政府が推進する医療DXの施策の一つ「電子カルテ情報の標準化等」において、『電子カルテ情報については、3文書6情報(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急及び生活習慣病)、処方情報)の共有を進め、順次、対象となる情報範囲を拡大していく』との方針が示されています。
それら電子カルテ情報の共有の実現に当たっては、各医療機関へ標準規格に準拠した電子カルテが導入されていることが前提となりますが、厚生労働省の医療施設調査において、そもそも電子カルテ自体の普及率が、令和2年時点で一般病院:57.2%、一般診療所:49.9%に留まっており、まだ半数程度の医療機関が電子カルテを導入していない状況です。
そこで、政府は標準規格に準拠した電子カルテの普及に向けた具体策として、前述した電子カルテ情報の共有と併せて、『標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテである「標準型電子カルテ」の整備を行っていく』との方針を示しました。「医療DXに関する工程表」においては、当該取組等により、電子カルテを未導入の医療機関を含め、遅くとも2030年には概ねすべての医療機関に必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指すとしています。
前述の通り、「標準型電子カルテ」の整備は電子カルテの普及に向けた取組として打ち出されました。当該背景を踏まえ、「第1回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ」において、標準型電子カルテの導入対象は、特に電子カルテシステムの普及率の低さが著しい、200床未満の中小病院または診療所(以下、図表の赤枠部分)を想定すると明示しています。
また、同ワーキンググループでは、上記を導入対象としたうえで、標準型電子カルテの目的を以下の通り定めています。
<目的>
標準型電子カルテの具体的な今後の進め方としては、「医療DXの推進に関する工程表」に則り、2023年度に厚生労働省にて必要な要件定義等に関する調査研究を行い、2024年度にデジタル庁にて試作版であるα版のシステム開発に取り組むとの計画になっています。導入対象の医療機関に対して確実な導入を行うため、まずは一部の医療機関を対象に試行版であるα版の標準型電子カルテを導入し、それらの試行結果を踏まえて、本格版の標準型電子カルテを開発するとの進め方になります。
<標準型電子カルテの導入アプローチ>
「医療DX令和ビジョン2030」では、「標準型電子カルテ」について、『官民協力により低廉で安全なHL7FHIR準拠の標準クラウドベース電子カルテが開発され活用されるための施策を行う』こととともに、以下の検討を行うことも提言されています。
上記の提言を踏まえ、「第1回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ」では、『標準型電子カルテのシステム開発に関しては、標準規格に準拠したクラウドベースでのシステム構成としたうえで、国が対象施設に共通した必要最小限の基本機能を開発し、民間事業者等が各施設のニーズに応じたオプション機能を提供できるような構成を目指す』とのコンセプト案が示されています。当該コンセプトに基づき、医療DX(全国医療情報プラットフォーム)のシステム群や、民間事業者が提供するシステム群(オプション機能)とのAPI連携機能の実装も検討中ですが、民間事業者が提供するシステム群が数多く存在することから、その対象範囲や実装方法等は以下に記載する「システム接続方式」、「標準規格化」等の論点を踏まえて検討することになっています。
<構築に向けた主な論点>
「第1回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ」では、「標準型電子カルテ」を導入するメリットとして以下が挙げられています。
<標準型電子カルテの導入のメリット>
「標準型電子カルテ」の整備により電子カルテの普及が進み、それに伴い電子カルテ情報の共有等、全国医療情報プラットフォームの構築に向けた取組の一層の推進が見込まれています。従って、「標準型電子カルテ」の整備により、既に電子カルテを導入済みの医療機関にとっても次の効果が考えられます。
<電子カルテ導入済みの医療機関における効果>
上記の効果は、電子カルテ導入済みの医療機関においても診療の質の向上、業務効率化といったメリットに繋がることが期待できます。また、その他に、標準型電子カルテの開発に伴い整備されるAPIを活用し、外注検査センター等との情報連携を効率化するといった形でメリットを享受できる可能性もあります。
前述した「標準型電子カルテ」の整備によるメリットを十分に発揮するためには、電子処方箋、HL7FHIR等の標準規格に準拠した標準コードのメンテナンスや、医療DXサービス群の仕様に応じたシステム運用等、医療機関側にも相応の準備・対応が必要になります。「第1回標準型電子カルテ検討技術作業班」における電子カルテベンダーへのヒアリングでは、「標準型電子カルテ」の導入に係る技術サポートや、導入後の運用保守サポートの提供に係る懸念が挙がっていました。これらは、電子カルテ導入済みの医療機関が、電子カルテ情報の共有等に対応する場合においても同様に懸念される部分だと考えられます。
また、システムの機能以外では、以下に例示するような業務運用の調整が必要になる可能性もあります。
<標準型電子カルテの普及に伴う業務運用の調整事項の例>
このように、「標準型電子カルテ」が普及する中で、電子カルテ導入済みの医療機関でも、①標準規格に対応したシステム機能の整備、②他施設との連携を考慮した業務運用の調整、等の対応が必要になる可能性がある点につき、留意が必要であると考えます。
過去の「第4回健康・医療・介護情報利活用検討会、第3回医療等情報利活用WG及び第2回健診等情報利活用WG」(令和2年10月21日)等において、「統一された電子カルテ、画一化された製品は現実的ではない」との考え方が示されていましたので、政府主体による「標準型電子カルテ」の開発は大きな転機となりました。「標準型電子カルテ」の整備に伴い、医療機関における医療DXへの対応を見据えたシステム整備の必要性は、益々増加すると考えます。
デロイト トーマツ グループでは、豊富な医療情報システムの導入支援、システム監査、医療DX関連業務の他、病院経営に関するアドバイザリー業務等の実績を有しており、病院運営に係る総合的な視点から、医療DXに対応した医療機関のあるべき姿の実現に貢献していきます。
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/1