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世界の投資マネーは森林へ向かう

【シリーズ】林業イノベーション(Vol.1)

森林には多様な価値がある。その森林の持つ潜在力を引き出す林業には多くの意義がある一方で、我が国の林業には課題も多い。その林業を変革し、まさにイノベートしていくためには、林業以外の動きとコラボレーションして成長機会を上手に取り込んでいくことが重要だ。その可能性の中には、まさにカーボンニュートラルやESG投資といった視点が含まれるだろう。そして、そこから日本として、さらには人と自然とのかかわりのあり様として、多くの示唆が得られると考える。この動きをうまく林業に取り込んでいくためには、我が国の林業業界をもう一歩、外に向けて開いていく必要がある。

当シリーズでは、我が国の林業業界を活性化することで、中長期的に日本の自然環境や生物多様性、これらを活用した地域産業を維持していくためのポイントを解説していく。

 

森林に流入するESG投資


持続可能な社会を形成する上で、世界の陸地面積の約3割を占める森林が果たす役割は、生物多様性保全、炭素固定機能、水源涵養、土壌保全や木材生産機能など多岐に渡り、近年、その価値評価を適正に行うことが極めて重要視されている。特に、海外では、木材資源を持続可能なかたちで生産している森林が、優良な資産としてESG投資の受け皿となっており、近年その投資額は大幅に増加している(図、ESG投資の一種であるインパクト投資※1において森林分野への資金流入が続いている)ことがその背景にある。

また、欧米ではTIMO※3やREITといったアセットマネジメント組織が森林管理を担うケースも増えている。伐採後の再造林の確実な実行など、森林経営の基本はもちろん、生物多様性や炭素固定等についての情報開示にも力を入れており、森林事業の収益化による経済価値のみならず、社会価値への貢献を通じたサステナビリティの観点でも評価され、透明性が確保された評価に基づく投資として注目されているのだ。木材需要の増大を受け、今後もこのような形態での資産管理と、資金面で後押しする投資資金の流入は加速していくと予想されている。
 

森林生態系サービスの価値を評価する新たな取り組み

森林に関わる評価として、林業の面のみならず、生態系サービスへの支払いにフォーカスしたPES(Payment for Ecosystem Services)スキームによるアプローチも今後発展していくことが予想される。PESスキームとは、私たちが生態系から享受する非常に多くの恵みを支える自然の働きを「生態系サービス」ととらえ、それら多様な価値を評価し、受益者が森林資産の管理者にコストとして支払う枠組みである。

たとえば、ナミビアでは、ブロックチェーン技術を活用し、保護すべき野生生物の回廊となる森林を衛星によりモニタリングし、森林面積が減少していなければ地域コミュニティに対して支払いを行うといった取り組みが既に試行されている。

今後も、生態系サービスの地球規模での機能低下は進行するとみられており、これを防止するために、諸外国では森林への投資活動を持続可能な社会形成に結びつける投資モデルが創出されており、今後も更に発展していくことが予想される。

 

我が国林業への引き込み


日本の林業にも是非ともこうしたESG投資を引き込み、林業業界の中長期的発展に活用すべきであろう。しかしながら、「投資」を引き込むには日本の林業業界は残念ながら仕組みが未発達であり、その準備ができているとは言い難い。次回以降でその課題感と解決策になりそうな動きについて解説していく。

※1 インパクト投資とは社会・環境へのインパクト創出とファイナンシャルリターン達成を同時に実現する投資。ESG投資の延長として位置づけられる。
※2 コロナ禍における社会課題解決とインパクト投資(社会変⾰推進財団、2020年)https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2020/lm20201013.pdf
※3 TIMOとはTimberland Investment Management Organizationsの略で、日本語では林地投資経営組織と訳される。林業を専門にした投資ファンドのことである。
 

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執筆者


鈴木 秀明/Hideaki Suzuki
有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部・パブリックセクター・ガバメント&パブリックサービシーズ

水沼 朋子/Tomoko Mizunuma
有限責任監査法人トーマツ

※所属などの情報は執筆当時のものです。

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