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サステナブル・バリューチェーンの構築~「ビジネスと人権」の観点から~

自社グループおよびサプライチェーン上流下流を含むバリューチェーン全体における、サステナビリティの主要アジェンダの一つである、「ビジネスと人権」の観点から企業において取り組むべき人権デューデリジェンス等の概要について解説します。

サプライチェーンにおける人権リスク

近年、人権に関して、国内外で企業の果たすべき責任が要求される動きがみられる。2022年に欧州委員会が公表した「企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDD)」によりEU域内外の大企業に対して環境ならびに人権デューデリジェンス(人権DD)を義務化する方向性を示されたことを受け、ドイツでは2023年1月に「サプライチェーンにおける企業のデューデリジェンス義務に関する法律(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz)」が施行されており、多くの企業で影響が出ている。

また、EUでは「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」によりサステナビリティ関連のDDプロセスの開示が順次義務化される予定である。一方、日本国内では2020年「ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)」が公表されたことにより企業が人権DDを導入することへの期待が高まり、翌2021年にはコーポレートガバナンスコード改訂による人権・人的資本関係の開示要請、更には2022年「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」策定など、ビジネスにおける人権への適切な対応が求められてきている。

そもそもなぜ企業は人権尊重と人権リスクへの対応をする必要があるのだろうか。図1は人権侵害が発生した際において想定されるリスクを示したものである。サプライチェーンにおける人権侵害リスクを抑制し、直接統制を利かせることは難しい。たとえ、サブサプライヤー、サプライヤー等自社グループから遠い場所で問題が発生したとしても、人権侵害は自社製品やブランドに直接的なインパクトを与える。なぜなら、人権リスクの責任の訴求は最終的に商品を提供する事業者に対し行われるからである。従って、人権リスクがサプライチェーン全体における場所と影響範囲をまずは把握する必要がある。サプライチェーンにおける人権リスクを可視化することは非常に重要なブランド保護戦略・レピュテーションリスク対策となり得るのだ。

人権デューデリジェンス

前段ではサプライチェーン上における人権リスク把握の重要性を解説したが、実際に把握し、人権リスクに対応するプロセスをここでは紹介する。人権デューデリジェンス(人権DD)とは、人権への負の影響を特定・評価し、特定されたリスクを是正・軽減し、モニタリングしていくプロセスであり、平時、有事のリスク対応で構成される。図2で示すようなPDCAサイクルで実施することが一般的である。本サイクルは国連が定めた「ビジネスと人権に関する指導原則」にも整合するものとなっている。①の現状分析では自社グループに加えサプライチェーンに対するリスクアセスメントを実施する必要がある。②の是正実行においてはリスクアセスメントで特定された優先的に取り組むべき人権リスクに対して、専門家の指導を受けながら自社グループに加えサプライチェーン上のステークホルダーに対して影響力を行使し是正を実施していく必要がある。②の是正実行における具体的なアクションをいくつか紹介する。

サプライチェーンへの是正対策として求められるアクション(例)

  • 人権に対する自社の方針のサプライヤー等への教育
  • 契約書の内容の見直し、課題の是正要求
  • 人権侵害が発生した場合の取引継続の可否判断に用いる基準策定
  • 事象発見時のマニュアル準備

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック&クライシスマネジメント
パートナー 清水 和之

サステナビリティアドバイザリー
アナリスト 井上 みゆ

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