M&Aや不動産投資において、買収・投資対象となる不動産のデューデリジェンスはリスク回避のためにも重要です。対象となる不動産において賃貸借契約が締結されている場合については、貸し手側・借り手側のいずれの場合であっても、同様にデューデリジェンスを実施することを推奨します。また、賃貸借契約の内容を把握することは、新リース会計基準適用にあたっても重要です。本記事では、賃貸借契約に係るデューデリジェンスにおいて特に重要となる事項について解説します。
どのような内容によって賃貸借契約が締結されているかを把握することは、デューデリジェンスにおいて重要と考えられます。把握すべき内容は、以下のような項目が挙げられます。
上記の中から、特に把握しておくべきと考えられる2点を挙げて詳細を記載します。
普通借地権と定期借地権に大別され、以下のような違いがあります。
出典:国土交通省「定期借地権の解説」
※1992年7月31日までに契約が成立していたものは、旧法上の借地権が適用され上記とは異なるため留意が必要。
なお、借地権は権利金等の授受がない場合、貸借対照表に計上されていないことも多いため、取引時点において経済価値が認められる場合には、適切に価値認識を行うことが資産価値の把握に当たって重要と考えられます。
普通建物賃貸借と定期建物賃貸借の2種類であり、以下のような違いがあります。
出典:国土交通省「定期建物賃貸借」
定期借地権および定期借家契約に該当する場合は、期間満了により賃貸借が終了し、更新を行うことができません。引き続き賃貸借を継続する場合は、再契約の必要があります。なお、定期借地権は、賃貸借契約終了時における借地上の建物の取り扱いが借地借家法22条から24条によって異なるので、留意する必要があります。
いつ期間満了になるのか、再契約する/できるのかを確認することは、事業の先行きを見通すために肝要です。
一般的な賃貸借契約書には、契約終了後、賃借人は原状回復をした状態で物件を明け渡す義務がある旨の条文記載がありますが、原状の定義が明確か否かを確認することで、賃貸人・賃借人双方のトラブル防止に寄与します。
原状について、「スケルトン」など、どのような状態までとするのか契約書内にて記載されていれば望ましいのですが、そうでない場合もあります。
そのような場合、原状の定義を裏付けることに有用な資料としては以下のようなものが挙げられます。デューデリジェンスにおいて、このような資料の存否を確認することも有用と考えられます。
なお、2020年4月の民法改正により、賃借人の原状回復義務については以下の条項が新設され、経年劣化等による損傷は賃借人の原状回復義務には含まれないことが明確化された点は、把握しておくべきと考えられます。
参考:民法第621条(賃借人の原状回復義務)
621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
参照文献:[第19版]不動産実務百科Q&A(一般社団法人 日本不動産研究所)
賃貸借契約の分析においては、賃貸人・賃借人ともに、現行賃料と、近隣地域や近似不動産などマーケットにおける成約賃料との比較を行うことが重要と考えられます。現行賃料が、マーケットにおける成約賃料と比較して著しく高いもしくは低い場合は、将来における賃料増減額の可能性について特に留意する必要があります。併せて、これまでの賃料改定の動向についても把握を行い、将来的な賃料増減額の可能性について検討を行うことが必要と考えます。
なお、賃料増減額請求については、基本的には現行賃料を定めた時点からの事情変更を反映して求められる性質を有するため、現行賃料を定めた時点がいつなのかについて確認しておくことが重要となる場合があるので留意が必要です(一般的には、法定更新の時点は、現行賃料を定めた時点とは見なされないです)。
賃貸借開始以降、将来的に授受が発生しうるコストとして、以下のようなものが挙げられます。賃料・共益費のみならず、将来的に支払いもしくは受け取りが発生する金額について事前に把握することが重要と考えます。
※契約期間途中での解約・解除になる場合
その他にも、賃貸借契約に関連し確認すべき事項として考えられる例は以下の通りです。
遵法性を満たしていない物件は様々なリスクが想定されます。具体的には、次のような事項が想定されます。
土地:
接道義務を充足していない場合、建物再建築が不可となり、賃貸人側においては永続的な収益獲得ができなくなるリスクがあります。
建物:
現況の建物が既存不適格の状態である場合、増改築等の建築確認申請が許可されない場合があります。これは賃貸人・賃借人のいずれにもリスクと考えられます。
また、消防法等の基準を満たさない建物についは、飲食店営業の許可が得られないリスクがあり、賃借人にとって本来の用途での使用ができない可能性があります。
なお、デロイト トーマツ グループでは建築デューデリジェンスを通して、建物遵法性の調査等の業務提供が可能となっております。
賃貸人にとって以下のような点は確認されることが望ましいと考えられます。
現行のプロパティマネジメントフィーおよびビルマネジメントフィーが周辺の類似不動産と比較して標準的な水準であるか:
管理コストが過剰な場合、収益を圧迫するため見直しが必要です。
管理委託契約の内容が標準的であるか:
業務委託の内容に、修繕対応・契約更新の対応等が含まれていない場合、賃貸人自身での管理対応が必要となり、負担が予想されます。
主に土地に係る事項として、以下のような場合は借地借家法が適用されず、契約解除等の可能性があり、対抗要件を備えないので賃借人は留意することが必要と考えられます。
賃借人が用途を店舗としている借地について実際には駐車場として利用している場合:
借地借家法は建物の所有を目的とする地上権および土地の賃借権であり、駐車場として利用している借地には適用されません。賃借人は、契約継続の可能性を確認するか、代替地での駐車場利用が可能か確認をする必要があります。また、建物所有を目的としていない借地権については対抗要件を供えていないので、賃借人としては自らの借地借家法に基づく借地権を主張できない点について留意が必要です。
参考:借地借家法
(趣旨)
第1条 この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。
(借地権の対抗力)
第10条 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
2 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から2年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。
固定資産税は通常、所有者である賃貸人が支払いますが、M&Aや不動産取得にあたり、今後自身が支払う立場となる場合に、固定資産税の算定において、本来であれば払う必要のない、過大な金額を支払っていないか確認をしてくことが経費削減等に寄与します。デロイト トーマツ グループでは固定資産税評価額適正化サービスを提供しております。詳細は以下をご参照ください。
(2025/7/9)
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
シニアコンサルタント 本多 美乃里
コンサルタント 伊藤 桃子
※上記の社名・役職・内容等は、掲載時点のものです。