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海外の財産相続、現地裁判所での手続きに注意

ファミリーコンサルティングニュースレター

※ デロイト トーマツが寄稿した 「日経ヴェリタス 電子版」 2025年6月5日記事を転載しております。
元記事はこちらよりご覧いただけます。

はじめに

被相続人や相続人が海外に住んでいる場合、日本の相続税は発生するのでしょうか。近年、子供が海外留学後に現地で就職したまま日本に戻らないケース、国際結婚をして日本国外に住んでいるケースが増えています。また、親世代が移住して海外で余生を過ごし、そのまま相続を迎えるケースも見受けられます。

海外に財産を残した場合、海外の税金についてじっくり検討する前に、相続人の皆様は日本とは異なる法制度や相続手続きに直面する場合があります。特に英米法に基づく国々では、「プロベート(Probate)」と呼ばれる現地の裁判所での手続きが不可欠となることが多いため、この手続きの概要を理解して、今後の対策を検討することが賢明かもしれません。

プロベートとは?

プロベートとは、被相続人がのこした遺言書や遺産の内容を裁判所が確認し、遺言執行者(Executor)または遺産管理人(Administrator)に財産管理・遺産の処分・分配等の法的権限を与える手続きです。下記の図の通り、米国、英国、カナダ、オーストラリア、シンガポール、香港など、英米法を採用している国で一般的に行われていますが、日本やオランダ、フランスなどの大陸法系の国ではプロベートのような裁判所が関与する手続きは行われず、原則、遺産分割協議に基づいて相続手続きが進められます。

一般的なプロベートの流れ

(1) 死亡の確認と遺言書の提出
相続人等が、被相続人の死亡証明書等の書類及び遺言書を裁判所に提出します。

(2) 遺言執行者等の任命
裁判所に対して、遺言がある場合には遺言執行者の申し立て、遺言がない場合は遺産管理人の申し立てをし、裁判所から選任を受けます。

(3) 遺産・債務の調査
遺言執行者や遺産管理人は、相続人を特定し、債権者等に相続開始の通知等を行い、被相続人所有の不動産、預金、有価証券、動産、債務等の財産目録を作成し、裁判所に提出します。

(4) 債務・税金の精算
被相続人の生前の借り入れ、未納の税金、未払い医療費などの債務がある場合、遺産管理人等が遺産財団から弁済します。また、必要に応じて遺産税の申告を行い、遺産財団から納税します。

(5) 裁判所の許可と財産分配
上記すべての債務の弁済が完了し裁判所から財産分配の許可が得られると、相続人等に財産を分配することができます。

実務上の課題

日本人がプロベートを採用する国に財産を残した場合、相続人は次のような課題に直面することが散見されます。

  • 現地のプロベート手続きに不慣れで、プロベート申請に必要な書類や進め方がわからず、手続きが滞ってしまう恐れがあります。また、日本で作成された遺言の証人や署名の形式が現地法に適合していないことから、現地では実務上対応できないことがありますし、海外財産に関する日本の分割協議書の合意内容を現地のプロベート裁判所が尊重してくれるかどうかという実務的な問題もあります。
  • 現地での手続きが完了するまでに時間がかかる
    プロベートはその完了まで1年以上かかるケースもあり、その間、相続財産の処分(送金や売却等)が制限されることが多々あります。特に不動産や金融資産の凍結状態が続くと、納税資金や相続人の生活に影響を及ぼすこともあります。
  • 日本と現地の申告義務
    現地の相続手続きに時間がかかる中で、日本の相続税申告が必要な場合は相続開始日の翌日から10カ月以内に海外の財産も評価した上で相続税の申告と納税をしなければなりません。また、現地で相続税または遺産税の課税対象となる場合、財産の評価額を確定するための基礎資料がないにもかかわらず日本よりも早く申告期限が到来することもあります。同じ財産に対する二重課税を避けるための検討も必要となります。

被相続人・相続人が海外にいたらどうなるの?

一般的な日本人の家族で、親世代が死亡し子供世代が親の財産を引き継ぐ場合を考えてみましょう。日本の相続税法では、親世代が日本に住んでいる場合、子供世代は海外に住んでいても親のすべての財産が日本の相続税の対象です。親世代が日本を離れ海外に住んでいる状態で相続が発生した場合でも、親世代、子供世代ともに海外に10年超住み続けなければ、日本に住んでいる場合と同様に親世代のすべての財産は日本の相続税の対象です。ただし、親世代、子供世代ともに10年超海外に住み続けた場合は、日本国内に所在する財産のみが日本の相続税の対象です。

海外に「住んでいる」場合とは、海外に「住所がある」ことを意味します。日本の相続税の納税義務を考える際、「住所」の判断がとても重要です。住所とは「生活の本拠」であり、住民票や自宅となる不動産の所在地だけで判断するものではありません。親世代、子供世代それぞれについて、日本または日本以外の国に何日滞在しているのか、職業は何か(どこの国で働いているのか)、生計一の家族はどの国で生活しているのか、財産はどの国にあるのか等、様々な事情を総合的に考慮して「住所」を判断します。

財産が海外にあったらどうなるの?

日本に住んでいる人でも、過去に海外で勤務していたことがあり現地の銀行口座を持っていたり、年金制度に加入していたりすることがあります。また、資産運用の目的で海外の株式や不動産を購入する方も増えています。

海外にある財産も日本の相続税の対象となり得るため、相続が発生し納税義務がある場合には、日本の相続税申告書には日本の財産とともに海外の財産の種類や残高等を記載して提出します。企業経営者のご相続の場合には、海外現地子会社の株式価値を日本本社の株価評価に反映して申告する必要があるかもしれません。

海外の財産は、残高等の情報を得るだけでも一筋縄ではいきません。海外の銀行口座の場合、まず問い合わせる窓口がなかなか見つからないことが多く、窓口につながった後でもその担当者は日本人が相続する場合の手続きについて精通しているとは限りません。また、プロベートが必要な場合は裁判所から選任された遺言執行者または遺産管理人でなければ残高証明書が発行されない国もあります。これらのやり取りを現地の言語で、専門用語を理解しながら進めることは非常に骨の折れる作業です。

海外の財産について、子供世代が認識していればまだ良いのですが、親世代が子供世代に自分の財産を明らかにしていないことも多く、子供世代は海外に財産があることを知らないことも多々あります。海外財産がある場合も、国内財産しかない場合と同様に、いざ相続が発生した場合に、子供世代が相続手続きで苦労することのないよう、まずは親世代が元気なうちに子供世代と相続についで情報を共有し話し合っておくことが重要です。

※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

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