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オープンデータを分析に組み込み、ビジネス価値を引き出す

国内外で動きが活発になっているオープンデータについて、 ビジネス活用に焦点をあて、活用事例や業務に組み込む際の重要ポイント、社会的意義について解説します。

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1. オープンデータのビジネス活用が進展している

 オープンデータとは、一般的には誰でも自由に利用可能で再配布できるようなデータのことを指す。政府や公的機関が公開するデータだけでなく、企業やその他の組織によって公開されているデータも含まれる。このオープンデータは、企業活動の効率化、新規ビジネスの創出、社会的な課題の解決など、新たな価値をもたらすものとして期待が集まっている。オープンデータ活用のビジネストレンドは日本だけのものではなく、むしろ欧米が先行して様々な取組みが行われたことによって広がりを見せたものであり、今後もさらに進化していくことは間違いないと言えるだろう。欧米に遅れをとるものの、日本でも政府主導での取り組みがなされ、活用コンテストなども盛況を見せはじめている。

 企業の視点では、第4の経営資源といわれる「情報」を構成する要素としてオープンデータが注目され、情報量が増えることによって効果的な意思決定や、サービスの付加価値向上が期待できると考えられている。ただし、その便益を十分に享受するためには、オープンデータの特徴をとらえ、慎重に活用推進することが不可欠であり、無計画に進めるとかえって不利益を被るリスクが高まる。本稿では、企業がオープンデータを活用する場面に焦点をあて、成果を生み出すための要点を事例を含めて解説していきたい。
 

2. オープンデータと自社データを組み合わせることで新たな価値が生まれる

 オープンデータ等の外部データと自社データを組み合わせて利用することで、それぞれ単独で分析するだけでは得られなかった示唆を得ることができる。なぜならば、自社データは社内の情報や自社の既存顧客に関するものであり、競合や潜在顧客に関する情報は含まれていないか圧倒的に少ない。そのため、外部データとしてのオープンデータで補うことで、社外環境を含めた比較や潜在的な機会の見積もりへとつながるからである。さらに分析手法の観点からみると、異なるデータを結合することによって扱える変数の幅が広がり、データを単独で集計する以上の価値創出が期待できる。

 企業が自社データとオープンデータ等の外部データを組み合わせて分析する事例として、複数の店舗を抱える小売業の売上拡大を目的としたプロジェクトを紹介したい。ここでは、エリアごとの顧客、そして店舗を軸として、性別・年齢別人口、世帯収入などの統計情報、競合の店舗情報、気象情報など複数のオープンデータを用いて顧客理解を促進している。

 例えば、エリアごとの潜在顧客と実態の乖離を把握するため、顧客の住所情報等をもとにエリアごとの顧客数や売上、来店回数といった指標を集計し、これに対して統計情報を紐づける。これによって潜在顧客の期待値と現状の差異を明確にすることができる。エリア別に性別・年齢・世帯収入などから商品カテゴリごとの購買量をモデル化し、期待される購買量よりも下回っているエリアやその原因が特定できれば、施策を考えるうえで重要な示唆となるであろう。従来からの顧客分析という意味では、POSデータや顧客ごとの購買履歴を用いた分析が定番であるが、これで分析対象となるのは既存顧客のみである。そのため、開拓したい新たな顧客層に関する情報はデータからは読み取れない。それに対し、外部データを利用すれば、まだ顧客となっていない人も含めたより広い範囲の人々を分析対象にすることができる。

 また他の例として、どの店舗が他と比べてどれだけ好調・不調で、マーケティング施策がどれだけ効果をあげているかを理解する分析事例を紹介しよう。データとしては自社が抱える店舗情報に加え、オープンデータ等の外部データから、競合の有無やその数、その店舗が属するエリアの統計情報や気象情報といったデータを用いる。これによって、期待される売上や利益を、より高い精度でモデル化し推測することが可能になる。さらに、各マーケティング施策の効果について感応度をシミュレートすることで、どの店舗にはどのような施策をどれだけ実行するのが適しているか特定される。例えば天気により販売が大きく左右されるような商品である場合、気象情報を分析に組み込むことで高い精度でのシミュレーションが可能になるわけである。
 

3. オープンデータを活用した分析を成果に結びつけるために考慮すべき5点

 オープンデータを社内データと組み合わせて分析し、効果を出すためには、ただやみくもにオープンデータを取得してソフトウェアに放り込めば良いわけではない。より有用な分析とするための要点を5つ紹介したい。

(1)プロジェクトの進め方としては、課題の特定からスタートし、それから利用可能なオープンデータを探していくというアプローチが理想的である
 オープンデータは政府サイトにあるデータセット以外にも多く存在し、そのデータ量や情報源は膨大である。そのため、すべてを把握してデータからビジネス活用を考えるのは難しいし、仮に出来たとしても効率的な進め方ではないだろう。ビジネスとして成功している事例をみると、明確なニーズがあり、そのニーズをどのようなデータを用いれば満たせるか、というところから利用データの検討をスタートしているものが多い。確かに、公開されているデータセットを1つ1つ調べて自社のビジネスと関連しているものを集め、その中からどのように活用できるかを考えていても新たなアイディアは生まれるかもしれない。しかし、時間が限られる中ではオープンデータを網羅的にあたっていく事は厳しく、ニーズや何をやりたいのか、というところから利用可能なデータを探していく、というような試行錯誤を繰り返す姿勢が望ましい。

(2)データの品質にばらつきがある事を理解し、どの程度の信頼性があるかを検討する
 データを二次利用するという側面において、オープンデータは自分の管理下で観測したものではないので品質をコントロールすることはできない。品質が悪いデータを用いてしまうと、分析から得られる示唆もより限定されたものになってしまう。そのため、ソース・出典やどのように観測・取得したかを理解することで、データに偏りがないか、1つ1つのデータにどの程度の信頼性があるのか、といった点を検討するべきである。

(3)複数のデータセットを、どのように関連付けるかについて分析を始める前に想定しておく
 社内データとオープンデータ等の社外データを結びつけて分析する際には、どの程度の細かさでデータ間の関連付けをできるか事前に想定しておくべきである。例えば上記の小売店分析のケースでは位置をキーに様々な情報を組み合わせているように、異なるデータソースを結び付ける場合、時間や場所などをキーとして結合することになる。細かい粒度で結合出来た方が精度の高い分析が期待できるが、どの粒度で結合可能かは用いるデータに依存する。どの程度の単位の事柄に対してどのような示唆が得られるのか、という点の判断材料として、重要になってくるのがデータセット間を関連付けるプロセスなのである。

(4)利用可能なデータの量の増大、公開形式の多様化という変化・トレンドを理解する
 オープンデータの概念の浸透、動きの拡大によって、政府や自治体が抱えている情報の多くをオープンにするようになっており、利用可能なデータの量や種類が日進月歩で拡大している。さらに、自社データを公開する企業もWeb系の企業を中心に出始めている。また、データの拡大にともなって、膨大なデータを機械的に処理する必要性や有効性が認識されており、データ間に関係性を持たせるLinked Open Dataや、データセットのAPIでの提供など、機械的な処理に適した形での提供が始まっている。APIでの提供はリアルタイムのデータを扱える点も特筆すべきである。
 このような状況の中では、従来からの画一的な社内データ以外に新たに利用可能となっているものの中から適切なデータを選択し、分析に組み込む必要がある。そして使えるデータやアクセス方法は変化し続けるので、こうした変化を把握するため定期的に状況を調査し、自社のアクションに反映するような継続的な改善が重要となる。

(5)ライセンスや利用規約からもたらされる制約を確認する
 オープンデータとして公開しているものの他にも、WebマイニングのようにWeb上から能動的にデータを取得し、分析に適したようにデータベース化する分野も実用化が進んでいる。これらの外部情報も用いる場面によっては価値を発揮する一方で、政府や自治体がオープンデータとして公開しているものとは違って二次利用に関する制約がある場合もあり、意図している分析の目的には利用できない場合がある。分析に多くの時間を費やしてから、その結果が使えない、ということにならないように事前に調査しておく必要がある。

4. ビジネス活用の活性とオープンデータの拡大が相互作用する

 日本でもオープンデータの動きは拡大しているが、規模やインパクトでは欧米が先行している事は否めない。その要因のひとつとして自社のデータをオープンにする企業の少なさがあり、情報を公開することで競争優位を失う、或いはコストに見合った価値が見当たらないといった考え方が障壁になっていると考えられる。国内で大々的に企業のデータをオープンにして外部サービスに用いている例は、Web企業を除くとまだ限定的である。先進的なオープンデータ社会の実現には、企業が自社のデータを公開し外部と価値を共創することによる企業競争力の強化というエコシステムが確立される必要がある。例えばSNSやEC等を運営するWeb企業は、API等を通してデータを公開する事で、様々なサービスがアプリケーションとして外部の力によって作られる等、自社のビジネスの魅力をより高めるような仕組が創出されている。そしてこのようなメリットはWeb企業だけではなく、インフラ系企業や消費財メーカーなど、業種に関わらず当てはまり、海外でもこのような取組みが進展している。より広い視点では、オープンイノベーション、すなわち、外部の技術やアイデア等を取り入れることで、革新的なビジネスモデルや新たな市場を創り出す、という概念がある。データの観点からこれを解釈すれば、社内の資産であるデータを社内に封じ込めておくのではなく外部に開放し、データ活用を通して社外の力を巻き込み、新たな価値や市場を生み出すことでビジネスの拡大につながる、と考えることができる。オープンデータで先行する英国でも企業内の情報をオープンデータ化する流れは加速するとみられており、企業が公開するデータによるビジネス効果は、政府のオープンデータを上回るともいわれている。[※1]企業は自社データの公開も含めオープンデータに関わるエコシステムに参加する事のメリットを自社のビジネスと照らし合わせて適切に理解し、積極的に活動していくべきだと筆者は考える。

 オープンデータの動きが持続的に広がっていくには、データが社会的な価値へ変換される事が不可欠であり、ビジネス活用がその一端を担っているのは疑いようがない。本稿ではオープンデータ特有の観点として考慮すべき5点を紹介した。これに加えて、異なる領域や部門間の交流、ニーズを把握している側とデータの扱いに長けた側の密なコミュニケーション、分析の試行錯誤も成功に不可欠な要素である。他方、戦略やビジョンを描いていく際にも多くのデータを根拠としてディスカッションの場に利用することで、共通の認識に立脚したコミュニケーションやアイディアが発展していくという有効性にも着目すべきである。社内のデータとオープンデータ、さらには領域を越えた人の知見を掛け合わせることが、新たな価値の創出へとつながる。

 

※1 以下を参考とした。

Open data: Driving growth, ingenuity and innovation, Deloitte Analytics, Deloitte UK(英語資料PDF) 

Deloitte Analytics  小松 孝裕
(注)当該記事は執筆者の私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではありません。

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