デジタルテクノロジー等の広がりをきっかけに、顧客の価値観・行動様式が大きく変わるなど、事業を取り巻く環境が大きくかつ急速に変化する昨今において、全社的に事業構造を変えてく必要性が高まっていることが自明である。しかしながら、現実的にはほとんどの会社において、事業構造改革の必要性を認識しつつも、自律的な改革が行えず苦悩していると認識している。
本編では、これまで様々な会社における構造改革の支援を行ってきた当社の経験をもとに、事業構造改革の実現に向けた要諦等について論じたい。
まず、当社では全社構造改革の推進に実現に苦しむ様々なクライアントから相談を頂いているなかで、自律的な改革が行えない会社にはいくつかの共通点があると認識している。
その代表的なものとしては、
等があげられる。
つまり、過去の成功体験や自身の経験に捕らわれたマネジメント思想となることで、時代や顧客の変化を十分に捉えられず、結果として抜本的な変革に繋げられていないのである。
上記のような特徴を踏まえ、当社では全社事業構造改革を実現できる会社には3つの要素があると考えている。
まず、全社構造改革を妨げる大きな要素として「独善的な意思決定の横行」があげられる。これは、様々な意思決定において社内論理、社内の常識が重視され、結果として改革の必要性が否定されてしまうことである。
これらを回避するためには、「グループの執行に対し、客観的・長期的視点から直言できる監督の仕組み」の構築や「重要経営アジェンダを迅速に意思決定できる少数マネジメントチームの組成」等が有効になる。そして、これらを実現するための具体的な施策は、「監督と執行の分離」、「取締役会での議論の質向上」、「マネジメント登用の透明性担保」などがあげられる。
次に、事業構造改革の推進には、新たな価値提供モデルを基本とした組織構造設計が必要になる。
何故なら新たな価値提供の定義とは事業戦略そのものであり、これらの戦略を支える組織体制が従来型の価値提供を起点とした組織構造では新たな提供価値の実現はおぼつかない。
仮に戦略と組織が整合していない場合、新たな提供価値における成果の出現が遅れる。結果として、事業構造改革に対する社内の求心力を高めることができず、構造改革推進のモメンタムが向上しない。
故に、定義した価値提供モデルを基本として、各々の市場・顧客に見合ったスピード・コスト・リソースを実現できる仕組み・ルールの構築することが必要になる。
最後にコーポレートのアジェンダ推進体制の改革は、社内外の情報を収集するとともにそれらが自社にもたらす影響を深く考察することで、自社が取り組むべき本質的な改革をコーポレートアジェンダとして経営陣に突き付けていくことで、弛まぬ改革を推進することが可能になる。
これらの実現には、「マネジメントチームに忖度なく意思決定を迫る経験・権威あるスタッフ機能の整備」や「アジェンダを定義することに対する心理的安定性」を担保していくことが必要になる。
ここで一つ、日本を代表する製造業A社における構造改革事例を共有したい。
この会社をとりまく環境は100年に一度と言われる事業環境変化に見舞われているなかで、生き残りをかけた構造改革を進めている。
これらの改革に取り組んだ結果、製造業A社では “稼ぐ力”を大きく改善させた。
結果として、その後に発生した世界的なリセッションのなかで競合他社が軒並み苦戦するなかで、営業利益で黒字を維持することに成功した。
また、従来の事業構造を大きく変えて新たな提供価値に向けた、他社連携等の活動を積極果敢に展開している。
本編では、多くの会社が直面する全社的な事業構造改革を成功に導くための要諦についてモニター デロイトとしての要諦を紹介してきた。既存事業における収益力が棄損していないタイミングであっても、将来的な見通しや危機感をもとに自律的な構造改革を進めることが、貴社における持続的な競争力強化に繋がると考えている。モニター デロイトでは、これまで多数の事業構造改革を支援した経験を有しており、これらの経験が、貴社の構造改革実現にも活かせるのではないかと考えている。
本内容が、貴社における構造改革推進の一助になれば幸いである。
伊藤 爵宏/Takahiro Ito
デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
(2020.8.28)