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Perspective:
Blue wave conection dots and lines. Abstract technology background. Science background. Big data. 3d rendering. Network connection.

経営アジェンダとしての人材ポートフォリオ転換

人材×AI座談会

テクノロジーの急激な進化をはじめとする経営環境の大きな変化により、多くの企業が事業ポートフォリオの転換を迫られる可能性があります。また人的資本経営が叫ばれる中、経営における人事の重要性も高まっています。そんな中、事業転換のボトルネックになる可能性があるのが「人」の問題です。

企業が戦略を遂行するためには、どのように人材ポートフォリオを転換すべきなのか。そこで重要なドライバーとなる「生成AI/AI」の活用について、経営戦略、人事、そしてAIの最先端を企業に提示するプロフェッショナルが議論し、具体の道筋を示します。

人材ポートフォリオ転換のカギとなるのは、キャリアパスの再構築

松江:私は多くの経営者と話をする機会がありますが、多くの経営者は共通して人に関する悩みを抱えていらっしゃいます。その悩みの中には大きく2つの考えるべきテーマがあると見ています。

1つは、事業と人材ポートフォリオの連動です。企業が成長していくためには、将来の事業ポートフォリオとそれに伴う人材ポートフォリオをしっかりと結びつけ、価値を創造するストーリーを描くこと、さらにKPIを設定して目標管理をする必要があります。経営者の皆さまも理屈としてはご存じですが、どのようにこれを実践するかという部分でご苦労なさっています。

例えば最近私が関わった案件で、2040年の事業ポートフォリオを考えるプロジェクトがありました。海外進出してグローバルサウスで事業を伸ばすなど、事業の成長ストーリーを具体的に描くことはできましたが、その先の、「一体誰がこの事業を実践するのか」という部分で大きな課題に直面しました。2040年と言えば、15年後です。それまでに人を採用し、育成し、海外事業を担うところまで持っていくのは容易ではありません。どのような人をどんなステップで育成するのか、あるいは採用するのか。せっかく事業戦略を描いても、人材の問題と結びつけた途端に進まなくなるというケースは少なくありません。

もう1つの大きなテーマは、AIと人の関係性です。AIを使った経営の革新は、今後の事業ポートフォリオを考えていく上で非常に重要です。しかし「AIによって人の仕事のしかたがどう変わるのか」という点においては、経営者も明確な答えを持ち合わせていません。AIやデジタルの時代に、本当に人が価値を発揮する業務とは何か。その業務が企業の売上や利益に結びつくのか。その確信が得られていないのが現状ではないでしょうか。
 

デロイト トーマツ グループ CETL(Chief Executive Thought Leader)
デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表
松江 英夫

谷:私のクライアントも、まさに時代の変化に合わせて事業ポートフォリオを変えていく必要に迫られています。新たな事業を描き、KPIを設定するところまではできても、それを実現する人材はどこにいるのか、さらに生成AIをどう組み込めばいいのかという部分で苦労しています。

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員
Human Performance Empowerment Unit Deputy Leader
谷 美代子
 

経営環境が大きく変化している中、多くの企業がパーパスに基づく事業ポートフォリオの転換を志向していますが、実際には多くのギャップが生じているものと思われます。

小野:経営環境が大きく変化している中、事業ポートフォリオを大きく変えていく必要があります。それに応じて人材ポートフォリオも変えなければなりません。図1では左側にあるべき姿、右側に現状を記載していますが、両者の間に多くのギャップが生じています。

例えば、事業ポートフォリオの構想まではできるが、人材が制約となり実装までたどり着かないという問題があります。生成AI/AIに関しては、取り組みの多くがPoCや個別最適化に留まっており、本当に成果を出すための業務・システムと連動させたような取り組みがなかなか進まない、また人材のスキルやマインドが不足しており、新たな業務に挑戦できない、生成AIによって若手が経験を積む機会が奪われてしまうといった問題もあります。

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員
人事機能変革(HR Transformation)
小野 隆
 

宍倉:最近ではテクノロジーやデータの活用は少しずつ進みはじめました。しかしそれをどう成果につなげるかは難しい問題です。例えば生成AIを活用して個人が1日1時間業務を削減したとしても、その1時間で新たな業務を実行するというのは容易ではありません。大きな成果を出すには、やはり業務や部門といった単位で業務プロセスを見直し、工数や時間を削減する必要があります。しかし既存の業務を進めながら新たな業務に載せ替えていくというのは非常に難しく、これをリードできる人材もなかなかいません。このため、なかなか次の一歩に踏み出せない企業が多いと感じています。

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員
AI&Data
宍倉 剛
 

松江:私は企業で人材のポートフォリオを動かすカギとなるのは、キャリアパスのリモデル(再構築)だと考えています。人の上に立つリーダーの役割は「新しいことに挑戦すること」だと明確に定め、そこで結果を出せばさらに上にいけるというキャリアパスをつくれるかどうかがポイントです。というのも、これまで多くの日本企業では既存のコア事業で成果を出した人が評価され昇進してきました。しかしポートフォリオを組み換えるということは新たな領域に進出するということですから、新しいことに積極的に挑戦する人材を評価するしくみが不可欠なのです。

リーダーを動かすというのが重要で、上を新たなポジションに移すことで既存のポジションが空き、結果的に次世代の人材が育つという副次的な効果も期待できます。事業のポートフォリオと人のポートフォリオを結び付けるキーは、リーダーのキャリアモデルを変え、「優秀な人ほど新しいことをやる」しくみをつくっていくことだと考えます。
 

設計から導入、ガバナンスの策定まで、生成AIに関するサービスをEnd-to-Endで提供

谷:先ほどからキーワードとして登場している「AI」ですが、人材ポートフォリオの転換期において重要なソリューションとなります。ここからは、生成AIを含めた、業務の効率化・高度化を支援するソリューションについて見ていきましょう。
 

生成AIに関して、構想策定といった大上段に始まり、導入支援、基盤構築などの実行フェーズの支援、また、継続的に利活用していくためのガバナンス体制作りまで支援可能です。

宍倉:デロイトでは生成AIの活用目的やどういう業務に導入するかを定めるコンセプト設計から、PoCを経ての実装、さらに導入後に活用を推進するための組織づくりやリスクマネジメントも含めたガバナンス策定までをトータルでご支援しています。生成AIは導入したら終わりというものではなく、リスクも考慮しながら業務に活用できる体制を整えてはじめて成果につながるものですので、私たちはコンセプトからガバナンスまでをEnd-to-Endでサポートします。
 

デロイト トーマツ は 生成AI技術の研究・開発を日々行っており、そのノウハウを、クライアントサービスに活用しています。

次に生成AIに関する最近のトピックをご紹介します。上記はデロイトが日々生成AIについて研究し、アプリケーションやモジュールとしてクライアントにご提供している技術です。左のRAGは、社内に蓄積した情報を、生成AIを通じて引き出すときに使われます。1

中央のマルチエージェントは、複数のAIを連携させてタスク処理を自律化、自動化していく技術です。2

またAIインタビューエージェントは、企業内に残る属人的な暗黙知や言語化しづらい専門知識、ノウハウなどを、AIによるインタビューを通じて引き出し、データ化するための技術です。暗黙知を言語化してデータベースに蓄積することで、他の人も活用できるようになります。3

小野:社員のスキルをはじめとして、タレントマネジメントに用いるデータは、なかなか更新されないという課題があります。そこで、例えば四半期に1回、全社員がAIエージェントのインタビューを受けるようなフローを構築できれば自然とスキルがアップデートされ、非常に有用だと感じました。もちろんベテラン社員の知見を伝承するためにも有効です。

松江:AIを使う人材の技術をどう磨いていくか、という観点も重要です。ある外食産業でAIを試験導入した結果、店長のやる仕事がなくなり、暇になってしまったそうです。するとその店長は、お客様への声掛けを増やすなど自発的に業務の内容を変え、その結果お客様の関係性が深まりリピート客が増えるという成果が出たといいます。

つまりAIを導入して空いた時間を「どう使うか」が重要です。こういったノウハウもAIエージェントアプリで言語化して組織全体で共有することで、さらに大きな成果につながるでしょう。

人材ポートフォリオ転換のためのステップとは

谷:改めて、人材ポートフォリオの転換や生成AIの活用は、具体的にどのようなアプローチで進めたらよいのでしょうか?
 

生成AI/AIの活用により捻出した時間を新しい価値領域へ投下するためには人材のスキルや マインド等を転換していくことが求められます。

小野:これは一朝一夕で進められるものではなく、ある程度の時間をかけて徐々に転換していくことになると思います。その転換の進め方は、上図のようなステップを考えています。

まずは、①新しい価値領域で必要となる、従業員のスキルやマインドの整理ならびに可視化を行います。次に、②望ましい人材ポートフォリオを量・質の両面から明確化します。

ここからの取り組みは時間も要しますが、③生成AI/AIの活用に向けたリスキリングやアップスキリングを実施し、④経験を通じてマインドを転換します。これは「テクノロジーやデータを活用しよう」「自分のキャリアを考えて動こう」といったマインドを身につけるものです。

さらに自律を促進するために、⑤タレントマーケットプレイスや公募制なども含めた人材のマッチングを実施し、⑥生成AI/AIと人との協働モデルを実践していく、という一連の動きが必要になるでしょう。

昨今は、人材ポートフォリオについてご相談いただくことが増えています。将来の人材ポートフォリオは、従来は人材像という粒度で定義していましたが、最近はスキルベースで定義することが増えており、採用や育成への活用、スキル体系や保有状況の更新・運用に関するマネジメントも含めて多くの経営者が関心を持っていると感じています。
 

社員のスキルセット、キャリア希望、経歴などの人材情報を生成AIで収集・引き出しを容易にするとともに、社員個人もキャリア設計のために生成AIを活用する。

宍倉:各種人材関連の情報を集約したデータベースは、多くの企業で活用されています。そこに、先ほど説明したような各種AIアプリケーションを活用していくのがポイントです。例えば、AIインタビューエージェントを活用すれば、「中級プログラミングスキル」というデータに加え、具体的にどのようなプロジェクトでどんなプログラミングを行い、成果はどうだったのか、という情報まで引き出し、データベースに加えられるようになります。

人材情報データベースの目的は人材配置の最適化ですが、長期的に見れば個人の成長にもつながります。積極的にAIを取り入れ、対話式できめ細やかに人材の情報を引き出し蓄積していくことが、個人の成長、ひいては会社の成長にもつながると思います。

松江:AI活用については、個人レベル、チームレベル、企業レベルで考えることも必要です。個人が日々AIを活用することで生まれた時間やリソースをどこに使えばパフォーマンスに直結するのか。これをチームレベル、さらに企業レベルで意識し、より付加価値の高い業務に振り向けていくことで、AIの効果は指数関数的に高まっていくでしょう。

小野:人的資本経営の観点からすると、人材マネジメント手法が大きく変わってきています。これまでは組織ありきで、個は全体としてマネジメントされていました。ところがここ数年で、個がフィーチャーされるようになってきています。この後は、いかに個と組織の好循環を回し、企業の成果につなげるかという発想が必要になるのではないかと考えています。

谷:個と組織は、どうすれば連動するようになるのでしょうか。

松江:ウェルビーイングがひとつのキーワードだと思います。個人の主観的なウェルビーイングは一人ひとり違いますが、その中で組織の目的との合意点を見つけることが大事になってきます。そのために必要なのが対話です。生成AIは対話型ということがポイントで、組織内で対話の頻度が高まることで、結果的にさまざまな合意点が見つかる可能性も高まります。ぜひ経営者の皆さまは、人的資本経営の上位概念としてウェルビーイング経営を置くといいのではないかと思います。

 

幅広い領域を全方位でカバーする専門家チームが人事領域のあらゆる悩みに対応する、デロイト トーマツの人材支援サービス

デロイト トーマツでは20年以上前から、Human Capitalという人事・組織領域のプロフェッショナルを集めた専用部門を設け、人事や組織が抱える課題解決の支援を行ってきた。現在、Human Capitalにはパートナークラス約20名を含め400名以上のコンサルタントが在籍している。

座談会に登壇した谷や小野はこのHuman Capitalに所属しており、谷はタレントマネジメント領域を、小野はデジタル人材の育成や人事の機能変革、人材マネジメント方針の策定といった幅広い人事のトランスフォーメーション事案を担当している。国内屈指の多様な人事プロフェッショナルを要することで、CHROが抱える人事領域のあらゆる悩みに全方位・ワンストップで対応できる体制や人材が整っている。

昨今、経営者は、経営と人事の両輪を意識しながら戦略を練り、実行していくことが求められる。そこでデロイト トーマツではHuman Capitalのプロフェッショナルに加え、グループのアセットや知見をフル活用し、必要に応じてさまざまな領域の専門家とチームを組み、CHROに限らずCEOやCDOなどあらゆる経営トップが抱える課題解決をサポートしていく体制を整えている。

例えば座談会に登壇した宍倉はAI&Data部門に所属し、AIやデータ、その他最新のテクノロジーを使いクライアント企業の変革や課題解決をサポートするプロフェッショナルだ。

また松江が代表を務めるデロイト トーマツ インスティチュート(DTI)は、デロイト トーマツ グループ全体のソートリーダーシップ機能を持ち、グループを横断するかたちで実践的な発信や政策提言などを行っている。このため松江は企業の経営戦略だけでなく、経済同友会や政府の各種委員会などマクロ視座の財界活動も行っている。

デロイト トーマツのHuman Capitalは、人事制度設計といった特定領域だけにとどまらず、マクロな視座に立ち、企業のビジョンや将来の事業ポートフォリオを踏まえた人事戦略の策定から各種人施策の設計・実行、さらに生成AIを含めたテクノロジーやツール導入、そしてその後の運用までを一気通貫でサポートする。このような体制こそが、クライアント企業を真の成長へ導くと考えているためだ。

 

生成AI技術活用の最前線

AIインタビューエージェントアプリを活用し、知見の伝承にも取り組む

テクノロジー分野では、生成AIをはじめとした多くの技術やツールの研究開発に注力している。

例えばスキルベースの人材マネジメントを構築するための「ジョブ-スキル・アーキテクチャ」は、生成AI技術を活用して人材のスキルを可視化し、将来の事業ポートフォリオに必要なジョブとひも付けることを可能にするフレームワークだ。

従業員エンゲージメントに関しては、エンゲージメントサーベイのスコアを分析し、スコアを高めるための具体的なアクションまで導くオファリングサービスを提供している。本サービスは各種エンゲージメントツールに対応しており、定性・定量どちらのデータも分析可能。従来はコンサルタントが提供していたような示唆を、スピーディに得ることができる。

座談会でも紹介された「AIインタビューエージェント」も重要になるサービスだ。今後ベテラン層の退職が増えていくと、会社に残しておくべき重要な知見やノウハウまで失われてしまう。端的なのは、製造業界におけるいわゆる匠の技だが、その他にも多くの企業には暗黙知が蓄積されている。そこでAIインタビューエージェントは、そのようなノウハウを持つベテラン、シニア層にインタビューを実施し、暗黙知を可視化してデータベースに蓄積する。こうして集まった知見やノウハウは、生成AIのRAGなどを活用し、必要なときに現役メンバーがアドバイスという形で引き出せるようにする予定だ。

AIインタビューエージェントの概要

デロイト トーマツでは、このような世界観の実現も含め、これからも生成AIに関する研究開発に取り組んでいく。

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