リゾート不動産市場は、今まさに大きな転換期を迎えています。若年富裕層やインバウンド層の台頭、NFTやタイムシェアなど新しい供給手法の登場により、従来型の「所有」から「利用・体験」へとニーズは多様化しています。プレミアムな空間やパーソナライズされたサービス、柔軟な利用形態を求める新世代の価値観が、マーケットを大きく動かしています。本稿では、最新の需給トレンドや市場変革のキーポイントを徹底解説。未来のリゾート不動産ビジネスを考えるヒントをお届けします。
国内富裕層市場は、従来の高齢層中心から、若年富裕層やインバウンド層へと拡大している。若年富裕層は起業家や個人投資家が多く、保有へのこだわりが薄く、利用価値や体験価値を重視する傾向が強い。彼らは自身の趣味やライフスタイルに合った商品・サービスを求め、パーソナライズされた体験や特別な接客を重視する。百貨店外商やラウンジサービスの利用率が高く、情報収集においても企業発信だけでなくSNSなどの評価を重視する傾向が見られる。投資目的での不動産所有にも関心が高く、自己使用しない分はレンタル収入を得るなど、柔軟な利用形態を好む。環境や社会的価値への意識も高く、現代アートなどの文化的要素にも関心を示す層が増加している。
エリア選定に関しては、特定の地域へのこだわりよりもプレミアム感を味わえる空間や価値を重視する。また、非日常性を追求するだけでなく、日常のライフスタイルの延長線上でリゾートを選ぶ層も顕在化している。施設面では、シンプルかつ洗練されたデザインや、ワークスペース・インターネット環境などの利便性を求める声が多い。家族連れにも対応した別荘タイプの需要も拡大している。
インバウンド層では、台湾や香港、シンガポールなどアジア各国の富裕層が日本のリゾート商品に高い関心を示している。特に北海道や長野県などのスノーリゾート、箱根などの温泉リゾートへの需要の伸びが顕著であり、都市部(東京・大阪・京都)への関心も依然として根強い。インバウンド層は温泉や眺望、独立したヴィラ、充実した共用部などを重視し、実需と投資の両面でのニーズが存在する。インバウンドの若年層は、投資性がある物件、プライベート感の高いリゾート商品を好み、新しい土地への関心も高い。テクノロジーの活用やインターネット環境、シンプルなデザインへの志向が強い。若年層の指向は国内外関係なく同じであるようだ。
富裕層市場全体としてはニーズの多様化が進み、従来の所有型からタイムシェアやバケーションレンタルなど、必要な期間だけリゾート物件を利用し、使わない期間はほかの人に貸し出すことでレンタル収入を得られる利用型へのシフトや、パーソナライズされたサービス、特別感のある体験価値の提供が重要となっている。事業者は今後も継続的な商品・サービスの革新やマーケティング手法の多様化が求められる。現地セミナーの開催や金融機関、富裕層ビジネスを展開する企業との連携、SNSを活用した情報発信など、ターゲット層に合わせたアプローチが重要となる。また為替レートの状況や投資に対する自身の利用価値も投資意欲を後押しする要素となっている。
このように、富裕層市場は従来型から若年層・インバウンドへと広がりを見せており、リゾート商品の需要は今後も拡大が期待される。商品開発や販売戦略においては、利用価値や体験価値、デザイン、情報発信の多様化など、時代の変化に即した対応が不可欠である。
出典:「富裕旅行市場に向けた取り組みについて」日本政府観光局(JNTO)(2020年10月5日)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001366730.pdf
リゾート不動産市場の供給面では、従来の物件販売や会員権販売に加え、NFTや新たな会員制スキーム、タイムシェア・バケーションレンタルなど、革新的な販売手法が登場している。これにより、従来の高齢富裕層や法人顧客だけでなく、若年層やインバウンドといった新たな顧客層にもリーチする環境が急速に整いつつある。
特に、会員制リゾートホテルの新興企業による新しいスキームは、従来の所有型や預託型にとどまらず、NFTの活用やサブスクリプション型など、柔軟な利用形態を提供している。NFTは購入することで年間あたりの宿泊日数を選択でき施設利用が可能なこと、さらに二次流通市場での売却も可能だ。サブスクリプション型は毎月一定額を支払うことで全国の各拠点を自由に利用できる。これらの仕組みは、利用頻度やライフスタイルに合わせて選択できるため、所有にこだわらない若年層や、初めてリゾート商品を検討する層にも受け入れられている。加えて、タイムシェアやバケーションレンタルといった商品も、独身からファミリー層まで幅広い層に支持されており、従来のリゾート商品の枠を超えた市場拡大が進んでいる。
また、若年富裕層やアッパーマス層の間では、先に述べた通りシンプルで洗練されたデザインや、ワークスペース・インターネット環境の充実、パーソナライズされたサービスへの関心が高まっている。新興企業による会員制リゾートホテルやタイムシェア型商品は、こうしたニーズに応える形で商品開発やサービス設計を進めている。さらに、NFTやサブスクリプション型の新たな販売手法は、流動性や利用の柔軟性を高めることで、従来のリゾート不動産市場に新たな価値をもたらし、購入のハードルを下げ顧客層を広げている。
このように、リゾート不動産市場の供給面では、従来型の物件販売や会員権販売に加え、NFTやサブスクリプション、タイムシェア・バケーションレンタルなど多様な販売手法が拡大しており、若年層やアッパーマス層を含む幅広い顧客層へのアプローチが可能となっている。そのような顧客が良好な宿泊体験を経ることで、ブランドロイヤリティや興味を高め、将来の大型物件購入の潜在顧客に育っていく可能性もある。今後も新たなスキームや商品開発が進むことで、リゾート不動産市場のさらなる成長が見込まれる。
商品・サービスへのアプローチは、従来の枠組みにとらわれず、顧客の多様な価値観やライフスタイル、情報収集行動の変化を的確に捉え、柔軟かつ戦略的に展開することが不可欠である。これは事業者自身が固定観念にとらわれず、事業ドメインを柔軟に再設定していくことを意味するものと考えている。
新商品や変革を生み出すためには、まず既存の事業領域や市場環境を再定義し、従来の枠組みにとらわれない発想が重要となる。顧客の価値観やライフスタイルの変化、本質的なニーズは何か、対して自社が提供している価値や体験は何なのかを分析し、現在の自社単独の技術だけでなくグループの技術、他業界で活用されている技術、将来的な技術などをも応用できないかを探求することで、これまでの顧客層や商品・サービスの枠を超えた新たな価値創造が可能となるのではないか。さらに市場浸透戦略、新市場開拓戦略、新商品開発戦略、多角化戦略など、成長マトリクスに基づく複数のアプローチを組み合わせることで、事業の持続的な成長を目指すことができる。企業は、従来の枠組みにとらわれず、柔軟かつ戦略的に新たなアプローチを模索し続けることが、今後の成長と競争力強化につながる。
リゾート不動産市場では、特に若年富裕層やインバウンド層のニーズを的確に捉え、多様な価値観に応える商品・サービス・体験を提供することが、今後の市場拡大と個々の企業の成長のために不可欠である。
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
マネジャー 大堀 顕司
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。