2026年8月20日公開
2026年上期の株式市場は、2024年に上場したキオクシアホールディングス㈱が、6月に一時トヨタ自動車㈱の時価総額を上回るなど、22年間トヨタ自動車㈱が維持した時価総額国内首位の座に迫る企業が登場した。このように、中東情勢の緊迫化に伴い原油価格が大きく変動するなか、ハイパースケーラーなどの巨大データセンター投資に伴うAI・半導体銘柄の株価上昇に牽引され、日経平均は6月に史上最高値(終値)の72,366円を記録し、年初から3割を超えて上昇する結果となった。
一方、物価の上昇及び歴史的円安等に伴う日銀の相次ぐ利上げにより、相対的に金利感応度の高い新興企業への逆風が意識されグロース市場250指数は750前後で低迷している状況である。
このようななか、国内IPO企業数(TOKYO PRO Market(以下、TPM)への上場及びTPMを経由した上場を含む)は41社と、2025年上期の49社から8社減少した。特に図表2のとおりTPMを含まない一般投資家向け市場へのIPO企業数は17社と2025年上期の28社から11社減少しており、直近10年の中で最も低かった2025年上期よりさらに低い水準となっている。
以下、2026年上期の国内IPO市場の動向と特徴を整理してみることとする。
(注)TPMへの上場、TPMを経由した上場を含む。
2026年上期のIPOの主な特徴を要約すると、以下のとおりである。各項目の詳細については後述する。(以下、各項目の企業数及び比率はTPMを除く)
① 市場別…グロース市場へのIPO企業数は11社と前年同期の18社から大きく減少。
② 業種別…情報通信業7社、サービス業4社と2業種合計が全体の64%を占めた。
③ 発行総額…発行総額100億円以上のIPO企業は2社(前年同期3社)となり、前年同期比で微減しているものの、発行総額970億円の大型IPOとしてGO㈱が上場。また、海外での募集・売出しを実施したIPOは1社であり、前年同期6社から減少した。
④ IPOのタイミング…期越え上場数は8社(前年同期12社)となり、全体の47%を占める結果となった。
⑤ IFRS適用によるIPO…IFRS適用IPO企業は2社(前年同期3社)となった。
⑥ 時価総額…初値時価総額1,000億円以上の企業は1社(前年同期1社)となった。
⑦ 赤字上場…上場直前期の当期純損失企業は3社(前年同期4社)となった。
① 市場別
直近の市場別のIPO企業数は、図表3のとおりである。2026年上期のプライム市場へのIPO企業はなく、スタンダード市場へのIPO企業数は6社となっている。グロース市場へのIPO企業数は上場維持基準変更に関する影響もあり11社と前年同期の18社から大幅に減少しているものの、東証の市場区分(TPMを除く)におけるIPO数に占める割合は、2025年上期と同水準となった。なお、TPMへのIPO企業数の増加傾向は継続しており、2026年上期では24社の上場となった(前年同期21社)。
(注1)2022年4月の東証市場区分の変更に伴い、「2022年上期IPO市場の動向」から表の記載を変更している。
(注2)重複上場した会社については、東証側でカウントしている。
(注3)TPMを経由した上場を含む。
(注4)グロース市場IPO企業数割合は、東証へのIPO企業数(TPMに上場した企業は除く)に対するグロース市場へのIPO企業数の割合である。
② 業種別
2026年上期にIPOした企業の業種別の内訳(TPMを除く)は図表4のとおりである。情報通信業7社、サービス業4社となり、2業種合計では11社と全体の64%(前年同期64%)を占めている。ただし、サービス業は前年同期の10社から4社と大きく減少しており、情報通信業も減少している。
代表的な情報通信業では、タクシー配車アプリサービスを提供するGO㈱が、初値時価総額2,260億円で2026年上期の国内大型IPOとなっている。また、GO㈱に続く情報通信業での時価総額上位の企業として、アニメ、舞台、グッズ展開を担うコンテンツプロデュース事業を行う㈱TOブックスやM&A総合プラットフォーム「BATONZ」の企画・開発・運営を行う㈱バトンズがある。
2025年通期で1社も上場のなかった医薬品業において、2026年上期は、再生医療等製品の開発、製造及び販売を行うイノバセル㈱やSLCトランスポーターをターゲットとした医薬品開発を行うジェイファーマ㈱が上場している。
(注)TPMは社数から除いている。
初値と公開価格の倍率が高かったIPO企業は図表5のとおりである。いずれも公募時価総額が30億円~80億円のIPOであったが、成熟した市場にある既存事業にIT(DX)を利用した新たな技術やサービスにより付加価値を創出することにより、将来の成長が期待される企業等であり、投資家の期待が高い傾向にあった。一方で、初値が公開価格を下回った公開価格割れのIPO企業数の推移が図表6のとおりである。公開価格割れのIPO企業数は、2026年上期では8社と2025年上期と比較し高い傾向となっている。
(注)TPMは社数から除いている。
③ 発行総額
公募金額及び売出し金額を合計した発行総額レンジ別のIPO企業数は、図表7のとおりである。発行総額100億円以上のIPO企業は2社であり前年同期の3社に対し微減となり、2026年上期は、発行総額970億円の大型IPOとしてGO㈱が上場している。一方、発行総額50億円未満のIPO企業数は、13社と2025年上期の21社から減少しているものの、全体に占める割合は76%と前年同水準となっており、未だ小型のIPOが多数を占めている状況である。
(注)TPMは社数から除いている。
また、2026年上期に海外での募集・売出しを実施したIPOは、グローバル・オファリング1社のみ(前年同期はグローバル・オファリング1社、旧臨時報告書方式5社)となった。
グローバル・オファリングを実施したGO㈱は、売出し総額886億円となり、売出株式の約8割を海外から調達した。旧臨時報告書方式は0社となっているが、2026年上期は米国市場でスペースX及びアンソロピックの超大型IPO銘柄の登場により、投資家の関心は、一部の超大手成長企業に集中してきていることが1つの要因と考えられる。
(注)TPMは社数から除いている。
④ IPOのタイミング
最近はIPOのタイミングが上場申請期の期初から長い企業が多い傾向にあるが、2026年上期も同様の傾向にある。図表9では、2024年上期、2025年上期及び2026年上期の上場申請期の期初からIPOするまでの月数別の企業数を示している。
(注)TPMは社数から除いている。
2024年上期から2026年上期にかけての傾向を見ると、上場申請期の第4四半期期末月(=上場申請期の期初から数えて12ヶ月目)の上場と上場申請期の期初から数えて13ヶ月目から15ヶ月目での上場(いわゆる「期越え上場」)が、他の月と比較して多い傾向は継続している。特に、「期越え上場」の割合については、図表10で示すとおり、2026年上期は47%と、継続して4割を超え高い水準が継続している。これは、業績予想の達成状況を慎重に見極めてからIPOする会社が多いことに起因していると考えられる。
(注)TPMは社数から除いている。
⑤ IFRS適用によるIPO
最近のIFRSを適用して上場した企業は図表11のとおりであり、プライベート・エクイティファンド(以下PEファンド)が株式の大半を保有しているか若しくは資本上位会社がIFRSを適用している会社が中心となっている。IPOマーケットにおいては、PEファンドが多くを出資するケースでは上場する際にIFRSを適用する傾向が見受けられる。
2026年上期は㈱セイワホールディングス及びヒトトヒトホールディングス㈱(前年同期3社)であり、海外売出しや海外展開の有無、会社規模にかかわらずIFRSを適用したIPOを行っている。
(注)TPMは除いている。
⑥ 時価総額
初値時価総額1,000億円以上のIPOは、2026年上期はGO㈱の1社のみであり、2025年上期におけるJX金属㈱の1社と同数となった。
6月に上場したGO㈱は、「GO」を主力とした配車アプリの運営の他、決済、広告、端末、タクシーチケット等タクシーアプリに付帯するタクシーのDX化を実現した企業である。上場初値は2,910円(売出価格2,400円に対し+21.2%)をつけ、初値時価総額は2,260億円となり、直近5年間では上位5位に入る大型上場となっている。
また、初値時価総額レンジ別のIPO企業数は、図表12のとおりであり、初値時価総額500億円以上のIPOは2社(上述のGO㈱の他、イノバセル㈱)となった。2026年上期の初値時価総額500億円以上の企業の割合は全体の11.8%、100億円以上は全体の41.2%となっている。
(注)TPMは社数から除いている。
⑦ 赤字上場
2026年上期においては、図表13のとおり、上場直前期に当期純損失を計上した企業は3社と2025年上期から微減であり、割合についても、17.6%とほぼ同水準となっている。また、上場申請期においても当期純損失を予想している企業数は2025年上期と変わらず1社となっている。
(注)TPMは社数から除いている。
(注)TPMは社数から除いている。
2026年上期は、41社(TPMへの上場及びTPMを経由した上場含む)がIPOを果たした。また、海外市場では、スペースXがNASDAQ市場に上場し、IPOによる総資金調達額は史上最大の約857億ドルとなり、3月には時価総額約121億ドルでPayPay㈱がNASDAQ市場に上場している。
国内市場において2020年下期以降堅調に推移していたIPO企業数は、2025年から減少傾向にあり、2026年上期の41社のうち24社はTPMへの上場であり、TPMを除いた一般投資家向け市場へのIPO企業数は17社と過去10年間で最も低い水準となっており、特にグロース市場へのIPO企業数は11社と前年同期の18社と比べ減少が顕著であった。
この背景には、世界での紛争拡大に伴う経済環境の見通しの不透明性のほか、大きな要因として、小型IPOが多くIPO後に成長が停滞する企業が多いという問題意識を踏まえ、2025年9月、㈱東京証券取引所は、「グロース市場の上場維持基準の見直し等について」を公表し、グロース市場の上場維持基準を「上場10年経過後以降、時価総額40億円以上」から「上場5年経過後以降、時価総額100億円以上」としている。このため、投資家からの上場準備会社への期待の変化、資金調達方法の多様化及びIPO以外の出口戦略の増加等により、TPMは横ばいであるものの一般市場でIPOが減少している傾向にあるものと推察される。
これは、2025年に㈱東京証券取引所がグロース市場の上場維持基準を見直した趣旨のひとつである、「IPOを増やすこと」から「IPO後も企業価値を大きく伸ばすこと」への政策重点を移したことが体現されている結果ともいえる。また、米国などでは、未上場の段階で十分な企業規模まで成長してから、IPOするケースが多く見受けられ、当該変更は、成長が難しい企業はM&Aなども含めて次のステージに進み、創業者や投資家が新たなスタートアップへ資金や経験を循環していく新陳代謝の促進なども含まれる。
この基準の変更は、「上場ゴール」ではなく、「企業成長の通過点としてのIPO」であることを示し、上場後も資本市場を活用の上、持続的に成長し企業価値を高めることを求め、今後は上場後の持続的成長を念頭に、未上場の段階からグローバル展開や複数プロダクト展開の推進等によってより強固な成長基盤の構築を推進し、その過程において積極的にM&Aを活用し成長を加速させる等、企業価値向上への取組が今まで以上に活発になることが想定される。このため、今後のスタートアップにはより一層高度化された事業計画や成長戦略が求められ、より質の高いガバナンス体制の構築・運用が必要になると考えられる。
また政府においては2025年11月に日本成長戦略本部を設置、日本成長戦略会議を開始し、2026年7月閣議決定された「日本成長戦略」において、「17の戦略分野における官民投資の促進」とともに「8つの分野横断的な課題の解決」の1つに「スタートアップ」を挙げ、その対応方針として、2022年11月に策定した「スタートアップ育成5か年計画」を抜本強化するため、3本柱からなる「スタートアップ総力創出パッケージ」の着実な実行が示されている。
このように、成長を支援するための様々な施策が市場や政府から展開され、またスタートアップを取り巻く環境が大きく変わっていく状況下で、日本市場をより活性化させていくために、ベンチャーキャピタル、証券会社、監査法人等のIPO関係者も一度「IPO」の位置づけを再考し、IPO市場における潜在的なユニコーン企業の創出及び持続的な成長の実現に一丸となって取り組んでいくことが求められるものと考える。