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経済的残存耐用年数の算定アプローチ

法定耐用年数と経済的残存耐用年数の違いを整理し、建物価値を適切に査定する

建物価値の算定にあたっては、課税のための法定耐用年数とは目的の異なる「経済的残存耐用年数」への理解が重要になります。本記事では経済的残存耐用年数の算定にあたり必要となる「物理的要因」「機能的要因」「経済的要因」の三つの減価要因を詳しく解説します。さらに経済的残存耐用年数を試算するための参考情報として、学術調査、融資期間、取引事例の統計分析など実務に役立つアプローチを紹介します。

建物価値の査定

建物価値は再調達原価に対して減価修正を行うことにより査定します。
対象不動産を現地調査し、物理的減価以外の特段の減価が必要ないと判断された場合(観察減価がゼロの場合)、建物価値は以下の式で求めることができます。ここでいう経済的残存耐用年数は、「建物が経済的に効用・利益を生み出し続けると見込まれる残存期間」を意味しています。

分母の総耐用年数は、経過年数と経済的残存耐用年数の和により求めます。
不動産評価における減価修正は価格時点における時価算定を目的としており、固定資産税等の課税のための処理ではありません。そのため、総耐用年数を課税目的の法定耐用年数として機械的に決めて、残りを経済的残存耐用年数にする処理は、不動産マーケットの実態を勘案すると必ずしも適切ではありません。

経過年数は建築時点から価格時点までの所与の期間情報ですので、経済的残存耐用年数の判定が重要になります。この判定にあたって、対象不動産に影響する減価要因を多面的に分析することとなります。

考慮する三つの減価要因

分析するべき減価要因について、不動産鑑定評価基準は物理的要因・機能的要因・経済的要因の三つに分類しています。

「物理的要因・機能的要因」と「経済的要因」は性質が大きく異なります。
物理的要因・機能的要因は、経過年数と減価が概ね比例関係にあり、オーナーが修繕等を行うことにより一定程度回復する点で共通しています。一方の経済的要因は、経過年数とは関係なく地域の隆盛・衰退等により価値の増減の可能性があり、減価の場合はオーナーが修繕等を行っても回復しない性質のものです。
近隣地域の衰退を例にすると、衰退した商店街にある店舗ビルで周辺の最有効使用が住居であるような場合には下図のような建物価値の推移をたどり、経済的残存耐用年数が短くなります。

物理的要因・機能的要因に比べて、経済的要因は経過年数との相関関係が薄いため明確に定量化する手法が確立されておらず、結果として経済的残存耐用年数をとらえがたいものとしています。

経済的残存耐用年数を試算するための参考情報

以下では、経済的残存耐用年数を試算するための参考となるマクロ的な統計情報や試算のためのアプローチ法をご紹介します。なお参考情報はいずれも個別の対象物件の維持管理等の状況や地域動向等をすべて反映するものではないので、別途の本調査により補完する必要があります。

参考情報①:学術的な建物寿命調査

まずマクロ的な建物寿命実態の調査をご紹介します。ある建物が竣工してから解体されるまでの時間を建物の寿命として、固定資産の家屋台帳に基づき全国的に建物寿命実態を調査したレポートを抜粋します。

これによると資材・工法の技術的な進歩により平均寿命は全体的に伸びる傾向にあること、用途が同じあれば構造種別による違いは比較的小さいことが示されています。また、法定耐用年数に比べて建物寿命が比較的長い期間となっていることもわかります。

参考情報②:金融機関の融資期間

次に、金融機関の融資期間をご紹介します。金融機関が不動産を担保として融資を行う際には、その不動産の使用可能な耐用年数を基礎として融資期間を設定しています。金融機関の融資条件が購入者の投資判断に影響を与えるケースも多いため、金融機関の考える耐用年数・融資期間の設定内容は経済的残存耐用年数の参考となります。一方で金融機関が法定耐用年数と独自の経済的耐用年数のいずれを融資期間の基準として用いているかは、その時々の融資方針、物件の用途や維持管理状況等によって異なるため、はっきりとした傾向は見出しがたいのが実情です(金融庁が行った下表アンケート結果を参照)。

各金融機関の独自基準で、新築木造物件に限り30年間とする(法定耐用年数15~24年を延長)、法定耐用年数から経過年数を差し引いた年数に経過年数の二割を加算する(借入人の使用可能年数の見積もりが困難な場合の簡便法)等の運用がなされているようです。
対象不動産の所在するエリアに力を入れている金融機関について、融資動向を把握することができれば最善です。

参考情報③:取引事例の統計分析

最後に、経済的残存耐用年数の試算のためのアプローチ方法として、マーケットの取引事例による統計分析をご紹介します。取引事例の個別性を捨象し大まかな傾向をつかむことを目的としているため、かならずしも厳密ではありませんが、実証的なアプローチ法として参照ください。
調査のステップは以下のとおりです。

  • 対象不動産の周辺エリアを対象に、規模・用途・構造が類似する様々な築年の土地建物の取引事例の価格(A)を収集
  • 各事例の更地価格(B)を概算。この際に、分析の簡略化のためエリア内の更地取引事例の取引価格に対する平均の路線価倍率の水準を採用する
  • 縦軸を土地建物の取引総額(A)÷更地価格(B)、横軸を築年として各事例をプロット。線形近似を引く。

縦軸数値が100%(つまり土地建物の取引総額と更地価格が等しい水準)の横軸と近似線の交点が、取引事例における耐用年数と推定されます。サンプルとして当社が都内のあるエリアに所在する取引事例を分析した結果は下図であり、統計分析により経済的耐用年数39.18年が得られました。
 

【補足】
土地建物の取引価格が更地価格水準で取引される場合(上記グラフの100%の水準)、当該取引価格は更地価格から建物取壊費用を控除した水準より高いため、取引当事者は建物に一定の残存価値を認めている可能性があります。上記グラフは分析を簡素化したものですが、実質的には当該残存価値に相当する年数分だけ建物の耐用年数が長期化する点に留意ください。

まとめ

  • 建物価値の算定方法にあたっては、経済的残存耐用年数の判定が重要です。
  • 三つの減価要因のなかでも、経過年数により一様に表れない経済的要因が最も把握しがたく、経済的残存耐用年数の判定のハードルとなっています。
  • 経済的残存耐用年数を試算するため、参考となるマクロ的な統計情報や試算のためのアプローチ法をご紹介しました。
  • 実際の分析にあたっては、減価要因(物理的要因・機能的要因・経済的要因)について対象不動産の実情に即した検討が必要となります。より詳細な検討にあたっては、専門家の活用が考えられますが、物理的要因・機能的要因については豊富な建築実績を有する建設会社や建築士等の意見が参考となります。また経済的要因についてはエリア動向にくわしい不動産開発会社や不動産鑑定士等の専門的な知見が参考になるかと思います。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
シニアマネジャー 成田 正憲
マネジャー 大関 仁

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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