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値上げの時代に、高くても買うを創る 今もう一度理解したいブランディングの考え方

値上げの傾向が続いている中、ブランディングの考え方が再注目されています。ブランド戦略を単なるイメージ戦略にとどまらせず、自社の提供する商品やサービスの価値そのものを高めることによって、値上げの時代に「高くても買ってもらえる」、「納得して買ってもらえるようにしていく」考え方こそがブランド戦略です。本稿ではブランディングの専門家があらためてその重要性を解説します。

値上げの時代が来た

昨年来の値上げ傾向は、2023年も続きそうである。
帝国データバンクの発表によれば、7,000品目が今年さらに値上げの対象となるそうだ。
ニュースや紙面では、値上げに対する消費者の悲鳴や工夫の仕方が、ときに深刻に、ときにはユーモアを交えて伝えられている。

しかしながらいざ値上げ、という選択肢を企業がとる場合、慎重な検討を進めざるを得ないというのが実情だろう。人々は漠とした“7000品目”への値上げには戦々恐々としつつも受け入れる一方、スーパーの棚で商品を手に取るときに、昼ご飯に店舗を選ぶときに、値上げしたいつもの選択肢をこれからも選んでくれるとは限らない。そこには競争相手がいて、生活者の財布のなかの奪い合いがあるからだ。
今後生活者が値上げに対してどういう反応を見せるかは、賃上げがどうなるかなどほかの要素も影響するだろうが、捉え方によっては、値上げすること自体への理解は得られやすいタイミングということもできると思う。

そんな値上げの時代に、もう一度注目されているのがブランディングという考え方だ。人は自分が好きなブランドは、高くても買う。価値が変わらずに価格が上がるのではなく、より新しい価値を提案し、高くても買ってもらえる商品やサービスを生み出すことで、単なる値上げ以上の意味を、相対している市場環境に見出そうとしているのではないだろうか。

 

ブランディングとは何か 価格設定はブランドメッセージ

もう一度ブランド、ブランディングとは何かから振り返ろう。
ブランドとは、頭の中で連想されるイメージの集合のことだ。過去のブランド接点で蓄積されたこのイメージが、実際の購買や選択に影響を与える。
そしてブランディングとは、すべてのブランドマーケティングの接点を通じて、ステークホルダーの頭の中にイメージを作っていくことである。

しかしながら、過去ブランディングの手法は、マーケティングの4P、Product、Place、Price、Promotionのうち、Promotionにかなりの部分を頼ってきた。商材や局面によっては、流通チャネルを変えることでイメージを作ったり、新しい提案を新商品を通じて行うなども試行されてきたが、特に日本においてはPriceの要素をブランディングの要素としてとらえられることは少なかったように思う。

しかし本来、このPrice、つまり値付けこそが最もブランドイメージを引き上げることに寄与できる可能性を持っている。ハイブランドはその価値を守るために決して安易な値下げやセールをしないし、「先週良いホテルに行ってきた」という話を聞いたとき、「きっと価格(設定)が高いホテルに行ったんだな」という情報を受け取らないだろうか。価格設定とは原価計算の積み上げではなく、どの程度の価値を顧客に提案しているのかというブランドメッセージなのである。

 

機能的価値を超えていく 消費者にとっての“意味”づくり

商品やサービスの検討を、特に競合にどう勝つのかに注目して考えていくと、機能的価値(スペックやユーザビリティ、機能として提供できる価値)に議論が向かいがちになり、その積み上げと競合比較で価格を決めてしまう。
価格プレミアムを伴うブランディングを行う際には特に、機能的価値を超えて、お客様や生活者をどのような気持ちにさせたいのか(情緒的価値)、その先の社会や未来をどうしていきたいのか(社会的価値)。そしてそれがほかの選択肢とは何が違うのかという視点からブランドを設計することが大切だ。
そうすると自社のブランドは、生活者にとって競合商品とは違う“独自の意味”を持つ商品になる。購買選択の時に、ほかのブランドとは価格比較すらされない別のポジションに立つことができるようになる。

これこそが最終的にブランドの目指す姿といえる。先ほどと別の言い方をするとブランドとは、差別化するということである。差別化とは「他のものと違う」ということ。
私が大事だと思っている考え方に、「紫の牛を売れ」というものがある。これはセス・ゴーディンが世界的なベストセラーになった著書(タイトルそのまま「『紫の牛』を売れ!」)で語っていることだが、牛の白黒の模様(機能)がどう違うかだけを説明しても、それは生活者には届きにくいし、脳には定着しない。明確に他と違う意味を持つ、白と紫、という別の線引きを頭の中に作ってしまうことがブランディングだ。

 

これからのブランドづくり ブランドパーソナリティとアート

もう一つ、これからのブランドづくりで注目したいキーワードが、ブランドパーソナリティ(ブランドの人格)とアートだ。
ブランディングの活動とはファンづくりの活動ともいえる。応援され、自主的に口コミを発信してもらえるようなブランドになるためには、そのブランドが擬人化され、人格としてとらえられていることが必要になる。チラシ的な要素だけではない、人格や世界観を感じさせるデザインをしていく必要があるし、もっとダイレクトにブランドの「中の人」や、経営者を前に出すのもいいだろう。このブランドパーソナリティという概念は、かつてはブランドの現場ではデザイン既定のためくらいにしか活用されてこなかった。私自身もその程度の浅い理解でいたのだが、昨今のブランディングにおいてはその重要性が非常に上がってきている。
そしてだからこそ、ブランドづくりのアプローチにアートの要素を取り入れていくことが有効になってきている。デザインは課題解決であるが、アートは自己表現である。ブランドの検討段階にアートのアプローチを取り込み、デザインを超えたアートの手法を使って発信していくこと、右脳と右脳同士でメッセージをやり取りすることが、これからのブランドを作っていくだろうと思う。

 

おわりに

自分たちがそのブランドを通じてどんなメッセージを送るのか、そのブランドがお客様にどんな“意味”を持って受け取られたいのか。そのために必要な価値構造と、いままでの固定観念を超えた、適正なマーケティングの4Pの設計はどのようなものか。
胸を張って高価格を提案できるプレミアムブランドを生み出すことで、この値上げの時代を幸せな時代にできるのではないだろうか。

 

(本稿は過去ご支援してきた企業実績・事例や昨今の情勢をもとに考察した私見であることをお断り申し上げます)

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執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
マネージングディレクター 栗原 隆人

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