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Virtual PPAに関する会計上の検討課題について

Financial Advisory Topics 第30回

環境価値の確保の手段としてVirtual PPAの検討機会が増加する傾向にある一方、Virtual PPA導入にあたっては、会計・税務およびそれに関連して市場のフォワードカーブの予測、デリバティブの時価評価等の論点を事前に検討することが強く推奨されます。

日本におけるコーポレートPPA(電力購入契約)の導入は欧州・米州と比較するとまだ少ない状況にありますが、2050 年カーボンニュートラルの実現という国際公約を達成するためには再生可能エネルギーの導入拡大が必須となっており、FIT/FIP* 制度によらない需要家(企業等)との長期契約によるモデルとしてコーポレートPPA に注目が集まっています。

コーポレート PPA は、電力の物理的な供給を伴うフィジカルPPA と電力の物理的な供給を伴わないバーチャル PPA(VPPA)に大別されますが、特に VPPA については、需要家企業にとっては実際の電力調達に柔軟性を持たせつつ追加性のある環境価値を安定的に確保できるといった利点があり、発電事業者にとっても、固定価格での売電収入が見込まれることで金融機関からの資金調達を容易にしたり、供給先の分散が避けられるため再エネ電気のバランシングが容易になるなどの利点があります。

* FIT:再生可能エネルギーの固定価格買取制度/FIP:再生可能エネルギーの市場価格に一定のプレミアムを交付する制度

図 バーチャルPPA
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VPPA は、発電事業者から需要家企業に対して環境価値の移転をするとともに、環境価値見合いの発電量に対して固定価格を決め、両者間で卸電力の市場価格と固定価格の差額精算を行うスキームであるため、商品先物取引法上の「店頭商品デリバティブ取引」に該当し、日本において当該取引を実施する企業は「商品先物取引業」を行う者として、主務大臣の許可を得る必要があるのではないかという懸念がありました。当該懸念に関しては、2022 年 11 月に経済産業省から、 VPPA 上、少なくとも取引の対象となる環境価値が実態のあるものであり、発電事業者から需要家への環境価値の権利移転が確認できることをもって、全体として再エネ証書等の売買と判断することが可能であれば、商品先物取引法の適用はないと考えられる旨の検討結果が公表されています。このような検討結果が公表された点は、参入を検討している企業にとって追い風になると考えられます。

一方、会計上の取扱いは別途検討が必要となります。まずは、環境価値取引と電力価格の差額精算取引を分離して会計処理を行う必要があるか、とりわけ差額精算取引を分離する場合、関連する会計基準等に照らしてデリバティブとしての会計処理を行う必要かという点が課題になると考えられます。

また、差額精算取引は発電事業者の売電収入を固定化するために行われるものであり、環境価値取引と差額精算取引を区分せずに会計処理すると取引実態を適切に表さない点も懸念されていますが、両取引の分離が必要となる場合には、それぞれの取引価額の測定も課題となると考えられます。

差額精算取引については、デリバティブ取引としての会計処理を行う場合、多くの実務上の検討が進められています。

ただし、差額精算取引の決済額が発電事業者の電力供給量に応じて決定される場合は、適用する会計基準によって会計処理が異なる可能性がある点には留意が必要です。例えばVPPAの先行事例が多く見られる海外の事例では、国際財務報告基準(IFRS)に基づく会計処理ですが、日本基準においてはデリバティブの定義に①想定元本、②固定若しくは決定可能な決済金額、又は③その両方を有することが含まれている(会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」第6項(1)②)のに対し、IFRSにおけるデリバティブの定義にはそれらが含まれていません。こうした相違が会計処理に与える影響については、それぞれの会計基準の考え方に照らして慎重に判断する必要があると考えられます。

日本基準においては日本公認会計士協会(JICPA)は2023年9月21日に会計制度委員会研究報告第17号「環境価値取引の会計処理に関する研究報告 - 気候変動の課題解決に向けた新たな取引への対応 」及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」を公表しました。本研究報告では、コーポレートPPAの契約形態ごとに会計処理の検討が行われており、VPPAにおける需要家の会計処理については「差金決済取引を2つの要素に区分するか否か」という視点と「差金決済取引がデリバティブに該当するか否か」という視点のマトリックスで、考えられる具体的な会計処理のパターンが四つ示されています。

日本基準においては今後継続して検討が実施されると想定されますが、特に連結決算においてIFRSを導入している企業においては、連結決算上は差額精算取引がデリバティブに該当するという前提で実務上の対応を進めていく必要があり、並行して単体決算・税務上の取り扱いを検討していく事になります。

特に、会計上、差額精算取引がデリバティブに該当すると整理した場合、当該取引により生じる正味の債権及び債務は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は、原則として、当期の損益として処理する(企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」第 25 項)こととなります。ここで、「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格または負債の移転のために支払う価格をいいますが(企業会計基準第 30 号「時価の算定に関する会計基準)第 5 項)、時価の算定に当たり重要なインプットとなる長期にわたる卸電力市場のフォワードカーブについて、日本においては現状、公表情報として取得することが難しいという点も、実際の会計処理を行う上で実務上の大きな課題になると考えられます。

なお、需要家企業の中には、発電事業者との間で行う差額精算取引を電力調達価格のヘッジを目的として行うケースもあると考えられます。差金精算取引がデリバティブに該当し、かつ、環境価値と区分して処理することを前提とすると、このようなケースにおいて、差額精算取引をヘッジ手段としたヘッジ会計(ヘッジ対象は電力調達の予定取引)を適用できるかどうかも会計上の論点になりますが、長期にわたる電力調達の予定取引の実行可能性が極めて高いと予測することが可能であるか否かが特に課題になると考えられます。

このように VPPA には会計的な検討課題も多く、当該課題が VPPA 導入のボトルネックになる可能性があること、また卸電力市場のフォワードカーブの予測・デリバティブの時価評価・税務の論点も関係してくることから、スキームの検討段階から、幅広い専門家への相談が望まれます。デロイト トーマツではVPPAに関連する会計助言サービス、税務助言サービス、電力価格予測サービスおよび価値算定サービスをグループ横断で提供しています。

 

(なお、本文中の意見や見解に関わる部分は筆者の私見であり、筆者の属する組織の見解ではないことを、予めお断りいたします。)

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
バリュエーション&モデリング
パートナー 齋藤 貴茂

(2024.3.15)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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