日本公認会計士協会が2026年3月23日に公表したサステナビリティ保証業務実務指針5000について解説する。
日本公認会計士協会では2026年3月23日にサステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」(以下「サス保実5000」という)を公表した。
国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、サステナビリティ情報の保証業務に対するグローバル・ベースラインを提供する包括的な基準として、国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」(以下「ISSA5000」という)を策定し2024年11月に公表した。これを受けて、日本公認会計士協会では会員向けに、ISSA 5000と整合する形の実務上の指針として、サス保実5000を起草し今般公表したものである。
本稿では本実務指針の内容を解説する。
サス保実5000の起草に当たってはISSA 5000と基本的に同内容とする方針としている。そのため、公開草案において、JP項(起草の元となった国際基準(本稿においてはISSA5000)には含まれないものの、日本公認会計士協会が必要と認めて追加した項)は該当がなく、欠番項(起草の元となった国際基準には含まれるものの、我が国の法令等を優先して適用しない項)も極力設けていない。欠番項となっているのは、いずれも監査基準報告書と同様の内容であり、パブリックセクターに関連する条項と保証報告書における業務執行責任者の氏名について稀に記載しない場合がある点である。また内部監査人の直接補助に関する規定がISSA5000においては定められているが、日本では会社法第396条第5項において、会計監査人が被監査会社の使用人等を補助者として使用することが禁止されているため、監査基準報告書と同様サス保実5000においても欠番項としている。
サス保実5000は、今日の企業のサステナビリティ報告におけるトピックは多岐にわたっている状況に対応するため、気候変動、人的資本、生物多様性など、あらゆるサステナビリティトピックに対して適用可能となっている。また、統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ報告書など、あらゆる報告メカニズムに対して適用可能である。さらに、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が公表した開示基準、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)など、あらゆる基準に対して適用可能であるなどの特徴があり、原則主義に基づく包括的な基準となっている。
また、サス保実5000は、合理的保証業務と限定的保証業務の両方の水準の業務に対応している。基準の各項のうち、限定的保証業務又は合理的保証業務のいずれか一方のみに適用される要求事項は、限定的保証業務は項番号の後に「L」、合理的保証業務は項番号の後に「R」を付した形式で記載されている。
サス保実5000は、保証業務契約の締結から保証報告書の作成まですべて扱っている。目次は以下の(図表1)通りとなっており、構成は監査基準報告書と同様となっている。
サス保実5000は、日本公認会計士協会の会員が実施する全てのサステナビリティ情報に対する保証業務に適用される。一方で、現状の日本の実務においては、温室効果ガス排出量の保証についてはISAE3000(International Standard on Assurance Engagements 3000 (Revised), Assurance Engagements Other than Audits or Reviews of Historical Financial Information)とISAE 3410(International Standard on Assurance Engagements 3410, Assurance Engagements on Greenhouse Gas Statements)に基づいて行われていることが多い。日本公認会計士協会では実務指針は公表されていないが、IAASBの基準体系の上ではISSA5000発効後、ISAE3410は廃止されることとなっており、温室効果ガス報告に対する保証業務にもサス保実5000を適用することになる。
サス保実5000はサステナビリティ情報の保証業務全般にわたる要求事項及び適用指針を含む包括的な実務指針であることから、保証業務実務指針3000を適用することは求められていない。保証業務実務指針3000「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」も適合修正が行われ、サステナビリティ情報に対する保証業務は保証業務実務指針3000の適用範囲から除外されている。
なお、保証業務の提供に当たり、品質管理基準報告書及び倫理規則の適用を前提としている。対応する品質管理基準報告書も公表されており、倫理規則についても現在改正作業が進んでいる。なお、サス保実5000と倫理規則で共通する概念や定義は、両者で一致している。
保証業務においては、必須5要素とも言われる概念があり、以下の5つが該当する。
このうち、サス保実5000において、主題はサステナビリティ事項をいう(第18項)。サステナビリティ事項とは環境、社会、ガバナンスその他のサステナビリティ関連の事項であり、法令又は関連するサステナビリティ報告の枠組みで定義若しくは説明されているもの、又はサステナビリティ情報の作成、表示のために企業が特定したものである。
また、主題情報はサステナビリティ情報であり、サステナビリティ事項に関する情報をいう(第18項)。サステナビリティ情報は、規準に照らしてサステナビリティ事項を測定又は評価した結果を表明する情報である。
規準はサステナビリティ事項を測定又は評価するための一定の基準となるものをいい、①確立された規準、②企業が独自に開発した規準又は③その両方から構成される(第18項)。なお、確立された規準は、適正表示の規準又は準拠性の規準のいずれかである。
確立された規準には以下のものがあるとされている。
① 法令によって定められたもの
② 広範囲の利害関係者の見解についての審議及び検討を含む透明性のある適切な手続を経た上でサステナビリティ情報の報告基準を公表する権限を有する、又は認知されている専門家団体により、特定の種類の企業が使用するために策定されたもの
③ 透明性のある適切な手続を経ずに業界団体が独自に開発しているもの
④ 学術的な刊行物
⑤ 特許又は著作権による保護を受ける目的で開発されたもの
保証業務の形式には一般的に「直接報告による保証業務」と「主題情報の提示を受ける保証業務」の2つがあるが、サス保実5000においては、主題情報の提示を受ける保証業務のみを対象としている。また、保証業務実施者の意見表明の形式には一般的に「主題に対する結論の表明」、「主題情報に対する結論の表明」及び「表明された見解に対する結論の表明」がある。このうち、サス保実5000においては、「主題情報に対する結論の表明」、「表明された見解に対する結論の表明」の2つを対象としている。
内部統制システムの構成要素の理解について、限定的保証業務の場合は質問、合理的保証業務の場合は質問と他の手続を通じて、以下の(図表2)に記載されている項目を求めている。
また、重要な虚偽表示リスクの識別と評価については、限定的保証業務においては、開示情報レベルでの重要な虚偽表示リスクの識別と評価を求めており、合理的保証業務においては、開示情報におけるアサーション・レベルでの重要な虚偽表示リスクの識別と評価を求めている(第103LR項)。
保証業務実施者が限定的保証業務で入手する証拠は、合理的保証業務の場合よりも限定的である。保証業務実施者がサステナビリティ情報に重要な虚偽表示が存在する可能性が高いと認められる事項に気付いた場合、限定的保証業務においても追加の証拠を入手するために、追加の手続を立案し実施することが要求されるときがある(第148L項)。このため、証拠の入手及びアクセス可能性の必要性は、保証水準にかかわらず同じである(第A206L項)という点には留意が必要である。
見積りと将来予測情報を併せて要求事項で扱っており、限定的保証業務においては、以下の事項の評価が求められている(第146L項)。
また、合理的保証業務においては、規準の要求事項を適切に適用しているかの評価に加えて、以下のうち少なくとも一つを実施することが求められている(第146R項)。
なお、保証業務実施者は企業が使用している仮定に基づいて、適用される規準に従って将来予測情報が作成されているかどうかについての証拠を入手することが求められる。なお、将来予測情報の一環として開示される将来の戦略、目標などが達成されるかどうかに関する証拠を入手することや結論を出すことまでは求められていない(第A452項)。
複数の企業又は事業単位のサステナビリティ情報を含む、規準に準拠して作成されたサステナビリティ情報をグループサステナビリティ情報という。なお、規準がバリュー・チェーンの企業からの情報を含むことを要求している場合、バリュー・チェーンの企業からの情報を含めたサステナビリティ情報についてもグループサステナビリティ情報という(第A35項)。
個々の業務の状況に応じて、保証業務実施者は以下の様々な人的資源を利用する場合がある。
このうち、「保証チーム外の他の業務実施者」はサス保実5000での新たな概念である。
ガバナンスに責任を有する者とは、企業の戦略的方向性と説明責任を果たしているかどうかを監視する責任を有する者又は組織をいう。サス保実5000においては、ガバナンスに責任を有する者にはサステナビリティ情報の報告プロセスを監視する責任を有する者又は組織を含むとされている。また、国によっては、ガバナンスに責任を有する者には、経営者を含むことがあるとされている。我が国においては、会社法の機関の設置に応じて、取締役会、監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会がガバナンスに責任を有する者に該当する。そのため監査基準報告書において、国際基準でThose Charged With Governanceとしている個所について監査役等としている。一方サス保実5000においては、サステナビリティ情報に関するガバナンスの構造に応じて適宜読み替えることが必要となる。コミュニケーションの対象として適切なガバナンスに責任を有する者を保証業務実施者が判断し、保証業務依頼者(企業)との間であらかじめ合意しておくことが考えられる(第18項)。
不正及び違法行為の主な要求事項として、以下の点が記載されている。
保証業務の対象となるサステナビリティ情報及び保証報告書が含まれる文書のうち、保証業務の対象とならない情報を「その他の記載内容」という(第18項)。例えば、有価証券報告書に監査済財務諸表と保証対象となるサステナビリティ情報が開示される場合、サステナビリティ保証の観点からは、財務諸表監査人が監査を実施した監査済財務諸表がその他の記載内容となる。同様の概念は会計監査にも存在し、監査基準報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」において定められている。財務諸表監査の観点からはサステナビリティ情報がその他の記載内容となる。
サス保実5000においては、その他の記載内容について、以下の事項を行わなければならないとされている(第171項)。
なお、保証対象のサステナビリティ情報が含まれる書類に財務諸表が含まれる場合で、財務諸表と保証対象のサステナビリティ情報との間に重要な相違があると思われる場合又は当該財務諸表に重要な虚偽表示が存在する可能性があることに気付いた場合、法令等で禁止されていない限り、財務諸表の監査人にその問題を伝えることが要求されている(第174項)。
サス保実5000においては、付録3において、以下の(図表3)の通り四つの文例を示している。
保証報告書におけるポイントは以下のとおりである。
限定的保証業務においては、保証水準が想定利用者のサステナビリティ情報に関する信頼を少なくともある程度高めるであろうと想定される水準と合理的保証業務における保証水準との間の様々な水準になり得る。そのため、保証報告書において、実施した手続の概要を記載することを求めている。また、「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)」に相当する事項の記載は要求されておらず、将来の検討課題とされている。なお、サステナビリティ情報に含まれる将来予測情報に関連する固有の限界を含む、適用される規準に照らしたサステナビリティ事項の測定又は評価に付随する重要な固有の限界が存在する場合には、「サステナビリティ情報の作成における固有の限界」という見出しを付し、その内容を記載する(第190項(7))。
日本公認会計士協会では制度保証に対応した保証報告書の文例を含めた実務ガイダンスを公表することを予定している。またYouTubeチャンネルでもサス保実5000の概要や研修等の動画が掲載されているので参照されたい。