有

① 保有するNFTの法的性質に基づく会計上の取扱いの検討
他社の発行したNFTを保有する企業は、NFTが表章する権利及びNFTの保有目的を考慮して会計処理を検討することになると考えられる。企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下「棚卸資産評価会計基準」という。)第3項の棚卸資産の定義に該当すると判断し棚卸資産として計上する事例と、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第27条(無形固定資産の範囲)に列挙されたいずれかの項目の権利を表章する目的で保有するトークンと判断し、無形固定資産として計上する事例が見られる。そのため、会計処理の判断に当たりNFTがどのような権利を表章するものであるか、発行者との契約書等で明確にされていることが必要となる。

他社の発行したNFTを棚卸資産として計上した場合、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額を貸借対照表価額とし、その差額は費用として処理される(棚卸資産評価会計基準第7項)。市場価格が観察できない時は、期末前後での販売実績に基づく価額等、合理的に算定された価格を売価とする(棚卸資産評価会計基準第8項)。NFTはその非代替的な性質から、参考となる市場価格を観察できなかったり、NFT市場は黎明期にあり十分な流動性があるとは言えないことから、正味売却価額の見積りが困難となる場合がある。

他社の発行したNFTを無形固定資産として計上した場合、例えば定額法で償却を行う際には、耐用年数の合理的な見積りが問題となる。ブロックチェーン上で記録される場合にはトークン自体は技術的にはほぼ永続的に存在し得るものと考えられるが、NFTをどの程度の期間ビジネスで利用するかについての実績が乏しいことから、耐用年数の見積りを合理的に説明することが難しい事例が見受けられる。また、NFTを利用したビジネスは、収益性やライフサイクル等のデータの蓄積も十分でなく詳細な中長期計画を立てることができず、固定資産の減損会計の適用に当たり、割引前将来キャッシュ・フローの見積りを合理的に説明することが難しい事例が見受けられる。回収可能価額の算定に正味売却価額を利用する場合には、棚卸資産の場合と同様に、正味売却価額の見積りが困難となる場合がある。
 

② 自己の発行したNFT
上記6.(1)①で述べた自己に割り当てた自己発行ICOトークンの会計と同様の論点が生じると考えられる。

8.SAFT等

(1)概要及び利用事例

諸外国におけるトークン関連の資金調達事例では、以下のとおり、SAFT等の形態が見られる。我が国においてはSAFT等を通じた資金調達事例は見られないが、国内企業が運営する在外ファンド等を通じてSAFT等へ投資する事例は見受けられる。
 

① SAFT
将来発行が予定されるトークンの割安購入権。
 

② SAFTE(Simple Agreement for Future Tokens or Equity)
将来発行が予定されるトークンの割安購入又は発行体株式への転換を選択できる権利。
 

③ SAFE(Simple Agreement for Future Equity)
あらかじめ定められた金額を支払うことで、将来の新株発行時に所定の転換価額に基づき当該新株に転換できる権利であり、将来発行が予定されるトークンの有償又は無償での配布を受ける権利であるトークンワラントを組み合わせた形式の契約も見られる。

 

(2)SAFT等の発行

上述のように我が国においては、SAFT等を通じた資金調達の事例は見られないが、今後のWeb3.0ビジネスの多様化の中で、上記で解説した「3.Web3.0企業の監査受嘱上の留意事項」を考慮して実務上の検討が必要となることも考えられる。

この場合、「3.Web3.0企業の監査受嘱上の留意事項」にて解説した事項を検討することが必要になると考えられる。
 

(3)SAFT等の保有

① SAFE
保有するSAFEの会計処理を検討する場合には、SAFEの法的性質やデリバティブに該当するかどうかの検討が必要と考えられる。SAFEは将来発行される株式に自動的に転換される性質を有しており、SAFEの保有者がSAFEの発行者に対して新株を発行させることはできないと考えられている。そのため、以下の商品に該当するかどうかを、個別に検討した上であるべき会計処理を検討する必要があると考えられる。

  • 「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利」である新株予約権(会社法第2条第21号)
  • 金融商品取引法第2条第1項及び第2項(第1号及び第2号を除く。)に規定する有価証券
  • 移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品会計に関する実務指針」という。)第6項で定めるデリバティブ


② SAFT
SAFTについても、会計処理の入り口として、その法的性質の検討が必要と考えられる。SAFTの条件は実務上多様な設計が行われていることが想定されるが、米国では、いわゆるHoweyテスト8によりSAFTが米国証券法の証券に該当するケースがあるものと考えられる。また、SAFTは、将来のトークン発行が所定の日までに行われない場合には調達資金を出資者に返還する条項が付される場合があるが、このような返還義務も会計処理の判断において考慮する必要があると考えられる。さらに、金融商品会計に関する実務指針第6項で定めるデリバティブの定義に該当するかどうかの検討も必要と考えられる。

9.バリデート/ステーキング

(1)概要及び利用事例

ブロックチェーンのブロック承認プロセスであるコンセンサス・アルゴリズムが、PoS(Proof of Stake)やDPoS(Delegated Proof of Stake)等の方式を採用している暗号資産においては、流通する暗号資産を一定量預け入れた者がブロック作成権者となる。このブロック作成権者を始め、自らバリデータノード9を運用する事業者は、「バリデータ」と呼ばれる。バリデータは自身が保有する暗号資産又は他者から預かった暗号資産をブロックチェーンネットワークにステーク(預入れ)し、作成したブロックが適正と承認されることで、ブロックチェーンネットワークから報酬を得ることができる。この暗号資産をブロックチェーンネットワークに預け入れ、ブロックチェーンネットワークの運営や取引の承認に参加し、報酬を得る仕組みを「ステーキング(Staking)」という。ステーキングの仕組みは多様であるが、一般的にはステークする資産の量が多く、かつ長期間ステークされているほど、次回の検証者として選ばれる可能性や報酬額が高くなる。

暗号資産保有者が既にバリデータノードを運用している者に対して、直接又は間接的にステーキングを実施したい暗号資産を預け入れて委任(デリゲート)することで、ステーキングに参加することも可能である。また、暗号資産交換業者等は、サービス利用者からの申込みに基づき、必要に応じて自己が保有する暗号資産(借入暗号資産を含む。)と合わせてバリデータに暗号資産を預け入れ、預け入れた数量に応じてバリデータから分配を受けた報酬をサービス利用者へ付与する行為を、ステーキングサービスとして提供している場合もある。それぞれのケースに関する会計処理の検討は(2)にて後述する。ただし、ブロックチェーンネットワークによってステーキングの仕組みは異なり、それぞれの取引条件、報酬構造、リスク管理等、各ブロックチェーンネットワークの具体的な事実や状況に応じて会計処理の結論が異なる可能性がある点に留意が必要である。

(2)報酬の獲得

ステーキングではブロックチェーンネットワークからバリデータノードに対して報酬が発生する、又はバリデータから報酬の一部が分配されることから、企業は当該報酬について収益として会計処理を行う必要がある。

一般に、顧客と約束した財又はサービスに関する会計処理、すなわち、顧客との契約から生じる収益については、収益認識会計基準に従って検討を行うが、収益認識会計基準において、資金決済法における定義を満たす暗号資産に関する取引は適用対象外とされている(第3項(7))。また、暗号資産のステーキングから生じる報酬は、実務対応報告第38号の範囲に含まれていないことから、既存の会計基準、実務慣行を参考に個々の企業が独自に会計方針を定める必要があり、実務上は収益認識会計基準に準じた形で会計方針を定めているケースが見られる。この場合、重要な会計方針に関する注記の開示目的に照らして、重要な会計方針としての注記の要否の検討が必要となる(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4-2項)。

以下、企業が自らバリデータとなる場合、他の第三者にノード運用を委任(デリゲート)する場合の会計処理の留意事項を紹介する。

① 企業が自らバリデータとなる場合のバリデータの会計処理
前述のとおり、収益認識会計基準に準じて会計方針を定める実務が見られるが、論点となり得る事項を以下に例示する。


a.契約の識別
バリデータがブロックチェーンネットワークに参加する際に、バリデータとブロックチェーンネットワーク又はブロックチェーンネットワーク参加者との間で書面等により契約が締結されることは少ない。そのため、バリデータの権利や義務を識別するためには、当該ブロックチェーンネットワークのホワイトペーパーでその仕様などを理解することが必要となる場合がある。


b.履行義務の識別及び総額・純額表示の検討
バリデータは、取引の検証及び承認を実施する必要があり、その結果としてネットワークからステーキング報酬を得ることとなる。バリデータが自己の保有する暗号資産を自己のノードにステーキングする場合と、暗号資産保有者から委任(デリゲート)を受けて自己のノードにステーキングする場合とでは、契約内容や実態に基づき、顧客の特定や履行義務の範囲に異なる捉え方が生じる可能性がある。暗号資産保有者から委任を受けて自己のノードにステーキングする場合、暗号資産保有者との間でバリデータとして報酬を得る取引が、本人としての取引か、代理人としての取引かも論点となる可能性があるため、バリデータにおいて収益を総額で計上するか、純額で計上するかを検討する必要がある。


c.取引価格の算定
バリデータが受領する報酬のうち、契約上の定めや実務運用に基づき、暗号資産保有者に帰属する部分とバリデータ自身の収益との間での合理的な配分方法を検討する必要がある。


d.収益認識のタイミング
例えば、バリデータとしてブロックチェーンネットワーク上で取引の検証及び承認行為を実施した時点、ステーキング報酬がブロックチェーン上で発生した時点、暗号資産保有者への分配が確定した時点などの一時点で履行義務が充足したものとするべきか、又は、暗号資産の種類によっては一定数量のブロックをまとめた一定期間(ターム)ごとにステーキング報酬が算定されるケースもあることから、その場合には一定期間にわたって履行義務が充足したものとすべきか、契約内容や実態に即して判断する必要がある。


② 他の第三者にノード運用を委任(デリゲート)する場合

a.暗号資産保有者がバリデータに委任(デリゲート)する場合の暗号資産保有者の会計処理
暗号資産保有者(デリゲータ)がバリデータから受け取るステーキング報酬について、収益認識会計基準を準用する場合、バリデータとデリゲータのいずれがブロックチェーンネットワークに対する検証等のサービスを提供しているのか(いずれが本人、代理人なのか)の判断が必要になり、その結果、暗号資産保有者は、ブロックチェーンネットワークから受け取る報酬を総額か、あるいは、純額かで計上することになる。


b.暗号資産交換業者等がサービス利用者からの申込みに基づき、デリゲータとしてステーキングサービスを提供する場合の暗号資産交換業者等の会計処理
例えば、収益認識会計基準の準用に際して、以下の論点が想定される。

  • 履行義務の識別及び総額・純額表示の検討
    暗号資産交換業者等がサービス利用者に提供するサービスが、単なる資産の預かりにとどまるのか、ステーキングの実行やバリデータから分配を受けた報酬のサービス利用者宛の付与までを含む包括的なサービス提供なのか、契約内容や実態に基づき履行義務の範囲を明確にする必要がある。履行義務が複数存在すると評価される場合には、別個のサービスとしての識別、取引価格の配分、それぞれの収益認識のタイミングの検討が必要になる。また、ステーキングサービスが暗号資産交換業者等の本人取引に該当するのか、それともサービス利用者の代理人としての取引に該当するのかによって、ステーキング報酬を総額で計上するか、純額で計上するか検討する必要がある。
  • 取引価格の算定
    暗号資産交換業者等が受領するステーキング報酬のうち、サービス利用者に帰属する部分と暗号資産交換業者等自身の収益(手数料等)をどのように区分するか、契約上の定めや実務運用に基づき合理的な配分方法を検討する必要がある。
  • 収益認識のタイミング
    ステーキング報酬がブロックチェーン上で発生した時点、暗号資産交換業者等が報酬を受領した時点、サービス利用者への付与が確定した時点など、どのタイミングで収益認識を行うべきか、契約内容や実態に即して判断する必要がある。報酬の分配に遅延や条件が付されている場合、収益認識の時期が複雑化する可能性がある。

(3)暗号資産の管理

ステーキングに関連する暗号資産の管理には、預り暗号資産の管理リスクに加え、例えば、以下のリスクが想定される。

  • スラッシングリスク:バリデータが不正行為や運用ミスを行った場合にブロックチェーンネットワークのペナルティメカニズムによってステークした資産の一部が没収されるリスク。
  • スマートコントラクトやブロックチェーン自体の脆弱性や設計上の欠陥に起因し、悪意ある攻撃やバグによる資産流出・損失が発生するリスク。
  • 価格変動リスク:暗号資産価格の変動により法定通貨ベースでの報酬が変動するリスク。
  • 流動性リスクなど:ステーキング資産のアンステーク(引き出し)に時間を要する場合や、市場流動性が不足している場合には、資金の換金が困難となるリスク。

(4)その他の留意事項

ステーキングの仕組みには、利用者が暗号資産を事業者に寄託し、事業者が利用者に代わってステーキングを行う「カストディ(寄託)型」と、利用者が暗号資産を事業者に貸し付け、事業者が自己の裁量で運用を行う「レンディング(消費貸借)型」が存在する。暗号資産の種類や約款の内容によって、分別管理の対象となる寄託か、対象外となる消費貸借かが異なる場合があるため、監査人は個々の契約の法的性質を慎重に識別する必要がある。

一般的な特徴として、レンディング(消費貸借)型では、事業者が運用に関し相対的に広い裁量を持ち、ステーキングに伴う経済的リスク・リワードが事業者側に偏りやすく、本人取引・総額表示寄りの要素を有する一方、事業者に分別管理義務は生じない。一方で、カストディ(寄託)型では、暗号資産が利用者名義で分別管理され、事業者は利用者の計算で代行し手数料を受領するにとどまりやすいため、代理人取引・手数料のみの純額表示寄りの要素を有する。上記はいずれも一般的な整理であり、契約条項、分別管理の有無、事業者の裁量、リスク・リワードの帰属関係等を総合的に勘案し、適用基準及び実務慣行との整合を踏まえて個別に判断することが望ましい。

1 IEOとは、トークンの発行者が暗号資産交換業者に投資家へのトークンの販売を委託することで資金調達を行うものである。この場合、トークンの発行者は暗号資産交換業のライセンス取得を要しない。

2 暗号資産取引に係る規制については、資金決済法から金融商品取引法へ移管し、利用者保護の枠組みを強化する金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律が2026年7月23日に公布され、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される見込みである。この点については第2回で解説予定である。

3 ここでいう暗号資産はcrypto-assetの日本語訳であり、改正資金決済法第2条第14項に規定する暗号資産より広い意味合いで用いられている。

4 資金決済法等の改正を受け2026年8月17日に、ASBJより、実務対応報告第45号の改正案として実務対応報告公開草案第74号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」が公表されている。

5 例えば、米国では、トークンが米国証券法の証券に該当するかが論点になる。Securities and Exchange Commission(以下「SEC」という。)は、2020年12月に暗号資産XRPは米国証券法の証券に該当するため、無登録の証券を販売したとして販売者に訴訟を起こすなど(その後、機関投資家向けの販売は証券取引に該当し、暗号資産取引所での一般公開取引(リテール販売)は証券取引に該当しないとの判決が下され、最終的に2025年8月に両者は和解している)、トークンを証券であるとSECが評価する事例が複数存在する。米国における証券への該当性については、SECよりガイダンス(SEC.gov|Framework for “Investment Contract” Analysis of Digital Assets(https://www.sec.gov/corpfin/framework-investment-contract-analysis-digital-assets))が公表されており、判定手法としてHoweyテストに言及されている。Howeyテストとは、1946年のHowey社を被告とした訴訟において、同社による土地販売行為が1933年証券法第2条(a)(1)に定める「投資契約(investment contract)」に該当するか否かが争点となった際に、裁判所が複数の判断基準を定めた上で行った判定方法であり、米国でトークン等の発行者が法律専門家から入手する意見書において、トークン等が有価証券に該当するか否かの判断をする際に使用されている実務がある。なお、Howeyテストが現代のブロックチェーン技術に適していないという意見もあり、本研究資料改正日時点で、SECにてHoweyテストの適用に関して見直しが行われている。

6 ICOはInitial Coin Offeringの略称である。研究会報告書によれば、ICOについて明確な定義はないが、一般に、企業等がトークンと呼ばれるものを電子的に発行して、公衆から法定通貨や仮想通貨の調達を行う行為を総称するものとされている。論点整理では、図表1の資金決済法上の暗号資産に該当するICOトークンを対象として、その発行及び保有に関する論点について取り扱っている(第7項)。

7 2023年度税制改正要望において金融庁と経済産業省の共同要望として「ブロックチェーン技術を活用した起業等への阻害要因を除去し、Web3推進に向けた環境整備を図る観点から、法人が発行した暗号資産のうち、当該法人以外の者に割り当てられることなく、当該法人が継続して保有しているものについては、期末時価評価課税の対象外とすること」が出されていることを受け、ASBJに対して、自己に割り当てた自己発行ICOトークンの会計処理について質問が寄せられた。これを受けて、2022年11月7日開催の第490回企業会計基準委員会にて、自己に割り当てた自己発行ICOトークンの会計処理について審議が行われた。論点整理で紹介した考え方のいずれを採用すべきか結論は出していないが、いずれの場合も時価評価しないという考え方が示された。

8 Howeyテストは、脚注5を参照。

9 ブロックチェーンネットワークに参加するコンピュータをノードと呼ぶ。

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