ドイツでIndustry4.0 が提唱されて以降、IoTや機械学習、ロボティクスなどのテクノロジーの適用により、製造・ものづくり領域のデジタル化、「スマートファクトリー」の取り組みは大きな潮流となってきた。しかし、ここ数年は、デジタルツインや産業メタバースなどの新たなテクノロジーコンセプトが登場してきたものの、取り組みの方向性を大きく変えたり、加速させたりするまでには至らなかった。製品や設備の状態に基づきデジタル上で実際の設備やロボットの動き、レイアウトを再現しシミュレーションすることは可能となった一方で、工場の日常でダイナミックに発生するイベントや業務の流れ、データを活用した問題解決や意思決定といった組織活動・マネジメントへ適用する道筋が見えてこなかったからである。
しかしながら、生成AI に端を発し、エージェントAI、フィジカルAIとAI技術が急速に拡大する中、注目されるのが、「ソフトウェア・デファインド・マニュファクチャリング(Software Defined Manufacturing、以下「SDM」)」という進化の方向性である。自動車では、機能実現をハードウェアからソフトウェアへシフトした構造とすることで、仮想空間上でシミュレーションを行って品質・機能のスピーディな熟成を可能とし、速いサイクルかつ遠隔での機能アップデートやカスタマイズを実現可能とした「ソフトウェア・デファインド・ビークル(Software Defined Vehicle、以下「SDV」)」が現実化しているが、それと同様の概念である。
すなわちSDMは、製品や設備機器・業務プロセス、組織活動やマネジメントをデータとデジタルで表現、それを柔軟に組み合わせ互いに連携させる。それをもとに、直近の問題分析から改善策検証までをデジタル上で行い、現場にスピーディかつシンプルに適用し進化させる。また、それだけでなく、さまざまなビジネスシナリオから将来のものづくりのボトルネックをシミュレーションし、競争力の維持向上に向けた課題(アジェンダ)をスピーディに柔軟に立案、実行していくことが可能となる。
もちろんこの取り組みは一朝一夕に実現できるものではないが、SDMを自動化・デジタル領域における技術進化が目指す方向性を整理する枠組みとして捉え、変化に俊敏に対応し、さらには変化を先んじて作り出せるような、自社のものづくり戦略を磨き上げていく一助となれば幸いである。
芳賀 圭吾
産業機械・建設セクター スマートファクトリーイニシアチブリード
合同会社デロイト トーマツ
パートナー