日本の製造業は、新型コロナウイルス感染症の流行からの反動需要として、設備投資が回復基調となってきている。日本の製造業、とくに、産業機械製造業において、これが好機となるかは予断を許さない状況であり、2023年も事業環境の不確実性は続くものと推測される。本稿は、この先一年、改革に取り組むリーダーが検討すべき重要アジェンダについて、米国のトレンドと考察を取り上げて検討する。
本稿で紹介した、不確実性の管理、労働力不足への対応、サプライチェーンにおけるレジリエンスの促進、スマートファクトリーイニシアチブのメタバースへの拡張、そしてサステナビリティの発展、これらは日本の製造業においても同様に、2023年に取り組むべき重要アジェンダとなっている。
世界の先進事例、見通しの利かない地政学リスク、目の前の資材・部材価格の高騰やサプライチェーンの脆弱性など、多くの課題を目の前にして、不確実性が高いからと座して動かないのは、むしろバランスを欠いた見地であろう。激動かつ予測不可能な時代だからこそ、そして設備投資が回復基調となってきている今こそ、自社の強みを生かして、機敏にこの新しい潮流に立ちむかうべきである。
もっとも重要なケイパビリティは、事業展開に柔軟性を備えることである。不確実性に適応するには、人財の個々の力を生かしつつ、機敏に組織を動かすことである。そもそも日本のものづくりの現場は、調整能力にすぐれ、多能工・すり合わせをはじめとした、柔軟なものづくりを得意としてきた。
しかし大企業においては、サイロ化された組織間での合意形成・意思決定に時間がとられ、従業員は迅速な遂行力を失いがちである。
また産業機械やインフラなどのいわゆる重厚長大型産業では、個社での取り組みに限界があり、自社・グループ外、多くのステークホルダーとの連携・協働も求められる。リーダーは社内外の意見を広く傾聴しながら、業界全体への俯瞰と現場感を併せ持ち続け、現場の価値を最大限引き出す選択を行なう必要がある。
改革に取り組むリーダーは、重要なトレンドを見据えて、小規模でも実験しながら遂行させる必要がある。その際、実験することを目的にせずに、常にミッション、目指すべき方向を明確にしておくことが重要である。計画通りに遂行することに拘ることなく、戦略の見直しにも柔軟に対処することである。そのためにはデータによる可視化(DXの推進)と、より緊密なコミュニケーション、迅速な意思決定が必須となる。