本レポートは、産業機械製造業で注目すべき5つのトレンドを取り上げながら、産業構造の変化やサプライチェーンの混乱など長引く課題の中で企業が成長し続けるためには、何が論点となり、今後にどう影響しうるかを示している。米国の視点を前提とするレポートではあるが、日本国内における取り組みにおいても下記のような共通点があると考える。
質の高い人材の誘致・離職防止は製造業にとって大きなビジネス課題であり、労働市場が逼迫する中、複数のアプローチをとる必要がある。退職者の知識を若手に移転するために、退職者を企業活動につなぎとめるネットワークの活用やSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の教育プログラムと連携することで、人材を育成し、将来に向けてSTEM技能を身に付けた人材パイプラインを構築することができる。これらは、コミュニティへの参加と長期的な人材誘致・離職防止を同時に目指す戦略的アプローチになる。
製造業におけるインダストリー4.0やスマートファクトリーの導入は本格化してきており、その潜在的な利点は安全とサステナビリティに関する活動推進のほか、資産効率・労働生産性・製品品質の向上から大幅なコスト削減まで多岐にわたる。これらの実現には産業用メタバースなどが欠かせない技術であり、スマートファクトリーの生産環境の内外でビジネスを強化する機会を提供する。世界中の社内外のステークホルダーとつながり、連携できるようになることで、新製品の設計の時間短縮、サプライチェーンの連携と可視化の促進、新しいカスタマーエクスペリエンスの提供を実現する可能性をもたらす。
デジタル変革は製造業に多くのメリットをもたらすが、サイバーセキュリティのリスクを増大させる可能性もあり、技術を実装する際にシステムやデータをどのように保護するかについて同程度重要視することも必要となる。
アフターサービスでの高いプレゼンスは重要な収益源として機能し、長期的な製品の信頼性へのコミットメントは顧客満足度を向上させることができる。顧客にとって、製品のアップタイムと最適な稼働を維持するために修理とメンテナンスは不可欠だが、顧客ニーズへの対応に現場サービス技術者を派遣する際の課題、コスト、非効率性が浮き彫りになっている。リモートでのサポートを可能にするデジタル技術が、ビジネスの継続性を確保するために重要になるだろう。IoTセンサー、車載コンピュータ、AI、組み込み型無線周波数識別追跡、拡張現実(AR)、その他無数のイノベーションを含む高度な技術を加速度的に採用することで、高度な新サービスを生む可能性がある。
各トレンドの中には企業が環境変化に対応していくためのヒントが散りばめられている。この内容を通して、企業が不確定な時代の中で将来を切り開いていく際の一助となれば幸いである。
熊本 祥明
ディレクター
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
2023年、米国の製造業は、2021年と2022年に成立された3つの重要な法律、つまり「インフラ投資雇用法(Infrastructure Investment and Jobs Act、以下「IIJA」)」、「半導体生産の支援インセンティブの創設(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors、以下「CHIPS」)および科学法(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors and Science Act、以下「CHIPSプラス法」)」、「インフレ抑制法(Inflation Reduction Act、以下「IRA」)」による追い風をフルに利用した。これらの法律は、インフラの再構築、クリーンエネルギーへの取り組みの推進、国内半導体産業の育成を優先課題としながら、同時に雇用の増加、労働力の開発、資本の増加を目指しており、半導体、クリーンエネルギー部品、電気自動車、バッテリー、およびこうした製品の構成部品や原材料など、様々なセクターの米国製造業に資金と税制上の優遇措置を投入することで、製造業における民間セクターの投資を刺激し、過去最高額まで急増させている1。
例えば、半導体製造やクリーンエネルギー技術製造への投資額は、2021年通期の同セクターに対する公約額の約2倍であり、2019年に割り当てられた金額の約20倍である2。IRAの可決以降、880億米ドルの投資に相当する200近くのクリーンエネルギー技術製造施設の新設が発表され、75,000人以上の雇用が新たに創出されることが見込まれている3。IIJA、CHIPSプラス法、IRAの可決後、製造業における建設費は大幅に増加している(図1)。2023年7月時点では、製造業における年間建設費は前年比70%増の2,010億米ドルに達し、2024年のさらなる業界成長に向けた基盤が整備されつつある4。
しかしながら、製造業は依然として逆風に直面している。2024年は、先行き不透明な経済、現在の熟練労働者不足、サプライチェーンの長引く集中的な混乱、および自社のネットゼロエミッション目標の達成に向けた製品イノベーションの必要性によってもたらされる新たな課題に直面すると予想されている。購買担当者景気指数(Purchasing Manager's Index、以下「PMI」)データに基づくDeloitteの分析によると、製造業は2023年のほとんどの期間において縮小していた5。ならば、これらの現在の課題に対応し、生産規模を拡大し、競争力を向上させ、製造業への過去最高水準の資金流入からポテンシャルを最大限に引き出すためには、どのような戦略を検討すべきなのか。この問いに答えようとし始めている企業の一助となるべく、「業界展望2024年 産業機械製造業」では以下のトレンドについて考察する。
技術は、2024年に直面するかもしれない課題に対して、企業の取り組みを支える重要な役割を果たす用意ができている。厳しいビジネス環境を理由に投資を一時的に中断することを検討している企業もあるかもしれないが、多くの企業は粘り強く効率性を追求し、組織全体のレジリエンスの構築に注力することで、デジタル変革の目標を引き続き達成する意向である。自社の業務に付加価値をつけるために使用できるツールとして、スマートファクトリー・アプローチを採用したり、産業用メタバースを検討したり、新たに追加された武器の一つである生成AIの可能性を探ろうとしたりする企業が見られる。
最近のDeloitteの調査によると、調査対象企業のエグゼクティブの実に86%が、スマートファクトリーのソリューションが今後5年間の競争力を高める主な要因になると考えている6。別の最近の調査では、産業用メタバースによって労働生産性が12%向上する可能性があり、これが現在の労働力不足を解消する手助けになるかもしれないと予測している。また、 生成AIが製品設計、アフターマーケットサービス、サプライチェーン管理などの分野で大きな可能性を秘めていると期待されている。会社全体のコスト削減に寄与し、厳しい労働市場の課題を乗り越えることを助けるもう一つのツールになりうるのだ。同技術の対象が広大な範囲に及ぶことを考慮して、トレンドごとに生成AIのユースケースについて紹介する。
労働市場の逼迫は2023年も続いており(図2)、2024年も同様の傾向が予想される。全米製造業協会(National Association of Manufacturers、以下「NAM」)が実施した最近の調査によると、質の高い人材の誘致・離職防止が主要なビジネス課題であると感じているエグゼクティブは、調査対象の約3/4に上った7。企業は人材の誘致・離職防止を強化する人材方針を調整することに前向きである。最近見られる変化の例として以下が挙げられる。
製造業は人材の誘致と離職防止を強化するために人材方針の調整を進めてきたが、この勢いに乗り続けるために、2024年にはさらなる戦略の追加を検討する可能性がある。労働市場が逼迫する中で考えられる人材獲得アプローチには以下が挙げられる。
生成AIの注目点:人材に関するユースケース生成AIを使うと、特定の職務、拠点の条件、または規制上の要件に基づいてトレーニング資料をカスタマイズすることができる。また、インシデント報告、労働安全衛生(Occupational Health and Safety、以下「OHS」)ガイドライン、コンプライアンス基準などの大量のデータを分析したり、動画、インタラクティブ・モジュール、クイズなどのカスタマイズされたコンテンツを生成したりすることができる。VRと生成AIを合わせれば、実際の業務状況を再現した仮想トレーニング環境を開発することができる。OHSインシデントをシミュレートする現実的なシナリオを使えば、安全な環境下で、トレーニング受講者は危険な状況を回避し、リスクを特定し、OHSへの意識と対応能力を向上させることができる。 出所:Deloitte、The generative AI dossier(業界別生成AI活用のすゝめ)、2023年9月12日 |
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先行き不透明な経済、労働市場の逼迫、コストの上昇という課題に今なお直面している中、企業にとって工場の内外でデジタル技術を活用する重要性が高まっている。製造業におけるインダストリー4.0やスマートファクトリーのコンセプトへの道のりは、本格化しているように思える。最近の調査によると、企業の83%が、スマートファクトリーのソリューションによって5年以内に製品の製造方法が変わると考えている19。
スマートファクトリーは、AI、5G、IoT、データ分析、クラウドコンピューティングなどの高度なテクノロジーを生産環境に統合する。それにより、リアルタイムの知見、エンドツーエンドの可視化、スケーラブルなソリューションが使えるようになる。経済の急変、労働市場の逼迫、コストの上昇、サプライチェーンへの長引くストレスにより、製造業務における俊敏性、レジリエンス、効率性の重要性が浮き彫りになっている。スマートファクトリーの潜在的な利点は非常に多く、安全とサステナビリティに関する活動推進のほか、資産効率・労働生産性・製品品質の向上から大幅なコスト削減まで多岐にわたる(図3)20。
企業は、スマートファクトリーへの移行を止める気はないらしい。最近のDeloitteの調査によると、自社のスマートファクトリーの取り組みにおいて、調査対象企業の70%超がデータ分析やクラウドコンピュータといった技術を製造プロセスに組み込んでおり、約50%が既にIoTセンサー、デバイス、システムの力を活用している21。これらは産業用メタバースにも欠かせない技術である。さらに、調査対象企業の過半数は、産業用メタバースを構成する没入型3D環境の重要な構成要素になりうるデジタルツイン、3Dモデリング、3Dスキャンに多額の投資を行っている22。ブロードバンドインターネット接続があれば、バーチャルであらゆる場所からデータが豊富な3D没入型環境に接続できる産業用メタバースは、スマートファクトリーの生産環境の内外でビジネスを強化する機会を提供する。
モデルをベースとした企業を構築し、産業用メタバースを活用することで、世界中の社内外のステークホルダーとつながり、連携できるようになる。これにより、エンジニアリング部門と生産部門とのコミュニケーションなど、部署間のコミュニケーションを同期化することで効率を高めることができる。また、新製品の設計の時間短縮、遠方では見つけるのが難しい人材へのアクセス、サプライチェーンの連携と可視化の促進、新しいカスタマーエクスペリエンスの提供を実現する可能性をもたらす。2023年のDeloitteとMLCの産業用メタバース調査23によると、調査対象企業の92%が既にメタバース関連のユースケースを1件以上実験または実装しており、平均すると6件以上現在運用している。調査対象企業のエグゼクティブは、産業用メタバースの取り組みにより、売上、品質、処理量、労働生産性を含むKPIで12%以上の増加を予測している。
デジタル変革は製造業に多くのメリットをもたらすが、サイバーセキュリティのリスクを増大させる可能性もある。最近のある調査では、調査対象の半数以上がランサムウェアの標的になり、その攻撃の約70%で悪意のあるデータの暗号化が発生したと回答した24。製造業は2022年から2年連続で、ランサムウェアから最も攻撃された業界でもある25。サイバー脅威のリスクを軽減するには、デジタル変革プロジェクトを行う際に、プロジェクト自体と同じくらいサイバーセキュリティを優先することを検討する必要がある。新しいデジタル技術を実装する場合、第一に潜在的なメリットとROIを重要視するのが一般的である。しかし、技術を実装するときにシステムやデータをどのように保護するかについて同程度重要視することは、初日からサイバーセキュリティを構築し、強化する一助となるだろう。また、サイバー攻撃によるサプライチェーンの混乱のリスクや専有データ・機密データの漏洩の可能性といったサイバー脅威に対するサプライヤーのサイバーセキュリティ体制も検討する必要がある。Deloitteの記事「Meeting the challenge of supply chain disruption(サプライチェーンの混乱の課題への対応)」によると、多くの企業が検知、監視、対策に様々な戦略やデジタルツールを採用しており、第三者リスクに対処する際、シナリオプランニングを使ってサプライヤーの有効性を高めている26。
生成AIの注目点:スマートファクトリーのユースケース製品開発チームはジェネレーティブデザインの利用により、重量、性能要件、強度、材料、コストなどの入力制約に基づいて、新しい3D製品設計の様々な代替案を生成したり、視覚化したりすることができる。メリットには、製品の最適化、コスト削減、製品イノベーションの時間短縮などがある。 出所:デロイト、The generative AI dossier(業界別生成AI活用のすゝめ)、2023年9月12日 |
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新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来、進化しながらも困難を極めるサプライチェーンについて効果的な対応を行うことが重要な課題となっている。とはいえ、最近は安定してきた兆しが見られる。Deloitteによる過去1年間のPMIデータの分析によると、総じてサプライチェーンの納期が徐々に改善傾向が見られることがわかった。生産資材の平均納期は、ピーク時の2022年7月に過去最高となる100日に達したが、その後徐々に改善し、2023年8月には87日となった27。しかし、道のりは依然として厳しい。生産資材の平均リードタイムは著しく改善したものの、パンデミック前の水準には回復していない(図4)。
サプライチェーンの納期遅延が長引いている要因の一つは、電装部品、電子部品、半導体部品などの部品不足が続いていることだ。こうした部品不足は現在まで30カ月以上続いており、様々な製造サブセクターの生産と納品を困難にする可能性がある28。CHIPSプラス法の施行は米国の半導体製造への投資を刺激しており、2024年に同法施行後初の工場が生産を開始し、続く2025年にはさらに複数の工場が稼働する予定である29。これにより国内での半導体の供給が増えることが見込まれるが、これらの生産施設が現在進行中の半導体不足を大幅に食い止め、製造業に影響を与えるまでには数年かかるだろう。さらに、IIJAやIRAの追い風を受けたクリーンエネルギー技術の製造は記録的な伸びを見せ、それにより半導体だけでなく電子部品全般の需要も増加する可能性がある。
業界がサプライチェーンの現在も長引く課題に直面する中、企業はバリューチェーン全体の可視化とレジリエンスの強化を推進するために、デジタルサプライチェーンに路線変更している。Deloitteの最近の調査によると、企業の76%が自社のサプライチェーンの透明性向上に向けてデジタルツールを採用している30。一部の企業はサプライチェーンのレジリエンスを強化するために、産業用メタバースのユースケースの実験や実装も開始している。実際に、2023年のDeloitteとMLCの産業用メタバース調査では、回答者の21%がメタバース技術を統合して自社のサプライチェーンエコシステムの強化を図っている31。
例を一つ挙げると、航空宇宙・防衛関連のある企業は、主要製品のサプライチェーンのデジタルツイン、つまり、起こりうる現実世界の様々なシナリオをシミュレートするのに使用できる仮想モデルを作成した。デジタルツインによって、自社のバリューチェーンに最も大きな影響を与える構成部品を強調表示するヒートマップを作ることができる。これにより、主要な構成部品の代替サプライヤーを特定することができ、依存関係が軽減され、サプライチェーンの堅牢性と俊敏性が向上する32。
新技術、例えば、ブロックチェーンなどの分散型台帳や、ブロックチェーン内で契約を自動実行するスマートコントラクトなどに、一部の企業の関心が集まっている。分散型台帳は、複数関係者間の取引の改竄防止および検証を可能にするのに役立つが、スマートコントラクトは、取引ステータスを自動的に評価し、自動出荷検証や支払いなどの行為を自動的に実行するのに役立つ33。調査対象企業の約1/4が2024年中にこうした技術の実装を計画しており、導入とイノベーションの新たなウェーブが起こる可能性を示唆している34。
製造業がパンデミック以降の回復、慢性的な品不足、先行き不透明な経済、過去最高の投資額について今後も対応していく中で、技術は今後もサプライチェーンの効率性、レジリエンス、イノベーションを推し進める上で極めて重要な原動力であり続けるだろう。
生成AIの注目点:サプライチェーンのユースケース生成AIは、一般に公表されているデータとサプライヤーデータの両方に基づき、サプライチェーンで起こりうる混乱やリスクを特定し、シミュレートするのに役立つ。生成AIでは、港の混雑、出荷ルート、階層(Tier)のサプライヤーのマッピングを評価することで、潜在的なリスクとそれによる業務への影響を予測し、出荷ルートの変更、メンテナンス計画の調整、在庫転送などの推奨措置を提示することができる。それにより、サプライチェーンの管理者は積極的に軽減戦略の実施、緊急時対応計画の策定、全体的なレジリエンス向上の支援を行うことができる。 出所:Deloitte、The generative AI dossier(業界別生成AI活用のすゝめ)、2023年9月12日 |
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近年、製造業は自社製品を強化するために、IoTセンサー、車載コンピュータ、機械学習機能、組み込み型無線周波数識別追跡、拡張現実(Augmented Reality、以下「AR」)インターフェイス、エネルギー効率の高い構成部品、その他無数のイノベーションを含む、高度な技術を加速度的に採用し、可能性の限界を押し広げている。こうした動向は、総合的なアフターマーケットサポートの重要性だけでなく、それが提供する機会も浮き彫りにしている。アフターマーケットサービスでの高いプレゼンスは、重要な収益源として機能し、長期的な製品の信頼性へのコミットメントを示し、顧客満足度を向上させることができる35。そして、企業もそれに気づいているようである。一般的に公表されている工業関連企業のレポートに基づくDeloitteの分析によると、アフターマーケットサービスへの関心が高まっており、2022年は企業の71%がアフターマーケットサービスについて前向きな姿勢を示していた36。
顧客にとって、製品のアップタイムと最適な稼働を維持するために修理とメンテナンスは不可欠だが、パンデミックに伴うロックダウンは、こうした顧客ニーズへの対応に現場サービス技術者を派遣する際の課題、コスト、非効率性を浮き彫りにした。リモートでのサポートを可能にするデジタル技術が、ビジネスの継続性を確保するために重要になるだろう37。2023年のDeloitteとMLCの産業用メタバース調査によると、回答者の約1/3が既にバーチャルでのアフターマーケットサービスを実施または実験している38。ARやVRのような技術は、ARベースのリモートトラブルサポートやバーチャルの操作マニュアルなどの高度な新サービスを生む可能性がある。例えば、自動化・ロボティクス関連のある企業は、顧客がロボットのインストールを簡単に行えるスマートフォン向けのARベースのアプリを開発した。AR機能により、インストーラーではインストール手順を現実世界の環境に重ねて表示する39。
アフターマーケットサービスの強化は、製造業にとってさらなるメリットをいくつかもたらす可能性がある。以下はその例である。
生成AIの注目点:アフターマーケットサービスのユースケース生成AI対応のバーチャル現場サポートは、リファレンスツールとして使え、それにより、膨大な量の技術情報に迅速にアクセスすることができる。例えば、現場で運転中の製品などに問題やトラブルが発生した場合、エンジニアや技術者はバーチャル現場サポートに問題の内容を入力すると、原因を特定するための適切な質問が返されたり、解決に向けてステップごとのガイダンスが案内されたりする。 出所:Deloitte、The generative AI dossier(業界別生成AI活用のすゝめ)、2023年9月12日 |
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ネットゼロの将来に向けた社会全体の動向と、連邦政府からの資金や補助金が重なったことで、産業機械製造業は商品ポートフォリオの電動化と脱炭素化への投資を増やしている。IIJAの電気自動車(EV)充電インフラへの投資は、EV普及の加速とバッテリー製造の促進を目指すIRAによって補完されている。全体として、IRAは、気候変動およびクリーンエネルギー関連の補助金として2,700億米ドル以上を出している。この金額には、EVとバッテリーを含む、あらゆる種類のクリーンエネルギー技術の製造を拡大することを目的とした400億米ドル以上の税額控除が含まれる43。米国では、2022年8月にIRAが成立して以来、クリーンエネルギー自動車やバッテリー技術を生産するための製造施設の新設が125件以上発表されている44。
企業が商品ポートフォリオの電動化と脱炭素化への道のりを進むにつれて、新たな課題が浮上している。技術に関する準備体制の整備、生産プロセスの移行に伴う高額な初期コスト、バッテリーとそれに欠かせないレアアース金属の複雑な新規のサプライチェーンなどの課題だ。また、より安価な代替品から(少なくとも短期的に)移行したい顧客の希望に関連するリスクもある。別の課題としては、バッテリーのライフサイクル全体(ゆりかごから墓場まで)の複雑な管理がある。これらの課題は困難に見えるかもしれないが、一部の企業は既に移行において先陣を切っている。
企業は、組織変更から重要なパートナーシップの構築、そして製品の電動化や脱炭素化に伴う課題の一部の克服まで、様々な戦略を実行してきた。そのアプローチには以下のようなものがある。
生成AIの注目点:製品の電動化と脱炭素化のユースケース企業が電動化製品や脱炭素化製品の製造を推進する工場を新設する際、生成AIを使えば、サイト設計工程の一部自動化や、設計者への多数の設計オプションの提示、製造の時間・コストの削減が可能になる。 出所:Deloitte、The generative AI dossier(業界別生成AI活用のすゝめ)、2023年9月12日 |
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米国の製造業における多額の投資と成長は、2024年も続くと予想されている。目前の機会を捉え、直面する課題にどう取り組むかを模索する企業にとって、新しい技術とデジタル変革を引き続き取り入れることが重要になるだろう。来年には、先行き不透明な経済、熟練労働者の不足、長引くサプライチェーンの課題、ゼロエミッション製品への移行に立ちはだかる障害を乗り越えるうえで有効な戦略を展開する企業も出てくるかもしれない。
鈴木 淳
執行役員
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
熊本 祥明
ディレクター
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
本稿は、デロイト ネットワークが発行した原著をデロイト トーマツ コンサルティング合同会社が翻訳・加筆し、2024年2月に発行したものである。
和訳版と原著「2024 manufacturing industry outlook」の原文(英語)に差異が発生した場合には、原文を優先する。
John Coykendall
Deloitte Global, USA
John Morehouse
Deloitte Global, USA
Kate Hardin
Deloitte Global, USA
執筆者は、研究や分析、執筆など、本レポートの主な寄稿者として貢献してくださったVisharad Bhatiaに感謝の意を表したいと思います。
また、Deloitteの「2024年製造業界展望」の諮問委員会の以下のメンバーにも感謝の意を表します。
Heather Ashton Manolian、Ben Dollar、Luke Monck、Brian Wolfe、Lindsey Berckman、Michael Schlotterbeck
執筆者はまた、以下の方々のそれぞれの貢献に対して感謝申し上げます。
カバーデザイン:Rahul B