事例紹介

「地域創生」新しい時代に求められるシティプロモーション戦略立案

FA Innovative Senses 第1回

新シリーズ「FA Innovative Senses」と題して、Financial Advisoryのイノベーティブな取り組みについて、ホットトピック解説、事例紹介などを織り交ぜながらお届けします。第1回は、愛媛県四国中央市の支援プロジェクトを事例に、地元の人たちや自治体と並走して策定した未来のまちづくりに関するシティプロモーション戦略について、戦略策定にとどまらない具体的な施策の実行・実装支援に至るまでの支援プロセスを解説します。

未来のまちづくりのための調査、分析、インサイトの導出

未来のまちづくりの指標である「選ばれるまち」というキーワードをもとに、環境トレンドや地元の人たち、特に若者や中学生、高校生のまちに対する意向度、推奨度、課題点などを定量・定性的に調査し、まちの魅力・価値観の再発見・設計、そして未来に向けたありたい姿の具体化を実施した。また、活動を後押しするネットワーキングの在り方の検証や、デザイン思考・アート思考を用いた地元の人たちとのワークショップ、SROI(社会的インパクト評価)を用いた自治体職員向け研修などを開催することで、多面的なまちと人の魅力を、論理的なアプローチとクリエイティブアプローチの双方から導き出した。ワークショップでは、四国中央市の誕生から「18」周年となることから、新成人「18」歳を中心とした地元の人たちが、「18」年後のまちの未来像を描いた。

 

シティプロモーション戦略策定

四国中央市では若者流出の悩みがあり、地元で暮らす学生のうちに市に深く愛情を感じてもらい、いつか四国中央市に戻ることを選択肢の1つに加えてもらいたいと市の職員の人たちは考えている。今後、5年間でまずは若い世代にターゲットを絞りプロモーションを仕掛け、ゆくゆくは親世代など大人世代へ働きかける、という全体方針を検討した。前述の導出したインサイトから、「つながりあう地元の人たちを中心とした未来のまちづくり」をコアバリューとして設定し、役割や意義、目的とKPIを設計した。根底をなす価値設計においては、ウェルビーイングの観点も組み入れ、人々の継続居住意向を持続させるための未来像を構想した。また、内発的なまちの活性が、UターンやIターンを誘発するとした考え方に基づく施策(「18」の約束事)を整理し、考案した。

 

適切なタッチポイントを通じた一貫性あるコアバリューの体験設計

大学がない四国中央市では18歳になると市外に出る若者が多く、若者を中心とした人口流出に歯止めをかけるため、本戦略をもとに、誰もが手触り感のある体験として実感できる場づくりを目的とした施策を実施した。まちのコアバリューとビジョンに共感する地元の人たちからの協力も活動を後押しし、企画・運営には、特にこれからまちを出ることを選択せざるを得ない若者、高校生を一つの軸に置いた。アートや体験型のイベントを通じたアプローチをとることで、それぞれのプロトコルを超えて若者と高齢者、住民と、地元以外の人たちがつながり、未来視点での議論が積み重なるかたちとなった。この取り組みをきっかけに、若者たちから、「大学を卒業したらまた戻ってきたいと思うまちにしていきたい」という強い意志が言葉として現れ、あらゆる世代の地元の人たちが交差する場づくりを通して、新たなまちづくりの幕開けにおける期待感を醸成することに成功した。

 

持続発展するまちづくりの在り方と今後

シティプロモーション戦略を実行していくなかで、若者たちが地元から外に学びに出たときに、本当に戻りたいまちをつくることは、まちの可能性を広げると同時に、地元から出ない選択をした若者や、地元に暮らし続ける人たちも含め、その場所での生活をありとあらゆる人が楽しめる仕組みづくりにもつながると実感した。新しい産業を生み出し、地場の企業や、地元を愛する人たちのサポートを受けながら、ビジョンの実現へ向けたチャレンジが今も進んでいる。

シティプロモーションに参画した地元の人たちや高校生の皆様

FA Innovative Sensesシリーズ

シリーズ記事一覧

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シニアヴァイスプレジデント 長谷川 知栄
シニアヴァイスプレジデント 佐竹 功次
シニアアナリスト 林 太郎
アナリスト 阿部 亜美
 

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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