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製薬企業の利益を最大化する、MR活動最適化アプローチ

限られたMRリソースでいかにして利益を最大化するか。多くの製薬企業が抱えるこの課題に対し、デロイト トーマツが持つ、「数理最適化」を用いたアプローチを紹介します。

1. はじめに

継続的な薬価改定やプロモーションコードの厳格化など、製薬企業を取り巻く環境は大きく変化しています。加えて、MR(医薬情報担当者)数の減少が進む中、限られた経営資源から得られる成果を最大化することが、これまで以上に重要な経営テーマとなっています。

医薬品の売上拡大には、医師の処方意欲を高めることが不可欠であり、その最前線を担うMR活動は、企業全体の業績に直結する重要な要素です。しかし、MR活動を最適化するには、「どの医師に」「どの情報を」「どのチャネルで」「どのタイミング・頻度で」アプローチすべきかという複雑な組み合わせを考慮した高度な計画策定が求められます。(図表1)

従来は現場知見をもとにした計画策定が中心でしたが、計画の質にばらつきが生じやすく、また策定自体にも多大な工数を要するため、現場の負担増や成果の安定性への影響が避けられません。そのため、オムニチャネルを駆使した最適な活動計画の策定が、今後の持続的な成長と利益最大化に向けて、ますます重要になってきていると考えます。

本稿では、データと科学的アプローチ(数理最適化)を活用し、「利益最大化」という経営ゴールから逆算して、最適なMR活動計画を導出する具体的な手法についてご紹介します。  

図表1: 環境変化に伴うMRリソース配分の難化

2. 従来のMR活動計画の課題

MR活動計画の最適化が難しい理由は、大きく3つあります。

  1. 全社最適化の困難さ
    多くの企業では、エリアや営業所といった組織単位で活動計画が策定されます。各現場では、担当MRの経験や知見に基づき、担当エリア内での売上目標達成に向けた最適な計画が立てられます。これは現場レベルでは合理的かつ効果的なアプローチです。
    しかし、その計画が、製品群をまたいだり、隣接するエリアとの関係性を考慮したりした上で、企業全体の利益を最大化するものになっているかは、必ずしも自明ではありません。例えば、あるエリアで注力している医師よりも、隣接エリアの未訪問の医師の方が、企業全体の利益貢献ポテンシャルは高い、というケースは十分に起こり得ます。このように、部分最適の積み重ねが、全体最適と乖離してしまうのが実情です。
  2. ROI(投資対効果)評価の不透明さ
    MR活動の計画を立てるうえで、これまでの活動評価が重要になります。MR活動の成果は、医師の処方行動の変化として現れますが、その変化には競合製品の動向、学会発表、患者特性など、多様な外部要因が影響します。そのため、自社のMR活動が売上にどれだけ貢献したのか(ROI)を正確に切り分けて評価することは非常に困難です。
  3. 膨大な計画策定工数と環境変化対応の遅れ
    年度や四半期ごとの活動計画の策定、およびその後の実績管理には、多くの時間と労力が費やされています。特に、新薬の上市、競合の予期せぬプロモーション強化、医師の異動といった市場環境の変化に迅速に対応し、計画をダイナミックに見直すことは、手作業を中心としたプロセスでは限界があります。
    本来であれば、より戦略的な分析やアクションの検討に時間を割くべきところ、計画の作成や調整といった作業そのものに忙殺されてしまうといった非効率が生じている点は見過ごせない課題の一つです。

3. デロイト トーマツが提供する「MR活動最適化」のアプローチ

前述した構造的な課題に対し、我々は製薬業界への深い知見とデータ分析の専門性を融合させた、段階的かつ柔軟な「MR活動最適化アプローチ」を提供します。このアプローチは、数理最適化を利用し「利益最大化」を目的とした、戦略的な意思決定を支援する実践的なフレームワークです。(図表2)

本アプローチの強み
  • 製薬ビジネスに根差した「制約条件」のモデル化
    MR活動には、プロモーションコードやテリトリー制など、業界特有のビジネスルールが存在します。私たちはこれらのルールを、現場のMRへのヒアリングを通じて丁寧に数式化し、最適化計算における「制約条件」としてモデルに組み込みます。これにより、分析結果が現場の実情と乖離することなく、実務で活用できる計画の策定を可能にします。
  • 状況に応じた、柔軟かつ精緻な「利益算出モデル」の構築
    「どの活動が、どれだけ利益を生むか」を明らかにするため、まず活動の成果を測る「目的関数」を定義します。具体的には、MRの活動データから将来の売上を予測する「売上予測モデル」と、活動にかかる「コスト関数」を構築し、両者から「利益」を算出します。
    このモデル構築の大きな特長は、クライアントのデータ整備状況に応じた柔軟性です。MR活動データが十分に蓄積されている場合は、XGBoostなどの機械学習モデルを用いて高精度な予測を目指します。一方で、十分なデータがない場合でも、これまで計画策定に利用されてきたビジネスロジックや暗黙知を数式化することで、スモールスタートを切ることが可能です。
図表2:MR活動最適化アプローチの概要

4. PoC(概念実証)導入ステップ

  • Step1:目的と制約の定義
    まず「利益最大化」という目的を共有し、現場のMRやマネージャーの方々へヒアリングを実施します。MRの総稼働時間、医師への訪問回数上限といった定量的なルールから、現場で重視されている定性的な方針までを洗い出し、最適化モデルの「制約条件」として定義します。
  • Step2:利益算出モデルの構築
    次に、最適化の目的となる利益を算出するモデルを構築します。クライアントからご提供いただく各種データ(活動ログ、売上実績等)を基に、活動量と利益の関係性をモデル化します。この際、クライアントのデータ状況や既存の評価ロジックに応じて、機械学習モデルの活用やビジネスルールの数式化など、最適な手法を選択します。
  • Step3:最適化モデルの構築と効果シミュレーション
    Step2で作成した利益算出モデルを「目的関数」に、Step1で定義したルールを「制約条件」に設定し、利益が最大化される活動配分を導出する「MR活動最適化モデル」を構築します。最終的に、このモデルを用いて「もしシナリオに沿って活動した場合、現状計画比で利益がXX%向上する」といった具体的なシミュレーション結果を、アクションプランと共にレポートします。
図表3:MR活動最適化プロジェクトの進め方

5. 当社の過去事例から得られた成果と、本アプローチがもたらす価値

当社がこれまでご支援したPoC(概念実証)では、MR活動最適化アプローチを通じて、実際に以下のような成果を実現しています。これらの実績は、今後本アプローチを導入いただく際にも、同様もしくはそれ以上の価値が期待できると考えています。(図表4)

  1. 活動計画最適化によるROI(投資対効果)の向上
    本アプローチの最も直接的な成果は、MR活動全体の投資対効果(ROI)を最大化できた点です。最適化モデルが、医師ごとのポテンシャルや過去の反応実績に基づき、最も利益貢献度の高い活動の組み合わせを導き出します。これにより、効果の低い活動へのリソース投入を抑制し、成長ドライバーとなる活動へリソースを再配分することが可能となります。結果として、PoCのシミュレーションにおいて「現状計画比でROIがXX%向上する」といった、具体的な成果の見込みを定量的にご提示できました。
    データに基づくリソース配分見直しにより、利益最大化のポテンシャルを事前に把握し、確信を持って次のアクションに進むことが可能になります。
  2. 活動計画策定プロセスの効率化と高度化
    これまで手作業でのデータ集計や、複数部署間での調整に多大な時間を要していた活動計画の策定プロセスを、最適化モデルによって大幅に効率化・自動化しました。
    この工数削減により、創出された時間を営業企画部門や現場のマネージャーがより付加価値の高い業務、例えば「MR活動の評価・改善策の検討」や「現場MRへのコーチング強化」などに充てることが可能となり、組織全体の生産性向上に繋がります。
  3. 客観的根拠に基づく戦略議論・迅速な意思決定の実現
    最適化モデルを活用することにより、将来起こりうる様々な状況を想定した「What-ifシミュレーション」を可能にしました。例えば、「競合製品が上市した場合」や「自社製品に適応が追加された場合」といった市場シナリオを設定し、それぞれの場合における最適なリソース配分と、その結果得られる売上・利益の予測値を定量的に算出できます。
    これにより、経験や勘に頼るのではなく、データに基づいた複数の売上シナリオを比較検討しながら、関係各所とのより確度の高い戦略議論や合意形成ができ、意思決定の質とスピードを大幅に向上させることが出来ます。

6. まとめ

本稿では、製薬企業が直面するリソース配分の課題に対し、データと科学的アプローチ(数理最適化)を適用することで、営業組織全体の「利益最大化」を実現する具体的な手法についてご紹介しました。

MR活動計画を、これまでの経験や勘に基づく部分最適の積み重ねから、客観的なデータに基づき企業全体のゴールから逆算する科学的なアプローチへと変革させる、この取り組みが、不確実性の高い市場環境において競争優位性を確立し、持続的な成長を遂げるための重要な素地となります。

MR計画策定に限らず、企業にて意思決定にデータを活用することは今後ますます重要なテーマとなることが想像されます。本アプローチは、データドリブンな意思決定を行う事例の一つとして、今後の製薬企業における基盤となるアプローチとして発展していくと考えられます。

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