日本の現状を踏まえた医療分野でのGX戦略がもたらす未来について、GX戦略の基本から実践までを記載していく。
医療雑誌『病院』84巻4号(2025年4月号、医学書院)「特集 GXと医療の未来」に寄稿した内容をサマライズして掲載します。詳細は『病院』84巻4号(2025年4月号)をお読みください。
パリ協定に端を発した脱炭素の動きの中で、日本を含めた各国政府は1.5℃目標の達成をうたい、各企業は1.5℃目標達成と気候変動を通じた企業価値の向上を目指し気候変動と経営との統合、いわゆる気候変動経営を志向し始めた。 今回は、「未来を見据えた医療業界のGX戦略」と題して、日本の現状を踏まえた医療分野でのGX戦略がもたらす未来について、GX戦略の基本から実践までを記載していく。
まず、“何のために自社がGXを推進するのか”を明確に定める必要がある。根幹となる考え方とは、「社会が良くなる=自身の利益につながる」戦略を考えるということである。
ここでは、環境省が推進する脱炭素先行地域や欧州事例を紹介する。
小田原市では、国内最大級となる医療施設の ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)等を推進している。その背景としては、以下と記載がある。
近隣市町を含めた神奈川県西地域 の基幹病院であり、生活サービスの維持のためにも、災害時の事業継続を確保することが重要である。 そのため、ZEB-oriented 相当の断熱などにより、災害時を含めた消費エネルギーを削減する。出所:小田原市(“エネルギーと地域経済の好循環”のための基盤づくりを通じた市街地活性化)より抜粋(https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/assets/preceding-region/2nd-teiansyo-09.pdf)
つまり、「基幹病院として、生活サービスの維持のためにも、災害時の事業継続を確保したい。それをGX/脱炭素・サステナビリティを通じて実現したい」という想いがあるわけである。
国営の医療制度「国民保健サービス(NHS)」では、2020年10月1日に、世界初のカーボンネットゼロの医療制度となるべく複数年計画を採択している。
そこの記載が非常に興味深い。
NHSの最高経営責任者であるサイモン・スティーブンス卿は、「2020年はCovid-19に支配されており、私たちが直面している最も差し迫った健康上の緊急事態です。しかし、気候変動が国民の健康に最も深刻な長期的脅威をもたらすことは間違いありません。」「NHSが大気汚染や気候変動によって引き起こされる問題(喘息から心臓発作、脳卒中まで)を治療するだけでは不十分です。私たちは根本からそれらに取り組むために私たちの役割を果たす必要があります。」
(デロイト トーマツ仮訳)
気候変動に起因するであろう病気等を、病気が発生した後に治療することも勿論重要である一方で、脱炭素を通じてそれらが発生しない社会を作ることも重要であると掲げている。
その後脱炭素目標を設定したのちに、具体的な脱炭素に向けた計画(移行計画)を立てる必要がある。移行計画を立てたのちには、それを着実に実行していく。ここでは、デジタルツールを活用した診療行為の脱炭素化について事例を紹介する。
これらの取り組みは、人口減少と少子高齢化社会が進む日本においては、脱炭素と同時により持続可能な経営の実現を可能とする。
株式会社NTTファシリティーズと当社では、脱炭素の取り組みのエネルギー・光熱費削減以外の効果であるNon-Energy Benefits(NEBs [ネブズ])と呼称される効果について定量化している。
(参考:省エネ建築物の新築・改修に取り組むメリットを総合評価する全12指標を整備・策定 | デロイト トーマツ グループ)
省エネ改修・脱炭素・GXの推進により、ワークエンゲージメント向上による採用力強化、利用者の離職率低下につながることを実証している。
地域の活性化、地域社会との共生の立場から防災効果を高めていく、またユニバーサルサービスの観点から、脱炭素を推進し、環境問題に起因する病気の根絶を目指す、また医療従事者の働き方の改善に向けて脱炭素を推進する等、これからの医療のGX戦略を考えることは、IOT等の新たなテクノロジーも活用しつつ、より病院経営の持続可能性を考える一助になると考える。
参考文献
環境省:脱炭素先行地域 - 脱炭素地域づくり支援サイト|環境省, https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/(2024年12月11日)
NHS:https://www.england.nhs.uk/(2024年12月11日) 他