ナレッジ

世代を超えて愛されるブランドの作り方

~エントリー層以前へのアプローチの重要性~

「VUCA」に表されるように、市場変化が激しく先行き不透明な世の中において、長く愛される商品・サービスブランドをつくることは簡単ではありません。一方で、強固なブランドを確立できれば、価格競争からの脱却、継続利用、宣伝コスト削減など、大きなメリットが得られます。本稿では、そんな世代を超えて愛されるブランドを作る要素として、エントリー層以前へのアプローチの重要性について解説します。

1.世代を超えて愛され続けるブランドであるために重要なこと

1.1 「利用者と共に年を重ねる」というブランドにおける課題

世代を超えて愛され続けるために、ブランドにとっては避けて通ることが出来ない「問題」がある。それは、商品・サービスブランドが利用者とともに年を重ねることである。例えば日本における受験・就職・結婚・出産・育児・介護など、人々のライフイベントに紐づいた商品・サービスは、利用者が各ライフイベントを迎えることで、半ば強制的にブランドとの初期接点が生まれるが、そのような特定のきっかけがないブランドは時が経つにつれて利用者が高年齢化し、自然と数が減っていくことで、売上規模が縮小していくことが考えられる。

上記のように特定のきっかけが無いブランドにとっては、商品・サービスのバリエーションを増やす、更なる機能または情緒的付加価値をつけて単価を上げる等しない限り、ブランドを存続・成長させていくことは困難と考えられる。得てしてそのような商品・サービスは、リニューアルを伴うリブランディングによって新たな利用者獲得を目指すケースも多い。
 

1.2 ブランドへの「エントリーポイント」を意図的に構築する重要性

そこで重要となるのが、ブランドにおける「エントリーポイント」という考え方である。「エントリーポイント」とは利用者にとってのブランドとの「最初の接点」であり、ライフイベントに関連した商品・サービスは、ライフイベントそのものがエントリーポイントとなり得る。特にエントリー前におけるブランディングは、これまでブランドと接点がなく無関心であった層に対し、彼らの興味関心の扉を開き、次項で紹介する点をはじめ、いくつかポジティブな効果が得られることが期待されることから、ライフイベントにおける接点を持たないブランドにおいても、意図的にエントリー前の将来的なターゲットを設定しブランディングを行うことは有効であると考えられる。

 

2.期待される効果

2.1 ターゲットに対して意図するブランドイメージが構築されやすい

値上げの時代に、高くても買うを創る 今もう一度理解したいブランディングの考え方」で説明の通り、「ブランド」とは特定の対象に対して想起されるイメージ(ブランド連想)の集合体とも捉えられているが、ブランドと接点を持っていない、または寄与度の低いターゲットは、もともとその対象から想起されるブランドイメージをほとんど保持しておらず、「好き/嫌い」など、そのブランドに対する態度も特に形成されていない。従って、ターゲットに対して適切なブランドコミュニケーションを行うことで、ブランドオーナー(企業)が意図したイメージがターゲット内に形成されやすい環境であるといえる。
 

2.2 好意的な態度形成から派生が見込まれる効果

2.1で触れたように、意図したブランドイメージがターゲットの記憶に残り、ブランドイメージとして形成されることは、多かれ少なかれターゲットからのブランドに対する好意に繋がる(そもそもネガティブなイメージを訴求するオーナーはいない)。その好意から例えば「将来的な購入意向の向上」「推奨意向の向上」「喧伝」など、いくつかポジティブな態度形成が期待できる。

 

3.プレエントリー層へのブランディングの具体的手法

3.1 ターゲットの選定(Who?)

将来的にブランドの利用者となる層の選定:将来的なターゲット層を選定する。プレエントリー層について考慮すべきポイントとして、現在の商品・サービスにおけるマーケティング範囲(地域、チャネル、年齢等)からの距離など、ブランディングを行った際の効果(態度変容率に影響を与える要素)を加味して最終的な対象を絞ることが重要である。
 

3.2 伝えるべきブランドメッセージ(What?)

現在の商品・サービスの利用者とは前提(年齢、商品・サービスに関連した知識等)が異なるターゲットへの訴求となるため、ブランドメッセージの調整が必要な場合がある。例えば、ベースとなるブランドメッセージを踏まえたうえで、ターゲットに対して「将来的に商品・サービスを使ってみたいと思わせるメッセージか」「文化的/社会的背景を踏まえて親和性のあるトーンか」など。
 

3.3 メッセージを伝える手段とコミュニケーション量(How? How much?)

1.3.1 KGI・KPIおよび目標設定:ターゲットに対して、意図するブランドイメージ構築、態度変容を促すためのドライバー(イメージ要素)を検討、設定し、ドライバーを動かすために必要なコミュニケーション量(目標)を設定する。

1.3.2 目標達成するために必要なチャネル選定:目標に到達するためのベースとして、必要なチャネル選定を行い、具体的な実行計画を立てる。

 

4.終わりに

商品・サービスブランドの場合、当該商品・サービスのターゲットにブランドコミュニケーションも集中する傾向がある。しかし冒頭でも触れたように、中長期な事業の維持・成長を踏まえると、市場の中で優位に立ち続ける(ブランドとして消費者や利用者から愛され、選ばれ続ける)ことは重要であり、目の前のターゲットに集中するだけでは、それが困難となる場合がある。従って、エントリー層以前へ意図的にブランディングを仕掛けることは、世代を超えて愛され続けるブランドを作るための大切な要素だと考える。

また、上記ブランディングの実施が事業部門として難しい場合、コーポレートブランディングとして担うことも考えられる。商品・サービスを司る部門だけでなく、企業組織全体として、自社の持つ商品・サービスブランドのエントリーポイントを見定め、エントリー層以前へのブランディングを実施することは有益であると考えられる。

 

※本文中の意見や見解に関しては私見であることをお断りする。

関連サービス

ブランディングサービス

コロナやデジタル化等の外部環境の劇的な変化において、経営戦略に基づきながら、顧客が求める商品とサービスを通した顧客体験価値(CX)の探求を支援します。戦略的価値のある資産として、ブランドを構築し、顧客の心に長く残る価値の創造を支援します。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ブランディング アドバイザリー
シニアアナリスト 阿南 孝宏

お役に立ちましたか?