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サステナブル・バリューチェーンの構築~危機対応コミュニケーションの観点から~

ESG/気候変動シリーズ(ファイナンシャルアドバイザリー) 第7回

自社グループおよびサプライチェーン全体におけるサステナビリティ改革の動きと、危機対応コミュニケーションについて解説します。

人権リスクが顕在化した際のブランドダメージの最小化

網の目のように広がるサプライチェーン上の人権リスク把握には限界がある。地政学リスクや紛争、国内だけではなく諸外国における法令改正に伴い、従来リスクではなかった点がリスクとして認識されることも出てきた。そのため、企業は常にルールチェンジに対し情報のキャッチアップと対応が求められる。また、昨今NGOによる指摘や外国メディアの報道など、人権問題の発覚/批判ルートが多角化していることにも注意が必要である。

では、リスクが顕在化した際に企業はどのような姿勢をとる必要があるのだろうか。あるグローバル企業は、原材料生産地域の強制労働問題がメディア報道を通じて発覚後、いち早く懸念を表明し、同地域の原材料を使わない方針を公表したことで人権配慮の企業姿勢が評価された。その後、人権問題に対する懸念を取り下げることなく、生産地域国の立場の尊重、政治的中立を表明し、政治との切り離しにシフトしていくことでコンプライアンスと市場確保のバランス、顧客の支持を勝ち取った好事例である。

このように有事の際には適時的確な判断力とコミュニケーション力が求められる。図1に示すように、経済合理性と人権尊重の対立する2軸のなかで、諸外国の動向まで察知して意思決定を行うには、高度な調査力とブランドを護るブランドドリブンの発想を持ち合わせ、迅速に意思決定することが必要である。

図1:有事に求められる的確な判断力とコミュニケーション力
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平時に求められるリスクコミュニケーション

前章では、リスクが顕在化した際に迅速に対応し、ブランドダメージを最小化することについて述べた。ここからは常日頃より自社のリスク対策について情報公開していくことの重要性にも触れたい。

人権DD等のリスク対策を行うことに加え、それを伝え可視化するリスクコミュニケーション(情報公開)には以下に示す2つの方法がある。

  1. 動的なコミュニケーション
    人権リスク対策の実績や成果をトップの会見や決算会見、取材等を通じて積極的に示すコミュニケーション手法のことである。マスメディアや世論は心情として「リスクは既に問題解決済みである」という綺麗なストーリーを求めてしまう傾向にあるため、過去の歴史的背景から人権リスク対応を先行せざるを得なかった欧米企業と比較された際に、対策の進捗によってはかえって悪目立ちを招く恐れがある。
  2. 静的なコミュニケーション
    公式WEBで解決に向けたスコープ、ロードマップ、実績をアップデートするとともに、人権リスク対応には時間がかかることを説明することで、「すぐに解決できなくとも課題を認識して取り組んでいる」姿勢を示すコミュニケーション方法のことである。
    マスメディア、NGOの調査等をはじめとした問い合わせの際、企業が明確に説明できる姿勢を築くことで、企業の責任説明を果たすことができる。

従って、公の場で成果を積極的に示すような動的コミュニケーションではなく、外部からのリスク対策について問われればいつでも対応できることを可能とする静的コミュニケーションの方が日頃より社外からの信頼を得るという観点で取り組むことの重要性があるだろう。

 

対応の検討ステップ例

最先端の情報、世界の潮流、他社の動向などのキャッチアップを目的に、企業はリスク対応の体制として、外部の有識者を委員長としたサステナビリティ社外委員会を設定している例がある。監督側の立場として、経営体制等の社内の変化に影響されないサステナビリティ社外委員会を置き、執行側の報告に対し取締役会が諮問するという緊張感のある関係を続けられる形が大きな特徴として挙げられる。

では、上述のようなリスク対応の体制を構築するためにはどうすればよいのだろうか。人権リスク対応に関して社内で合意形成が取れていない場合や、そもそも人権リスクに対しどこから手を付ければよいかわからないという声が企業から挙がる場合が多いため、サステナビリティのタスク整理・優先順位を付け、ワークショップを行うことも第一歩として有効である。ワークショップは経営層、サステナビリティ担当、事業担当の巻き込み、自社取り組みの把握、他社事例との比較検討を行ったうえで対応方針に基づく実施スコープの合意形成を図るのが一般的だ。経営層、実務者など意思決定に必要なステークホルダーが一同に会することで、明快な合意形成の下、サステナビリティ戦略を打ち立てるのである。

図2:リスク対応の検討ステップ例
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執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ブランディングアドバイザリー
シニアヴァイスプレジデント 小林 格

ESGアドバイザリー
アナリスト 井上 みゆ
 

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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