前橋市は国内トップクラスのスマートシティ先進都市であり、全国に先駆けてデジタル技術やビッグデータを利活用した多くの先進事業を手掛けてきたところである。だがそれらは実験的な取り組みにとどまっており、市民がデジタル先進都市としての独自性を直接的に実感するレベルには至っていなかった。
2020年5月にスーパーシティ関連法案が可決し、前橋市が「まるごと未来都市」たるスーパーシティの指定を目指すこととなったことを契機に、改めて各種のまちづくり事業を市全体のスマートシティ(スーパーシティ)事業として統合総括しつつ、持続可能な今後の発展の道筋を検討する必要に迫られていた。
直面する主な課題は以下の3つであった。
デロイト トーマツではスマートシティを実現するための4つのキーワードを挙げている。前橋市での取り組みをその4つのキーワードに沿って詳述する。
① 異なる価値を結ぶ:トータルバリュープロジェクトデザイン
スマートシティが創出する価値の見える化や計量化の支援を行っている。
スマートシティが創出する価値は、新たなサービス収入(それに伴う税収増)や既存業務コストの削減等、直接的に計測可能な経済的価値もあるが、まちづくりという中長期的な取り組みの中で発露する社会的価値にこそより本質があるといえる。
例えばスマートシティ化による人流変化がもたらす「中心市街地の賑わいの再生」はその代表的なものであり、前橋市ではそれを計量化しスマートシティ事業が目指す成果の一指標として計画の中に取り込んでいる。
② 人と人を結ぶ:コミュニティ起点のクロスセクター連携
スマートシティの推進には、技術やアイデアをもった民間事業者の積極的な参画と深度ある官民連携が不可欠である。この点前橋市の取り組みは、以下の2点に際立った特徴がある。
デロイト トーマツはスマートシティ準備検討会の事務局および複数のワーキンググループ(WG)のリーダーとして、各プレーヤー間のコーディネーションは勿論のこと、新たな民間事業者や中央省庁との橋渡しも行うことで、事業推進コミュニティの発展と活性化に貢献している。
③ 都市とデータを結ぶ:まちづくりと都市OS構築・活用戦略の一体化
スマートシティの技術的な根幹がデータ流通を支えるデータ連携基盤(都市OS)であるが、その中の主要技術的要素として、個人情報を保護しつつ市民にわかりやすい形で官民の各種サービスを提供するための市民IDに社会的注目が集まっている。
前橋市は全国的に見ても先駆的な「まえばしID」構想を掲げており、デロイト トーマツは「まえばしID」WGの事務局として事業の企画推進を支援している。
具体的には、「まえばしID」に関する技術的な助言(セキュリティ・プライバシーの確保)に加え、「まえばしID」を活かした新たなサービスに関する提案を行うことで、データ利活用型サービスとデータ連携基盤の一体感ある開発の実現を支援している
④ 都市と資本を結ぶ:スマートシティファイナンス
前橋市では、全市を挙げてスマートシティに取り組むにあたり、公共財政が逼迫する中において多額の追加的な支出を伴うことなく適切な官民連携により事業費を賄うことのできる持続可能なファイナンスの在り方を重視し検討を進めている。
デロイト トーマツは構想段階からファイナンスWGを主導し、スキーム設計・金融機関とのコーディネーション・法規制論点検討といった詳細実務を支援している。
本取り組みを通じて目指す姿
前橋市らしい独自性にあふれた生活の豊かさを市民が実感できる状態を目指し、地方創生の新たなロールモデルを創出することが長期的なゴールである。スマートシティは手段にすぎず、行政・市民・企業等が参画するまちづくりの延長線上にある。地方中核都市のまちづくりに共通する従来からの課題は街並みや暮らしの没個性化であり、これに対して新たな流れを生み出すことが狙いである。デジタル技術の利活用は都市サービスの在り方を一新する機会であり、改めて市民の声を聴き多くの地元事業者が企画に参加することで、地域に根付いたまちづくりを発信推進していく。
関連リンク
「個人の都市」時代のまちづくり スマートシティを持続可能に(月刊「事業構想」2020年4月号)