メインコンテンツに移動する

少量多品目構造からの脱却。後発医薬品業界に問われる経営判断

2026年2月開催「医薬品安定供給における課題と対策に関するシンポジウム」レポート:医薬品安定供給における課題と対策

デロイト トーマツは2026年2月25日、東京・丸の内にて「医薬品安定供給における課題と対策」をテーマとしたシンポジウムを開催し、後発医薬品メーカーを中心とした企業幹部が参集した。2026年度診療報酬改定では、後発医薬品調剤体制加算が廃止され、安定供給体制を評価する新加算に再編される見込みだ。また、地域フォーミュラリが診療報酬体系に初めて組み込まれるなど、政策の軸が「安定供給」へと明確に転換されつつある。その中で、コンソーシアム構想、資本・業務提携など、品目統合・事業再編に向けた多様な企業間連携の動きが加速している。本シンポジウムは、有識者による政策動向の解説、大手3社によるパネルディスカッション、製造・品質管理のデジタル化提案という3部で構成され、後発医薬品メーカーの経営層が次の一手を描くための、示唆に富んだ議論が展開された。

第1部 講演

「後発医薬品90%」時代の到来と政策転換

シンポジウムは、社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事の武藤正樹氏の講演から始まった。武藤氏は、厚生労働省「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」(以下、あり方検討会)の座長として政策形成に関わった立場から、行政の直近の動向と今後の方向性を解説した。

薬価調査の速報値によると、後発医薬品のシェアは数量ベースで88.8%、金額ベースで68.7%に達し(2025年9月時点)、「後発医薬品90%」時代が眼前に迫った。これは、「第4期医療費適正化計画」の数値目標を4年前倒しで達成した形だ。

2026年度診療報酬改定では、後発医薬品調剤体制加算が廃止され、安定供給体制を評価する「地域支援・医薬品供給対応体制加算」に統合・再編される見込みだ。同加算の評価軸は、安定供給体制の確保、後発医薬品使用割合の基準の達成、流通改善ガイドラインへの対応という3点であり、政策の重心が「使用促進」から「安定供給の確保」へと明確に転換される。

あり方検討会が整理した論点は(1)企業指標の提示、(2)品質総点検、(3)少量多品目構造の解消、(4)産業構造の見直しの4つだ。品質総点検は172社・9000品目を対象に実施され、全体の43.5%で承認書と製造実態の不一致が確認された。産業構造の見直しでは、複数企業が共通目的の下で協業するコンソーシアム方式が特に業界の関心を集めた。

武藤氏は「安定供給に向けた短期的課題の解決と、業界全体の成長ビジョンという2つのフェーズに分けたロードマップを描くことが必要だ」と締めくくった。

講演中の写真
武藤氏の講演写真

地域フォーミュラリの普及が迫る新たな製造戦略

続いて登壇した日本フォーミュラリ学会理事の今井博久氏は、需要サイドの視点から地域フォーミュラリの普及動向と、後発医薬品メーカーの製造戦略への影響を論じた。地域フォーミュラリとは、地域の医師・薬剤師らが協働して有効性・安全性・経済性の観点から最適と判断した医薬品を収載した医薬品集および使用方針のことで、2026年2月現在、全国の約60地区で実施あるいは準備中だ。

政府の政策的後押しも段階的に強化されてきた。2023年7月に厚労省が地域フォーミュラリの運用方針を通知、2025年6月に閣議決定された「骨太の方針」に「全国展開」が明記され、2026年2月の診療報酬改定ではフォーミュラリ策定を促す要件が診療報酬体系に初めて組み込まれた。

地域フォーミュラリでは「この疾患にはこの後発医薬品を」という形で、医師の処方と薬剤師の調剤が品目単位で標準化される。今井氏は「メーカーは品目統合を進めざるを得なくなり、業界の少量多品目構造は縮小するだろう」と述べた。

製造戦略の観点から今井氏が特に重視するのが、医薬品データの収集・解析だ。国がレセプトデータ(診療報酬明細書)を分析し、後発医薬品シェアの可視化や標準成分リストの作成・公表を進める動きが始まる一方、通信キャリアや先発医薬品メーカー、商社もデータの重要性を認識しており、主導権争いが生じる可能性があると警鐘を鳴らした。

今井氏は「地域フォーミュラリは単なる推奨薬リストの話ではなく、製薬企業の再編、流通効率化、医療情報の有効活用など、さまざまな領域で革新的な動きを生むものだ」と述べ、講演を終えた。 

今井氏の講演写真

第2部 パネルディスカッション

安定供給に向けた各社の取り組み

「安定供給に向けた後発医薬品メーカーの取り組み」をテーマに、サワイグループホールディングス(HD)株式会社グループ製品戦略部副部長の黒田正城氏、東和薬品株式会社執行役員経営戦略本部長の中村豪之氏、日医工株式会社取締役上席執行役員経営戦略本部長の折戸克彦氏が、パネリストとして壇上に並んだ。ファシリテーターは、デロイト トーマツのパートナーである上西洋一と同シニアマネジャー福田彰子が務めた。

3社の取り組みを俯瞰すると、安定供給に向けたアプローチは「供給の複線化(バックアップ体制の強化)」「生産能力の拡大」「製造プロセスの効率化」など、それぞれが独自の方向性を持つ。

東和薬品の中村氏が最も力を注ぐのは、原薬調達リスクの分散とバックアップ生産体制の構築だ。同社の取り扱い原薬314成分(2025年6月現在)のうち、2社以上の取引先から購買している割合は56.4%と業界平均の41%程度を上回るが、「これを6割に引き上げることを目指している」と語る。また、自社3工場で有事対応に備えたバックアップ生産体制の構築を進めており、自社単独の限界を見据えて他社との協業強化を重要課題と位置づける。

日医工は「生産体制の強化」「品質保証体制の強化」「営業力の強化」「人材育成」の4本柱を全社KPIとして設定・推進しているが、そうした活動において折戸氏が強調する点は、生産能力の着実な改善だ。2024年度には錠剤で約64億錠、注射剤で約9,000万本を生産、約94%の製品の出荷量が通常以上となった。自社工場の生産能力は錠剤76億錠・注射剤1.4億本であり、その上限まで生産実績を引き上げるべく人材育成を強化している。

製造プロセスの内側に切り込んでいるのが、サワイグループHD傘下の沢井製薬だ。黒田氏によれば、多品目を生産する後発医薬品企業では、異なる成分に切り替える際の機械清掃や部品交換に約1日を要する。その対応策として沢井製薬が取り組んでいるのが、包装単位の集約化だ。ウィークリー(1週間単位)包装を廃止して100錠包装に集約することで、切り替えや清掃の時間を年間約1,200時間削減できる見込みという。「理論上、2億錠程度の製造時間に相当する」と黒田氏は述べ、今後は剤形や規格、成分の集約がさらなる効率化の鍵になると指摘した。

パネリスト:黒田正城氏、中村豪之氏、折戸克彦氏。ファシリテーター:上西洋一、福田彰子。5名でのディスカッション風景

多様な企業間連携のあり方

各社が自社単独での取り組みに限界を認識しつつ、その先に見据えるのが企業間連携だ。

折戸氏は、2025年7月に日医工・共和薬品工業・T'sファーマ(旧武田テバファーマ)を傘下に収める持ち株会社「アンドファーマ」が発足したことを紹介。アンドファーマには、投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ、医薬品卸大手のメディパルホールディングス、伊藤忠商事、持田製薬が出資しており、「川上から川下までのプレーヤーが揃っている。これからシナジー効果をしっかり刈り取っていきたい」と力を込めた。

日医工は2025年9月、沢井製薬との戦略的提携を発表。厚労省が設けた薬事手続きの特例と「後発医薬品製造基盤整備基金」を活用しながら、両社の製造所の集約と品目統合を段階的に進める方針だ。「さらに多くの企業と多様な形で連携したい」と折戸氏は述べた。

東和薬品の中村氏は、企業間連携を「コンソーシアム」と「アライアンス」の2軸に整理する。コンソーシアムはアカデミアや行政も含む複数組織が共通の目的のために活動する集団、アライアンスは生産ラインの有効活用と効率化を目的とする自動車産業や共同運航を行うエアライン業界に見られる企業間の協働事業、協業体制と位置づける。

注目すべきは、後発医薬品企業にとどまらず、先発医薬品企業やCDMO(医薬品製造受託機関)を含む広範な連携を志向している点だ。「国内に約200カ所以上ある医薬品工場の製造資本と人的資本を業界全体で有効活用することが重要だ」と中村氏は述べた。その具体的な一歩として、2026年1月には大塚製薬との医薬品製造における協業体制の構築に関する基本合意を発表。大塚製薬が保有する医薬品の製造受託、ライセンス活用、相互バックアップ体制の構築を柱とする内容だ。

サワイグループHDの黒田氏は、先発医薬品企業を含む70社以上と直接面談し、供給不足解消への協力を打診してきたことを明かした。「各社が非常に前向きに検討してくれており、品目統合・成分集約に向けて互いに協力しようという環境が整いつつある」と語り、対話の積み重ねから連携の土台を着実に築いている実態を示した。 

パネリスト:黒田正城氏、中村豪之氏、折戸克彦氏。ファシリテーター:上西洋一、福田彰子。5名でのディスカッション風景

業界の構造変革は、「実行」の段階へ

制度面では、3社とも地域フォーミュラリの普及と「後発医薬品製造基盤整備基金」の活用に期待を示した。黒田氏はフォーミュラリによる成分集約効果に着目し、「各学会と相談しながら、成分集約を進める活動をしていきたい」と語った。

中村氏は「行政もわれわれ企業も医薬品の安定供給という目的は同じ。基金の有効な活用方法についても、行政と製薬企業がコミュニケーションを取りながら考えていけると良い」と述べ、行政との意思疎通に意欲を示した。

人材の問題を正面から取り上げたのが折戸氏だ。安定供給を継続するには人材の確保が不可欠であり、「将来にわたって優秀な人材を引きつけられる経営の安定性と持続可能性を高めるために、われわれは改革を続けなければならない」と力を込めた。

競合関係にある3社が同じ壇上で議論を交わすこと自体が、業界の変化を象徴している。中村氏は「大手3社の経営層がパネルディスカッションで顔を揃えるのは非常に珍しいこと。医薬品安定供給に向けた協業について、業界の機運が高まっていることを象徴するものだと思う」と述べ、折戸氏・黒田氏もその認識に同意した。業界の構造変革は、実行の段階へと着実に移りつつある。
 

第3部 製造・品質管理の高度化

シェアードサービス構想による企業間連携の促進

第3部では、医薬品製造のデジタル化を支援するベンダー各社を交え、後発医薬品産業における品質・供給問題の解消に向けた具体的なアプローチが紹介された。議論の軸となったのは、デロイト トーマツが構想する、企業間連携を支えるシェアードサービスだ。

デロイト トーマツのシニアマネジャー松本僚一郎は、まず政府の支援制度を整理した。厚労省が創設した「後発医薬品製造基盤整備基金」は2025年度補正予算で844億円が計上されており、基本的には、品目統合に伴う設備整備費や企業間調整費が補助の対象となる。デロイト トーマツはこの補助金の活用に限らず、複数の後発医薬品企業が機能・設備・人員を共用するシェアードサービスを活用し、安定供給の推進に向けた企業間連携の構築支援を担うと説明した。

製造工程に留まらず、品質試験ラボや原薬・資材などの調達プロセス、さらにはコーポレート機能に至るまで、次の例示のようなシェアドサービスの構想を紹介した。

①経理部門の共同化による業務標準化とリスク管理の高度化
②複数企業でラボ設備・要員・LIMS(ラボ情報管理システム)を共用する品質試験ラボのシェアードセンター化
③工場工務部門の集約による設備保全コストの削減
④連続生産設備とモデリング&シミュレーション(M&S)の組み合わせによる省人化と品質・生産性の両立
⑤原薬・資材・包材の共同調達マーケットプレイスによる調達コスト削減と在庫負担の軽減
⑥MR(医薬情報担当者)活動の共同化と医薬品卸の営業ネットワーク活用による情報提供の効率化

これらは、いずれも個社単独では投資余力に限界が生じやすい領域だ。

続く個別ベンダーのプレゼンテーションでは、このシェアードサービス構想の具体像が示された。②品質試験ラボの共同化については、LIMS分野の大手ベンダーであるLabVantage Solutions Japan株式会社が、海外先進事例を交えて複数企業間でのシステム共用と業務標準化のあり方を紹介した。

③工務部門の集約については、企業資産管理(EAM)ソフトウェアを中核とした統合データ管理プラットフォームにより、資源(リソース・予備品)の可視化・共有することで最適化を図り、設備保全業務のコスト削減を進める手法をシステムインテグレータの株式会社エクサが示した。

そして、④連続生産とM&Sの組み合わせについては、デジタルツインによってプロセスライフサイクル全体をモデリングする環境の構築と活用法について、シーメンス株式会社が海外先進事例を交えながら解説した。

デロイト トーマツの松本は、参加を希望する企業とビジネス構造やサービス機能の整理を進めた上で、参加企業を広く募り、具体的なプロフィットシェアモデルの調査研究を進めるアプローチを提示した。安定供給、さらには産業の将来に向けて、既に提示されている後発医薬品製造基盤整備基金に留まらない取り組みを、企業の垣根を越えて進めていく具体的な道筋を示す場となった。
 

シンポジウム会場の各社ブースの集合写真

シンポジウム会場の各社ブース

このページはお役に立ちましたか?

ご協力ありがとうございました。