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M&Aのシナジー実現に向けた会計PMI(経理領域のPMI)

企業価値向上のための活路を海外中心としたM&Aに求める日本の企業は増加の一途をたどっています。会計PMI(Post Merger Integration)の最大の目的は、買収後の事業成績となる財務数値を正確かつタイムリーに把握し、親会社へ報告することです。制度対応だけではなく、M&Aの目的が掛け算としてのシナジー実現の場合、被買収企業の現状把握、シナジー施策の立案、KPI設定とその後のモニタリングプロセスの円滑化のため、土台となる財務数値を正確かつタイムリーに把握することが必要不可欠となります。まさに、シナジー実現に向けて、財務数値の可視化および定量化はPMIの一丁目一番地であるといえます。

会計PMIの位置づけ

PMIにおいては、M&Aによるシナジー実現プロセスと会計PMIが両輪となって機能します。M&Aによるシナジー実現プロセスは、投資時にシナジー実現後のあるべき姿を設計するところから始まります(図表1左側)。その後、被買収企業の現状分析、分析により判明したあるべき姿との差分を埋める施策の立案と実行を経て、最終的なゴールであるM&Aによるシナジー実現を目指します。

この一連のシナジー実現プロセスと両輪になって機能し、下支えするのが会計PMIです(図表1右側)。なぜならば、M&Aによるシナジー実現プロセスは、全てが定性的な情報だけではなく、定量的な数値情報、特に財務数値をもとに語られるものだからです。会計PMIの機能は、財務数値の可視化と定量化にとどまらず、財務数値の分析による事業側への助言や、それに基づく戦略や施策のブラッシュアップも担っています。このため、M&Aによるシナジー実現プロセスの議論の土台となる過去、現在、将来の財務数値をいかに可視化、精緻化できるかが重要となります。

会計PMIのプロセスにおいて、シナジー実現後のあるべき姿の達成度合いや、それに向けた各種施策の効果測定(業績モニタリング)は、KPI(重要な業績評価指標)や被買収企業の財務分析によって検討が必要です。しかし、そこで使用される財務数値は、被買収企業から情報収集可能なものと、情報収集のため追加のプロセス整備が必要なものに分かれます。したがって、会計PMIの実務においては、短期的には制度会計対応で入手する財務数値を使用しつつ、Day100以降あたりから、制度会計対応を通じて理解した現状の財務報告プロセスとあるべき情報収集プロセスのギャップを埋める方法を検討することが一般的です。このアプローチは、クロージング直後で特に会計PMIの負荷が大きい被買収企業への配慮を意識した実務的なものです。また、中長期的には、財務数値を正確かつタイムリーに把握するという目的を最大限達成するために、親会社と子会社で統一された会計システムを導入することも検討テーマとなります。

最後に、これらのプロセスを実行する人財の問題があります。どんなに立派なグランドデザインや戦略があったとしても、それを実行できる人財が存在しない場合には、財務数値の正確かつタイムリーな把握も、M&Aによるシナジー実現も困難です。図表1においては、このような戦略の実行性を担保する人財を“グローバル人財”としていますが、これは単に海外M&A時の人財を意味するものではありません。国内M&AにおけるPMIであっても、親会社と子会社間の法人の垣根を越えた対話、また、自社内においても、経理部内の制度会計チームやFP&Aチーム、経営企画、事業部、IR、経営層(マネジメント)など、様々な部署間や利害関係者と横串で対話できる人財が必要となる意味で、“グローバル人財”の存在が重要であることに変わりはありません。

会計PMIは、制度対応からKPI設計・業績管理プロセス整備まで行い、財務数値の可視化を通じてM&Aのシナジー実現と戦略実行を支援する。

会計PMIの主要タスク

会計PMIの主要タスクは図表2のとおりです。各々を詳しく見ていきます。

会計PMIは、プロジェクト管理から会計方針統一、決算早期化、管理会計、内部統制整備まで多岐にわたる業務を体系的に実行する。

Day1、Day100、1yearなど、それぞれのフェーズ完了時点のあるべき姿やゴールを設定した上で、そこからの逆算で、より詳細なマイルストーン設定や、フェーズ内の個々のタスクスケジュールを検討することになります。中長期のプロジェクトになるため、クイックウィン(小さな成功)の積み重ねとそれによる参加するプロジェクトメンバーのモチベーション維持向上のために、現実感のある単位で区切ったゴール設定とスケジュール検討が重要となります。また、タスクごとの人財要件とそこから想定されるプロジェクトの運営体制(リソース体制)の検討、会計PMIとしての会議体運営方法の検討、被買収企業とのコミュニケーションルートの整備も重要です。

取得日と連結決算日の検討にあたっては、被買収企業へ与える対応負荷と実行可能性を考慮して、実際の支配獲得日とは異なるいわゆる“みなし取得日”を会計上の取得日とする取り扱いや、子会社の決算日と親会社の連結決算日が異なる場合の期ずれ取り込みなどの実務的な対応も検討対象となります。

会計方針の差異分析と差異調整手続きは、会計PMIにおける典型論点です。被買収企業からの情報収集可否や親会社グループの四半期決算タイミングを考慮した上で、その実施時期や作業期間の短縮に向けた施策の検討がポイントになります。勘定科目マッピングについても、被買収企業の対応負荷軽減のため、親会社主導でのマッピング表のドラフト作成などが実務的なポイントとなります。

PPA(Purchase Price Allocation)においては、識別可能な無形資産の計上などに伴う会計上の償却費インパクトについてプレPPAを実施するなど、事前に十分な検討をすることで、予算や業績へのサプライズを出来る限り防止することが肝要です。のれんの減損テストは、年1回期末などに制度会計として実施されるものですが、投資家からの関心が高い領域であり、期中を通じてテクニカルな減損評価のシミュレーションを実施し、経営としての見極めと減損までの想定ストーリーを前広に検討するなど、管理会計の観点からも重要な論点となります。 

会計PMIの中で対応に時間を要する足の長いタスクです。ここでは、子会社の決算体制の確認から、あるべき決算スケジュールの作成、早期化要否とボトルネックの分析、早期化施策に係る被買収企業との協議、月次決算を利用した早期化施策に基づく決算トライアルを経て、最終的なあるべき決算スケジュールの達成を目指します。

<図表1>「会計PMIの位置づけイメージ」で記載の通り、M&Aによるシナジー実現プロセスと両輪で機能し、下支えするプロセスです。親会社として必要な管理会計情報の検討、現状とあるべきとの差異分析と差異解消のためのロードマップ作成、必要な管理会計プロセスの追加整備を経て、業績モニタリングプロセスの運用を行います。

現状プロセスの理解、決算財務報告プロセスにおいて最初におさえるべき内部統制である残高照合プロセスおよび決算チェックリストの整備運用、J-SOX評価範囲の検討、評価対象プロセスの整備運用が含まれます。J-SOXについては、新規の買収子会社という会計PMIの特質を考慮した上での評価範囲の検討や評価対象プロセスの整備運用に向けた準備がポイントになります。

会計PMIの主要タスクとスケジュール

図表3は、12月決算企業である日本の上場企業が、同じく12月決算企業である海外の企業を第3四半期中の8月に買収したケースです。会計PMIのスケジュールは、一般的にクロージング日(Day1)までのプレPMI期間(フェーズ1)、Day1からDay100までのフェーズ2、Day100以降のフェーズ3に分けられます。実際のプロジェクトにおいては、連結決算タイミングを考慮して、上記のフェーズに加えて、Day30でフェーズを区切る場合も存在します。

会計PMIは、契約後からDay100以降まで各機能別にタスクを段階的に進め、決算・統制・管理体制を整備するロードマップを示す。

被買収企業へのアクセスや情報収集が限定される中で、会計PMIとしてのゴール設定やリソース確保、連結決算スケジュールや一部の連結会計方針の検討など、主に親会社としての計画立案を行います。親会社会計方針との差異分析や決算早期化における最初のステップである子会社の決算体制の確認についても、財務デューデリジェンスを通じて入手した情報をもとに、この時点から親会社側でハイレベルに理解および分析をしておくことが肝要です。また、株式譲渡契約締結後からクロージングまでの期間においては、その後の慌ただしい会計PMIスケジュールを考慮して、アクセスや情報収集に制限がある中でも可能な限り事前に両社経理チーム間の連携を深めておくことが有効です。

被買収企業の従業員を巻き込んだキックオフミーティングを皮切りに、これまでアクセスや情報収集が制限されていたことで深度ある対応が難しかったタスクについて、被買収企業との直接的なコミュニケーションや協議を進めます。週次定例会など、両社のコミュニケーションルートが整備され、実際にそれが運用開始されます。主なタスクとしては、会計方針の差異分析と差異調整手続き、子会社の決算体制の確認と早期化に向けた協議、業務プロセス理解のためのインタビューなどが挙げられます。また、買収企業が上場企業の場合、Day100までのタイミングで買収後初めての四半期決算を迎えることになるため、フェーズ2は決算の実行フェーズの意味合いも兼ねています。

期末決算に向けて、決算早期化に磨きをかけるとともに、経理決算数値の作成プロセスにおけるチェック体制の強化や、管理会計として必要となる情報収集のための追加プロセス整備を行うことで、必要な財務数値をより正確かつタイムリーに把握することができる状態を目指します。

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会計PMIにおいては、昨今の管理部門における慢性的なリソース不足の一方、既存の日常業務と同時並行かつ短期間で、負荷の大きな複数のタスクに対応する必要があります。海外M&Aにおけるクロスボーダー会計PMIの場合、その負荷はさらに増大します。

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