ChatGPTに代表される「生成AI」が実用的なレベルのサービスとして上市されてから数年が経ち、いまやAIは生活やビジネスの場で当たり前に利用されるものとなった。
かたや不動産業界において進められているいわゆるデジタル・トランスフォーメーション(DX)は、IT技術を活用した業務改善・効率化やビジネスモデル刷新を狙う取組みとしての第一段階が終わり、次の進化に向けたDX活動へとステージが移ってきている。そこでは企業としてのDX活動への向き合い方、投資対効果の測り方、ESG・SDGsとの文脈の揃え方、進化する新しいテクノロジーへの追従など、従来からの取組みとは質的に異なる新たな課題に直面しているのが現状である。
生成AIはこれからのビジネスの在り方を変える革新的なテクノロジーとして世界的に注目されているが、不動産業界ではたとえば設計、資産評価、顧客体験、建物管理、契約管理などの領域において活用が期待される。メタバースのような仮想空間の技術的進展は、物理的に存在しているビル・オフィス空間との融合によって、我々の認識を覆すような価値をもたらすかもしれない。
自社の競争優位性を高めるためには、これらのテクノロジーによる影響を整理・理解してビジネス変革に活用していくことが急務である。
本稿 Real Estate Industry Predictions 2024 ではAIを話題の中心として挙げ、不動産業界に与える影響と未来の可能性について考察している。デロイトの提言が皆様の事業に変化をもたらすきっかけになることを心より願っている。
田村 貴海
執行役員
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
デジタル時代を迎え、商業用不動産(CRE)業界ではAIが果たす役割がますます大きくなっている。とりわけ生成AIは建物の建設、管理、評価に革命的な変化をもたらす可能性が高い。本セクションでは、CREにおける6つの生成AI活用法として、「強固で柔軟な設計プロセスへの刷新」、「不動産評価の強化」、「テナントのエンゲージメント向上と体験のパーソナライズ」、「建物管理のスマート化」、「賃貸管理の効率化」、「新たな収益源やビジネスモデルの実現」を取り上げ、生成AIがCRE業界の未来にいかに大きな役割を果たし得るかを明らかにする。
不動産と従業員の移動には、以前はほとんど関係性がなかったが、新型コロナウイルスの世界的流行を機に、企業は新たな働き方を模索するようになり、この動きは不動産の未来に大きな影響を及ぼす可能性がある。現在、企業はモビリティの選択肢を見直しており、移動手段の拡大や職住近接の実現に取り組んでいる企業もある。本セクションでは、モビリティが従業員の福利厚生の枠を超えて、企業の経営や不動産に関する意思決定にも重要な役割を果たしつつあることを明らかにする。
従来、不動産は建造物そのものに価値があったが、今後は高度な分析と質の高いユーザー体験が不動産の価値の相当部分を占めることになるだろう。建物のスマート化を進めることは、効率的な管理と持続可能性の向上に寄与する。しかし、サイバー攻撃のリスクも増大しており、適切なセキュリティ対策が不可欠である。サイバーリスクを軽減し、持続可能な未来を築くためには、組織全体での協力が重要であり、サイバーセキュリティと持続可能性の両面を考慮したビジネス機会を追求することが求められる。
不動産業界において、生成AIと没入型テクノロジーの進化が大きな変革をもたらしている。技術トレンドの変化はますます激しくなっているが、本当に難しいのは最先端の技術を追いかけることではなく、こうした技術が不動産業界にもたらす多様な可能性を認識することだ。こうした可能性を実現するためには、単に最新の技術を取り入れるのではなく、複数の技術の効果的な活用や組み合わせを見つける必要がある。本セクションでは、生成AIと没入型テクノロジーの近年の進化を振り返りながら、これらの技術が不動産の未来をどのように導くことができるかを考察する。
MR技術の進化により、仮想世界と現実世界の融合が進み、不動産と建築環境に革新的かつ重大な影響をもたらしている。MR技術と物理的空間の交差は、不動産に対する従来の認識を覆すだけでなく、イノベーション、価値創造、人間中心の設計に新たな道を開こうとしている。本セクションでは、MR技術と空間コンピューティングが不動産業界にどのように影響を与えるかについて考察している。
メタバースとデジタルツインという2つの先端技術が融合することで、新たな革新と効率の時代が幕を開けようとしている。本セクションでは、この融合の核心に迫りつつ、メタバースにデジタルツインを統合することが、いかに不動産開発のライフサイクルやステークホルダーエンゲージメント、顧客体験の定義を変えつつあるかを探る。また、2つの技術が生み出すシナジーが、設計から建設、運用・保守に至るまで、さまざまな業界慣行に与える影響を検討し、仮想世界と現実世界がかつていないレベルで調和し、共存する未来にどのようにつながっていくのかを見ていく。