デロイト トーマツ グループは、12月1日に予定されている法人統合に先立ち、報道関係者向けのラウンドテーブルを開催した。統合については、5月の「合併議論開始」、10月の「社名発表」と段階的に情報が公表されており、本会はこれらを整理し、統合の背景や意図を説明する目的で設けられた。
当日は、デロイト トーマツ グループCEOであり新会社の代表執行役となる木村研一、コンサルテイティブビジネスリーダーで、新会社代表執行役の長川知太郎、グループCOO兼CSOの佐瀬真人の3名の発表者が並んだ。3名は20年以上にわたりデロイト トーマツの制度・構造・文化を現場から見てきた人物である。
長川は冒頭で「ざっくばらんに進め、タブーなしでお答えできれば」と述べ、会は質疑応答を含めた説明形式で進行した。
木村は、統合の背景として、2024年6月にデロイト グローバルが事業区分を5つから3つへ再整理したことを説明した。グローバル側の区分は「Audit & Assurance」「Tax & Legal」「Consultative」である。
一方、日本のデロイト トーマツ グループは複数法人が併存しており、グローバルとの整合性に課題があったという。
木村は、その“構造的なズレ”を次のように説明した。
「日本では複数法人が存在するため、グローバルの事業区分との間に差異が生じていました。運営で調整してきましたが、限界があった。法人格の再編が必要でした」
木村は、監査法人内部に存在したリスクアドバイザリーの一部サービスのデロイト トーマツ リスクアドバイザリーへの集約を2023年から実施したことにも触れ、今回の組織統合は、ちょうど進んでいた複数の再編の前提があって初めて実現したことを明らかにした。
社名にサービスカテゴリーを入れない理由について、長川は「専門領域を限定しないため」と説明した。「我々の戦略はMDM(マルチディシプリナリーモデル)です。専門領域を限定せず、幅広いサービスを組み合わせることが前提となる。社名にカテゴリーを入れると、自ら領域を狭めてしまう」
同時に、社名に「デロイト」と「トーマツ」を残したのは、
の双方を示すためだと説明した。
三法人が統合されることで、相談窓口が一本化される。
これは、クライアント視点での“わかりにくさ”の解消が目的だ。
長川はこう切り出した。
「三法人が併存していたため、どこに相談すればよいのか分かりづらいという声を多くいただいてきました」
入口の一本化は、窓口の明確化と組織間連携の促進の双方に寄与する。
また、“単品サービスの提供”から“複数領域の組み合わせ”へと発想を転換しやすくなる点も説明された。
「図をご覧になっていただければわかる通り、業界特化の知見と機能横断の知見の連携を強化し、企業や社会の課題に対して、より多面的なアプローチを展開していく設計となっています。クライアントの課題は単一領域では解決できません。戦略、テクノロジー、リスク、トランザクションなど、複数機能を組み合わせるのが前提になります」
統合の狙いの一つに3社が一体となり「投資を強くする」こともあるという。長川は、グローバル全体での投資方針を説明した。
「2030年までにAI関連で30億USドルの投資を計画しています。日本もその枠組みの中で人的投資・技術投資を進めていきます」
投資はそれに限らず、量子コンピュータ、半導体、ブロックチェーン、AIエージェント、ロボティクス、宇宙といった先端領域にも及ぶ。
さらに、地方創生も「投資対象」として語られた。
「私たちの30都市を超える拠点は日本固有の強みです。地域の自治体・企業・地銀と関係があるからこそ、産業育成や雇用創出の投資ができる」
木村は、具体例として復興支援としての気仙沼、北海道での取り組みを説明する。
「宮城県気仙沼のみらい造船や、北海道の半導体産業支援のプロジェクトでは、初期段階から関係者と調整しながら進めています。最初から予算がつくことは多くありません。ブループリントを描き、関係者に働きかけ、産業と雇用を創る取り組みを続けています」
佐瀬も補足する。
「地方創生の一番の鍵は雇用で、それなくして地域活性化はないでしょう。そこで、地区に対して産業を掛け合わせることで未来を描いていく。例えば、北海道や熊本などの半導体があげられますが、地場のニーズにあわせた産業育成を一過性で終わらせず推進していきます」
“地方創生”という表現は一般化しがちだが、「産業づくりと雇用創出」に焦点をあてた。
組織が変わることで、人材の採用方針はどうなるのだろうか?
長川は「採用、そして専門性育成は従来通り続けますが、生成AIが普及した環境では、クライアントに対して正解そのものよりも、どう伝えるか、どう背中を押すかといった部分の比重が高くなると考えています」と話す。
その考え方を具体化する基盤として紹介されたのが、Deloitte University(DU)だ。企業内大学のような位置づけで、グローバル共通のカリキュラムのもと、リーダーシップやマネジメント、対人コミュニケーションを集中的に鍛える一週間程度の合宿型プログラムが用意される。既に世界各地に7つのDUがあり、日本は8つ目として2029年冬の開設を目指している。
木村は、日本での整備状況にも触れた。広大な土地に宿泊施設を備えた学びの場として整備を進めていること、海外拠点に出向かなくても多くのメンバーが高頻度で参加できるようにすることが狙いだという。
DUの役割として「卓越したリーダーシップの育成」「クライアントとの関係強化」「人脈・ネットワークの構築」「ウェルビーイング」の4つが掲げられている。「採用する」から「育成する」へのシフトを支える装置として、DUは位置づけられている。
その後の質疑応答では、統合による監査領域への影響や、実装力の変化に関する質問が記者からなされた。統合により活躍の場が広がり専門家の知見が向上し、他領域への波及効果があること、連携が促進されることが説明された。また、グローバルネットワークのつながりでエンドツーエンドのクライアントサービスの提供がより容易になることが話された。
12月1日、新会社「合同会社デロイト トーマツ」が発足した。
今回のラウンドテーブルでは、統合の背景、制度面の整理、事業・投資の各領域、人材育成の方向性などが順に説明された。どの部分が変わり、どの部分が変わらないのかが示され、発足後の理解に必要な情報が一通り提示された形となった。